無関心な現場で始める業務改善【シーズン2】

第7回荒れるキックオフの場と自ら動く業務改善とは

お正月は既に過ぎてしまいましたが、皆さん、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

今回のお話では、いよいよ業務改善プロジェクトがスタートします。自分は関係ないというスタンスの社員が多い中で、開発部の佐藤さんはどのように舵取りを行っていくでしょうか……。

最初に復習を兼ねて、第1回から第6回までのあらすじをお伝えします。

これまでのあらすじ

開発部の主任である佐藤さんが勤める株式会社GHテクノロジーズは、海外のEMS工場における品質不良に端を発した製品不良在庫の問題により、急激な業績の悪化を招いていました。⁠GHテクノロジーズリバイバルプラン』と銘打った経営施策は、800名いた社員のうち、300名が早期退職で会社を去る事態を招きます。品質管理部長を中心として品質対策会議を開いたものの、誰も本気で議論しない会議に苛立ち、佐藤さんは怒りのあまり、途中で飛び出します。

その後も、不良在庫は増えるばかりで、止まる気配がありません。早期退職でお世話になった上司、先輩は会社を去り、社内には無関心な傍観者ばかり残ってしまったようです。余計なことは言わない、関わらないという風潮が蔓延し、陰では経営批判も聞こえてきます。

図1 これまでのあらすじ
図1 これまでのあらすじ

GHテクノロジーズの製品が大好きで入社した佐藤さんは、今回の問題は決して経営だけの責任ではなく、自分たちにも責任の一端はあったはずだと考えています。佐藤さんはじっとしてはおられず、各部門の部長に声をかけますが、協力関係を得ることができません。直属の上司である杉本課長も事なかれ主義者で当てにならない1人です。村瀬開発部長は唯一、佐藤さんを暖かく見守っているのですが、佐藤さんはそれに気づいていません。早期退職以外に何ら経営改革が進んでいるように思えないうえ、現場からは危機感が感じられず、佐藤さんは苛立ちを感じています。

大学の先輩であるマーケティング部の坂本課長と話をして、社長が明確に改革の方針やビジョンを語っていないことが問題だということに気づきます。佐藤さんは、きちんと改革を進めるべく、直接、社長に話をすることを決意します。中田社長は、佐藤さんが新入社員の頃の開発部長です。中田社長からは、⁠現場がどうなっているのか把握をしてくれ」と頼まれ、同時に、明確な経営改革の方針を出すとの約束をもらいました。

しかし、まだ何から着手してよいのかわからない佐藤さんは、たまたま業務改善のコラムをWebで見つけ、執筆しているC社に相談をします。そこで出会ったS氏、W女史からは、経営改革、業務改善には「ソフト部分に目を向けなければならない」ということを聞かされます。あれこれと指示を出し現場にやらせる「ハード改革」では、"やらされ感"の払拭と、⁠ハード」と併走させる「ソフト」が大事であることを知ります。「改善は仕事である」という考えを伝え、どのような仕掛けを作っていかなければならないかと思案中です。

コアメンバーが小さくスタートを切る

品質対策会議の場において、部長たちの本気ではない姿勢に激怒してから早1ヵ月が経ち、早期退職で300人の社員が会社を去ってから2ヵ月になろうとしています。

その間、佐藤さんは中田社長の後押しを受けながら、コンサルティング会社C社のS氏、W女史からもアドバイスをもらい、同期の知的財産部の加藤さん、大学の先輩であるマーケティング部の坂本課長、部下で佐藤さんを慕ってくれている赤西さん、赤西さんと同期の知的財産部の紅一点の広瀬さんと、どのように会社を変えていけばよいかと、あれこれ作戦を練っていました。

直属の上司である杉本課長は当てにならず、声をかけていません。ただ、村瀬開発部長は、品質対策会議で佐藤さんが会議を飛び出していった後で、他の部長たちに、このように言いました第1回参照⁠⁠。

「佐藤の言い方や態度は問題あるものの、正論を言っている。今、この会議の場で何をしなければいけないのか?皆さんもわかっているはずだ。我々はそれができていたのか?」「問題を抱えていながら、問題と向き合おうとしない我々自身が問題だ。正論を言ってつぶされるようならば、それはもはや組織ではない」

後に、村瀬部長と仲が良い知的財産部の永井部長から、この話を聞かされた佐藤さんは部長に感謝するとともに、中田社長に直訴したことを伝えました。直訴直後に、中田社長から連絡をもらっていた村瀬部長は、⁠既に社長から聞いているよ」とは言わずに、⁠まずは開発部と知的財産部から小さく業務改善プロジェクトをスタートしよう!」と言いました。

先週、中田社長からの経営方針の説明の中には、約束どおり、経営改革の重点施策として、「1:品質の向上、2:不良在庫の削減、3:顧客から失われた信頼を取り戻す」の3つが掲げられています。具体的には、⁠全社的に業務改善に取り組む」とありました。しかし、業務改善の実行は各部長の責任と権限において一任するということで、部門、いや、部長によっては進まないのではと懸念していた佐藤さんは、自部門の村瀬部長が味方になってくれたことは何よりもうれしいことでした。

いざ、キックオフミーティングへ

「何を話そうか、どんなストーリーにして、みんなに伝えようか…」と、前日遅い時間まで今日のキックオフミーティングの資料を作っていました。

キックオフミーティングが開かれる大会議室には、開発部と知的財産部の全員が集まっています。100名入れるこの会議室は、ほぼ満席です。もっとも、人員削減前ならば、この会議室には入りきらなかったことでしょう。

皆、一様に「いったい何の話をするんだ?」と言わんばかりに、ぞろぞろと入ってきました。あからさまに「この忙しいのに……」と言いたげな社員もいます。相変わらず興味がなさそうな杉本課長は、前列の隅のほうに座りました。

はじめに、経緯説明を村瀬部長が行い、品質不良問題について、上流の開発部門と品質管理部門から率先して改善に取り組む話をしました。また、今回の取り組みが経営施策の一環であることを伝えたものの、多くの社員にはピンと来ていない様子でした。

問題を引き起こしている原因をちゃんと考えよう!

  • 村瀬部長:「では、ここからは佐藤さん、頼むよ」

  • 佐藤さん:「わかりました。では、皆さん、前方スクリーンのこの図を見てください図2参照⁠⁠」

図2 真因を追及する
図2 真因を追及する
  • 佐藤さん:「今、当社では海外のEMS工場において製造された製品の品質不良が続いています。現在も原因ははっきりしていません。問題を引き起こしている本当の原因(=真因)にたどり着いていないからです」……(話は続きます)

【解説】

(1)安易な解決策をとる

皆さんの会社で製品不良が出たシーンを思い描いてみてください。

次のステップで、⁠不良品が出ないようにする」ためにはどうすればよいのか考えるまではどこの会社も同じです。大事なのはその次のステップです。"浅い"まま右に進むか、"深い"下に進むかが重要です。

その場しのぎでモグラたたきになる会社は、"浅い右方向"に進みます。不良品が出ないように、⁠検査を入念に行う」ことに目が行き、具体的には「ダブルチェックをする」⁠検査基準を厳しくする」などの方向に進んでしまいます。考え方としては"浅はか"と言わざるをえません。

ダブルチェックをするために新たに人を投入(要員を増やす)すると、人件費は上がります。原因が潰せていない状態で、検査基準を厳しくすると、従来良品であった製品が、不良として引っかかる数が増えます。後工程における手直し、手戻りが多く発生し、コストアップの要因となります。

結果的に、「不良発生率は下がらない」ことになります。

"深い下方向"に進まないといけません。トヨタ自動車の「なぜを5回」のように、根っこの原因(真因)に対して解決策を講じることではじめて、「不良発生率を下げられます」

(2)無意味なダブルチェック

「当社はダブルチェックでミスを防いでいます⁠⁠。

こういう会社は少なくありません。ところが、筆者の経験則から言えば、ダブルチェックはほとんどの会社でまともに機能していません。前工程の人は後工程にチェックをする人がいるとわかっているので、ちょっとくらいチェック漏れがあっても後工程の人が見つけてくれるだろう、後工程の人は前工程の人がちゃんとやってくれただろうと思い込んでいるので、きちんとチェックしません。

お互いを過信して、⁠…だろう」と勝手に思い込み、チェックの工程ばかりに時間を取られます。結果として工数が増加し、人件費が上がるだけです。

荒れるキックオフの場

  • 佐藤さん:「だから、もっとちゃんと深く考えて、問題の根っこを見極めたいのです」

    ⁠…ここで、社員Aさんに話を中断されます)
  • 社員Aさん:「そんなことに時間を割いていたら、開発が遅れちゃうよ」

  • 社員Bさん:「そもそもさぁ、原因は海外EMS工場にあるに決まっている!」

  • 社員Cさん:「品質問題のために品質管理部があるんだから、僕ら開発は関係ないよ。なぜ、品管のメンバーがこの場にいないの?」

  • 杉本課長:「まるで、うちの開発が何も考えない馬鹿集団のようにしか聞こえないがね」

    ⁠……と嫌味たっぷりです。今までなら、ここで佐藤さんはキレてしまい怒り出していることですが、予期していたことでもあったので平然としています)

"見える化"と"業務改善"

  • 佐藤さん:「質問、意見は後で聞きます。話を続けます」

    ⁠なんだよ、偉そうに」という声が聞こえてきますが、気にしない気にしない……自分に言い聞かせます)
  • 佐藤さん:「次に"見える化"と"業務改善" について説明します。次の図をご覧ください図3参照⁠⁠。」

図3 QCDにおける"見える化"と"業務改善"
図3 QCDにおける
  • 佐藤さん:「皆さんにもなじみ深いQCD(Quality、Delivery、Cost)で考えてみました。"見える化"で問題を引き起こしている原因を深く掘り下げ、原因を究明します。これには皆さんの協力が必要です。原因に対して対策を打つ、つまり、きちんと業務改善を行い、QCDの向上を図るためには、このようなプロセスが必要です」

業務改善の3つのステップ

  • 佐藤さん:「最後に、業務改善のステップを示します。こちらをご覧ください図4参照⁠⁠」

図4 業務改善の3つのステップ
図4 業務改善の3つのステップ
  • 佐藤さん:「先ほど話したように、"浅い"まま右に進むのではなく、"深く"下に進むために、2番目の"考える"フェーズ(②業務分析)にしっかりと時間を取りたいと考えています。そして、もう1つ、大事なことを書いています。"ソフト"を重視し、会社の組織風土改革を業務改善と同時に進めます。これまでのように、自分には関係ない、余計なことは言わないということはもうやめにしましょう!おかしいことをおかしいときちんと言うことはもちろん、言えない状態を作らないような"言える化"の社風を醸成していきたいと思います。

    これから取り組む業務改善は誰のものでもなく皆さんのものです。皆さんの業務を良くするために行うものです。誰かが皆さんのために改善をしてくれるわけではありません。そのためには、"自ら動く"ことが大切です。具体的には自ら業務調査を行うために"自分たちでフローを作る"ことから始めます……(佐藤さんの話はまだ続きます⁠⁠」

佐藤さんはこれまでコアメンバーと温めていたことや、コンサルティング会社C社からもらったアドバイスをふんだんに盛り込んで話をしています。

さて、参加している社員や管理職には、佐藤さんの思いが届いたでしょうか?

次回は、何のために業務改善を行うのか?という観点で「改善ビジョンを作る」お話をします。

おすすめ記事

記事・ニュース一覧