2014年4月24日、株式会社リブセンスから1つのサービスが生まれました――「Pacirii(パシリイ)」。本サービスは、この4月に入社した新入社員4名が、試験的に創り出した新サービスです。新卒研修として新規サービスを立ち上げたその背景、そして、そこから得られたものは何だったのか?開発メンバー篠原拓人氏、稲留駿介氏、小林寛和氏、堀琢馬氏の4名、そしてこの研修を立案した人事部門長 桂大介氏にお話を伺いました。
新規事業の誕生を体験させること
――まずはじめに、この新卒研修を始めた経緯と狙いについて教えていただけますか。
桂氏:
まず、私たちリブセンス自体が大変若い会社であるということが大きな背景にあります。2006年設立後、2011年に東京証券取引所マザーズに株式上場(2012年東京証券取引所市場第一部へ市場変更)、まだまだこれからさらなる成長を目指しています。
そのためには、企業としては既存事業の拡大をしていくことに加えて、新規事業に積極的に取り組む体制を作らなければなりません。ただ、そうは言っても、既存事業に比べて新規事業に関われる人材はそれほど多くないという現実があります。
こうした背景から、代表の村上から「それではあらかじめ新規事業を体験できるものを考えてみよう」という意見が上がり、今回の新卒研修の企画・実施に至りました。この研修では、一般的な新卒研修(社会人としてのマナーなど)に加え、「新規事業の立ち上げと運営」を強制的に体験してもらうことを一番の目的とし、「事業を作るおもしろさ」「既存事業の拡大とは異なる醍醐味」を感じてもらえればと考えていましたね。
また、その経験を通じて、広い視野を持つきっかけに繋がればと思いました。結論から申し上げると、今回の新卒研修は非常に良い刺激になったと思います。詳細はこのあと、新卒メンバーからの話にもあるかと思いますが、事業を立ち上げ、実際にユーザの顔を見れたこと、リリースだけではなくサービスの運用・運営を行い、そこで課題が見つかったことなど、座学では体験できないことが多々あったのではないでしょうか。
今回の研修を経験した新卒メンバー4名は、これから所属部署でそれぞれの事業に関わっていく中で、「目的を意識する」考えが持てたように思います。とくに、自分たちのように「Webを使うことがあたりまえ」の企業の中で、「そのWebが本当に必要かどうか」を考える意識を持ってくれたのではないでしょうか。
――なるほど。背景と狙いはもちろん、この1ヵ月弱の研修で非常に大きな実りがあったわけですね。これから詳細を伺うのが楽しみです。
続いて、実際にこの研修を受けた新卒メンバー4名にお話を伺います。まず、皆さんの自己紹介をお願いします。
篠原:
私は経営企画部所属です。私のミッションは主に、新規事業の開発・推進、リサーチを行うことです。大学在籍中はビジネスコンテストの企画運営団体に所属しており、事業開発には興味を持っていました。
実はもともと別の会社への入社を検討していたのですが、リブセンスのカルチャーにある「何をやるかではなく、誰とやるか」という点に惹かれ、入社に至りました。
稲留:
私はデザイン部所属です。専門学校でWeb開発学科に所属しており、デザインに特化して学んでいたわけではなく、Webそのものに興味がありました。リブセンスへの入社に関しては、自分の面接官(部長)の人柄に惹かれた点が一番大きな要因で、絶対に入社したいと思いました。
小林:
私はデジタルマーケティング部所属のエンジニアです。プログラミングを始めたのは大学3年からで、当時小規模なスタートアップ企業に参画していました。リブセンスではインターンをしており、1年のインターンを通じてこの会社には自分にとってネガティブ要因がまったくないと感じ、改めて入社を希望しました。
堀:
私はデジタルマーケティング部のSEOグループ所属です。大学時代はWebに注力していたわけではなく、どちらかというと体育会系(ダンス部)でした。ただ、ベンチャー企業に興味を持っていたのが、リブセンス入社のきっかけとなっています。とくに、ベンチャー独特の雰囲気が心地良く感じました。
――四者四様、入社までの経緯も、入社後の部署もまったく異なっているのですね。伺ったところ、事前説明がなく(しかもお互いほとんど面識がない状態で)いきなりこの研修がスタートしたそうですが、言い渡されたときの感想はどうでしたでしょうか?
篠原:
ぞくぞくしましたね。興奮しました。これまで私は企画までしか関わったことがなかったので、このメンバーで実際につくれると思い、ワクワクしました。
稲留:
とにかく驚きました。右も左もわからなく、それ以上の感想が出なかったです。
小林:
人に届けられるものがつくれるんだと、ワクワクしました。
堀:
驚いて、すぐに楽しみに変わりました。
桂:
補足すると、研修を企画した立場としては、とにかく自由度を高くして、本人たちに考え、体験してもらえる環境にしたかったんです。とはいえ、まったくテーマがないというのではつくる側も悩むでしょうし、こちらとしてもあまりに突拍子もないものが出てきても困ります。そこで、
- 最近アメリカで流行っているような速達系サービス
- 予算は30万円以内
この2つを制約として、あとは新卒メンバーに考えてもらうようにしました。加えて、メンタリングについては別途社内の人間からフォローを入れるようにしました。
本当にWebが必要なのか?~想像と現実の壁
――新入社員がいきなり予算をもらい、その管理とともに企画立案から実装までというのはそうそうないですよね。というか初めて聞きました(笑)では、続いて、サービス企画から開発、リリースまでについてお話を伺いたいと思います。
篠原:
まず、チームビルディングをしました。そういうと仰々しいですが、いわゆる自己紹介ですね。同期で少し話したことがある程度でしたので、まずはお互いを知ることから始めました。そして、すぐに時間のかけ方について議論しました。当初は、4日目には一回目の売上を立てられるような計画だったんです。ただ、実際はそんなに甘くなかったですね(苦笑)。予定より一週間以上遅れました。
それから、ようやくβ版のリリースにつながりました。まず、自分たちが考えてつくったサービスを社内の先輩方に体験してもらったんです。
できあがったサービス
- 概要:欲しい商品を購買代行し30分以内にお届けする(範囲限定)
- 料金:商品500円につき手数料50円
――反応はどうでしたか?
小林:
まずは社内リリースに至ったわけですが、本当に良い反応をいただけました。先輩方は私たちのサービスをすごく評価してくれて、リリース直後から売上も立ちました。
……が、それは社内だけだったんですよね。
堀:
社内でうまくいって、“じゃあ、次は社外だよね”ということで、同じビルの別の会社の皆さんに今回のサービスをご案内したんです。ビル内に200枚のビラを配ったのですが、実際にご利用いただけたのは1名でした。
社内でのβ版ではあれだけ反響があったものが、これだけ無反応だったのは正直ショックでしたね。ここまで反応がないものか、と思いました。
小林:
そこで全員が痛感したのが「そもそもWebを使うサービスなんだろうか?Webを使う状況がまったく見えてこない」という感想でした。条件としての速達サービスではあったのですが、ビラを使っても反応がなければそれをWebに置き換えても変わらないと思い、そもそも根本的な部分で壁にぶち当たりましたね。
篠原:
まさに自分たちが考えていた理想と現実の壁を肌で感じたのです。
稲留:
私はデザイン領域を任されていたので、このときは正直ほとんどすることがなかったんです。ただ、そこで状況が一転しました。というのも、ビルの管理上の理由でビル内でのビラ配りが禁止だということを知らず、厳重注意され、ビラ配りも禁止されてしまったんです。
堀:
そこで、結果として、消極的な選択としてWebにいかざるを得なくなったんですよね。そもそもWebを活用する点が見えてこない状況で、正直不安はありました。
稲留:
それでも、時間は過ぎてしまいますのでとにかくできることから取り組みました。私はデザイン担当として、まず、ユーザの皆さんの目に止まってもらえる、そういうビジュアルをイメージして、ロゴをつくりました。
リリース後の話になりますが、実際にお使いいただいた方から「わかりやすいロゴ」「サービスのイメージに合っている」といった反応をいただけたのは嬉しかったです。
小林:
私としては、まず、ユーザから受け付ける仕組みを考え、エンジニアの立場として短時間で実装できるものを考えました。結果として、インフラ周りにはAWSを使い、また、フォームはGoogle Driveを活用するなど、なるべくスクラッチではなく活用できるテクノロジーを利用しましたね。
シェアで体験できたこと・できなかったこと
――今お話いただいたことは、まさに今回の研修の目的である「新規事業の立ち上げを体感する」ことになりました。想像と現実の違いを肌で感じ、また、(ビラが配れなくなるといったような)想定外のトラブルを乗り越え、サービスが生まれました。その後の反響については、各種ソーシャルメディア上で大きく取り上げられていましたが、開発をした立場としてはどうだったんでしょうか?
篠原:
おっしゃっていただいた通り、本当に想像以上の反響でした。まさかこんなにネット上でバズるとは思っていなかったんです。
稲留:
先ほどもお話しましたが、とにかくネガティブな反応がなく、リリース直後から多くの皆さんに使っていただけたのは嬉しかったですね。
堀:
私はマーケティングに関わる部署に配属されたわけですが、自分自身、とくにはてなブックマークをはじめとしたソーシャルメディアでの反響に興味があって個人的にも取り組んできました。その中で、Paciriiがこれほどまでに反応をいただけたのは、思ってもみなかったところです。
改めて、ソーシャルネット・ソーシャルメディアを通じたシェア(共有)の力を感じました。
――リリースしてからしばらく経って、あるユーザから表記に関しての指摘があり、対応をされていたかと思います。この点はどうだったんでしょうか?
桂:
そこはまず、会社の立場として、フォローしきれなかった点で、新卒メンバーに申し訳なかったですね。その問題が明確になった時点で、すぐに管理部門と連携を取り、このサービスが続けられるようにサポートしました。
篠原:
私たちもつくって使ってもらうことのみに意識が行き過ぎて、そのような、実ビジネスの観点への意識が薄かった点は大きな反省材料となりました。
――その他、リリースしてから何か感じたこと、見えたことはありますか?
篠原:
運用の面で難しかったのですが、サービス稼働、とくに受注後のフローでした。今回は速達サービスですので、Webで注文をとって終わりではなく、注文をとった後に30分以内に届けること、それが最も大事なポイントとなります。
ですから、配送要員の確保にも悩みました。とは言っても、ここはまったく想像ができなく、日ごとに最適化を行いながら対応しました。先ほど、堀が話したように、注目度を高めるという点でシェアの持つ力を感じたわけですが、裏を返して、注目度が集まったがゆえの運用に対するコストというのは、この研修を受けるまで見えなかったことですね。
感想とこれから
――短期間のうちで、新規サービスの開発から運用、そして売上計上までと、一般的な新卒社員の方ではなかなか体験できないことを体験できた四名、そして、それを研修として提供した企業としてのリブセンス。最後に、この新卒研修で感じたこと、また、これをもとにした次へのステップ、考えがあれば教えてください。
桂:
冒頭でも述べたとおり、とにかく新規事業を立ち上げることを体験してもらいたかったというのがあり、それについては私たちが考える以上の成果が出たと思っています。企業としては、社員につねにビジネスとしての事業を考えてもらいたいからです。
私は、事業として取り組むべきこととして、「実際の生活に役立つものを生み出していく」というのがとても大切だと考えています。今回は「速達」をテーマに、実際に役立つものをつくり、提供し、その中で、嬉しかったことや辛かったことを感じ取ってもらえたのであれば、ぜひそれを今後のリブセンスでの実務や新規事業発案などに活かしてもらいたいです。
堀:
まず、このメンバー四名に関して、得意分野が異なっていたことがうまく噛み合った理由だと思っています。自分自身、ベンチャー企業に興味があり、こういう形ですぐに新規事業に関われたのは大きな経験になりました。
もしこういう機会がまたあるのであれば、今度はさらに範囲を広げてやってみたいです。
小林:
この研修が始まってから、つねに不安を感じていました。それでも、四名がお互いに気軽に相談できたというのは本当に良かったです。
今回は時間の関係で検証まで至らなかったので、今後はぜひ検証を含め、それを改善につなげるような形で進めていきたいです。
稲留:
私は今回大成功だったと思っています。この四名だったからできたのではないでしょうか。そして、振り返ってみて楽しかったです。
ただ、すぐにもう一回やりたいかと言われるとそうでもなく、もう少し自分自身経験を積み、たとえば二年後や三年後、また改めて新規事業開発に関わってみたいです。
篠原:
すでに他の三名が話していますが、この四名だからこそ「Pacirii」が生まれました。私としては、とにかく得られた学びが大きかったです。チームで行うことの大切さ、そして、難しさも感じました。とくに信頼できるがゆえの思いやり、そして、思いやりから生まれた惰性についてはこれから気をつけなければと思っています。
私は、できるのであればすぐにやりたいです。ただ、改めて力不足を痛感したので、ビジネスとしての新規事業であれば、当然ながら適任者が行うべきですし、私自身は適任者として不足している点をこれから身につけていきたいです。
――ありがとうございました。
以上、「新卒研修としての新規事業開発」、その舞台裏について伺いました。限られた時間の中で、それぞれが感じ取ったことを聞くことができ、そこにはたくさんの気づきと学びがあったように思います。この先、リブセンスから、どのような事業が生まれてくるのか、今から期待したいと思います。