新春特別企画

2013年のソーシャルWeb

あけましておめでとうございます。よういちろう です。新春企画でソーシャルというキーワードを担当して今年でもう4年目となりました。ここ数年で急速に成長したソーシャルWeb分野について、今年の動向がどうなっていくのか、考えてみたいと思います。

これまでどのようななことを述べてきたか気になった方は、次のリンクからお読みください。

ソーシャルゲーム分野

まずは昨年と同じように、ソーシャルゲーム市場について考えてみます。

ソーシャルゲーム市場の成長鈍化加速

日本においてソーシャルという言葉は、ソーシャルゲームが牽引してきたといっても言い過ぎではないでしょう。昨年もソーシャルゲーム市場は拡大を続けましたが、実はかなり多くの事件が起きていました。

  • いわゆる「パクリ」に関する訴訟への発展
  • 不具合を突いた不正利用とその対応
  • 課金上限の設定や、現金化についての対応
  • 消費者庁からのコンプガチャ規制

一旦は市場の成長にブレーキがかかって大きな影響が出るのでは?と言われましたが、実際にはそれほど影響はなかったという結論になりました。特に消費者庁に関する動きは注目され、結果としてソーシャルゲームを提供している6つの企業によるJASGA(ソーシャルゲーム協会)の設立に至りました。今年はJASGAによって策定された自主規制内容にしたがって、落ち着いた市場になるでしょう。

そして、昨年から何となく見え始めていた勝ち負けの差が、今年よりはっきり見えてきます。ソーシャルゲーム市場で景気が良いのは、プラットフォームを展開する2社と、一部の大手サードパーティに絞られてきました。昨年人気を得た各ソーシャルゲームの作り込みとキャンペーン施策の頻度はすさまじく、体力のない開発企業では太刀打ちできない状況になってしまっています。多少の浮き沈みがあれど、今年は昨年以上に「下方修正」という言葉を良く聞くことになると思われます。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券による市場規模予測は、昨年3月に2012年の市場規模を4643億円になると上方修正していましたが、上記のような出来事が重なり、実際には4000億円前後で着地したと考えられます。2009年から昨年までの市場規模と増加率の変異は次のとおりです。年が進むにつれて、徐々に飽和状態になってきているのがわかると思います。

市場規模(億)前年比(倍)
2009301 
201010363.5
201123852.3
201240001.7
画像

この傾向だけを見れば、今年は「すでに飽和状態に近い市場に対して、一定数のユーザのシェアを奪い合う」という構図になるということが言えるのですが、事情はそこまで単純ではありません。⁠本当に飽和しているのか?」ということをもっと考える必要があります。

無料通話アプリが開く新たなゲーム市場

筆者が「飽和していないのでは?」と懐疑的になる根拠は、昨年に大ヒットした無料通話・トーク機能を持つスマートフォンアプリの存在です。LINE、comm、そしてカカオトークといったアプリが多くのユーザに使われ出した年が昨年だったと言えます。これらのアプリを使っているユーザは、おそらくGREEやMobageといったソーシャルゲームのアクティブユーザとは被っていないと考えられます。どちらかというと、mixiやTwitterを使ってきたユーザと言えます。

例えば、すでにLINE POPは多くのユーザが遊んでいます。このゲームを手にしたときに、今この記事を読んでいる人の多くは「あれ、ちょっと前にどっかで遊んだことあるな」と思ったことでしょう。すでに通ってきた道です。もうほとんどの人が飽きてしまって今更感すら覚えると思うのですが、実際には現在でも非常に多くの人に次々と着火し続けています。

LINE POP
LINE POP

無料通話アプリで流行しだしたゲームは、もちろんカードバトルゲームではありません。mixiがプラットフォームのオープン化を遂げた後、⁠サンシャイン牧場」が爆発的にヒットしました。ほとんどのユーザがサン牧に流れましたが、サン牧が登場する前にmixi内で熱中していたゲームの中に、PopCap社の「BEJEWELED」がありました。LINE POPはこのアプリとルールが似ています。つまり、日本におけるソーシャルアプリの登場初期に遊ばれたゲームについて、その面白さをまだ知らないユーザは実は未だに多くいるということになります。

BEJEWELD
BEJEWELD

執筆時点でのAppStoreトップセールスにおいて、LINE POPは第2位でした。単に人気アプリだということではなく、マネタイズという面でも成功しているということです。これは、飽和状態ではないということの証明と言えます。

今年はこれらのアプリと連携可能なゲームが多く登場する年となるでしょう。

さらに、通話・トークという機能を利用した新しいアプリの可能性も今年に発掘されることになるでしょう。チャットにおけるBotのようなゲームが登場するかもしれません。サードパーティがそういったアプリを作るために必要となる技術要件は、今までのノウハウが通用しないかもしれません。HTMLを作って返す、というページ単位のレスポンスではなくなるからです。Ajaxに近いかもしれませんが、リクエストの内容はより細かいものになり、さらに送受信される内容も、自然言語を扱わなければならなくなるでしょう。

ここ数年はスマートフォンを中心としたゲーム開発が中心であり、技術者の関心もそこにありました。今年は関心を持つべき領域が増える可能性は大いにあると考えられます。楽しみに待ちましょう。

ソーシャルゲームの「Web vs Native」

さて、ソーシャルゲームの形態として、Webブラウザ上で動作するタイプと、AppStoreやGooglePlayからインストールして利用するタイプの2つが存在することは皆さんご存じだと思います。スマートフォン上でのソーシャルゲームはどちらが主流になるのか、近年いろいろと予測が出てきましたが、昨年の一連の動きの中で一定の結論が出たと考えて良いと思っています。これは、プロバイダーによって異なります。

ソーシャルゲームのプラットフォームを提供している側にとっては、インストール型のNativeアプリがその答えになります。グリー社やDeNA社が自社製のソーシャルゲームを海外向けに開発し、ランキングの上位を獲得したというニュースを昨年度々耳にしたと思います。ユーザを認証し、ソーシャルグラフを使って、課金に関してほとんど直接得ることができる状況でゲームを開発することが、2社ともにオールインワンでできます。これであれば、AppStoreやGooglePlayという環境内で勝負することができます。

しかし、GREEやMobage向けにソーシャルゲームを提供してきたサードパーティにおいては、ソーシャル性をプラットフォームから受ける必要があります。また、課金についてはAppStoreやGooglePlayの制約だけでなく、プラットフォームからも制約を受けるため、取り分がどうしても減ってしまうわけです。そのため、いろいろな制約を回避するためには、Webブラウザベースで提供をせざるを得なくなります。⁠ソーシャルゲームを世界へ!」と叫ばれ続けていますが、サードパーティ製のゲームが海外で成功しにくい原因はそこにあります。

これまでのソーシャルゲームは作り込みが激しく、それ単体でも成り立つものですので、今年も上記の構図は変わらないものとみて良いでしょう。ただし、先ほど取り上げた通話・トークアプリ内での新しいアプリの形態においては、上記の構図は当てはまらないかもしれません。つまり、ユーザ間の会話の延長線上でアプリが使われることになるため、Nativeアプリ内だとしてもAppStoreやGooglePlayの規約に接触せずにサードパーティがマネタイズをできるかもしれません。

また、本気でサードパーティ製のソーシャルゲームを海外に向けて発信するために、今年はもしかしたらプラットフォーム側が規約緩和や取り分の緩和を行い始めるかもしれないと考えています。これは筆者の願望になってしまいますが、日本で大きく成長したソーシャルゲーム市場を世界でも展開するためには、やはりプラットフォームと各ソーシャルゲームにビジネス面で垣根がなくならないといけません。本当の意味で一体となって世界に望んで欲しいですし、今年はそれができるだけの十分な材料が揃っていると思っています。

ソーシャルゲームプラットフォーマーのSNS化

先ほどから度々登場している無料通話・トークアプリについてですが、それらについてもSNSと呼ばれるようになってきています。特にLINEは、タイムラインを備えることで、ある種Facebookと同じような方向性に向かっているのではないか、と思えてきます。グリー社やDeNA社も、それぞれメッセンジャーアプリを昨年度中にリリースしていることもあり、この分野が今年のソーシャルWebを引っ張っていくことは確実です。

つまり、電話帳に登録された連絡先という情報によって構築されたソーシャルグラフ内で、インターネット上のコンテンツが消費されていくということです。言ってみれば、純粋なリアルソーシャルグラフと言うことができ、従来mixiやFacebookが得意分野と言われてきた領域です。スマートフォンというデバイスに特化していることもあり、これは今までのSNSとも異なる新しい環境と言って良いでしょう。

この環境のプレーヤーになるべく、バーチャルグラフ上でソーシャルゲームにより収益を上げてきたプラットフォーム企業がこぞって昨年名乗りを上げたわけです。これにより、⁠やっぱりゲームプラットフォームではなく、SNSをやりたかったんだな」ということが外から見てもわかってきた、ということだと言えます。

昨年はFacebookが日本で本格的に利用された最初の年と言えました。今年はSNSの構図がFacebookとTwitterを中心として回ると昨年の早い段階では思っていましたが、どうやら今年はSNSが再度乱立することになりそうです。その中で、スマートフォンにおけるソーシャルWebという分野での新しい技術や標準仕様が登場してくるのではないかと期待できる年になりそうです。

ソーシャルメディア分野

ここからは、主に企業から見た時のソーシャルWebとして、ソーシャルメディア市場を考えてみましょう。

ソーシャルページの衰退

昨年日本ではFacebookが本格的に利用され始め、多くの企業がFacebook上でのマーケティングに取り組んだ年と言えます。しかし、うまくいったという事例は、ほとんどなかったと言っても良いかもしれません。ソーシャルページは長く着々と運用することで、その効果がじわじわと出てくる代物なのですが、すぐに効果が期待できると考えて参入した企業は、その運用のあまりの難しさと効果のなさに「こんなはずではなかった」という感想を持っていると思います。

ソーシャルメディアのパワーは「バイラル力」です。そのバイラル力が必ず働くと考えていた人が多かったのではないかとみています。残念ながらそんなことはなく、やはりユーザにとって魅力的なコンテンツでなければ、バイラルはしません。そのことがわからずに、単にFacebookに情報を投下すればバイラルし認知度が上がると考えていた傾向は強く、しかも企業をそのようにけしかけたコンサルタントが非常に多かったのではないでしょうか。

ソーシャルページの設置と運営が如何に難しいかをもっと多くの人が知ることになるには、もう少し時間が必要そうです。今年の前半は、相変わらずソーシャルマーケティングの主役はソーシャルページの利用であると継続されるでしょう。もちろんこれはずっと続くわけではなく、今年後半にはそれが難しく簡単に手を出せるものではない、ということが事例とともに徐々に浸透してくると思われます。

特に日本においては、ソーシャルページの開設数は今年ぐっと減ると予想しています。

認証&シェアによるソーシャルWebの広がり

ソーシャルというと、⁠ソーシャルグラフをどう扱うか」という点に議論が集まってしまいますが、今年はそれ以前の基本的なことが見直されると考えています。それは「ユーザのアイデンティティ」です。

企業が自社サイトでソーシャルというものを取り入れようとするとき、すごく難しく考えてきたのではないかと思っています。何をどうすればいいか、なかなかわかりにくいのがソーシャルの特徴かもしれませんが、今年は次の2点に絞られた方法で、企業の自社サイトにおけるソーシャル対応が進んでいくと考えています。ほとんどのWebサービスにおいて、ソーシャル化をするためにはこの2点のみで十分です。

  • 認証「○○でログイン」
  • 共有「△△を知り合いにシェア」

ソーシャルメディアには、ユーザ間の関連以前に、ユーザのアイデンティティが集まっています。従来であれば、企業の自社サイトにて独自に行ってきた会員登録ですが、今後は「SNSへのログイン」⁠SNSを使って登録/参加」というものに置き換わっていくでしょう。これは、企業の自社サイトにユーザの基本情報を渡すということになるのですが、そこにソーシャルグラフはありません。単に訪問者の情報をもらうのみです。まずはこれにより、会員登録という行為の敷居を下げます。

技術的には、OpenIDやOpenID Connect、またはOAuthとPeople APIの組み合わせが使われます。ここ数年は、数多くのAPIの認可制御にOAuthを適用するという話が中心でした。しかし今年は認証系のAPIが見直され、盛んに使われる年になるのではないかとみています。昨年Yahoo JapanはOpenID Connectのサポートを開始しましたが、他のソーシャルメディアにおいても、OpenID Connectがサポートされるかもしれません。なにはともあれ、認証を目的とした連携が中心となると考えられます。

「そんなことならOpenIDは歴史が深いし、前から行われているのでは?」と思ったかもしれません。しかし、今まではOpenID Providerがあれど、そのProvider自体の普及度が低かったなどの理由で、なかなか企業のWebサイトまで組み込まれることは稀でした。FacebookやTwitter、Google、そしてYahoo!などのアカウントを持つユーザがかなり増えてきたこともあり、企業がそういったユーザアイデンティティに魅力を感じる土壌がやっとできてきた、ということになります。

認証がされれば、企業の自社サイトで訪問者が行ったことをソーシャルメディアに投稿し、シェアすることができるようになります。ソーシャルページでは企業側が自主的に情報を投下しなければなりませんが、訪問者が自社サイト上で行ったことを自然な流れで投下できるようになれば、あとはソーシャルメディアが持つバイラル性によって、他のユーザに認識がされていきます。さらにユーザの気持ちがそこに入れば、効果は倍増します。加えて、シェアボタンの設置だけでなく、APIを明示的にコールすることで、工夫されたフィードを飛ばすことができます。あとはフィードの内容をどう工夫するかを考えてれば良いわけです。

上記は一例ですが、こういったシンプルなソーシャル化により、大きな効果を出す企業が今年は増えてくると考えられます。

独自SNSでのプロモーション

ソーシャルマーケティングという言葉は、現在多くの人々が「FacebookやTwitterなどのソーシャルメディアを使ってあれこれすること」だと考えていると思います。もちろん今年もそれが主流になるでしょう。しかし、それだけではなさそうです。

昨年、レディガガが独自のSNS「Little Monsters」を立ち上げたのはご存じでしょうか? もちろんレディガガは、オフィシャルホームページも持っていますし、TwitterやFacebookも活用しています。それだけでも十分そうですが、さらにどのソーシャルメディアでもない独自のものを開始したのです。

Little Monsters
Little Monsters

画面はPinterestに似ていて、ファンがレディガガに関する写真や動画をアップロードできるようになっています。そのサイト上で画像を加工することができ、ファンの投票によってトップページ掲載されるものが選択されるようです。このサイトは完全招待制で、登録後すぐには使えずに、招待状を待つことになります。

FacebookやTwitterといったソーシャルメディアには、現在非常に多くの企業が押し寄せてきています。その中には、有名人をプロモーションするための芸能事務所も数多くいることでしょう。あるソーシャルメディア上でランキングを上げ、多くのファンを獲得し、そしてフォロワーがいつも注目してくれるフィードを流し続けるのは、かなり難易度の高いことになります。レディガガほどの知名度とソーシャルメディア上での成功があれば、独自にサイトを立ち上げてもそこが活性化すると踏んでいたのでしょう。実際にその思惑は正しかったと言えます。アクティブなファンをちゃんと集客できれば、何も既存のソーシャルメディアにとらわれることはないのです。

日本においても、今年そういった試みを行う有名人が数人出てくると思われます。その誰もが成功するとは思えませんが、日本のベンチャー企業が独自ソーシャルメディアの構築に目をつけ、有名人と組んで挑戦をしたというニュースを、数本目にすることでしょう。

セマンティックWebはさらに重要になる

日本において昨年はFacebookが本格的に利用され始めましたが、同時に多くのWebサイトがFacebook上でコミュニケーションのネタとして消費された年となりました。それにつれて、多くのWebサイト構築者がOGP(OpenGraph Protocol)仕様を知ることになったと思います。

すでにOGPが登場してから2年以上が経過しています。これからわかることは、米国に比べて日本におけるソーシャルWebの広がりは残念ながら2年ほど遅れていると言うことです。もちろんアーリーアダプタの方々によって、Web標準仕様はいち早く日本に持ち込まれているわけですが、それが普及するまでには、やはり時間がかかっています。海外の事例を待ってから、という姿勢の方が多いのかもしれません。

そうしている間にも、Webサービスの有名どころは着々と進化を続けています。例えばGoogleは、Webページのセマンティックな記述をここ数年で非常に重要視するようになりました。つまり、SEOへのテクニックがここ数年でかなり変化したのです。正しくWebページのコンテンツを論理的にしておくことが、良いサイトと判定されるための近道になってきました。

さらにGoogleは、ナレッジグラフという新しい検索機能をリリースし、インターネットに無数にあるWebサイトが関連データベースとして機能するようにしてきています。まだこの機能は始まったばかりですが、今後情報から情報への関連がナレッジグラフ内で構築されていくにつれて、あなたが公開しているWebサイトにとっても、ユーザが目にしてくれるようにするためにナレッジグラフに取り込まれなければならない日が近づいてきています。そのためには、Webページに対してセマンティックな記述を施し、他のWebサイトと意味のあるリンクを張ることが必要になります。

Webサイトのソーシャル連携には認証とシェアが今年はより行われる言及しましたが、これは同時にセマンティックWebへのサポートが進むことも意味しています。OGPやHTML Microdata、Schema.orgといった仕様がますます重要になるわけです。SEO、ソーシャル化、その目的はどちらでも構いませんが、結果として行うことは同じです。GoogleやFacebookなど、セマンティックを理解する側の準備はすでに整っています。インターネットを今年さらに進化させるためには、Webサイトを公開している人々がそれぞれソーシャルWebをサポートすることが必要なのです。

PC向け技術がスマートフォン向けに移植される

ここで重要なのは、ユーザがインターネット上にあるコンテンツを消費するために利用するデバイスは、スマートフォンやタブレットがほとんどを占める時代が来た、ということです。

GoogleやFacebookの技術が利用されてきた土壌は、今まではPCが主流でした。モバイルデバイスはおまけ程度に考えられてきたわけです。しかし、ユーザの動向は間違いなく「PC離れ」であり、その勢いはものすごく加速しました。昨年までは、PCをターゲットにしたWebサイト向けに、GoogleやFacebookを始めとする企業がソーシャル性を組み込むための部品を提供してきていました。

今年からは、むしろPC向けには提供されず、スマートフォンやタブレットのみで利用可能な部品が数多く登場します。そして、多くの開発者がそれらをモバイル端末向けに組み込んでいくということが行われます。PCをベースに考えることから抜けられないサービスは、今年から次々と脱落していくことでしょう。

スマートフォンやタブレットをターゲットにした場合、提供されるライブラリは「JavaScriptで組み込み可能なもの」「ネイティブアプリで組み込み可能なもの」の2つが提供されます。PC向けだけであれば前者のみで事足りますが、それではユーザのニーズに全く答えられません。そういったサポートの手厚さが、結果として今後の市場形成や開発者の取り込みに大きな影響を及ぼすことになるでしょう。Facebookとて、そこが命取りになるかもしれません。

スマートフォンやタブレット向けのユーザ体験は、PCと比べてやはり異なります。今年は従来からPC向けに提供されているものがモバイル端末向けに次々と移植され、開発者は対応に追われる年となるでしょう。

エンタープライズソーシャルの事例増加

最後に、ソーシャルというキーワードがエンターテイメントではなくエンタープライズで使われ始めることを取り上げたいと思います。つまり、ユーザがソーシャルメディアを直接使う話ではなく、企業がソーシャルメディアを業務やサービスに取り入れるときの話です。

企業はマーケティング目的でソーシャルメディアを捉えがちなのですが、例えば航空業界ではソーシャルメディアをより深く使い始めています。興味深い昨年の話として、次の2つが挙げられます。

KLMオランダ航空のソーシャル座席予約

KLMオランダ航空では、昨年から「FacebookやLinkedInのプロフィールを見ながら、座席を決められる」というサービスミート&シートを始めました。読者の皆さんも「隣に座ってくる人はどんな人なのかな」と気になったことはあると思います。数時間同じ席に座っているわけですから、例えば同じ趣味を持っている人と隣同士になれれば、もしかしたら会話が弾むかもしれませんし、その結果不快な思いをせずに済むかもしれません。ネガティブな印象を持つ顧客は、もちろんプロフィールの公開を拒否することも可能です。

このサービスは、デモではなく昨年実際に開始された実例です。現在でも継続して提供されています。

サービス開始直後の調査結果によると、6割を超える人々、特に女性については、その安全性に懸念を感じていたようですが、1割強のユーザには好意的に受け入れられたようです。ロマンスを期待する男性もいるようですが、例えば同じイベントに参加する人が搭乗しているかどうかを探すことができ、予め情報交換できたことでイベント参加の価値が上がった、というユースケースは結構ありそうです。

多くの人にとって利益をもたらす仕組みかどうかは怪しいですが、少なくともこれによって旅がより魅力的になった人もいるはず。面白いサービスですし、顧客にどういった属性の人がいるのか、KLMオランダ航空側にとっても貴重な情報が得られるでしょう。

バージン・アメリカとFacebookの顧客サポートデモ

KLMオランダ航空よりもより踏み込んだことを考えているのが、バージン・アメリカです。それはセールスフォースのイベントで発表されたデモンストレーションで、ファーストクラスに登場した顧客がFacebookに書き込んだ情報をスタッフが確認し、もしその顧客が重要な会議があって遅刻できないことを書き込んでいた場合に、乗り継ぎをスムーズにするために「現地スタッフに誘導を指示」することと、その顧客の座席にあるディスプレイに乗り継ぎのための道順を着陸前に表示する、という内容でした。

このデモでは、セールスフォースが提供している様々なサービスとFacebookを連携させ、顧客が何を求めているのかを事前に知って付加価値を提供しよう、という試みが表現されています。重要なのは、システム間連携によってもたらされる、顧客のニーズの認識からその対応までのスピードです。さらに、異なる場所にいる関係者への情報のシェアという点でもテクノロジが有効に機能しています。

他社と差別化しリピーターとなってもらうために、顧客のニーズをどのように拾っていくかの一手法として、ソーシャルメディアの利用が今年から数多く試されていくと考えられます。もちろん、上記のデモを見てネガティブな感想を持った人もいると思います。ソーシャルメディアに書かれた情報、特に一般に公開された書き込みについて、それは誰でも見れる情報である反面、⁠その情報がどう使われるか」について漠然と「怖い」という印象を持つ人もいます。これはメリットとデメリットが両方存在する世界なので、提供するサービスのバランス感覚が非常に重要になります。

今年は、そういった難しさにチャレンジする企業が日本でも登場し、事例が2、3個出てくる年になると考えています。

まとめ

本記事を書き始めた時には「できるだけ技術的なトピックを」と考えていたのですが、ソーシャルの利用シーンのことばかりの内容になってしまいました。これからもわかる通り、ソーシャルは「参加する」段階は終わり、日本も「活用する」段階に入ってきたということです。⁠ソーシャルをどう活用していけばいいかわからない」という声を昨年までは聞きましたが、海外の事例を元にして、今年は日本においても様々な試みが行われるようになるでしょう。

そのチャレンジのために必要となる技術的仕組みは、既に整っています。OpenID、OAuth、OGP、HTML Microdata、Schema.org、そしてHTML5に代表されるWeb標準技術とモバイル端末向けのネイティブアプリ開発技術を組み合わせて、新しいソーシャルWebを皆さんの手によって実用なレベルでぜひ開発してみてください。

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