2018年1月に羽生章洋著
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『はじめよう! 要件定義』 は, 当初の対象読者である 「経験豊富な人が抜けてしまって疲弊していた人たち」 には届いたんですか? 羽生:今もって,
それはわかんないんですよ。 - ――でも,
売れましたよね。 羽生:うん
(笑)。びっくりしたのがね, エンプラ系ではなくて, ウェブ業界のほうに刺さったことなんですよ。主にウェブディレクターって呼ばれる人たちですね。仕事的に 「企画」 とか 「要件定義」 とかやらなきゃいけないんだけど, 他の技術書と見比べたときに, この表紙が心に響いたみたいなんです。 - ――
「エンプラ系」 「ウェブ系」 といっても, 状況としてはよく似てると思うんですよね。会社の雰囲気が違うくらいで。要望はだいたい同じですよね。 羽生:そうなんだよね。あと,
他にも刺さったところがあって。角さん相手に言うのもどうかと思うんだけど, アジャイルがいいらしいと聞いたんだけど, 何をやっていいのかわかんないし, 取り敢えずやってみたけど, ぜんぜんうまくいかない人たち。いくらなんでもそれはアジャイルじゃないだろ, みたいなのってあるじゃないですか。 - ――まあ,
あるあるですね (笑)。 羽生:そのあたりのアジャイル難民
(笑) な人たちにも刺さったみたいなんですよ。あのね, 本当は 「ITって何だろう」 とか 「システムを入れるって何だろう」 とか, そこら辺から書き始めたかったんですよ。だけど, それだと書籍のスコープは定まんないし, 読者もブレブレになっちゃうし, 要件定義にたどり着く前に一冊になっちゃう。それで, 一度書いた原稿をぜんぶ書き捨てたんですよ。 - ――要件定義って,
人によって定義が違うところがあるから, 前提をちゃんと共通化しておかないと後から大変になりますよね。反発もありそうだし。
いきなり本筋に入りやがった
羽生:そうそう。それで,
何だかんだで4年くらいかな, いよいよもって書けないってなってたときに, 久々の富野由悠季の新作 「ガンダム Gのレコンギスタ」 (※1) が放映されて。単純にファンだから毎週楽しみに観てました。ただね, 情報の圧縮と整理の仕方がすげぇなって思って。5話まで行ったときに 「このやり方だったら本書けるわ」 って思って。 - ――このやり方だったら?
羽生:Gレコの舞台である
「リギルドセンチュリー」 を理解するには, 大量の前提知識が必要なんですよ。で, 本来なら最初の数話で前提知識を説明するはずなんだけど, Gレコは1話からいきなり本筋に入りやがった (笑)。 - ――説明なしで
(笑)。 羽生:ナレーションもなしにね。僕ね,
コンサル会社でプレゼンの仕方とか, 文章の書き方とか, ストラクチャー型でやれってトレーニングされたんだけど, 「新訳 機動戦士Zガンダム」 っていう劇場版の1作目を見て, あのスピード感にやられて。ああ, プレゼンも文章もこれでいいんだって思って。ストーリー型っていうか。それとGレコの 「いきなり本筋」 とで, ストリームでガーっと行くノリに変わったんですよ。 - ――ストリームというのは,
(前回の) スマホでTwitterのタイムラインを見ている人たちの話とも近くなってきましたね。 羽生:そうそう,
話がどんどん流れて行くよねっていう。そういう時代と合ったんだと思います。 - ――そうですね。
羽生:たぶんエンプラ系よりも,
ウェブディレクターのほうが, 時流には乗ってるんですよ。だけど, ウェブディレクターはリテラシーとしてのエンジニアリングは知らないから, 自分たちが企画したものが, どう実装につながっていくのかというのを提示できないわけですよね。 - ――前職がエンジニアじゃないと,
なかなか知識が追いつかないですね。 羽生:
「こんな画面をやりたいから, あとはなんとかしてよ」 ってボンと投げられても, エンジニアからすれば, いやさすがにそれだけだといくら僕たちが優秀でもちょっと作れないよ, ってなる。このギャップができるわけですよ。 - ――そういう意味では,
『はじめよう! 要件定義』 がウェブ系の人たちに刺さってよかったですね。 羽生:ほんとにね。ただ,
ちっちゃいプロジェクトだと, 要件定義がうまくできてなくても, エンジニアがカバーできるんですよ。でも, 数十億の案件になるとね, このままだったらヤバってみんな言うんですよ。さすがに。それでいて, 僕のコンサル費の数万円を値切ろうとするからね, 意味わかんないよね (笑)。
- ※1)
- 2014年に放送開始したガンダムシリーズの富野由悠季総監督の作品。通称
「Gレコ」。 「富野由悠季演出家50周年作品と捉えるべき傑作なんですよ! (羽生談)」