温暖化が進むと「農業」「食料」はどうなるのか?

[表紙]温暖化が進むと「農業」「食料」はどうなるのか?

紙版発売

A5判/216ページ

定価2,178円(本体1,980円+税10%)

ISBN 978-4-7741-3945-6

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書籍の概要

この本の概要

気温上昇は世界の食料,日本の農業にとってプラスか,マイナスか?

食料自給率が40%の日本にとって,温暖化が世界の食料生産にダメージを与えることは価格高騰など深刻な影響をもたらします。国内の生産現場に目を転じると,温暖化の問題は将来のことではなく,すでに主要な農産物で影響が顕在化していることが明らかになっています。いま農業生産の現場で起きていること,これからの影響予測,そして温暖化によるマイナスを克服するための取り組みについて解説します。

こんな方におすすめ

  • 農業,食品関連のビジネスに携わっている方
  • 農業,食料について学んでいる方
  • 日本の食料事情に不安を覚えている方

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「農」「食」も温暖化の影響が避けられない
日本の農業の現場で,さまざまな温暖化の影響がすでに顕在化していることが全国調査で明らかになりました。

目次

第1章 日本と世界の農業,食料は今どうなっているのか?

01 世界の食料事情と,そこにある問題

  • 食料生産は,これからも人口増加を上回れるか?
  • 世界の食料需給を左右する新興国
  • 食料需要と競合するバイオ燃料
  • バイオ燃料は食料価格安定化の可能性も秘めている
  • 食料生産を不安定化させる中長期的な要因
  • 食料価格は高めに推移する可能性が高い

02 海外に頼らなければ成立しない日本の食料

  • 世界最大の農産物輸入国
  • 日本は海外の土地や水に依存している
  • わずか40%の食料自給率
  • 1000万トン以上の食品廃棄物が発生している
  • 止まらない耕作放棄地の増加

第2章 変わる気候は農業に何をもたらすのか?

01 気象変動の実態と予測される将来

  • 温暖化の原因は人為起源と,ほぼ断定された
  • 日本の気温上昇幅は世界平均の上昇幅よりも大きい
  • 何が温室効果ガスを増やすのか?
  • 温室効果ガスのさまざまな排出シナリオ
  • 21世紀末に気温はどこまで上昇するか?
  • 降水量は長期変化の傾向が認められない
  • 雨の降り方の変化
  • 降水量の変化が与える影響は推定が難しい
  • 台風の変化

02 温暖化は世界の食料生産にどのように影響するのか?

  • 気温上昇と食料生産の関係
  • 減収を回避する適応技術への期待
  • アフリカにおける温暖化の影響
  • アジア,ヨーロッパにおける温暖化の影響
  • オセアニア,アメリカにおける温暖化の影響

03 気候の変化に対する植物の基本的な反応

  • 植物には共通の性質がある
  • 植物の生育の2つの側面
  • 気候変動の影響を受ける発育ステージ
  • 量的生長と光合成
  • 二酸化炭素濃度が増加すれば必ず増収になるわけではない
  • 量的生長と気候変動の関係

第3章 日本でも顕在化し始めた温暖化の影響

01 「農」の現場では,すでに温暖化の影響が顕在化している

02 水稲への影響――品質の低下が問題に

  • 米粒の白濁が増えている
  • 外観や食味を損なう白未熟粒
  • ヒビが入った胴割れ粒
  • 増加傾向にある斑点米

03 果樹への影響――被害がもっとも懸念される農作物

  • 温暖化に脆弱な果樹
  • もっとも深刻な着色不良
  • 軟らかい果実
  • 2つのタイプの果実
  • 高温によって発生する障害果
  • 多収年と不作年の繰り返しで生産量が不安定に
  • 秋・冬の低温不足が招く眠り症
  • 開花期の差が小さくなり,収穫期が集中する
  • 品種間の開花期のずれ
  • 暖地でも凍害が増えている
  • 暖冬なのになぜ凍害が発生するのか?
  • 晩霜害は春になってからの低温障害
  • 温暖化は病虫害にも影響している
  • 重要病害・カンキツグリーニング病の北上
  • 温暖化にはメリットもある

04 畑作物への影響――さまざまな作物に見られる問題

  • 露地野菜の収穫期が変動している
  • 露地野菜の生育を阻害する温暖化
  • 露地野菜の生産性の変化
  • 施設野菜にも見られる温暖化のマイナス面
  • 花きの品質低下と生育不良
  • 野菜の病虫害の変化
  • 麦類に認められる被害
  • 高温・少雨が招く大豆の青立ち
  • 茶の晩霜害と萌芽不揃い
  • 雑草や鳥獣被害の増加

05 畜産への影響――夏季の気温上昇がもたらすデメリット

  • 高温が家畜に与えるダメージ
  • 飼料作物は高温になると減収する

第4章 温暖化で変わる将来の日本の農業

01 米の収量は,これからどう変化していくのか?

  • 米生産は日本の気候になじんで広がった
  • 水稲が栽培されるプロセス
  • 水と肥料
  • コシヒカリが水稲栽培面積の4割を占める
  • 米の収量は今後増えるのか? 減るのか?
  • 農地や農業用水への温暖化の影響

02 果樹の栽培適地は北上を続ける

  • 落葉果樹,常緑果樹,熱帯果樹の3つの分類
  • 果樹の一生と繁殖
  • 果樹の栽培管理プロセス
  • 果樹の栽培適地は,どのようにして決まるのか?
  • 果樹の生産は特定地域に偏る傾向がある
  • 現在の主産地が高温地域になる可能性

03 畑作物栽培に現れる避けられない影響

  • 葉菜類,根菜類,果菜類などの分類
  • 花芽分化することが問題になる野菜,その逆の野菜
  • 野菜は北から南まで広く栽培されている
  • 麦類の栽培に向くのは低温,乾燥地域
  • 収穫期が梅雨と重なってしまうことの問題
  • 大豆の栽培と生産地
  • 茶の栽培と生産地
  • 畑作物の将来予測

04 家畜生産の現在と将来予測

  • 採卵鶏は関東や東海に多く,ブロイラーは九州や東北に多い
  • 豚の飼育適温
  • 肉牛よりもホルスタイン種の方が暑さに弱い
  • 飼料作物を自給できないことが食料自給率低迷の大きな要因
  • ブロイラーや豚の生産性に大きな影響が現れる

第5章 温暖化の克服に向けた取り組み

01 温暖化に適応するために高温対策技術を生かす

02 温暖化に適応する水稲作りの技術

  • 高温を回避する
  • 水稲の高温耐性を強化する取り組み
  • 斑点米の対策

03 温暖化から果樹を守る技術

  • 果実の温度を下げる
  • 樹体の温度を下げて果実を冷やす
  • 光合成産物を増やして着色を向上させる
  • 高温でも着色しやすい品種
  • 果実の着色や日持ちを改善する多様な取り組み
  • 高温が原因の障害果を防ぐ
  • 隔年結果の対策で収量を安定させる
  • 発芽・開花不良の対策
  • 低温障害から果樹を守る
  • 変動する気候とともに病害虫の対策も変わる

04 畑作物,家畜生産における温暖化適応技術

  • 露地野菜の播種期,品種選択の精度を上げる
  • 施設栽培の高温障害を防ぐ取り組み
  • 動き始めた植物工場
  • 麦類,大豆の減収を回避する対策
  • 茶の晩霜害を緩和する防霜ファン
  • 家畜の体感温度を下げる

05 温暖化防止に向けて農業ができること

  • 農業から排出される温室効果ガスは全体の3%を占める
  • 進む農業機械の省エネ
  • 施設栽培のエネルギー消費を抑える
  • 農業から排出されるメタンと一酸化二窒素
  • メタンと一酸化二窒素のおよそ半分は家畜由来
  • 炭素の量を見える化するカーボンフットプリント
  • 農業由来のバイオマス資源の活用を進める
  • バイオ燃料の生産可能量は600万kl
  • 農地での炭素貯留は大きな可能性を秘める
  • 作物にとっての堆肥の効果

著者プロフィール

杉浦俊彦(すぎうらとしひこ)

1963年愛知県生まれ。安城東高校,京都大学農学部農学科を卒業後,1987年農林水産省入省。同省果樹試験場にて,気象と作物の生育との関係について研究を開始。1997年果樹の生育予測技術に関する研究で京都大学より博士(農学)を授与される。

省庁の研究機関が独立行政法人化され,農業,食料に関する日本最大の研究機関となった農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)本部において,2005年に日本の農業に及ぼす温暖化の影響に関して,初めての全国実態調査を遂行し,とりまとめる。

現在は農研機構果樹研究所において,温暖化が日本の農業に及ぼす影響の評価や温暖化適応技術開発のプロジェクトリーダーとして研究を推進している。専門は農業気象学。