ESEC2008(第11回組込みシステム開発技術展)Photoレポート

ESEC2008(第11回組込みシステム開発技術展)Photoレポート(初日)

2008年5月14日(水)から16日(金)の3日間にかけて、東京ビッグサイトにおいて組込みシステム開発技術展(ESEC)が開催されています。11回目となる今年は過去最多の600社が出展し、ハードウェアからソフトウェア、開発環境に至るまで、組込みシステム開発に必要なあらゆる製品が集合しています。

本稿では熱気高まるESEC展示会場から、各社のイチ押し製品や今年狙い目の業界トレンドなどをレポートします。

日立製作所

日立製作所のブースでは、今回大きく分けて2種類のソリューションが展示されています。ひとつはカーナビ向けのソリューション、もうひとつはオーディオ機器向けのソリューションです。特にカーナビソリューションとしては、同社がリリースしている組み込みデータベース「Entier」を搭載したパイオニア社のカーナビ「サイバーナビ」が要注目の製品です。

パイオニア社のカーナビ「サイバーナビ」
パイオニア社のカーナビ「サイバーナビ」

Entier はコンパクトで高速かつ高機能な検索が可能な組み込みデータベースで、サイバーナビではこれを採用することで高速な店舗検索や細かなデータの更新を実現しているそうです。また、思いついたキーワードで自由に検索可能な「マルチ検索」も、Entierによって実現した機能のひとつです。サイバーナビは今月下旬に発売予定となっていますが、ブースでは昨日届いたばかりという実機に直接触れて試してみることができます。

同社企画本部の石川太一氏は、今回の展示の狙いを次のように述べました。⁠これからはUIや新しいサービスといったものにフォーカスが当たってくるはずです。今回はその部分に興味がある人のヒントになる情報を提供できればと思います」

京都マイクロコンピュータ

京都マイクロコンピュータのブースには、大きなテーブル2つにそれぞれディスプレイが1つずつ。そしてたくさんのボード。まるでボードの試験現場のようです。同社では組込みソフトウェア向けのデバッグツール「PARTNER-Jet」をリリースしており、 ESEC会場では用意された各種ボードを実際にPARTNER-Jetに接続し、デバッグの様子を見ることができます。

PARTNER -Jetの大きな特徴は、1GBの内蔵メモリにより数十億のCPU命令をトレースできる点です。これは約10秒程度のCPU実行時間にあたり、その間に実行された全命令をディスアセンブルした形で見ることができます。さらにイベントトラッカーと連携することもでき、タスク視点でのマクロな解析からコードレベルのミクロな解析までをシームレスに行うことで、組込みソフトウェアの品質向上を助けてくれるとのことです。

PARTNER-Jetで接続したデバッグの様子
PARTNER-Jetで接続したデバッグの様子

同社ゼネラルマネージャの辻邦彦氏は「バグを取り除くことがデバッガの役目ではなく、これからは品質の向上までサポートしなければならない」と語ります。ブースでは様々なボードを用意して来場者のニーズに合わせた説明を提供するとのことです。

アックス

axLinux for RVDSのデモ
axLinux for RVDSのデモ

アックスの組込みLinux OS「axLinux」は有名ですが、今回同社はARM社の純正開発ツールであるRVDS(RealView Development Suite)をバンドルした「axLinux for RVDS」をリリースしました。これはaxLinux用のEclipseベースのアプリケーション開発機能を搭載したもので、GPLを意識しないアプリケーション開発が可能になるといいます。

またOS関連では、POSIX準拠のリアルタイムOSによって新たな分野にチャレンジしています。これによって、より高度なリアルタイム性は求められ、Linuxでは対応しきれないローエンドな部分のサポートを目指すといいます。

その他ブースでは現在開発中であるAUTOSAR仕様準拠の次世代車載用OSの紹介も行われており、アックスの目指す方向を伺うことができます。

アーム

組込みシステム向けプロセッサをはじめとした各種製品・ソリューションを提供しているアームの今回の一押し製品は、高速仮想プロトタイプ環境構築ツール「RealView System Generator」です。これは実機と同じバイナリを実行できる高速なシミュレーション環境を構築するためのツールです。同ツールを使うことでハードウェア開発に先行して実機に近いプロトタイプ環境を用いたソフトウェア開発を行うことができると言います。

RealView System Generator
RealView System Generator

System GeneratorにはCPUをはじめとしてメモリコントローラや割込みコントローラなどの各種モジュールが用意されており、これをドラッグ&ドロップ式のUIを用いて組み合わせることにより、任意のハードウェア構成をシミュレートすることが可能です。ESEC会場では実際にWindows CEやデュアルコアシステムのプロトタイプ環境を構築し、動作させている様子を見ることができます。

将来的には同社のプロファイリングツールである「RealViewプロファイラ」とも連携できるようにし、プロトタイプ環境上でパフォーマンスの調整やテストが行えるようにしていく予定とのことです。

ウインドリバー

ウィンドリバーのブースで一際目立って展示されいるのが、マルチコアに対応した4枚のリファレンスボードです。そしてその横のモニタには動作中のCPUの負荷状況やリソースの仕様状況が表示されています。もちろん、どのコアで動作しているのかも一目で分かります。これがウィンドリバーの提供するソリューションで、このビューワに表示される情報をもとにボトルネックを見つけ、パフォーマンスの改善を目指すことができるとのことです。

マルチコアに対応した4枚のリファレンスボード
マルチコアに対応した4枚のリファレンスボード

ブースではその他に「RealTime Core for Linux」「freescale」といったLinux関連ソリューションも大々的に展示されています。中でも興味深いのがWind River Linux対応の車載機器対応マルチメディアプラットフォームのデモです。これは音楽サーチやマルチメディア演奏、地域ごとのサービスサーチなどに対応したプラットフォームで、秋から販売される予定の製品ですが、ESECの会場ではいち早く目にすることができます。

キャッツ

キャッツでは18年の実績を誇るCASEツール「ZIPC」をベースとして、古くから"設計レベルでシミュレーションして動かすこと"の重要性を説いてきました。近年ではその考え方が業界全体に浸透してきたという手応えがあるとことで、ESECでの展示内容を見てもその傾向が強く伺えるといいます。そのキャッツが今強く推しているのが、ソフトウェア資産を最大限に活用するソフトウェア・プロダクトライン開発です。同社では今年9月にプロダクトライン開発におけるドメイン分析をサポートするツールとしてフィーチャー図エディタ「ZIPC Feature」をリリースする予定であり、ESEC会場において開発中のデモ画面が展示されています。また、キャッツではZIPC Featureと合わせてプロダクトライン開発環境を構築するためのコア・モジュール「ZIPC SPLM Core」をコンサルティング形式によって提供する予定で、ブースではそれに関する説明も行なわれています。

キャッツが今年度リリースする予定の製品にもう一つ「ZIPC AUTOSAR」があります。これはAUTOSARプロセスに準拠した車載アプリケーションの開発をサポートする設計ツール群です。こちらは来年3月にリリース予定となっており、これも開発中のデモ画面を見ることができます。

もうひとつ紹介しておきましょう。小さな車の模型とともに展示されているのは「OPE-RA」というコード名で開発が進められている製品です。これは自動車用ECU(Engine Control Unit)のプロトタイプ環境を提供するもので、従来並行開発が困難であった車載システムの先行開発を実現するものだとのこと。展示されているのは開発初期のプロトタイプモデルとのことですが、登場が待ち遠しい製品です。

自動車用ECUのプロトタイプ環境
自動車用ECUのプロトタイプ環境

サンウェイテクノロジー

組込み向けマザーボード
組込み向けマザーボード

サンウェイテクノロジーはSupermicro社の正規販売代理店で、サーバ用途向けマザーボードの分野で業界をリードしてきましたが、近年では組込み向けのマザーボードにも力を入れており、ESEC会場でも多数の高性能Micro-ATXマザーボードを展示しています。組込み分野向けのマザーボードの場合、顧客のニーズに合わせたカスタマイズ販売を主体とすることが一般的です。

しかし同社の場合は大きく異なり、多数の製品ラインナップの中から顧客にニーズに最も近いものを選択してもらうという形式を取っています。そのラインナップの数は実に170種類にものぼるとのことです。もちろん必要に応じてカスタマイズも行いますが、構成の変更が最小限で済むため低コストでの提供が可能とのこと。これはサーバ分野で高い実績を持つ同社ならではの方式と言えます。

もろんブースでは従来のサーバ用途向け製品や、その動作デモなども展示されており、サンウェイの幅広い製品ラインナップを実感することができるでしょう。

エクセルソフト

エクセルソフトはWindowsアプリケーションをはじめとした各種アプリケーション開発環境の提供を行なっている会社ですが、その中でも特に組込みシステム技術者の目を引くのが「WinDriver」です。これはWindowsやLinux、VxWorks、 Solarisなどの各種OSに対応した強力なドライバ開発ツールキットです。ハードウェアに直接アクセスしてドライバのためのコードを自動で生成することができ、もっとも基本的なドライバであればものの5分ほどで構築することが可能だと言います。生成されるコードはC、C++、C#、Basic、Delphiの各言語から選ぶことができるとのこと。

WinDriverデモ環境
WinDriverデモ環境

なお、WinDriverのアーキテクチャなどの詳細は、組込みプレス Vol.11「WinDriverを使ったUSBデバイスドライバの開発」で紹介しています。

スパークスシステムズ ジャパン

スパークスシステムズのUMLモデリングツール「Enterprise Architect(以下、EA⁠⁠」は、いまや世界で15万ライセンス、国内だけでも22,000ライセンスを提供している人気製品です。ESECの同社のブースでも同製品を前面に押し出す形で展示されており、意欲的に開発が進めていることが見て取れます。そのEA関連製品群の中で注目したいのが「MDG technology for RealTime UML」です。これはEAのアドインの形で提供されるツールで、ステートマシン図からソースコードを自動生成する機能を持ちます。通常のEAではクラス図からのソースコード生成を行うことができますが、同製品を適用することでステートマシン図に含まれる各種情報を反映させたソースコードを生成できるようになるとのことです。

Enterprise Architect
Enterprise Architect

また、ソースコードからクラス図の作成やクラス図からソースコードの生成というEA自身の機能も RealTime UMLによる拡張されます。EA本体ではCやC++、Javaを始めとした10種類の言語に対応していますが、RealTime UMLを利用することでそこにSystemC、VHDL、Verilogという3種類のハードウェア記述言語(HDL)が加わるのです。これによって複雑なHDLを見やすく表現できるようになるとのことです。

さらにスパークスではモデリングに加えて新しい分野への挑戦も始めていると言います。それはプロジェクト管理ツール「Time Architect⁠⁠。今週月曜日にリリースされた同製品は、モデル図に含まれる情報からガントチャートを自動生成するという機能を持ちます。モデリングツールでの実績を持つ同社ならではの機能と言えます。ESECではぜひスパークスのブースでこれらのツールを試してみてください。

東陽テクニカ

VectorCAST
VectorCAST

東陽テクニカによる展示の中で特に注目を集めていたのは各種静的解析ツールでした。近年では組込みシステム開発の現場にも品質工場のための静的解析の必要性が浸透してきた感がありますが、同社のC言語用静的解析ツール「QAC」はその先駆けとなったもので、洗練された機能と高い実績を誇っています。そのQACにMISRA Compliance Module(MCM)をアドオンした「QA MISRA」などはMISRA Cベールのソフトウェア開発を促進するものとして高く評価されており、特に自動車業界への導入が進んでいると言います。

さらに、静的解析だけでなく動的解析への製品展開の拡大も予定しているそうで、ブースの一角では7月に発売予定の「VectorCAST」が一足早く公開されていました。VectorCASTはテストハーネスの自動生成機能などを持ち、組込みシステムの動的テストを強力にサポートするとのことです。

同社の解析ツールは広範囲なチェックカテゴリを持つことが特徴で、危険度だけでなく保守性や可読性などにもフォーカスした解析が行えるとのことです。ブースには全製品のデモが展示されているため、ぜひ実際に触って他のツールとの違いを確かめてみてください。

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