MicrosoftのWeb戦略―MIX11最速レポート

ソーシャルの手前にある「ユーザ体験」――MIX11で見えたWebの未来

先週、ラスベガスで開催されたMicrosoft MIX11が大盛況のうちに閉幕しました。ここでは、会期中に発表された内容をふまえて、これからのWebの未来について考察してみます。

会期中には、Intenet Explore 10 Platform PreviewやASP.NET MVC 3 Tools、Silverlight 5などのMicrosoftが提供する技術、また、Windows Phone 7関連やKinect開発ツールなど、新しいデバイスに向けた技術に関する発表が多数行われました。

これらを分けると、

  • Web/インフラ関係
  • デバイス関係

の2つに分類することができます。今回、この2つの軸からMIX11を考察し、さらにこの先のWebの未来がどうなるのか、考察してみます。

Web/インフラへの取り組み:Web標準への動きは着実に

IE9から本格的に準拠

2009年ごろからHTML5を中心としたWeb標準に対する意識が高まり、Web制作者やWebブラウザベンダなどが本格的にWeb標準に対して取り組むようになりました。そして2010年に、HTML5の各要素、APIに対応したWebブラウザが登場し、いよいよWebサイトのHTML5/CSS3化が進むのではという状況になってきています。

この流れにおいて、Microsoftが提供するInternet Explorer(IE)は、バージョン8まで他のWebブラウザと比較して、対応が遅れている状況でした。そして、2011年3月14日にリリースされたInternet Explorer 9では、HTML5のCanvas、Audio、VideoやCSS3のMedia Queries、2D Transformsなどの要素、SVG 1.1、ECMA-262などへの対応、改善が行われています。Web標準への対応に加えて、ハードウェアアクセラレータ(GPU)を利用した描画処理のパフォーマンスが大幅に向上しています。

今回のMIX11でも、これらの技術を裏付けるデモンストレーションが多数行われました。

NAMCO BANDAIから、日本でもおなじみのパックマン「Worlds Biggest PAC-MAN」
NAMCO BANDAIから、日本でもおなじみのパックマン「Worlds Biggest PAC-MAN」
日本企業カヤックが生み出したアニメーションクリエイティブ、⁠SVG女子」
日本企業カヤックが生み出したアニメーションクリエイティブ、「SVG女子」

次のステップ、IE10 Platform Preview

そして、初日のキーノートの目玉の1つとなった次期IE、IE10では

  • CSS3 Multi-column Layout
  • CSS3 Grid Layout/CSS3 Flexible Box Layout
  • ECMAScript 5 Strict Mode
  • CSS3 Gradients
  • CSS3 Transitions/CSS3 3D Transforms

など、IE9で対応しきれなかったWeb標準への準拠を行っていくと発表されています。当然他のブラウザと比較して劣る部分もあるのですが、今後の開発によってそれらがどこまで対応されるのか注目したいです。

そして、ユーザとWebのタッチポイントとなる部分(ブラウザ)からのWeb標準へのアプローチ、これがIEという膨大な数のユーザを獲得しているWebブラウザを開発するMicrosoftだから選択できる、Web戦略の1つと言えるでしょう。

ASP.NETやSilverlightなどの独自技術の向上も

Web標準への準拠以外に、Microsoft Web Platformと関連してASP.NET MVC 3やWebMatrix、また、リッチな表現を実現するSilverlight 5など、Microsoft独自の技術の開発も進んでいます。こちらについては、今回のMIX11内で、Visual Studioを中心に、開発者に向けたツールが多数発表されたのが印象的です。開発者へのアプローチ、これもMicrosoftが取り組む戦略の1つと言えるでしょう。

最新のMVC 3 Toolsに関してはこのサイトから入手できる
最新のMVC 3 Toolsに関してはこのサイトから入手できる

モバイル体験・デバイス体験

第3のスマートフォン:Windows Phone 7

2日目のキーノートの主役は「Windows Phone 7」でした。ここ日本では、まだキャリアが対応していないこともあり、個人ユーザに向けて提供されていませんが、アメリカでは販売が開始しており、IDCやガートナーの予想では、スマートフォンとして世界2位(1位はAndroid)になると予想されています。今回は、それを裏付けられる発表が多数行われました。

日本での提供はいつになるのか。気になるところ
日本での提供はいつになるのか。気になるところ

次期Windows Phone 7(コードネーム:Mango)では、ハードウェア/OS側の対応としては、Raw Camera Accessやコンパス、ジャイロセンサーの搭載に加えて、実用的なマルチタスク処理が行えるようにナルトのこと。これにより、これまでの通話端末以上の機能を実装することができ、現在2強となっているiPhone/Android端末に割り込める実用機が出てくるのではないかという期待を感じられました。

とくに、センサー関連の充実は、ユーザのモバイル体験をよりリッチにし、日常生活におけるユーザ体験が向上するのではないかと思います。

さらに、今回のMIX11では、端末側だけではなく、端末に載せるアプリの開発環境の拡充についても行われました。このように、ユーザ側、デベロッパー/クリエイター側、両側からWindows Phone 7をサポートし、先を行く2つのスマートフォンの牙城を切り崩していくための動きが見られています。

Windows Phone 7では、センサーシミュレーションが行える開発ツールも用意される
Windows Phone 7では、センサーシミュレーションが行える開発ツールも用意される

Kinect――フィジカルとWeb

デバイス関連でもう1つ、Kinectに関する発表も注目したいポイントです。KinectはXbox360で利用できる家庭用エンタテインメント端末で、体の動きを活かしたコンテンツが多数開発されています。

今回のMIX11では、そのKinect向けのアプリケーションを開発するためのツール、Kinect for Windows SDKのベータ版が発表されました。

Kinect for Windows SDK
http://research.microsoft.com/en-us/um/redmond/projects/kinectsdk/

春の終わりには正式リリースも予定されており、今後さらなるコンテンツの拡充が期待できます。この発表を見たとき、Microsoftは、Kinectが生み出すユーザ体験を、ユーザ自身が開発できるようにすることにより、新しいユーザ体験の開発、ユーザ体験の醸成を目指しているように感じました。

Kinectを使うと、Webブラウザの枠を超えた新しい「ユーザ体験」を生み出すことができる
Kinectを使うと、Webブラウザの枠を超えた新しい「ユーザ体験」を生み出すことができる

ソーシャルの手前にある「ユーザ体験」

MIX11で、これら2つのテーマに共通していると感じたのが、個人が感じる表現力、すなわち「ユーザ体験」です。

ここ1、2年のWebを見てみると、2009年のTwitter、2010年のFacebookと、ソーシャルを中心とした「ソーシャルWeb」⁠ソーシャルメディア」の台頭が目立っています。2011年に入ってもその流れは変わらないでしょう。

日本に帰国してから今回のMIX11を振り返ってみると、私自身がここ数年で感じていたWeb上での「ソーシャル」に関する技術や発表が思ったほど多くなかったように感じました。しかし、だからといってトレンドからかけ離れていたというわけではなく、たとえば、Web標準という切り口からのユーザ体験(表現力の提供)であったり、モバイルというライフスタイルに紐づいたユーザ体験、そして、Kinectのようなエンタテインメントから広がるユーザ体験と、⁠ユーザ体験」が1つのコンセプトとして、MIX11が構成されていました。

そして、新たな「ユーザ体験」を作るにはどうするのか、提供するにはどうするのか、この視点に絞ったテーマが数多く見られ、これこそがMicrosoftが進めているWebの未来へのアプローチだと感じています。そこから生み出される、1人1人の「ユーザ体験」こそがソーシャルの未来にもつながっていき、Webの未来へとつながっていくのではないでしょうか。

Microsoftは、その礎となる技術開発/技術提供に注力し、デベロッパーやクリエイターをサポートしながらWebの未来へ貢献していくのではないか、そう感じたMIX11でした。

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