8月2日、KDDIとソラコムは連名で、KDDIがソラコムの発行済株式を取得する株式譲渡契約を締結したというニュースリリースを発表しました。8月下旬を目処にKDDIはソラコムの全株式を取得し、ソラコムはまもなくKDDIの連結子会社となります。
株式会社ソラコムの子会社化について ~グローバルにも通じる「日本発」のIoTプラットフォーム構築へ~
国内トップのIoTプラットフォーマーとして、またグローバル展開を積極的にはかるスタートアップとして、2015年の最初のサービスローンチ 以来、怒涛の快進撃を続けてきたソラコムを国内大手通信キャリアのKDDIが買収する - 買収金額は明らかにされていませんが、200億円前後と報じているメディアもあります。この予想外の買収劇に国内のIT業界や通信業界は大きな衝撃を受けました。
ソラコムはすでに国内外で7000を超えるユーザを抱えており、パートナープログラム「SORACOM パートナースペース(SPS)には350社以上が登録しています。こらのユーザ/パートナーが使用するIoTプラットフォームは基本的にAWSのクラウド基盤とNTTドコモの基地局をベースに構築されていますが、リリースによればKDDIの子会社となったあとも「今後、ソラコムが提供しているサービスは、既存のお客さまも新規のお客さまも、引き続き変わらずご利用いただけます」とのこと。ひとまずユーザサイドが新たに何かしらの変更を迫られることはないようです。
KDDIは昨年10月、ソラコムのサービスの核となるエンジン「SORACOM vConeec Core」を活用し、AWS+ドコモでソラコムが実現しているプラットフォーム「SORACOM」とほぼ同様の「KDDI IoTコネクト Air」の提供を開始 しています。ソラコムは今後、セルラーLPWAや5Gを前提にしたサービスの展開を予定していますが、それらの次世代ネットワークを基盤にしたサービスはKDDIプラットフォームがベースとなる見込みです。
また、今回の買収の背景には、ソラコムが創業時から視野に入れてきたグローバル展開をよりスピード感をもって進めていくという狙いも含まれていると思われます。昨年、筆者がソラコム 代表取締役社長 玉川憲氏に北米展開の直前にインタビューをした際、玉川氏は「国内ではIoTプラットフォーマーとしてひろく認知されるようになったが、海外ではソラコムといっても誰もまだ知らない。ゼロからのスタートは予想外にきびしい」と発言していました。もともとAWSのエバンジェリストとして、クラウド業界を中心に国内では著名な存在だった玉川氏は、2014年の創業時、そして2015年のサービスローンチからつねに注目されてきました。ソラコムの急速な成長は玉川氏の高い知名度も大きく関与しています。しかし海外ではそのカードが使えません。「 世界中のヒトとモノをつなげ共鳴する社会へ」という創業以来のビジョンをスムースに達成するためにも、グローバル企業であるKDDIの傘下に入るという選択は自然なことだったのかもしれません。
なお、今回の買収に際して、ソラコムの創業者であり、代表取締役社長兼CEOの玉川憲氏は自身のブログ で以下のようにコメントしています。
一方で、私、玉川をはじめ、共同創業者である船渡、安川は、今回のアナウンスは、Exitというより、むしろ、これまで単独では届かなかった領域に道を拓くEntranceだと考えており、さらなるチャレンジに対して身が引き締まるとともに、これからの冒険にワクワクしています。今後は、Amazonの中のAWSのように、KDDIの中のSORACOMとして、起業家精神を失うことなく、日本のみならず、世界中のお客様に使っていただけるIoT通信プラットフォームビジネスに成長させていきたいと考えております。
(中略)
書籍 ” Zero to One” にも、「 新しいものを作り出している限り「創業」は続き、それが止まると「創業」も終わる」とありますが、我々ソラコムは今後も、新しいものを作り出していき第2の創業期を迎えたいと考えています。
玉川氏や同社CTOの安川健太氏の古巣であるAWS、そしてその親会社であるAmazonは「Every day is still Day One(毎日がいつも始まりの日) 」を企業理念として掲げています。今回の買収がソラコムにとって単なるExitではなく、新たなDay Oneを刻んだマイルストーンになることを、多くの関係者が望んでいます。
2016年10月、「 SORACOM vConeec Core」の発表時にソラコム オフィス前で挨拶する同社代表取締役社長 玉川憲氏(右)とCTO 安川健太氏