「第26回 HTML5とか勉強会」活動報告

2012年2月9日、26回目となる「HTML5勉強会」Web CAT Studioさんとの協賛で、リクルートエージェントさんに会場をお借りして開催しました。今回のテーマは「⁠⁠Webと)電子書籍⁠⁠。EPUB3にHTML5が採用されていることもあり、今後の動向が気になります。今回はそんな電子書籍に関わる方達による、講演とパネルディスカッションが行われました。

本稿では、今回のイベントについてレポートします。

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はじめてのiBooks Author

最初にご登壇いただいたのは本勉強会スタッフのひらいさだあきさん。Appleからリリースされた電子書籍作成ツール「iBooks Author」について講演いただきました。

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はじめての電子書籍作成にiBooks Authorを使ってみたとのことで、iBooks Authorの簡単な解説と、作成した電子書籍をiPad上で動作させる模様を紹介しました。

iBooks Authorを使うとibooks、pdf、txtといった形式で出力できます。作成したibooksファイルやpdfは無料での配布が可能ですが、ibooksファイルの有償配布はiBooks上でのみ行えるとのことです。ibooks形式のファイルはzipで圧縮がされており、中身はxmlやxhtml、css等のファイルの集まりで、EPUB2やEPUB3といった形式に似ている印象を受けたそうです。また、動画や音声やスライド資料等の色々なメディアの埋め込みが可能で、用意されたウィジェットを使うと簡単にインタラクティブな電子書籍が作成できるとのことです。

デモの様子など詳しくは講演動画をご覧ください。講演資料はこちらになります。ひらいさんが作成されたibooksファイル(iPadからのみ閲覧可能)pdfファイルも公開されているので、あわせてご覧ください。

いいパブッ!! よくわかるEPUB3

続いてご登壇いただいたのはイーストの高瀬拓史さん。EPUB3の仕様についての詳細な解説を講演いただきました。

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最初に、EPUB3の仕様に関して紹介いただきました。とても詳細な内容になっていますので、詳しくは講演資料動画をご覧ください。

EPUB3のコンテンツはXHTML5やSVGで記述することになっています。XHTML5を採用していることにより、audio要素やvideo要素が利用できること。また、ルビの利用も可能になっているとのこと。EPUB2ではscriptやformといった要素の利用に制約がありましたが、EPUB3ではXHTML5の要素に特に制約が設けられていないことを紹介しました。

最後に、EPUBはWebの技術を参照している部分が多く見られますが、EPUBからWebへと影響を与えているものもいくつかあります。EPUBが独自に補っているものの中には、Webをより良くするためのヒントがあるかもしれないと述べていました。出版業界へのWeb技術の浸透は新しい広がりをみせており、これまでなかったような業界や人との出会いが生まれていると指摘し、Web業界の方達にも是非、電子出版への接触を図って欲しいと呼びかけました。

講演資料はこちらです。講演動画も是非ご覧ください。

Flexible and Responsible eBooks

続いてご登壇いただいたのはこもりまさあきさん。電子書籍の現状とHTML5の立ち位置、マルチデバイスへの対応について講演いただきました。

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電子書籍の現状として、配布形態や配布場所が統一されていないという問題があります。配布場所毎にアプリケーションが必要であったり、異なるデバイスでは読めなかったりと、ユーザにとっての利便性があまり考えられていないとのことです。

コンテンツを配信する側の立場としての思惑もいくつかあると思いますが、読む側としてはデバイスに依存することなく読みたいといった部分と、テキスト部分だけ読みたいといった要望等もあります。ユーザは必ずしもレイアウトや動きを必要としてるわけではないと述べていました。

続いて、電子書籍で利用されているフォーマットについて紹介がありました。レイアウトされた誌面をキープするコンテンツにPDF、テキスト中心のコンテンツにEPUB、Kindle(AZW)向けにMOBIの3つが利用されているとのことです。作成するコンテンツによって、これらのフォーマットを柔軟に対応して配信することが望ましいと言及しました。

また、電子書籍におけるHTML5について紹介がありました。

HTML5は電子書籍作成の中間フォーマットとして利用することに適しています。Webコンテンツとしてそのまま流用することができ、EPUBやKindle向けには一部修正を加えます。またBakerなどのフレームワークを利用することでアプリケーションとして配信することもできます。HTML5で作成すると、一つのソースでマルチユースすることができると述べていました。

マルチデバイス対応にはWebの世界で用いられるレスポンシブ・Webデザインを参考にするといいかもしれないとのことです。ユーザにとって大事なのは多くのデバイスで読めることで、読めるだけでなくデバイスの解像度やリーダーの実装差異を考慮する必要があります。モバイルを優先すべき、とまではいきませんが最大公約数的に実装するのがベターであるとしました。

講演資料はこちらになります。こもりさんが執筆されたEPUB3に関する書籍EPUB 3 スタンダード・デザインガイドが発売中ですので、興味がある方は是非ご購入ください。

Webと書籍とEPUBと

続いて登壇いただいたのは達人出版会の高橋征義さん。Webの有料化、書籍流通のネット化について講演いただきました。

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最初に、無料が当たり前のWeb世界において、Webのコンテンツを有料化しようとすると色々な利点がなくなってしまうと述べられました。検索ができなかったりソーシャルネットワーク上でシェアする等ができなくなり、お金を払って不便な物を買うことになっているとのことです。電子書籍はコンテンツとしては無料のWebから一つ切り離して考えたほうがよいといいます。

次に電子書籍の流通について、実際の物流とネット上での流通を比較しました。電子書籍はネットを使って無料でいつでも何度でも送ることができるが、現状ではこの点が過小評価されているではないかと指摘しました。

話は書籍の制作過程に移ります。通常の書籍の場合、執筆からユーザが購入するまでの間には多くのプロセスがあります。このプロセスは後戻りにはコストが大きくかかります。電子書籍の場合、このいくつかのプロセスを省略できるのでコストを抑えられるとのことです。また、電子書籍だけができる大きな特徴としてベータ版でのリリースがあります。これは執筆途中のものを電子書籍としてリリースし、加筆するたびに更新版をリリースします。これによって執筆してすぐのものをユーザに届けることができるとのことです。

最後に、現在普及している電子書籍フォーマットへの問題提起がありました。現在利用されているフォーマットが未来を考えて作られているかどうか考える必要があります。EPUB3が10年後も閲覧できるフォーマットなのかどうか、電子書籍化の際に選択するフォーマットを絞り込むことは同時にコンテンツの賞味期限を決めてしまうことになるかもしれず、現時点で最適化することは危険性があると注意しました。

講演に使われた資料はこちらです。あわせて動画もご覧ください。

パネル「なぜWebではなく電子書籍なのか?」

勉強会の後半には電子書籍に関わる方達によるパネルディスカッションが行われました。パネラーとして参加いただいたのはパブーの吉田健吾さん、BCCKSの田中孝太郎さん資料⁠、ドワンゴの庄司嘉織さん資料⁠、インプレスの福浦一広さん、そして講演いただいた高瀬さんと高橋さんです。モデレータはITmediaの西尾泰三さんに務めていただきました。

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最初に、EPUBについてパネラーの皆さんから各々の立場を混じえたトークが行われました。EPUBは仕様が複雑で紙の書籍のことを考ていないのではないか、仕様を盛りすぎではないか、HTML5で作っておいたほうが良い、オーサリングツールの登場はまだか、といった各々の意見が飛び交いました。

続いて、電子書籍のUXについて、電子書籍ならではのUXを考えるべきなのか、紙の書籍の再現をするのか、色々な意見が交わされました。庄司さんは電子書籍では定番のページめくりのアニメーションに触れ、最初は目新しく感じても本当に必要なものなのかと述べていました。電子書籍のUXはまだまだ発展途上であるため、これからもっと発展させていくのが大事であるとのことです。

最後のテーマは電子書籍がどこを目指すべきか、電子書籍の今後についてです。パネラーの皆さんがそれぞれの思いを述べていますので、是非動画でご覧ください。

電子書籍xキャリア

メインセッションの後、懇親会中にLTがありました。

はじめのLTはリクルートエージェントの長尾さん。電子書籍業界における求人や動向について紹介いただきました。

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現在Web業界全体の有効求人倍率が伸びている中、特にエンジニアの求人倍率が高いと紹介されました。海外での電子書籍関連の求人は2009年から2011年で約4.5倍と伸びていますが、求人全体に占める割合は低く、これからまだまだ伸びていくだろうとのことです。国内においての電子書籍関連の求人トレンドは、配信、コンテンツ制作、マーケティングなど多様化しており、求人増加の兆しがあるのではないかとのことです。

現在の電子書籍業界は、コンテンツホルダーや配信サービス業社、デバイスメーカーなどがプラットフォーマーになるために争っている最中だといいます。電子書籍専任の人員や部署を大きく構えている会社が少ないことから、多くの会社がまだ電子書籍に対して様子見中なのではないかとのことです。今後はオーサリングツールなどによって個人が手軽に出版できる時代になるだろうと述べていました。

Gihyo Digital Publishing in 第26回HTML5とか勉強会

続いてのLTは技術評論社の高橋さん。昨年行われた技術系Advent Calendarの、電子書籍化について紹介いただきました。

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Advent Calendarの電子書籍化の企画はすぐに決まったが、応募数も相まってかなり大変なことになっているので、大変申し訳ないけれども気長にお待ちいただければと紹介しました。

続いてEPUB3で実装する上で遭遇した、HTML5に関する仕様や問題などを紹介されました。EPUBをリフロー型で作成するとき、positionの固定に注意する必要があります。iBooksではpositionを固定したボックスがページをまたいでしまうと、その次のページでは表示領域だけ確保して、表示は行われないとのことです。他にもページに収まらない表組みを行ったときの挙動や、数式に関する問題点などを挙げていました。

最後に

レポートに対する感想や、勉強会に対する希望・意見・取り上げて欲しいテーマなどがありましたら、twitter(@nakajmg)まで気軽につぶやいていただければと思います。

本勉強会は、毎月第3水曜日、または第3木曜日に開催していますので、興味を持たれた方は是非参加ください。ただし、会場や講演者スケジュールの都合などにより、開催日程が前後することがあります。開催のアナウンスはhtml5j.orgのMLで行われますので、こちらをご確認ください。また、コミュニティサイトhtml5j.orgも公開していますので、是非こちらもご確認ください。

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