4月15日(月) 、16日(火) 、新橋・ベルサール汐留にて、Unity入門者/開発者向けのUnity 主催の公式カンファレンス、「 Unite Japan」が開催された。
簡単に紹介すると、Unityとは、3Dゲームの開発に特化したゲームエンジンおよび統合開発環境。プラットフォームに依存せず(現在10を超すプラットフォームに対応) 、パワフルに、直感的に、コンテンツを作成することを可能にしている。「 ゲーム開発の民主化」を掲げ、開発時間、制作コストを大幅に削減することで支持を集めている。また、昨今のUnityの動きについては、安藤圭吾氏の「2012年を振り返り、2013年のUnityを展望する」 に詳しい。
会社創設から10年、ビデオゲーム、アプリケーション開発を中心としたコミュニティで急激な盛り上がりを見せるUnity。参加者多数により、開催前に締切った本イベントに残念ながら足を運ぶことができなかった方のために、駆け足となるが全体像と一部のセッションの概要をお届けしたい。なお、一部セッションは、後日動画配信を予定しているそうなので、ワークフロー等の詳細はここでは割愛する。現在のUnity周辺の活気を感じてもらえれば幸いだ。
Day1
1日目は、Unity Technologies創設者、CEO・David Helgason氏の基調講演から幕を明けた。
「10年前、たった3人からはじまったUnity Technologiesは、現在207名の社員を抱えるまでになっている。使いやすいものを常に改善し、今まではゲームを作るのに苦労していた人も楽に作れるようにしてきた」という氏は、「 10年かかってしまったが、方向性は正しいと考えている。 ただ、これより先のことは考えてはいなかった」と述べ、立ち上げから10年間でのUnityの変遷と今後の展望について熱を込めて語った。
また、Unityが支持される特徴の一つでもあるAssetStore(キャラクタモデル、エフェクト、テクスチャなどをはじめ、Unityエディタから直接インポートできるゲーム開発支援ツールをオンラインで購入、販売する機能)について、現在は280,000の顧客(customers)と6,500のパッケージ(packages) 、売上の多いもので300万円(1ヵ月あたり)にものぼると話す。これらミドルウェア開発においてアセット販売が活発化している流れがある(パブリッシャーは、売上から70%の利益を受け取る) 。また、契約者の割合でいうと、インディゲームの制作者が50%を超えている。
現在、Ver4.4も準備しており、今後のUnityについては、「 Unity forever」とし、「 stability(確固たる安定性) 」 「 culture(文化) 」 「 velocity(速度) 」とキーワードから、さらなるリリースの加速化、バグの減少、多様なプラットフォームへの対応に言及した。
Philosophy(哲学) 、Environment(開発環境) 、Future(未来)という3つの項目に基づいて講演は行われた。
次に登壇したCamouflaj Studios のRyan Payton氏は、現在開発中のPCとiOS向けゲーム『Republique 』( 2013年4月発売予定)を例に、Unity開発におけるフレキシブルさ、プラットフォームの自由さについて語った。
「FINAL FANTASY VI」から強い影響を受け、24歳で来日、ライター業からゲームに関わりはじめ、日本でも多くのコンシューマゲーム開発の現場を経験した氏は、アメリカ・シアトルを拠点にチームCamouflajStudios(現在20数名)を率いている。なお、『 Republique』はクラウドファンディングサービスkickstarterで制作資金を集めた。たとえビッグタイトルであってもプラットフォームの垣根は超えられなかったことから、Payton氏は「1億人が遊べるスケールの大きなゲームを提供したい」という今後のビジョンを話した。
Payton氏が語る好きなゲームとして9つが紹介された。『 FINAL FANTASY VI』『 シェンムー』『 HALO』『 KIller7』『 METAL GEAR SOLID 3』『 ワンダと巨像』『 BIOSHOCK』『 DARK SOULS』『 風ノ旅ビト』 。日本メーカーのものが多い。
映像で流れたCamouflajのスタッフの言葉に「エンジンの勉強だけで1ヵ月だったものが2日で基礎まで作れる」という言葉はUnityの真骨頂を表している。 また、本作はオールUnityでの開発となる。
さてここからは、3会場に分かれ、「 万人向け(Green) 」 、「 開発者(Orange) 」 、「 上級開発者(Black) 」に向けたセッションが行われた。「 万人向け(Green) 」ではUnityを触ったことのない人、たとえばプランナー、デザイナーにも興味深い制作のコツを紹介する内容も。中~上級者へのセッションではUnityを使用した2Dコンテンツ制作、オーディオシステムなど開発現場最前線のフローや実践的テクニックがデモをまじえて紹介され、開発者にとって《かゆいところに手が届く》内容が多くあったはずだ。
1日目、2日目合わせて基調講演を含め、全40のセッションが組まれた。上級開発者向けのセッションは、スピーチ同時翻訳で行われた。
「Unity for Wii U と Wii Uでのゲーム開発」
「Nintendo Web Frameworkのご紹介」
任天堂株式会社からは、Unityからのビルドを1クリックで可能にする「Unity for Wii U(2013年5月マスターリリース) 」の紹介、HTML5やJavaScript等のWebの標準言語を使用する「Nintendo Web Framework」の詳細がデモを用いて発表された。デバッグも動的に行え、トライ&エラーも限りなく迅速に行えるとのこと。※いずれも開発者契約を締結されている方やデべロッパーに限られる。
大前広樹氏(任天堂 × ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン)による「Unity for Wii U と Wii Uでのゲーム開発」 。温井崇友氏(任天堂株式会社)による「Nintendo Web Frameworkのご紹介」 。
安藤圭吾氏(ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン/フィールドエンジニア)による「Editorスクリプティング入門」では、ビルド前後の自動処理やアセット管理などを例に、Editorスクリプトの有効性、重要性について説いた。もちろんこの支援環境について「時間を割いてやる必要があるのか?」とい疑問がついてまわる。その点については、「 editorクラスを正しく理解したうえで、開発者自身が拡張の必要性を認識しなければならない」と述べた。
「触らせたくないものは見せない」 。たとえば、2Dゲームを作る場合にZ軸は不要なので、消しておくなど事故を未然に防ぐことができる。
「iClone5を用いた簡単キャラクターゲーム制作」大迫誠氏(REALLUSION)のセッションでは、MAYAからのデータを3DXchangeで書き出し、Unityにもっていく手法を紹介した。表情豊かなキャラクター作成に、じつに短時間でインタラクションを得られることがわかった。
iCloneで、リップシンクやモーションを加えられる。
小林信行氏(ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン)の「プレイアブルプランニングのススメ/非プログラマ向けのUnity開発入門」は、プログラムをいじることのない、知っているけど、さわっていないプランナーやデザイナーでもラピッドプロトタイプを作りませんか? という提案型セッションだ。プランナーでも一番おもしろい中核部分をプレイアブルにすることで、おもしろいかどうかを確かめる機会が企画段階からできるという利点がある。まず、Unityでは、触るとすぐに画面に何かしらを表示することができるうえ、計画、設計、実装、テスト、分析のサイクルを短時間で繰り返すイタレーションが簡単であるということ、またトライ&エラーの容易さが挙げられる。もちろん、ゼロからやるには英語による文献や情報に積極的にあたっていく気力、3Dツール特有の概念、そしてUnity独自のワークフローを学ぶ必要も出てくるが、AssetStoreの便利ツールをうまく使い、フローも理解すればさほど難しくはないという。
「ハイレベルなことを短時間にできる」という使い勝手の良さを、自身が1ヵ月で作り上げたという輪投げゲームのデモと、1ヵ月で作成するための締め切りと目標 設定を紹介した。
Day2
2日目は1日目に続く具体的事例の紹介に加え、ゲーム開発以外の現場で使用されるケースのセッションが目立った。
粉川貴至氏(セガ)による「Unity×Jenkins:一歩進んだ使い方」では、スレーブをJenkinsに接続することでの分散ビルド(Android、iOS)設定、IPA無線LANインストール、静的解析(Mono).Net Frameworkの静的解析ツールについて述べられた。
チームラボ杉野裕則氏は『インタラクティブ・インスタレーション/アート』として、ノンゲームにおけるUnity使用事例を語った。
Mac miniでFullHDでディスプレイ2枚にコンテンツを出力する手法(人が前面を通過した際に球体が合わせて動く田崎真珠の事例を用いて)や、いま話題の「チームラボボディ(世界ではじめて生きた人間の関節の三次元的な動きを解析して再現) 」 、三浦工業CM「ウルトラピュアソフトウォーター」などUnityによる複合現実感の事例を多く紹介した。
2コマにわたって行われた「AssetStoreマニアクス」では、伊藤周氏(ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン)がさまざまなAssetStoreアイテムの実際―どう役立つのか? どう生かすか? を述べた。セッション1では、「 Strumpy Shader Editor(Free) 」 「 TNet: Tasharen Networking(65ドル) 」 「 Input.Touches(25ドル) 」 「 Bitmap2Material(100ドル) 」 「 Easy Save2(40ドル) 」などの使用事例を解説した。
Unity仮面が登場!
「Strumpy Shader Editor」の使用デモ。
「Bitmap2Material」では、「 壁面や絨毯をiPhoneで撮影してテクスチャーで使えるかどうか?」を試行。区切りのないテクスチャーをなめらかに再現できる(左が撮影後の画像、右がBitmap2Material使用) 。デザイナーの手をわずらわせず、作業をスムーズにできる。ドキュメントを英語で読まなくてはならないものも多いが、知れば知るほど煩雑な作業から解放されるのが、AssetStoreの醍醐味だ。Facebookのコミュニティで活発に情報交換が行われている。
今回のUNITEでは異色のマネタイズ関連のセッション「スマホゲームアプリの海外最新トレンド、プロモーションおよびマネタイズ」 。神田裕介氏(タップジョイ・ジャパン)は、開発はできても販売は個人では難しかったスマホアプリをどう販売していくか? にスポットを当てて解説した。
基本的には、まずトップセールス上位3つ4つのマネタイズを参考にしてみるのが大切とのこと。最近は儲かっているのが、Free to Play(基本プレイ無料)のゲームであることがわかる。
“ストアおすすめ” として取り上げられるとアクティブユーザーが増える。これは、GoogleやAppleに良い条件のもの、機種の機能をフルに使うもの、iOS版がはやっているとAndroid版が出たときにフィーチャーされやすいのだとか。
お金をかけた宣伝費をむだにしないためにできることを考えるのが重要と語る。「 チュートリアルは5分以内」 。
竹内啓二氏(LinkKit社)が登壇し、2013年3月12日にiOS版をリリースしたディフェンス系ゲーム「サムライディフェンダー」の紹介を行った。iPadでの無料トップ1位、台湾、香港は日本製アプリが売れやすいという点からも上位を記録した。
大前広樹氏(ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン)の「ドラッグ&ドロップで、音に合わせたコンテンツ制作~vjkit解説&fuZeポストモータム」では、ゲーム開発のみにとどまらない、インタラクティブアートでの活用について紹介された。大前氏は、以前よりゲーム開発者コミュニティは活発で集まりやすい風潮があるが、アーティストにも新しいコミュニティに参加してもらい、「 いろんな角度から才能を持った人にスポットライトを当てたいと思っていた」という。また、それは「Unity Japanのミッションでもある」と考えていたとのこと。vjkitを使用することで、コードを書かずに直感的な操作でVJ(Video Jockey)になれる。また、千代田アーツ3331での事例 では、2時間のワークショップを4コマ行うことで、はじめてUnityに触れる人でも完成度の高いものが作成できた。vjkitは、反応する音の周波数を決めることができるなど、小技がさまざま盛り込まれているのが特徴。また、ゲームコントローラーにも対応しており、この延長でゲームも作れてしまう。このようなゲーム開発者に限らない新しい展開が各所で生まれてきている。
100LDK、hiROki sAiTOh、荒木シゲル、Michael Ariasらが参加。
簡単な操作でインタラクティブアートを作成できる。
vjkit (無償、Creative Commonsライセンス。)
また、ワークショップとパーティーイベントを兼ねた『fuZe powered by Unity 』を現在展開している。
さて、すべてのセッションを紹介したいところ、駆け足での概要紹介となってしまったが、このほかにも盛況だった山本一郎氏(イレギュラーズアンドパートナーズ)による「プロジェクト炎上のメカニズムと早期発見、行うべき処理の概論」や「僕らがUnityで個人開発を始めた理由」田村幸一氏×山村達彦氏(Tokyo 1minute×ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン)など、さまざまなフィールドで参考となるセッションも満載だった。
もともとの自由なプラットフォームに対応する開発環境に加え、先ごろ発表された任天堂、SCE(株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント)の既存ハードへの展開やストア配信に対する期待も大きく、ますます注目の集まるUnity。来場者は1,000人近くにのぼり、2日間のセッションは大盛況のうちに幕を閉じた。