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2024年のLinuxカーネル開発を振り返る

まもなく暮れようとしている2024年、Linuxカーネル開発も年末年始の休暇に入っており、開発者の多くは来たるべき2025年に向けて静かに鋭気を養っているところだろうか。12月27日時点のメインラインカーネルの最新版は次期カーネル「Linux 6.13」の4本目のリリース候補版「Linux 6.13-rc4」で、開発が順調に進めば2025年1月後半にリリースされると見られる。また、安定版(stable)カーネルの最新版は11月17日に公開された「Linux 6.12」の6本目のアップデートである「Linux 6.12.6」だ。Linux 6.12は2024年の長期サポート版(LTS)にも選ばれており、2026年12月までサポートが提供されることになる。

2024年のLinuxカーネルは1月7日に公開された「Linux 6.7」に始まり、11月のLinux 6.12に至るまで、全部で6本の新カーネルが公開された。スケジュールの遅れはほとんどなく、ほぼ2ヵ月に1回のペースでアップデートが行われたことは、Linuxカーネル開発においてはいつものルーティンワークとはいえ、やはり賞賛に値するといっていいだろう。とはいえ、開発のすべてが順調に運んだわけではなく、予定したアップデートが実現できなかったり、逆に長年に渡って待望された機能がようやく実装されたりと、さまざまな紆余曲折があった1年でもある。本稿では2024年のLinuxカーネル開発で話題になったいくつかのニュースをざっくりと振り返ってみたい。

揉め続けるBcachefs⁠Linusはサポートを後悔!?

2024年最初のカーネルとなったLinux 6.7でようやくメインラインにマージされた「Bcachefs」はサポートを待望していたユーザも多かったコピーオンライト(CoW)の次世代ファイルシステムだが、メイン開発者のKent Overstreetによるたび重なる暴言や問題行動のため、現時点ではLinux 6.13以降のアップデートが不透明な状況になっている。メインラインのサポート前からLinus Torvaldsに「カーネル開発の基本ルールに沿っていない」と厳しく指摘されることが多かったOverstreetだが、その後も⁠ルールに沿わない⁠行動を連発、⁠Linux 6.11」の開発サイクル後半の8月には⁠修正⁠と称して機能強化を含む1000行超のプルリクを送りつけ、Linusを激怒させた。このときLinusは「こんなことならBcachefsをマージするんじゃなかった。⁠Overstreetの行動は)馬鹿げているなんて状態をはるかに通り越している」というコメントを残している。

また、Linuxカーネルメーリングリスト「LKML」で他の開発者に対し「頭を診てもらえ。クソなことやりやがって、とっととここから出ていけ」といった暴言を吐いたり、それを諌めるLinuxカーネルCoC(Code of Conduct)委員会に対して延々と自説を展開しながら反論するなど、コミュニティにとって看過できない事態が続いたことから、CoCはLinux 6.13の開発プロセスからOverstreetの参加を認めない決定を下しており、Linux 6.13に向けてOverstreetが提出したBcachefsの機能変更は受け入れを拒否されることになった。期待されていたファイルシステムだけに、現状を憂いているユーザや開発者も多いが、OverstreetはCoCの対応に強い不満を示しており、残念ながら解決は2025年に持ち越しとなってしまった。

“開発者は殺人犯”のRaiserFSがついにメインラインから完全に削除へ

2001年から23年に渡ってメインラインコードに存在してきたファイルシステム「ReiserFS」は、Linux 6.13のアップデートで完全に姿を消すこととなった。ReiserFSの開発者だったHans Reiserは妻殺人の罪(第2級殺人罪)で現在も収監中で、今後もメンテナンスされる見込みがないことが直接の要因。完全にひとつの時代が終わったことを告げるニュースでもあった。

20年来の悲願⁠リアルタイムLinuxのサポートが実現

11月にリリースされたLinux 6.12では、2004年から開発が続けられてきたリアルタイムLinuxを実現するパッチ「PREEMPT_RT」がついにメインラインでのサポートを実現し、開発者たちの長年の貢献に対してLinusも賞賛を贈った。なお、開発中のLinux 6.13では別の遅延プリエンプションである「PREEMPT_LAZY」が新たにマージされる予定だ。

ロシアの開発者12名がメンテナーリストから削除

10月、⁠さまざまなコンプライアンス要件」により12名のロシア人開発者がメンテナーリストから削除されたことは、カーネルコミュニティのみならず、オープンソースソフトウェア開発に関わる人々にも大きな衝撃を与えた。この決定に対し、多くの開発者が反発の声を上げたものの、フィンランドを祖国にもつLinusは「この変更が覆ることはない」と一蹴している。

なお、削除の対象となった開発者のひとりであるSerge Seminは最後の投稿としてLKMLに長い別れのメッセージを投稿、これまでに「カーネルパッチの承認を518件、レビュー/承認されたパッチは253件、テスト済みのパッチは80件」という数の貢献をしてきたにもかかわらず、メンテナーから外されたことに驚きと寂しさを感じるとしながらも、何人かの開発者に感謝を伝え、⁠いつかもっと楽しい場所で会って、いっしょにお酒を飲めたらいいな。でももうお別れの時間だね。Linuxの成功を祈っているよ」結んでコミュニティを去っている


このほかにもRustサポートの拡大や、Linus自身が書いたコードのマージによるパフォーマンス向上、C++サポートに関する議論などにも注目が集まった2024年のカーネル界隈であった。冒頭でも触れたように2025年は1月後半に予定されているLinux 6.13が最初のメインラインアップデートとなる。また、カーネルではないが、2025年半ばには「Debian 13 "Trixie"」⁠Red Hat Enterprise Linux 10」といった注目度の高いディストリビューションの大型アップデートも控えており、2024年同様、さまざまなLinuxニュースに沸く1年になることは間違いない。

今年1年、本コラムをお読みいただき、ありがとうございました。良いお年をお迎えください。

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