今年もIT業界の経営者、経営幹部が集まる恒例のイベントとなったInfinity Ventures Summit (IVS) が札幌にて6月14、15日の2日間開催されました。IVSは日本最大級の完全招待制のイベントであり、経営層が集まる場で行われるキーノートやセッションでは必然的にその時の業界のトレンドや勢いのあるサービスが反映されることになります。
IVSの開幕を告げるインフィニティ・ベンチャーズLLP共同代表パートナーの小林雅氏
2010年秋のIVSでは世界中で大躍進していたグルーポンのCEOがSkype会議でキーノートに登場。2011年春のIVSではGMO熊谷社長、サイバーエージェント藤田社長、グリー田中社長、DeNA守安社長、NHN Japan森川社長からフィーチャーフォンからスマートフォンへと大きくビジネスの舵をきっていく姿勢を直接トップの口から聴くことができました。
第1回 世界最速成長ネット企業のグルーポン成長の秘密と、プラットフォームの活用方法(初日その1)
http://gihyo.jp/news/report/01/ivs2010/0001
Infinity Ventures Summit 2011 Springレポートその1:スマートフォン、グローバル展開、そしてタブレット端末の今後
http://gihyo.jp/news/report/2011/06/0301
Infinity Ventures Summit 2011 Springレポートその2:スマートフォンビジネスの金脈と海外展開
http://gihyo.jp/news/report/2011/06/0601
そして、今年キーノートを飾ることになったのが、日本市場だけでなく世界市場でも躍進を続けているコミュニケーションアプリ「LINE」を手がけているNHN Japanです。
LINEはなぜ急成長しているのか?スマホネイティブであることが強み
NHN Japanのコミュニケーションアプリのユーザ数はリリースから1年で4,000万人ユーザを突破。現在は月間500万人ユーザのペースで増加しており、年間1億人ユーザを目指していると言います。日本ではスマホユーザの44%がLINEを利用しており、すでに6割弱が海外のユーザとなっています。とくに、台湾、タイ、香港でのユーザが伸びており、台湾ではLINEのキャラクターを使ったテレビ番組まで登場しました。
リリースから1年で4,000万ユーザーを突破したLINE
LINEは、NHNとしてグローバルプラットフォームを立ち上げたいという思いからスタートしたサービスでしたが、その成長は自分たちが思い描いていたよりも早かったそうです。マーケティングコストをかけなくとも現地のアプリストアなどで紹介されることで自然と広がり、自然とユーザが増加した地域から言語対応をしたり、コミュニケーションを強化しているのが現状で、今も日本と韓国以外には現地スタッフは存在しません。
そんなLINEがいち早くグローバルで広がった理由には、当初からスマホでの利用を前提として作られたサービスであることが大きいと言います。
直感的な操作が必要なスマホに適したログインを排除したユーザーエクスペリエンス
mixiはPC版から普及し、後にフィーチャーフォン中心に対応が進みました。GREEも同様ですが、早くからフィーチャーフォンにシフトし、現在はスマートフォンへの対応を進めています。海外でいえばFacebookもPCからサービスを開始し、スマートフォンへの対応を進めています。
これに対して、LINEは最初からスマートフォンでサービスを開始しました。「 スマートフォンでは直感的にわかりやすいサービスであることが大事であると考え、そのためにWebのサービスでは当たり前であるログインという概念をLINEではなくした」とNHN Japanの舛田氏は語りました。「 ログインという概念があるとメールや電話が(直感的に)使えない」と言います。またNHN Japanの森川社長も「スマホは直感的なUIのデバイス。直感的な操作にログインがそぐわない」と付け加えました。
左側:NHN Japan代表取締役の森川氏。右側: NHN Japan執行役員の舛田氏
このようにLINEはログインを廃し、最初からスマホでの利用を前提に極力シンプルなサービスとして作られました。海外でも広がっていますが、言語対応以外はUIも含めて、すべて世界共通となっており「コミュニケーションのニーズは全世界で変わるわけがない。それが受けいられているのでは」と言います。
あえてキモかわいいデザインを採用したLINEのスタンプ
LINEの大きな特徴となっているのが独特なキャラクターのデザインのスタンプ。スタンプはよりインスタントに、よりカジュアルにコミュニケーションを伝えるものとして考えられているそうですが、そのデザインにはあえて若干の毒を持たせていると言います。
スタンプをデザインした際にいくつかパターンをつくってリサーチしたところ、現在使われているデザインが年齢層によって意見が真っ二つに分かれ、女子高生、女子大生には支持された一方で、そうでないユーザには指示されなかったという逸話が明かされました。そのようにユーザの反応が大きく割れたデザインをあえて採用した結果がご存知のものとなっています。
このあえてキモカワなデザインは「関係性がある中でこそ意味を持つコンテンツであり、オープンなFacebookのようなサービスには向いていないのではないか」と森川社長は考えていると言います。「 Facebookは情報を伝える、意味を伝えるコミュニケーション。LINEは気持ちを伝えるコミュニケーションであり、友達とのコミュニケーションにはそうしたコミュニケーションが大事なのでは。FacebookとLINEは、ユーザによってうまく使い分けられていると思う」と森川氏は語りました。
このように特徴的なLINEのスタンプは、アジアではウケるとNHN Japanでは考えており、自分たちの拠点がないところではデザイナーを雇い、その国にあったスタンプをつくっていくことも考えているそうです。
LINEならではのソーシャルゲームも登場? 今後のLINEの展開
LINEで人気の高いスタンプは、今年の4月から一部が有料オプションとして販売されており収益化に繋がっています。
LINEではスタンプの有料販売などマネタイズへの試みも始まっている
しかし、NHN Japanではスタンプだけでのマネタイズは考えておらず、またアプリのマネタイズ手法として広く利用されているディスプレイ広告による収益化も考えていないと言います。「 ユーザのプライベートな空間に広告が作法を守らず入ってくるのは良くないと考えている」ためです。
現時点ではマネタイズ以上に、どうLINEの価値をつくっていくかに注力しているとのこと。そのためにゲーム展開も含めたプラットフォーム展開に本格的に取り組もうと考えていることがキーノート上で発表され、詳細が7月3日開催のカンファレンス「Hello、 Friend in Tokyo 2012 」にて明かにされることが伝えられました。
「ゲームも本格的にやろうと考えているのでご期待ください。」,
最後にこう森川社長は抱負を語ってキーノートをまとめ、今後の展開に自信をのぞかせました。