VOCALOID(初音ミク、鏡音リン・レン)の上手な歌わせ方教えます!

第6回ミキシングの手順

こんにちは、OSTER projectです。今回は、ミキシングのお話になります。

ミキシングとは簡単に言えば、パートごとに作ったオーディオデータを混ぜて一つの曲として仕上げる作業のことです。しかしただ混ぜるだけではなく、エフェクト処理や音量バランス、定位等もこの段階で調整するため、ミキシングは聞こえ方を大きく左右する重要な工程です。VOCALOIDの調整がどんなに上手くいっていても、この段階で台無しになってしまうこともよくあるので注意してください。

ミキシング基礎知識

ミキシングの工程で調整する要素は以下の通りです。

  • エフェクト処理…音圧を上げて音に迫力を持たせたり、残響音を付加してオケに馴染みやすくしたりする
  • 音量………………パートごとの音量のバランスの調整
  • 定位(パン)……音がスピーカーのどちら側から聞こえるかの調整

私はSONARというソフトを使ってミキシング作業をしていますが、フリーでもミキシング用のソフトがダウンロード出来るようです。検索サイトなどで検索してみてください。

実際にやってみた

それでは実際にミキシングの流れを見ていきます。今回は例としてあらかじめミックスしておいたオケのデータに、メインボーカルとコーラス(3パート)をSONARでミックスしてみます。

以下が各データになります。

メインボーカル1.mp3
コーラス12.mp3
コーラス23.mp3
コーラス34.mp3
オケ5.mp3

シンガー:鏡音リン

RING×RING×RINGより

これが実際にミキシングしている段階の画面です。

ミキシング画面

トラックは上からメインボーカル、コーラス1、コーラス2、コーラス3、オケのオーディオデータとなっています。

ボーカルパートの処理

ノーマライズ

ミキシングにはいくつか決まりがありますが、最も重要なのはクリッピングを避けなければいけないということです。オーディオデータの音量(正確な表現ではありませんが簡単のためこうします)はdBという単位で表されています。実際にオーディオデータの波形を見てみましょう。

オーディオデータの波形

横軸が時間、縦軸がdBになっており、一番上(最大)が0dB、真ん中(無音)が-∞dBです。波形が0dBに近いほど大きい音ということになります。画像はステレオのオーディオデータなので、上段が左出力、下段が右出力です。

クリッピングとはこの波形が本来の最大出力である0dBを越えてしまうことを言います。0dBを越えてしまうと環境によっては音割れが生じてしまうなど、製作者の意図したとおりの音に鳴らない可能性が出てきてしまうので、0dB以下に波形を抑えつつ調整をしなければいけません。特にパートごとではなく、すべての音をミックスして鳴らしているマスターチャンネルのクリッピングに注意が必要となります。

ただ、ミックスする際には各パートの最高出力は出来るだけ0dBに近づけるようにします。VOCALOIDのWAV書き出し機能を使って生成したオーディオデータは、出力がかなり小さい状態です。そこで最初にノーマライズという処理を施します。ノーマライズはオーディオデータの最大出力の場所を探し出して、最大出力が0dBになるように全体の音量を底上げしてくれる処理です。

ノーマライズ処理

必ずしも最初にノーマライズ処理を行う必要はありませんが、より最終段階に近い音量からスタートするという意味で、私はノーマライズから始めています。

イコライザ

ノーマライズ後、最初にイコライザというエフェクトを挿します。イコライザとは周波数帯域ごとにゲインを調整することができるエフェクトです。簡単に言うと高い音だけ小さくしたり、低い音だけ小さくしたり、音域ごとの音量を調整するためのエフェクトです。

イコライザを使う目的はさまざまですが、その一つは音色の改善です。例えば高周波が少し耳障りだと感じた時は、高周波をイコライザで削り、音色を改善します。

もう一つは要らない帯域の音を削って最終的な音圧を上げることです。削るのに音圧が上がるの?と思うかもしれませんが、殆ど聞こえないような音域が干渉して無駄に波形をかさ張らせていることがあります。そのような周波数帯域を削ることによって、聞こえ方はあまり変わらないけれど波形が少し小さくなります。そしてその小さくなった分をノーマライズで底上げしてやれば、音圧が若干稼げることになります。

下は実際にリンの歌っているトラックにかけたイコライザの例です。

イコライザの例

縦軸が音量(dB⁠⁠、横軸が周波数になっています。右に行けば行くほど高い音ということになります。私は視覚的に分かりやすいグラフィカルなイコライザを使っていますが、つまみが並んでいるだけのものもあります。

音質が変わらない程度に低音域を削り音圧を稼ぎます。リンの特性で高音域が若干キンキンしているので、削って音を丸くしています。

コンプレッサー

コンプレッサーは音圧上げで最も重要なエフェクトです。コンプレッサーの基本原理は「小さい音はそのまま、大きい音は圧縮」です。音量の大きい部分を圧縮してくれるので、圧縮された分をノーマライズで底上げするか、コンプレッサー内のアウトプットゲインで底上げすれば、音圧を上げることが出来ます。

コンプレッサーの例

ただここで気をつけなければいけないのが、あまり急激に圧縮してしまうと音質が変化してしまうことです。圧縮率(レシオ⁠⁠、その音が大きいかどうかを判断するしきい値(スレッショルド)を調整し、音が歪んだり割れたりしない程度に音圧が上げられるよう調整します。また、副作用として音の強弱が損なわれてしまう点にも注意が必要です。第3回でご紹介した通り、この副作用を逆に利用してノートごとの音量のバランスを整えるという力技もあります。

ディエッサ

コンプレッサーをボーカルトラックに掛けたときの独特の副作用として、⁠s」などの高周波の子音が過剰に増幅されてしまい、キンキンうるさい印象になってしまうことがあります。そういうときに役に立つエフェクトがディエッサです。ディエッサは高い周波数帯域だけを圧縮するのに特化したコンプレッサーで、高周波で音量が大きい部分を圧縮して耳に痛い部分をならしてくれます。

リバーブ

ここまでさまざまなエフェクトを掛けてきました。今の時点ではこのような感じです。

初期状態に比べると大分音圧も上がり、突出した音も減っているのでかなり聞きやすくなりました。

これを一度オケと合わせたものを聞いてみましょう。

なんだかボーカルトラックだけまだ浮いているような感じがします。そこでリバーブエフェクトを挿してみます。

どうでしょうか、先ほどよりもオケと馴染んだ感じがすると思います。リバーブは残響音を追加することで、あたかも広い空間で演奏しているかのように聞こえさせることの出来るエフェクトです。あまり掛けすぎてしまうと輪郭がボケてしまいますが、適度に掛けることによって声がオケに馴染みやすくなります。

リミッター

仕上げに挿すエフェクトがリミッターです。このエフェクトを挿すことによって、出力をぴったりと0dBに抑えることが出来ます。

リミッターの実態はコンプレッサーのスレッショルド値0dB、レシオ無限大としたものです。コンプレッサーをこの設定にすると、0dBを越えたものは大きい音と判断され、圧縮されます。このときレシオが無限大になっているので、0dBまで圧縮され、結果出力はすべて0dB以下に抑えられることになるのです。

それだけではなく、リミッターは音圧上げにも欠かせないエフェクトです。リミッターのインプットゲインを上げても、出力が0dBでぴったり止まってくれるので、音質が変わらない程度にインプットゲインを上げることが出来ます。これによってかなり音圧を稼ぐことが出来ます。

以下、ボーカルトラックに施した処理です。

(ノーマライズ⁠⁠→イコライザ→コンプレッサー→ノーマライズ→ディエッサ→リバーブ→リミッター

コーラスパートの処理

これはコーラスパートにメインボーカルと同じ処理を施してメインボーカルと合わせたものです。コーラスパートだけ音量は小さめにしてあります。このままでもいいのですが、ここに一工夫を加えるだけでかなりそれっぽいコーラスサウンドになります。

コーラスエフェクトを挿す

コーラスを再現するエフェクトです。これを掛けることによって音が何重にも重なって鳴っているように聞こえ、複数のシンガーで歌っているように聞こえさせることが出来ます。

定位(パン)を振り分ける

コーラスパート一つ一つのパン振りを極端にすることによって、よりサウンドに広がりを持たせます。パート1は中央付近、パート2は右側、パート3は左側にパンを振りました。

この二つの工夫を施した音源がこれです。

最初のものに比べてかなり印象が違うのが分かると思います。

仕上げは2mixで

今まで作った各音源のバランスを上手くとってミックスした音源を2mixといいます。仕上げはこの状態で行います。

イコライザ

低周波成分が多く出ていると音圧が上がりにくくなるので雰囲気を壊さない程度にカットします。音の重なりやすい中音域は必要に応じてすり鉢状にカットします。

コンプレッサー

マスタリング用のプリセットがあればそれを使うといい感じになります。

リミッター

出力を0dBに抑えるのと同時に最終的な音圧上げをします。

こうして完成したものがこのデータです。

かなり癖の強い歌わせ方をしていたのですが、オケと混ぜたことで若干その癖が損なわれてしまったような感じがします。それを見越した上で、歌わせ方や表情付けはVOCALOIDの調整段階で若干オーバーにしておいた方がいいかもしれません。

おわりに

今回は制作したVOCALOIDのトラックとオケをミックスする過程をご紹介しました。ミキシングについてはそのやり方も十人十色で、どれが正しいと言うのは難しいです。私もまだ試行錯誤している段階で結論が出ていません。

また、ミキシングは長時間連続しての作業は本来してはいけません(私はついついしてしまいますが……⁠⁠。適度に耳を休ませると聞こえ方も変わってきます。完成したものを次の日にもう一度聞いて微調整、という感じで進めていくといいです。

さて、この連載も次回でいよいよ最終回になります。次回は作った曲から動画を生成し、動画サイトに投稿する方法をご紹介したいと思います。

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