2017年5月13日(土)開催の「Ubuntu 17.04リリース記念オフラインミーティング17.05 」の参加レポートを、一般参加者である筆者が前回 に引き続きお届けします。少しでもオフラインミーティングの雰囲気や魅力をお伝えできればと思います。
なお、筆者個人の理解の範囲で主観的に執筆しているため、不正確な点があるかもしれないことをお断りしておきます。
今回のテーマは「デスクトップあれこれ」
Ubuntuオフラインミーティングは、Ubuntuをテーマとした「ゆるい」技術系イベントです。「 リリース記念」という名の通り、年2回のUbuntuリリースから1、2か月経った頃に開催されています。今回は、タイトルの通りUbuntu 17.04のリリースを記念したイベントとなりますが、リリースから少し日が経っているせいか、リリースのお祝いという色合いは薄いようです。
オフラインミーティングでは、複数の登壇者がセミナーを行います。一口にセミナーといっても、本格的な技術解説から、こんなことやってみたよ、という報告まで多種多様です。ほぼ毎回テーマが設定されているため、多くのセミナーはその回のテーマに沿った内容となります。
今回のテーマは「デスクトップあれこれ」でした。本連載の読者の多くはご存知かと思いますが、オフラインミーティング開催の1か月ほど前にCanonical社が「Unity 8への投資終了 」を発表したことによるものです[1] 。
図1 プログラム掲示がUnity風
オフラインミーテングの雰囲気
今回の会場は、いつもの六本木ではなく、西新宿にあるコワーキングスペースbit & innovation で催されました(TIS株式会社による提供です) 。カフェのようなお洒落な雰囲気でした。
図2 会場のbit & innovation
オフラインミーティングの特徴は、セミナー開始前から軽食とアルコールがふるまわれます。ほろ酔い状態でセミナーを聴くことができるのは「ゆるい」イベントならではないかと思います。また、合間の休憩時間には、飲み物片手に参加者同士が交流する姿も見られます。
図3 から揚げ
図4 その他軽食
展示物として、なつかしの『Ubuntu Magazine Japan 』バックナンバーと、『 うぶんちゅ! まがじん ざっぱ~ん♪総集編 』の製本版が置かれていました。
『うぶんちゅ! まがじん ざっぱ~ん♪ 』は、『 Ubuntu Magazine Japan』の執筆陣が多数参加している同人誌です。製本版はほとんど在庫が残っておらず販売できないそうですが、電子版は今でも購入可能です。また、Vol1〜6もダウンロード販売中です。
図5 『 Ubuntu Magazine Japan』と『うぶんちゅ! まがじん ざっぱ~ん♪』
恒例のじゃんけん大会の景品は、Canonical社提供のTシャツと帽子、日経BP社提供の『日経Linux 』 、技術評論社提供の『Software Design 』『 WEB+DB PRESS 』でした。
図6 じゃんけん大会
また、希望者にはCanonical社より、Ubuntuストラップ、ボールペン、メモ帳のいずれかが配布されました。
図7 ノベルティのストラップ、ボールペン、メモ帳
Togetterにある今回のイベントのまとめ もご覧いただくと、イベントの雰囲気をつかめると思います。
セミナー1「Ubuntu Studio PCオーディオ版」
ささみんさんによる「Ubuntu Studio PCオーディオ版」です。
PCオーディオとはPCを用いて音楽を再生することです。豊富な機能を簡単な操作で使うことができます。さらに、今回紹介された「Ubuntu Studio PCオーディオ版」のように、音楽再生に適したOSをインストールしてUSB-DACを外付けすると、そこまでお金をかけずに高音質な再生環境を実現できるそうです。
図8 PCオーディオとは
図9 PCオーディオでいい音を聴く条件
Ubuntu StudioはUbuntuの公式フレーバーの一つで、音楽編集や動画編集などマルチメディアに特化しています。レイテンシーが低く音楽を高音質で再生できるため、いろいろな人がUbuntu Studioを音楽再生用にチューニングしています。しかし自分でチューニングをするにはLinuxの知識が必要で、初心者には敷居の高い作業となります。
そこでささみんさんは、だれでも簡単にPCオーディオ再生環境を構築できるように、Ubuntu Studioを音楽再生に特化させた「Ubuntu Studio PCオーディオ版 」を作成して公開しています。Ubuntu Studio PCオーディオ版は、音質がよくLinux初心者でも使いやすいことから、オーディオ愛好者から好評を得ており、現在ではブログに月間3,000ほどアクセスがあるそうです。
図10 Ubuntu Studio PCオーディオ版が目指したもの
図11 Ubuntu Studio PCオーディオ版の開発
図12 ブログアクセス数
Ubuntu Studio PCオーディオ版は、少し古いPCでもインストールできるように、16.04 までは32ビット版で出しています。ただし、次のLTSの18.04では32ビットサポートが廃止されるため、そのときは64ビット版になるそうです。
図13 今後の課題
前回のオフラインミーティングでは、精神医学者の根本さんが脳科学に特化したディストリビューションLin4Neuro を紹介しています。このように、エンジニア以外のユーザーが目的に応じてUbuntuやLinuxを使っているという点がとても興味深かったです。また、OSとアプリケーションをまとめて一つのパッケージとして配布できることは、OSSの大きなメリットであると感じました。
なお、『 日経Linux』の2007年1月号から6月号では、司会の長南さんが「Raspberry Piで楽しむPCオーディオ」という連載を執筆しています。連載の最初のころはRaspberry Piで音楽を再生するという親しみやすい内容でしたが、だんだんとマニアックな方向に進んでいき、5月号 ではRaspberry PiでDACを自作するというマニアックな内容になっていったそうです。
セミナー2「Ubuntu PhoneとConvergence振り返り回」
Ubuntu Japanese Teamの村田さんによる「Ubuntu PhoneとConvergence振り返り回」です。同じくUbuntu Japanese Teamの柴田さんとの掛け合いのもと、Ubuntuの過去のデバイスや技術について振り返りました。
本レポートの冒頭でも触れましたが、4月5日、Canonicalの創業者マーク・シャトルワースがUnity 8やConvergenceへの投資を終了することを発表しています。
Unityはオープンソースなので、今後Unityをデスクトップ環境として採用したフレーバーを出すことも理論上は可能だそうです。Ubuntuは今後GNOMEに切り替わります。詳細はまだ決まっていませんが、今後新しい情報が発表されたときには、本連載でも随時取り上げていくようです。
図14 4月5日のアナウンス
Convergenceとは、一つのOSで電話、タブレット、ノートPC、テレビなど様々な端末に対応する技術のことで、Canonicalは2008年ごろから取り組んでいたそうです。
まず、2008年6月に、Ubuntu Netbook Remix(後のUbuntu Netbook Edition)というネットブック向けのエディションがリリースされました。当時流行していたネットブックは画面の縦解像度が低いため、縦が狭くても使いやすいように、ネットブックランチャーというインターフェースが搭載されていました。
図15 Ubuntu Netbook Remix / Edition
The New Ubuntu Netbook Edition EFL Netbook Launcher
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同じころ、ネットブックよりもさらに小型な端末NetWalker が発売されています。OSはUbuntuですが、ネットブックランチャーは搭載されていません。
図16 NetWalker
2009年、マーク・シャトルワースがCanonicalのCEOを譲り、Ayatanaプロジェクト を立ち上げました。AyatanaはUbuntuのユーザーエクスペリエンスを向上させることを目的としたプロジェクトで、画面右上のメニューで便利な機能が使えるようにしたり、横長の画面を効率よく使えるようなインターフェースを開発したりしました。最終的にはこれらを統合して、Unityのプロジェクトが立ち上がっています。
図17 Ayatanaプロジェクト
そしてUnityは、Netbook Editionでは2010年の10.10から、デスクトップ版では2011年の11.04から標準デスクトップとなりました。当時は3Dデスクトップが流行しており、Unityでも便利な機能を取り込んでいます。
図18 Unity
What makes Ubuntu 11.10 so great?
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2011年にUnity構想が公表されました。Unity構想は後に名称が変更されており、現在のConvergenceのことです。Ubuntu Phone, Ubuntu Tabler、Ubuntu TVなど、いろいろなデバイスでUbuntuを動かそうという構想です。マーク・シャトルワースのブログによると冷蔵庫もターゲットとしていたようです。
図19 Unity構想
Ubuntu TVは、Unityのユーザーインターフェースを用いた動画配信サービスです。本連載の第207回 でも言及されているように、2012年にプロトタイプが発表されましたが、まだモックアップの段階で、あまり安定していなかったようです。
図20 Ubuntu TV
Ubuntu. TV for human beings
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Ubuntu for Androidは、2011年に構想が、2012年2月に名称が発表されました。Android端末上でUbuntuが動作し、ドックに接続するとデスクトップPCとしても使用できるというものです。Androidの領域と連絡先などの情報を共有して電話をかけたりSMSを出したりできます。便利そうですが、製品化は実現しませんでした。
図21 Ubuntu for Android
Ubuntu for tablets - Full video
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2014年、Ubuntu Edge というハイエンドスマートフォンの資金をクラウドファンディングで調達しようという計画がありました。目標額は30億円ほどでしたが、調達金額は10数億円で残念ながら不成立でした。
図22 Ubuntu Edge
Ubuntu Edge: introducing the hardware
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Ubuntu Edgeは不成立でしたが、Ubuntu PhoneやTableの端末は実際に発売されています。2015年にはスマートフォンBQ Aquaris E4.5 Ubuntu Editionが、2016年にはタブレットのBQ Aquaris M10が発売されました。Ubuntu Phone、Tabletの最近のバージョンでは、Convergenceによってモバイル端末として使うことも、ディスプレイを接続してデスクトップとして使うこともできます。デスクトップとして使う場合、マウスやキーボードを接続することもできるし、端末の画面をタッチパッド代わりにすることもできます。
Ubuntu Phoneについては、本連載の第439回 で柴田さんが解説しています。今後については、Ubuntu Phoneをフォークするプロジェクトがあり開発は続けられるようですが、プロジェクトの規模としてきびしいようです。
Unity 8は、16.10から同梱されるようになりましたが、標準デスクトップ環境として採用されることはありませんでした。
図23 Unity 8
GNOMEシェルは、17.10 α2あたりから標準デスクトップ環境として採用されることになりそうです。α2やα3を使ってみて動作に問題があれば、メーリングリストなどで報告してほしいそうです。また、Ubuntu-desktop mailing list を読むと歴史的な経緯が分かって面白いので、ぜひ読んでみてくださいと話していました。
セミナー3「GPU on OpenStack」
おおたまさふみさんによる「GPU on OpenStack 」です。
おおたさんは前回も同じテーマで登壇していますが、そのときはすべてオフレコとのことだったので概要にしか触れませんでした。でも、今回は発表資料の範囲で公開可能とのことなので、その範囲でレポートします。
最近のトレンドとして、GPUが計算用途でよく使われています。コア1個あたりは遅いですが、集積度が高くコア数が多いため、いくつかの種類の計算を高速実行できます。また、集積度の割に低消費電力、省スペースというメリットがあります。
図24 GPUトレンド
GPU on OpenStackとは、OpenStackのVMからGPUを使うことです。GPU on OpenStackを実現する方法としては、PCIパススルーとGPU Dockerがあります。PCIパススルーとKVMの組み合わせのほうがGPU Dockerよりも性能が出るため、おおたさんはPCIパススルーでGPU on OpenStackを構築しています。
図25 GPUはどうやって使うのか?
GPU on OpenStackは、VMを作って短期間だけ計算を実行して終わったらVMを壊すという用途に向いているそうです。また、外部クラウドを使えない企業が内部利用する用途にも向いています。
図26 GPU OpenStackは誰のため
PCIパススルーの具体的な設定方法ついて解説がありました。ざっくり言うと、実マシン側でGPUを切り離すように設定して、VM側にくっつけることになります。詳細は発表資料を参照してください。
図27 GPUパススルーはどうやってOpenStackで動くか
図28 GPUの切り離しと付け替え
PCIパススルーによるGPU on OpenStackの制約として、ライブマイグレーションはできません。古いGPUの情報を持ったままで、GPUを移っても起動できないためです。ただし、短期使用の計算目的の場合は、使い終わったらVMを壊すのでそれほど問題にはならないないようです。
図29 ライブマイグレーション
本セミナーは今回の「デスクトップ」というテーマ外の内容でしたが、筆者がいちばん聞きたかった内容です。ただ、発表と資料だけでは実マシンと仮想マシンの関係や設定項目など、理解しきれませんでした。今後、実際に手を動かして確認してみるつもりです。
なお、柴田さんの補足によると、OpenStackに関係しないNVIDIA GPUについては、Ubuntu Weekly Recipeの第454回 、第456回 、第461回 あたりで初心者向けに解説しているとのことです。
セミナー4「デスクトップってそういえばなんだっけ?ありがとうUnity」
@nekomatu さんによる「デスクトップってそういえばなんだっけ? ありがとうUnity 」です。
@nekomatuさんは名古屋在住で、毎月Qt勉強会を開催しています。UnityでQtを押していたということもあり、Unityに興味を持ってウォッチしていたそうです。
@nekomatuさんの見解によると、17.04のリリースが盛り上がらないのは、LTSと比べて新しい機能があまり盛り込まれていないからではないか、とのことでした。そして、開場の参加者に17.04をライブ環境で使ったりインストールしてみたか質問したところ、40人ほどの参加者のうち、ライブ環境14人、インストール4人くらいでした。多くの人は14.04か16.04のLTSを使っているという結果でした。
なお、12.04はEOLとなっているため今も使っている人はいませんでしたが、費用を支払えばCanonical社から有償サポートを受けることができます。
デスクトップ環境がGNOMEに変わると、おそらくインプットメソッドが変更されます。そのため18.04になる前に、早めにGNOMEを触って慣れておいたほうが良いのではないかとのことでした。
図30 GNOMEをとにかく試してみようと語る、@nekomatuさん
KDEでUbuntuっぽいデスクトップ環境を構築するという動画をYoutubeで見て、試しに真似してみたことを紹介しました。ところが気に入らず、逆に、Unityの良いところに気づかされたそうです。
この機会にいろいろ触ってみて、自分にとって使いやすいお気に入りの環境を探してみては、とのことでした。
どのフレーバーを使っているかを会場で質問したところ、Ubuntu(Unity)が半数、残りはUbuntu GNOME、Kubuntu、Ubuntu Budgieが挙がっていました。
あとがき
今回のオフラインミーティングはイベントの募集期間が短かったこともあり、いつもよりセミナー数が少なかったようです。でも、その代わりに多くの裏話を聴くことができました。当時のことを知る人には懐かしく、知らなかった人には新たな発見のある、振り返り会らしいイベントだったと思います。関係者の皆様には、楽しいイベントを開催していただき、ありがとうございました。
なお、次回のオフラインミーティングについては、本連載Ubuntu Weekly Recipeがあと半年ほどで500回を迎えるため、500回記念の冠をつけたいとのことです。