春の大阪でリブート後2回目のYAPC::Japan開催
前回の北海道から約3ヵ月後の、2017年3月4日、大阪・MOTEXホール(エムオーテックス株式会社)にて、YAPC::Kansai 2017 OSAKAが開催されました。
- YAPC::Kansai 2017 OSAKA
- URL:http://yapcjapan.org/2017kansai/
リブート後のYAPCとして2回目となる今回、前回からわずか3ヵ月という短いスパンにも関わらず、トークの申し込みには40を超える応募があり、当初2トラックで予定したプランを3トラックに変更するほど、開催前からの盛り上がりとなりました。
それでは写真とともに、いくつかのセッションやイベントの様子をご紹介いたします。
オープニングを担当したのは、若林信敬氏(@nqounet)。今回のテーマである「温故知新」について、「Perlと言えばCGIという時代で止まっている世代の方にもモダンなPerlやYAPCに興味を持っていただき、また、これからの時代を担う若い世代のエンジニアにも、昔の事を知ったうえで新しい物事を深く理解するきっかけになってほしい」という思いが込められているという背景を説明し、YAPC::Kansai 2017 OSAKAの開幕を宣言しました。
深沢千尋氏、木本裕紀氏によるゲストトーク他、さまざまなトークが満載
今回はキーノートの他、2名のゲストトークが用意されました。1つは深沢千尋氏による「実録!『すぐわかるPerl』」、もう1つは木本裕紀氏による「MojoliciousとWebSocketでサーバーpush配信」です。
実録!『すぐわかるPerl』~Perlプログラミングの本質に迫る
オープニング直後にA会場で行われたのが、深沢千尋氏による「実録!『すぐわかるPerl』」です。このトークでは、「Perlプログラム」にフォーカスを当てた内容が取り上げられました。
深沢氏は、プログラミングを
- 第1段階:自分のために作る(ワンライナー)
- 第2段階:同僚のために作る(社内ツール)
- 第3段階:顧客のために作る(オーダーウェア)
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- 第4段階:世界のために作る(汎用ツール)
の4段階に分け、このトークでは第1、2段階に関する解説を進めました。
Perlの強みである記述のシンプルさと汎用性の高さをふまえたワンライナーの実例や、Microsoft Officeツールとの比較など、非常に実践的な話題が盛り込まれ、トップバッターにふさわしい内容となりました。
MojoliciousとWebSocketでpush配信
午後に行われた木本氏のトークは、リアルタイムWebアプリケーションフレームワーク「Mojolicious」を活用し、WebScocketsによるpush配信の構築・運用について取り上げられました。
「Mojoliciousは、他モジュールへの依存がなく、cpanですぐにインストールできる点が特徴で、手軽に扱えるフレームワークである」と木本氏は紹介しました。
その後、実際にご自身の経験をもとにした解説が進みました。木本氏は、以前、プログラミング言語や文字コードが混在していたシステムの再構築に携わったことがあるそうで、その際、少しずつ小分けにして対応していったといような実体験をもとにした、ソースコードのリファクタリングテクニックなどを紹介しました。
そのシステム再構築時に採用したのがMojoliciousとのことで、HTMLとアプリはすべてMojoliciousで書き換え、結果として、ソースコード量は半減したとのこと。また、保守性は感覚的に5倍以上になったと言います。
その後、WebSocketの活用例として、Mojoliciousのサンプルを利用したリアルタイムチャットのデモを行うなど、終始実践的な内容でトークを締め括りました。
Perlの最新動向から、開発Tips、エントリユーザ向けのセッションまで
その他、最新のPerl情報を解説した、charsbar氏による「2017年春のPerl」、YAPC::Hokkaido 2016 Sapporoでベストトーク賞を受賞したxaicron氏による「Elasticsearch 超入門」、ここ大阪で2011年に始まったPerlの初心者向け勉強会 「Perl入学式」をテーマにした座談会「Perl入学式座談会」をはじめ、非常に多様な、そして濃厚な内容のセッションが多数行われました。
他、当日のセッションタイトルについてはこちらをご覧ください。
小飼弾&moznion両氏によるスペシャルセッション
午後、後半には小飼弾氏・moznion氏によるスペシャルセッション「mail_form.cgi reborn」が行われました。
冒頭から小飼氏のマシンガントークが進む中、moznion氏が適度にコメントを入れる、息の合った掛け合いが進みます。とは言え、冒頭では主題であるメールの話とは関係のない(?)BootcampやZFSの話が進むところで、mozinion氏がうまく方向転換をし、本題へと入っていきました。
実際のトークは、技術解説というよりも、ライブコーディングを含めた、2人の絶妙な掛け合いでのライブ感溢れる内容で、聴講者からも多くの拍手や笑いの上がる、さすがのトークとなりました。
キーノートは竹迫良範氏による「温故知新」
YAPC::Kansai 2017 OSAKAの最後を飾ったのは竹迫良範氏です。竹迫氏と言えば、前身のYAPC::Asiaでの豊富な登壇経験をはじめ、Shibuya PM2代目総長など、日本のPerlコミュニティの発展に非常に大きな貢献をしてきた1人。
今回、竹迫氏がトークに付けたタイトルも、イベントのテーマと同じ「温故知新」でした。
テーマと同じように、これまでの自身が取り上げてきた過去の話題や技術を振り返りからトークはスタートしました。アセンブラ俳句やアセンブラ短歌など、過去のYAPC::Asiaに参加した人にとっては非常に懐かしい話題も登場し、会場を沸かせます。
その他、今、自身がとくに注力している分野の1つ、コンピュータセキュリティに関しても取り上げました。竹迫氏曰く「現代のコンピュータセキュリティの根本問題は、データとコードが分離されていないことにある」とし、そこで、ハーバード・アーキテクチャが復権するのではとコメントしました。また、若者の01離れ(ビットの世界に触れにくくなったこと)なども紹介し、「今こそインターネットを流れる通信の仕組みやコンピュータの動作原理を学び、昔の学習の場のように01を実践的に学べる場が必要だ」と、これからのコンピュータセキュリティへの提言も行いました。
こうした非常にためになる内容について、自身のYAPC::AsiaやPerlへの関わりとともに紹介し、まさに温故知新のテーマにふさわしいキーノートで全トークが締めくくられました。
あっという間のクロージング
キーノートも終わり、いよいよクロージングです。
ベストトーク賞&ベストLT賞発表
まずは恒例のベストトーク賞とベストLT賞の発表が行われました。
ベストトーク賞は、曽根壮大氏による「Webエンジニアに知ってほしいRDBアンチパターン」、ベストLT賞は、makamakaさんの「驚くべきことにPerlの話」でした。どちらも聴講者からの反応も良く、文句なしの受賞だったのではないでしょうか。
クロージング、そして、福岡へ
いよいよクロージングです。クロージングの担当は、もう1人のYAPC::Kansai 2017 OSAKAの実行委員長であるkarupanerura氏。まずは無事開催、そして閉幕を迎えられたことに対して、参加者、スピーカー、スタッフ、スポンサーすべての関係者に向けて感謝を伝えました。
さらにさっそく次のYAPC::Japanの開催についても発表されました。次回は九州・福岡での開催が2017年7月1日に(その様子は次回の記事をご覧ください)、そして、その次は2018年に沖縄での開催ということまで発表されました。北の大地でリブートしたYAPC::Japanはついに日本全国を縦断することになります。
そして、最後の「Thank you」のスライドともにYAPC::Kansai 2017 OSAKAの幕は閉じました。最後の挨拶をしたkarupanerura氏の、心から安堵した、そして、達成感のある表情がとても印象的でした。
YAPC::Kansai 2017 OSAKAのフォローアップについては、下記サイトもご覧ください。
- 【YAPC::Kansai 2017 OSAKA】 YAPC::Kansai を終えて
- URL:http://blog.yapcjapan.org/entry/2017/03/10/221950
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- YAPC::Kansai 2017 Osaka 当日まとめ #yapcjapan
- URL:https://togetter.com/li/1086925
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実行委員長からのメッセージ
最後に、それぞれオープニングとクロージングを務めたYAPC::Kansai 2017 OSAKAの実行委員長を務めた若林氏・@karupanerura氏からのメッセージを掲載いたします※。
※メッセージは2017年7月下旬にいただいたものです。
若林氏:
皆さん、おはようございます。YAPC::Kansaiでオープニングを担当した若林@Kansai.pmです。
Kansai.pm は日本の Perl Mongers としては歴史が古いほうですが、私自身がコミュニティで活動するようになったのは、ここ6年くらいで、かつ、その間に開催したKansai.pmはわずか2回です。
関西でYAPC::Japanを開催したい、と宣言してみたものの、Kansai.pmもほぼ開催していなかったため、参加者もしかることながら、運営側の人数を確保できるのか心配でした。
幸いにも、私が開催しているPerl鍋という小さな勉強会の参加者や、Perl入学式のサポーターの皆さんも運営部隊に加わってくださりました。さらにはJPAという強力な後ろ盾もあり、当日はボランティアスタッフも含めて、26名体制で開催できました。
私はYAPCを地方都市で開催することは、これまでお世話になっているPerlのコミュニティへの恩返しだと思っています。日本には公式のpmとして13ヵ所の登録があります。それぞれのコミュニティがそれぞれの思いによってYAPC::Japanを開催できれば楽しいと思っています。
YAPC::Japanは、次回は沖縄で開催されます。どのようなYAPCになるのか、今からとても楽しみにしています。
karupanerura氏:
初めてYAPC::Asiaに参加したのは2011年のことでした。 そこにはPerlやWeb技術に対する真摯さやコミュニティに対する愛着からもたらされていた熱気と活気があり、スピーカや他の参加者と交流してもっとPerlとWeb技術が好きになりました。
これが“YAPC”というカンファレンスへの自分にとっての原体験です。ここから、自分の“YAPC”というコミュニティに対する憧れと愛着は生まれました。翌年からは毎年参加し、ときにはトークやごく一部のスタッフ業務もさせてもらいましたが、YAPC::Asiaは残念ながら2015年を最後に幕を閉じる運びになりました。
ただ、コミュニティとしての“YAPC”はなんとか残していきたいという想いはあり、紆余曲折を経て2016年にJPAのメンバー再編に続いてYAPC::Japanが誕生しました。そして、2017年のYAPC::KansaiではJPAの一員として主催を務める大役を頂きました。
身に余るほどの大役で自分には荷が重い部分もたくさんありました。 あまりにも辛かったのでもはや記憶も曖昧になりつつありますが、たくさん失敗をし弱音も吐いたと記憶しています。
あらゆる制約があり、すべてが思い通りにいったわけではありません。やむなく妥協したこともたくさんありました。 それでも、なんとかベストな解を探りそして形にしていったことで、多くの人たちが楽しかった・良かったと言ってくれる“YAPC”をなんとかまた作ることができたのではないかと思います。 カンファレンスを作る大変さと面白さ、技術について話し聞き交流する楽しさ、その両方を知ることができたのは本当に自分の糧になっていると実感しています。
自分の憧れたコミュニティであるYAPC::Asiaを2015年まで作り続けてくれた牧さん、 そして2016年からYAPC::Japanとしてイチから復活しようと旗揚げをしサポートに尽力してくれたnekokakさんをはじめとするJPAのメンバー各位、スタッフ、スピーカ、スポンサー様、そして参加者の皆さんの協力なくしては、本当にYAPC::Kansaiは実現できなかったと思います。 本当に大変でしたが本当に楽しかったです。ありがとうございました。
弾さんの2012年のブログより「YAPCとは、与える喜びを参加者に与える場なのである。」という言葉をお借りして、 皆さんが作るまだ見ぬ“YAPC”をこれからも楽しみにしています。まずは、次は沖縄ということでOkinawa.pmの皆さん、頑張ってください!