LayerXが牽引する、エンジニア視点での実践的DXのススメ~これからの時代は“不確実性への対応力”勝負

ウィズコロナ、そして、このあと来るであろうアフターコロナの世界を見据え、今、日本では、DX(デジタルトランスフォーメーション)の動きが加速しています。すでに、多くのメディアで取り上げられ始めており、目にし耳にするDXですが、その文脈の多くは経営視点からのアプローチで語られることが多くあります。今回は、エンジニア視点から見たDXについて、株式会社LayerXのエンジニアである三津澤サルバドール将司氏、鈴木研吾氏にインタビューを行い、ブロックチェーンをキーワードに、エンジニアの活躍領域はどこか? そして、どのような企業価値の向上につながるかを、具体的な技術や分野と合わせながら語っていただきます。

今の時代のDX、そして、エンジニアにとってのDXが持つ意味について、株式会社LayerX エンジニアである三津澤サルバドール将司氏(右⁠⁠、鈴木研吾氏(左)にお話を伺いました
今の時代のDX、そして、エンジニアにとってのDXが持つ意味について、株式会社LayerX エンジニアである三津澤サルバドール将司氏(右)、鈴木研吾氏(左)にお話を伺いました

そもそもDX(Digital transformation)とは何か?

Q:今回のテーマは「DX」です。ここ1~2年、企業のビジネスを考える上で、必ずと言っていいほど耳にする「DX」。ウィズコロナ・アフターコロナの社会になった今、さらに言葉としての存在感が増えたように思います。改めて、お二人が考えるDX、お二人にとってのDXについて教えてください。

三津澤: おっしゃるとおり、本当によく耳にするようになりました。細かな定義、考え方は、人それぞれではありますが、私がDXというキーワードを使う場合、⁠ビジネスをデジタルに変えること。⁠そしてデジタル化した)ビジネスをただ行うことがゴールではなく、業務・組織・企業文化を変え、その後、継続して改善・成長できる土台をつくり、競争優位を確立すること⁠⁠、DXにはそのような意味を含めています。

たとえば、ソフトウェアプロダクト開発の側面に関して言うと、継続的改善がしやすい状態を保つことが前提になります。、そのためにはたとえば、アジャイル開発で市場や顧客ニーズの変化に対して柔軟に優先度判断を行なう状態にする、将来的な拡張性を加味した設計を行なう、もっと簡単なことではコードを適切に管理する、などの条件が前提です。

サービスやソリューションのグロースの観点で言えば、改善サイクルを回せるようなデータの蓄積・分析の基盤を整えること、分析の観点を組織にインストールすること等、成長するための足場を固めることが、DXと言えるのではないでしょうか。

鈴木: 基本的な考え方は、三津澤と同じです。ソフトウェアプロダクトやサービスが、ITが登場し始めたころの売り切り型から継続型、いわゆる、サブスクリプション型へシフトし、企業の活動全体を変容するDXにステップアップしているのではないでしょうか。また、私たちに限らず、今、ITを活用するビジネスにおいて、どのような分野・領域でもOSS(オープンソースソフトウェア)の活用が欠かせません。OSSを活用し、そのコミュニティと連携した上でビジネスを構築し、継続するかが、今後重要になると思っています。

運用の視点では、アジャイル開発に加えて、CNCF(Cloud Native Computing Foundation)が定義するクラウドネイティブの考え方で設計・開発・運用することも大事です。

LayerXが取り組むDX事例の今とこれから

Q:今のお話を伺って、LayerXが意識するDXとは、「継続性があること」と伝わってきました。そして、継続性を持たすことを前提に、設計、開発、構築、そして、運用すること、そのための技術選定・技術活用をされているわけですね。

それでは、実際にどのような事例に関わっているのか、教えてもらえますか。

三津澤: 今年(2020年)の3月に、三井物産株式会社、SMBC日興証券株式会社、三井住友信託銀行株式会社と弊社で、ブロックチェーン技術を活用した次世代アセットマネジメント事業分野に関する新会社(三井物産デジタル・アセットマネジメント株式会社)設立を発表しました。昨年末から取り組みをスタートし、3月に発表しています。

この会社では、電子契約やクラウド会計、銀行APIのようなSaaS、パッケージソフトを活用し、アセット(資産)管理をデジタル化することを目的とした業務を行います。

実際に弊社のプロダクト開発ではどういう開発プロセスをとっているかというと、たとえば、クライアント企業のプロダクトオーナーと、模造紙の前で議論し、付箋に業務上の課題やユーザストーリーを洗い出したり、画面遷移等の認識のすり合わせなどを行ったりしています。また、アジャイル開発ではおなじみのインセプションデッキを多くの場面で活用し、関係者内でプロジェクトの目的や、全体像のすり合わせや優先順位の認識合わせをしています。

議論をしている様子
議論をしている様子

鈴木: 新会社ではオルタナティブ資産などの証券化、デジタル化を行っています。すでにある権利の移転プロセスをデジタルにどのように移行していくか、そこにブロックチェーンを始めとした技術を活用するチャンスがあるかもしれません。証券のデジタル化、というよりは、証券取引全体のデジタル化を目指しています。

三津澤: 理想を言えば、最初からアジャイル開発で取り組みたいのですが、必ずしもそうはいかないのも事実です。場合によっては決まった期日に対してスケジュールを引き、開発前に不確実性を潰し切るようなウォーターフォールで開発することもあります。そのあたりは普通の新規事業のプロダクト開発でリリースまで走り切る感覚に似ていると思います。リリースに至るまでに、潰せる課題は可能な限り潰すよう心がけ、リリース後の改善をしやすいようにしています。

三津澤サルバドール将司氏
三津澤サルバドール将司氏

また、証券取引に関して、とくに証券管理をはじめとした裏側の業務の部分などは、私たちには知見がないこともあり、ヒアリングをしながら進めています。このあたりの業務に関しても、新型コロナウィルスの影響で、デジタル化、非接触を目指す方向に変わっていく流れが来ているかもしれません。

2020年5月に入ってからは、日本の企業活動のデジタル化で必ず障壁になるであろう、契約関係について、弁護士ドットコム株式会社、マネーフォワード株式会社と業務提携を発表し、GMOあおぞらネット銀行株式会社とは、次世代金融サービスの検討に係る基本合意を締結したのも、日本の企業活動のDX実現の一環です。

ブロックチェーン技術を日本の産業に導入するには?

Q:3月の新会社設立以降、非常に積極的、そして、スピーディな動きが見られています。その中で、やはりLayerXがDXに取り組む一番の理由、それは、お二人をはじめとした、所属するエンジニアの皆さんが持つブロックチェーンに関する技術力があるからこそ、とも言えるのではないでしょうか。

ブロックチェーン技術に関しては、ここ日本では仮想通貨に関するものから注目を集めたことがあって、ブロックチェーン=仮想通貨という誤解が0とは言えません。改めて、日本の産業において、ブロックチェーン技術の活用はどのように進めていくべきか、エンジニアの目線で考えるポイントを教えてください。

鈴木: まず、ブロックチェーン技術が注目を集めた理由は、分散共通台帳が持つ汎用性とスケーラビリティではないでしょうか。その中で、個人的に注目しているブロックチェーン技術は、The Linux Foundationが運営するHyperledgerプロジェクトです。中でも、デジタル・アイデンティティに関する技術をまとめたフレームワーク「Indy」に着目しています。

デジタル・アイデンティティは、個人はもちろん法人にも適用されます。ですから、先に出た仮想通貨のような個人間取引だけではなく、個人と組織、組織と組織、国家と国家、といったような組み合わせ、あるいは、製造業において、生産ラインと生産ラインというような、業務フローに必ず必要になります。

Indyは、集中型IDプロバイダが持つ課題を解決するために誕生したものなので、今後増えるブロックチェーンベースのシステムに統合できると非常におもしろくなりそうです。

鈴木研吾氏
鈴木研吾氏

また、アイデンティティ関係のブロックチェーン技術を私がエンジニア視点で注目している理由は、GAFAやMicrosoftなど、テックジャイアントの参入率が低い点です。私が知っている限り、これらの企業のうち積極的に参入しているのは、MicrosoftのビットコインベースのIONだけではないでしょうか。業界自体がまだまだ黎明期であり、先のOSS活用の話にも通ずるところですが、個々のエンジニアの力が試される、おもしろい領域だと思います。

三津澤: 私からは少し俯瞰した視点で、ブロックチェーン技術とビジネスについてお話します。ブロックチェーン技術というと、金融のほか、物流などのエンタープライズ領域での適用事例を目にすることが多いと思います。ブロックチェーン技術が得意なのは、基本的には複数組織間でのデータとロジックの共有です。

そのあたりに、DXとブロックチェーン技術のタッチポイントがあります。今日本にある多くの産業では、第1段階としての自社の業務のデジタル化を実現できていない企業や組織が多いでしょう。ブロックチェーン技術を用いることで、DXを推進する際に業界全体でデータを活用したり、業務を標準化するような視点を取り入れることができます。サイロ化しない状態でデータを蓄積できることは継続的改善のための土台になりえると思いますし、業界全体での効率化にもつながると思っています。

ユースケースによって用いるべきブロックチェーン技術も異なりますので、まずはDXすべき対象に合わせて、複数社で共有することがメリットを生みそうな所にブロックチェーンを積極的に選択していくと良いかと思います。データの種別ごとに、色々なデータが載ったブロックチェーンが現れることになりますが、鈴木が話したように、デジタルIDの活用が進めば、多様な領域の、さまざまな属性・規模のユーザ同士で分散共通台帳が活用できるわけです。

私たちは、DX事例への取り組みとともに、継続してブロックチェーン技術の研究・開発を行っています。ちょうど先日(2020年6月30日⁠⁠、弊社の取組の一環として、独自の分析フレームワーク「LEAF」に基づくエンタープライズ向けブロックチェーン基盤比較レポートを発表しました。ご興味のある方は、ぜひご覧ください。

独自の分析フレームワーク「LEAF」に基づく エンタープライズ向けブロックチェーン基盤比較レポート(要登録)
https://layerx.co.jp/publications/leaf_basic/

鈴木: 具体的な産業としては、すでに取り組みが進み始めた金融業界、そして、日本では物流業界でのブロックチェーン技術活用が進むと予想します。また、三津澤が申し上げたように、業務フローがデジタル化できていない業態、企業での活用も増えていくのではないでしょうか。

また、私の考えとして、産業へのブロックチェーン技術活用には、技術力に加えて、さまざまな経験が重要と考えます。私たちLayerXには、エンタープライズ領域と対になる、コンシューマ向けサービス(GunosyやPairs)の開発者が在籍している点が、おもしろい部分でもあり、強みではないかと考えています。

コンシューマ向けサービスで培った不確実性に対する対処方法、運用ノウハウ、改善経験が、今後取り組むであろう、DXに向けて、実際に動くものとして提供できるはずです。

三津澤: 今の話の補足として、LayerXにはプロダクトやサービスの立ち上げからスケールに関わっているエンジニアが多くいます。そのため、プロジェクトを立ち上げる際に、継続的改善を実現するために限られたリソースをどこに配分してプロダクトをリリースするべきかの勘所がつかめているメンバーが多いと思います。

DX時代、これからのエンジニアに求められる資質とは

Q:今のお話を伺って、ブロックチェーンという専門性の高い技術が、今後、日本の多くの産業でも採用されていくのではと楽しみになりました。一方で、そのためには、技術の採用、その先の活用、そして、DXの実現には技術力、すなわち、エンジニアが必要です。

最後に、お二人から見て、これからのDX時代におけるエンジニアに求められる資質について教えてください。

画像

三津澤: 私は事業やプロダクトの立ち上げに絞ってお話しますね。

設計力は非常に大事だと思っています。

エンジニアの手がかかるような運用や修正が困難なコード、スケールしないアーキテクチャなど、グロースさせるタイミングで重荷になるような負債をため続けると改善がママなりません。とはいえ、固く作りすぎるのも不必要に煩雑なソフトウェアができてしまい、スピードを損なうという観点では違います。バランスを取れる力は大切だと思います。

たとえば、Webサービスで言えば、当然データベース設計やAPI設計といった各論も重要です。加えて、システムのどういった要求に対してどのような技術を具体的に選択するかと言うような観点も大切です。総合的なアーキテクチャ設計力が求められると思います。100点をつねにめざすというよりは、いち早くプロダクトを立ち上げる際につねに80点が取れるようなバランス感があるといいなと思います。

鈴木: 技術という点では、三津澤と同じです。また、設計をしっかりするためには、ネットワーク、データベース、プログラミング言語など、一通り知識を習得しておいて損はないでしょう。応用的な部分を掘り下げるのではなく、まず、仕組みの部分、基礎を知っているだけで、トラブルや何かの障壁にぶつかったときの対応策、回避策を見つけ出せるはずです。

DXの観点では、今お話した基本的な技術に加えて、自分が関わる領域以外の知識や経験、そして、自分の領域外のメンバーとのコミュニケーションが求められます。ですから、今後、エンジニアとしてDXに関わるには、さまざまなスキルセット・マインドセットの方たちとのコミュニケーションの取り方は大切にすることをおすすめします。

三津澤: 改めて、私たちが考えるDXとは、ビジネスを継続させるためのデジタル化であり、この流れは、日本の産業においてますます大きな潮流になっていくと信じています。

今、鈴木が申し上げたように、きちんとしたコミュニケーションができるエンジニアは、DX領域で求められる人物になるでしょう。

いろいろとお話しましたが、DX時代のエンジニアの資質、それは、不確実性に対応する余裕を持っている、総合力のあるエンジニアかもしれません。あるいは、もし何か1つのスキルのスペシャリストであれば、自分が持っていないスキルを持っている人とチームを組んで、総合力を実現できることが大事ですね。

――ありがとうございました。

おすすめ記事

記事・ニュース一覧