受託開発の極意 ―― 変化はあなたから始まる。現場から学ぶ実践手法
あとがき
「お客さま」と「現場」にこだわる
この本の構想を練り始めたのは2007年の夏でした。当初は開発者というよりもマネージャやリーダーを読者に想定し,タイトルは「マネジメント本(仮)」でした。しかし実際に書き始めてみると、どうにも筆が進みません。自分が何を言いたいのかよくわかりませんでした。
そこで一度原点に立ち返り、自分は何者であり、誰に何を一番伝えたいのかを考え直してみました。そして私はやっぱり現場の開発者であり、「いい仕事してるね」とお客さまを唸うならせることを喜びにしていることを再発見したのです。
私が読者のみなさんに伝えられる極意とは、プログラミング言語やテスト技法などの個々の技術ではありません。受託開発という仕事の流れの中に少しずつ練り込む、総合的な技術であり価値観です。
この本は『受託開発の極意』と名乗りながらも、すべての受託開発をカバーするものではありません。主に中小規模の業務系システムを念頭においており、組込み分野や大型汎用機を使ったシステム開発に関しては言及していないことをお断りしておきます。
視野が狭いかもしれないと感じながらも、私は自分の経験がない分野のことを知ったかぶりをして語ることはできませんでした。物足りないと感じられるかもしれませんが、これが今の私にできることすべてです。
「あなた」から始める
そしてお気づきのとおり、私が本当に訴えたいのは、変わることに躊躇しないでほしい、自分から一歩を踏み出す勇気を持ってほしいというメッセージです。
周りに問題を感じても、自分から行動を始めなくては何も変わりません。このことを実感するには時間が必要かもしれません。
私も今の心境に達するには相当の葛藤がありました。しかし、さまざまな人やプロジェクトとの出会いが私を着実に変えていきました。もちろん運も良かったのでしょうが、自分なりに悩みながら先に進む努力もしてきました。
今あなたが現場で悩んでいたとしても、何も発言せず、何も行動せず、それであとから愚痴ったり後悔しても誰も共感できません。組織や社会に問題の原因を求めてもかまいませんが、問題の解決に近づくために自分は何をすればよいのかを考えてほしいのです。
たくさんの感謝
この本を書くにあたっては、本当にたくさんの人たちの支援をいただいています。
まず、私が尊敬する業界の先輩や仲間たちからは、あたたかい推薦の言葉をいただきました。平鍋健児さん、萩本順三さん、羽生章洋さん、ひろせまさあきさん、角谷信太郎さん、ありがとうございます。
第一部の内容に関してさまざまな方からアドバイスをいただきました。この本は私だけの知見では完成させられませんでした。高橋修さんには、要件の詰め方を具体的に教えていただきました。長岡あゆみさんには、単体テストの効果測定レポートを提供していただきました。また、見積りやスケジュール管理に関するノウハウは中村武さんから学んだことが大きいです。ありがとうございます。
この本のもう一つの主題は「変化」です。私のまわりには良い変化を目指しているお手本がいて、私も良い影響を受けています。マネージャの宮下和久さんは組織にさまざまな改善をもたらしており、第2部を書く上で参考にさせてもらっています。また、会社規模の改善グループである永習会での活動を通じて、たくさんの気づきと勇気をいただきました。ありがとうございます。
そして本書をより良くするため、たくさんの方からフィードバックをいただきました。レビュワーのみなさんに感謝します。伊藤浩一さん、木下史彦さん、近藤修平さん、齋藤崇さん、森田秀幸さん、山田健志さん、快く引き受けてくださり、本当にありがとうございました。
技術評論社の稲尾尚徳さんは共に苦労した同志です。6 時間の連続ペア校正、大変でしたが絆も深まりました。おかげで良い本になりました。
最後に妻の理恵と息子の大貴、娘の彩乃に感謝します。この半年間、休みのかなりの時間を執筆にあててしまいました。子供たちの遊び相手になれず、妻にも面倒をかけました。執筆は楽ではありません。家族の理解がなければ、再び本を書こうという勇気は持てませんでした。本当にありがとう。
2008年3月
岡島 幸男