クラウド対応、マルチプラットフォーム開発……ますます進化するDioDocs――グレープシティ プロダクトマネージャ若生尚徳氏に訊く

2018年に日本国内展開がスタートしたドキュメント生成・更新APIライブラリDioDocs(ディオドック)⁠。去る2021年2月に国内最新版「DioDocs V4J」がリリースされました。今回、グレープシティ株式会社ツール事業部製品企画部プロダクトマネージャ若生尚徳氏に、DioDocsの国内展開の狙い、現状、そして、これからについて伺いました。

グレープシティ株式会社ツール事業部製品企画部プロダクトマネージャ 若生尚徳氏
グレープシティ株式会社ツール事業部製品企画部プロダクトマネージャ 若生尚徳氏

日本市場を意識した国内展開

――まず、DioDocsの日本市場展開の背景について教えてください。

若生:DioDocsはもともとワールドワイドで展開している「GrapeCity Documents」という名前のExcelのライブラリ群でした。その当時、すでに同様の製品が多数ある中で海外市場のシェアが伸び悩んでいたのですが、日本ではExcelに対する特殊な利用状況(バックオフィスを中心としたドキュメント製作、帳票作成・出力など)があり、また、サーバサイドでExcelを操作したいというニーズが強くありました。

こうした背景の中、私がGrapeCity Documentsに目をつけ、日本市場展開を提案したのがきっかけです。2018年の初めごろでした。その後、日本市場調査を行い需要見込の予測ができたため、国内向けの商品化に動き出し、2018年10月に国内展開を開始しました。

ちなみに、DioDocsという名称については、スペイン語の「Dio(与えられた⁠⁠」という意味とDocuments(Docs)を合わせたものです。さらに、Dioには⁠Do It Ourselves⁠⁠Data Input Output⁠という意味を含め、文書用ソフトウェアを使わずに開発者がライブラリを操作することでドキュメントを提供できるようにする、という思いを込めています。

DioDocs
DioDocs
――日本ではExcelを使って業務関連書類を作成する独特の慣習がありますから、その点ではとてもニーズがあったように思います。実際に国内展開を開始してから、具体的にどのような企業、どのような用途で使われているのでしょうか?

若生: おっしゃるように、日本は本当に業務関連書類が多様で、また、定型フォーマットのものが数多くあります。中でも、帳票の使用頻度、そして、種類の数には目をみはるものがあります。

弊社では、DioDocs展開前より、⁠SpreadJS(スプレッドJS⁠⁠」というExcelライクなUIを実現できるJavaScriptライブラリ製品を持っており、こちらも多くの方に使われています。ただ、SpreadJSでは高機能・多機能すぎる、サーバ側で操作したい(UI画面は不要⁠⁠、もう少しライトな使い方をしたいといった声がありました。そこで登場したのがDioDocsです。Excel帳票を作成しその帳票をPDFへ変換するなどの用途でお客様にお使いいただいています。

業種に関しては、バックオフィス業務全般が対象となるため、どの業種に多いなどの偏りはあまりないです。企業での利用だけではなく、自治体の事務などで導入していただくこともありますね。

たとえば、株式会社AmbiRise様が提供する請求プラットフォームHaratteにDioDocsを導入していただき、行政宛の請求業務の効率化を実現しています。AmbiRise代表の田中様がもともと市職員だったことから、課題の顕在化と必要な答えを明確にでき、その実現のためにDioDocsを採用していただきました。

――業種にこだわらずに活用できるというのは可能性が広がりますね。また、日本の業務フローならではのニーズにマッチしている点というのは、DioDocsの強みと感じました。その中でも、この点はとくに特徴的、あるいは、提供開始後のニーズとして具体的なものがあれば教えてください。

若生: Excelでのドキュメント作成全般はもちろんのこと、日本ならではと感じるニーズとして、作成したデータをPDFへ変換したいニーズが非常に多いです。最終的な出力がPDFではなく、PDFの先の印刷(紙)書類にあるというのが、日本独自のニーズと言えます。コロナ禍以降、DXの動きから電子書類へのシフトは進んでいますが、それでも、PDF化のニーズはDioDocsが解決すべき最重要課題です。

なお、日本独自のニーズという点では、再現に求める正確さ(質への要求)が高いことも添えておきます。サイズそのものだけではなく、フォントの種類など、アメリカを始めとした海外と比べても、非常に要求が高くなっています。

ドキュメント開発のニーズとDX

――DioDocsが出力するドキュメントの観点から、日本市場との親和性の高さを伺えました。続いて、DioDocsを利用する人、開発者の視点から質問をさせてください。DioDocsを利用した開発のポイント、また、開発者にとって意識してもらいたい点はどのあたりでしょうか?

若生: DioDocsはExcel業務/PDF出力業務をサポートするシステム開発に向いています。ですから、この要件の開発であれば、最初の工数を大幅に削除できるのが最大の特徴です。

個別の製品で見てみると、⁠DioDocs for Excel」は、VBAライクなコード処理で既存のMicrosoft Excel互換のファイルを生成・編集できます。テンプレート構文という機能を利用すれば、煩雑になりがちなデータバインド処理を効率化することも可能です。最新のV4Jでは、テンプレート構文をさらに強化したほか、ピボットグラフへの対応などExcel互換機能も追加しています。Excelデータの生成だけではなく、その先の処理までを想定した開発が行えるようになりました。

DioDocs for Excel V4J
DioDocs for Excel V4J

もう1つの「DioDocs for PDF」は、WebベースでのPDFの表示や操作、また、ExcelデータのPDF変換などが行えるため、WebをUIとした帳票システムあるいは各種ドキュメント出力サービスを短期間で開発をする際に適しています。最新のV4Jには、JavaScriptベースのPDFビューワが追加され、サーバサイドの各種APIと連携した高機能なPDF閲覧システムの構築が可能となります。

DioDocs for PDF V4J
DioDocs for PDF V4J
――ところで、DioDocsはもともとアメリカで開発され、世界展開されたと聞きました。日本展開が開始され、開発体制はどのようになっているのでしょうか? また、開発にあたってのアップデートロードマップなどがあれば教えてください。

若生: 現在、日本以外に、アメリカ、カナダ、中国、韓国、インドなど多国籍のチームがDioDocsの開発や販売に関わっています。グローバルのプロダクトマネージャがインドに在籍しており、それ以外に私と同じように、各国のプロダクトマネージャが配置され、国ごとのチームをマネジメントしています。

基本的にはオンラインで開発するので物理的な国境の問題はありません。強いて言えば、私がいる日本はリモートワークに慣れているとは言えない状況だったのが、コロナ禍で一気にリモートシフトが進み、ほかの国との連携、リモートでの開発はしやすくなりました。

――多国籍での開発とのことで、国ごとの役割などはあるのでしょうか?

若生: お伝えしたようにグローバルのプロダクトマネージャはインドに在籍しています。それ以外で言えば、大きく、Excel開発チームは中国、PDF開発チームはアメリカ、カナダ、QAチームは中国、ドキュメントはインド、そして、私たち日本はソースコード以外の製品開発(Nugetのパッケージ化など)です。各国合わせて約20名います。

情報共有にはJIRA、Confluence、Microsoft Teamsなどのコミュニケーションツールを活用し、テキストベース、同期・非同期でのコミュニケーションを行っています。主要言語は英語になります。

各国でのコミュニケーションは英語を中心に行う(画面は実際のJIRA)
各国でのコミュニケーションは英語を中心に行う(画面は実際のJIRA)

コロナ禍でリモート開発は問題なくなった一方で、対面でのグローバルミーティングは2020年は実現できませんでした。昨年はリモートでの開催となりましたが、今年も何かしらの形で開催したいですね。

――非常に多彩な、そして、それぞれIT技術が進んでいる国での開発ですね。コロナ禍によりリモート開発がよりスムーズになった点も興味深いです。一方で、これだけ多くの国が関わると課題、あるいは、苦労話などもあるかと思います。

若生: まず、あたりまえの話ですが、どの国のプロダクトマネージャも自国のお客様、そして、そのお客様からのニーズに応えたいという気持ちがあります。当然、ニーズとともにフィードバックされるバグやソフトウェア上の問題の解決を進めたいわけです。

日本で言えば、先ほどもお伝えしたとおり、お客様が求める製品(とアウトプット)の質が非常に高く、また、細かな要望が多数あります。デザイン面に関して言えば、フォントの話だけではなく、罫線の位置や太さなどへのこだわりも強くあります。

私はその要求が上がってくる背景はわかるものの、海外の開発チームにとっては理解しづらい点でもあります。これらをきちんと次のバグフィックス、アップデートのときに対応してもらうようにするのが、私の大切な役割の1つですね。

これは感覚的なものですが、日本・中国・韓国は同じマルチバイト文字圏なので通ずるところはあるものの、欧米圏との違いは感じます。大きく分けると、日本を中心としたマルチバイト文字圏はバグはあってはならないもの(100%に近い品質を求める⁠⁠、欧米圏はバグはあるもの(バグを見つけたら迅速に対応する)という考えです。

とは言え、このように国ごとに捉えられ方が異なるとしても、どんなに小さなバグでも見つかれば、それは重要な改修や改善対象であることには違いありません。国境の壁を越えて、ワンチームとして対応しています。

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既存フォーマット+αに向けて

――利用用途、さらには、それに対する国ごとの開発の考え方の違いなど、大変興味深い内容を伺えました。最後に、2021年以降、若生さんが実現したい新機能など、DioDocsの未来の姿について教えてください。

若生: まず、2月に最新のV4Jをリリースしました。⁠DioDocs for Excel」⁠DioDocs for PDF」とも非常に強力な新機能が追加されていますので、新規ユーザの方はもちろん、既存ユーザの皆様にも活用してもらいたいです。

そして、これらについては、今後もMicrosoft ExcelやPDFの仕様に追従し、完全互換を目指していきます。Microsoft Excelではラムダ関数対応が行われていますので、DioDocsでもそれに追従していきますし、PDFに関しては最新の2.0準拠で機能を拡充します。

さらに、DioDocsが本当に目指しているのは単純な互換だけではなく、名前の意味にも込めているように、すべてのドキュメント生成に関してサポートする機能の実装です。たとえばV4JのPDFビューワはその一例です。

今後は、ビューワだけではなく、PDF/Excelそれぞれの簡易エディタなどの実装も目指せたらと個人的に考えています。実はV4JのPDFビューワでは注釈やフォームの編集機能を提供しています。また、冒頭でも述べたように、弊社製品のSpreadJSをはじめ、他製品との相互運用も目指したいです。

今、日本ではDX(デジタルトランスフォーメーション)の文脈から、社会全体が変化している真っ最中で、業務フローも大きく変わろうとしています。その中で、業務関連データの扱い、そして、紙からデジタルへの動きはますます強くなるはずです。

DioDocsはそうした社会変化に対応し、これからの企業のDX化、それを支える開発者・利用者を一層サポートしていくことを目指して提供していきます。

――ありがとうございました。

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