OSSデータベース取り取り時報

第124回MySQL HeatWaveのイープラスでの導入事例⁠「PostgreSQL Conference Japan 2025」報告

この連載はOSSコンソーシアム データベース部会のメンバーがオープンソースデータベースの毎月の出来事をお伝えしています。

[MySQL]2025年11月の主な出来事

11月はMySQLサーバーのバージョンアップはありませんでした。前回の原稿締め切り後にMySQL Shell for VS Code 1.19.18+9.5.0がリリースされ、組み込まれているMySQL Shellが9.5.0になっています。11月4日には証明書のインストール時のバグを修正した1.19.19+9.5.0がリリースされています。

MySQL HeatWaveのアップデートとしては、新しいシェイプ(スペック)としてECPU(≒vCPU)×96、メモリ768GBのMySQL.96の提供が開始されています。また、11月18日にMySQL HeatWave 9.5.1がリリースされました。MySQL HeatWave Lakehouseでdatetime_formatオプションが利用できるようになり、ロード対象のCSV内の日時形式が指定可能になっています。

また、オブジェクト・ストレージ上のデータの一部をストアド生成列として表の一部として永続化可能になりました。データをロードまたはリフレッシュするタイミングで、あらかじめ演算済みの値を格納しておくことができます。なお、このストアド生成列が利用できるファイル形式はCSV, Avro, Parquetとなり、9.5.0でサポートが開始されたDelta Lake形式は対象外となります。また利用できるSQL関数には制限があるため、詳細をリファレンス・マニュアルにてご確認ください。

11月6日にMySQL HeatWaveのイベントである「Oracle HeatWave Meet in Tokyo 2025」が開催されました。この中では、パネルディスカッションの形式で、長年にわたりゲームデータのリアルタイム分析にMySQL HeatWaveを活用している「ジニアス・ソノリティ様」と、業界最大級のチケット販売サイトを運営されている「イープラス様」が登壇し、それぞれでのMySQL HeatWaveの採用の経緯や、今後の活用方針が語られていました。

このパネルディスカッション以外にも、スクウェア・エニックスでのMySQL HeatWave on AWSの検証や、統計数理研究所でのMySQL Heatwaveのベクトル・ストアを活用したRAG評価指標の活用事例などの発表、またMySQL HeatWaveのユーザーコミュニティであるHeatWavejpの紹介セッションがありました。HeatWavejpのミートアップとして12月9日(火)の夜に忘年会を兼ねた毎年恒例のMySQL HeatWaveの事例祭りの開催が予定されています。

「Oracle HeatWave Meet in Tokyo 2025」で発表されたイープラスでの導入事例

イープラスは1,900万人の会員が利用するサイトの会員管理システムをクラウドで運用していましたが、多くのチケットの先着販売の開始時間となる土曜日午前10時や、人気アーティストのチケット販売時などにシステム負荷が高まり、処理の遅延が発生していました。この状況に備えるためにあらかじめ多くのインスタンスを立ち上げるなどコスト面も課題でした。打開策を検討する中で、Oracle Cloud Infrastructure(OCI)の上のMySQL HeatWaveで検証を行ったところ、スペックを上げるなどの対応を行わなくても問題なく処理できることを確認。10月中旬に切り替えを行い、想定した構成で負荷に対応できています。さらにコストも削減できていることも採用のメリットと評価していました。

現時点では大量のアクセスが発生する会員管理システムをMySQL HeatWaveに移行し運用していますが、同社ではプロモーションの多角的な効果測定が求められ、時間帯や効いたチャネルなどを解析する分析のニーズが高いため 、MySQL HeatWaveのさらなる活用が期待されています。また業界共通の課題としてチケットの転売やなりすましが問題となっており、イベントに参加することを目的に購入される一般のお客様に買っていただくために、リアルタイムでのデータ分析や機械学習を含めた緻密な分析を進めていきたい旨にも言及されていました。

MySQLおよびMySQL HeatWaveの機能アップデート

「Oracle HeatWave Meet in Tokyo 2025」では、前回の記事でも紹介したMySQL AIを含む、MySQLおよびMySQL HeatWaveのOracle AI World 2025での発表事項も紹介されていました。

MySQL HeatWaveの主な新機能やアップデート
MySQL HeatWaveの主な新機能やアップデート

機能強化に注力するカテゴリとしては、トランザクション処理、アプリケーション開発生産性、データ分析、機械学習およびAIとなっています。ここ数年はHeatWaveクラスターを中心としたデータ分析や機械学習、AIのアップデートがほとんどで、MySQLサーバー側の機能強化の話は限られていましたが、今年は「Oracle AI World 2025」のセッションでトランザクション処理関連機能の強化を筆頭に持ってきたことが戦略の転換を示唆しているといえます。もちろんAI関連でも機能強化は続いており、セマンティック検索の処理性能を向上させるベクトル・インデックスの追加や、キーワード検索とセマンティック検索を併せ持つハイブリッド検索も実装されています。

また、オンプレミスのMySQLサーバーからMySQL HeatWaveへの移行支援ツールであるMySQL HeatWave Migration Assistantも発表されました。

MySQL HeatWave Migration Assistant概要
MySQL HeatWave Migration Assistant概要

このツールによる移行元には、すでに新規パッチのリリースが終了している旧バージョンのMySQL 5.6や5.7も含まれています。ターゲットのMySQL HeatWaveは8.4 LTSと9.xイノベーション・リリースの両方となっています。

[PostgreSQL]2025年11月の主な出来事

「PostgreSQL Conference Japan 2025」が開催されました。その中のセッションから2つを紹介します。また、セキュリティ脆弱性の修正を含むマイナーバージョンがリリースされました。

「PostgreSQL Conference Japan 2025」報告

11月21日に、日本PostgreSQLユーザ会(JPUG)主催の恒例イベント、「PostgreSQL Conference Japan 2025」が開催されました。午前の基調講演から始まり、午後は複数トラックに分かれて多数の講演発表が行われました。

ここでは、その中からデータ活用の幅を拡げるのに役立ちそうな講演を2本紹介します。

Change Data Capture入門⁠DebeziumでPostgreSQLのデータを解放しよう!

SRA OSS鳥越淳さんと馬雪テイさんによる講演です

講演では最初に、Change Data Capture(CDC)やDebezium(ディビジウム)の概要が紹介されました。CDCとは、データベースへの変更を観察して他システムへレプリケーションできる形態でデータを取り出すプロセスです。異種のDBMS間で使用するのが一般的でしょう。そして、DebeziumとはOSSのCDCツールで、PostgreSQLなど各種のOSSデータベース(MySQL、MongoDBなど)の他、商用DBMSのいくつかにも対応しているようです。そして、動作するときは、基本的にApache Kafkaと連携してCDCを実現します。

CDCが使いたくなるユースケースとしては、データベースへの負荷をオフロードしたい場合が代表的でしょう。たとえばOLTP系のデータベースがあるときに、そのデータを使ってOLAPを行いたいけれど、元のOLTPのデータベースが過負荷になってしまうのを防ぎたい場合などです。また、何らかの理由で異種のデータ処理ツールにデータを渡したいけれど、バッチ処理では遅いというケースも考えられます。

講演の後半では、PostgreSQLデータベースから他システムへのデータ連係にDebeziumを使う場合にどのようなデータ処理が行われるのかや、PostgreSQL用のコネクタであるDebezium PostgreSQL Connectorの説明、アーキテクチャ面から考えたDebeziumの注意点が説明されました。

CDC実現後のイメージ
CDC実現後のイメージ
PostgreSQLでのセマンティックサーチへの挑戦 — PGroongaとRaBitQによる新しい検索体験

PGroongaの開発者であるクリアコード堀本泰弘さんと阿部智晃さんによる講演です

ITにとってデータ検索は古くて新しいテーマです。どんな検索条件が可能かはITの歴史と共に進化し続けています。長い文章から部分文字列を探す全文検索は、昔は難しい検索技術でした。今では意味や文脈から関連性の高いデータを見つけ出して提示するセマンティックサーチが普通に使われるようになってきました。その最たるものがLLM(大規模言語モデル)でしょう。この講演は、PostgreSQLに保存されたデータ検索に、LLMでも使われるデータをベクトル化する手法の紹介です。PostgreSQLでベクトル化データを使うにはpgvectorが有名です。2023年の本イベントでのpgvectorの講演をこの連載でも紹介しました。今年のこの講演では、PGroonga(ピージールンガ)を使った方法が紹介されました。

PGroongaとは、全言語対応の超高速全文検索機能を提供するPostgreSQLの拡張機能で、PostgreSQLのインデックスとして使えます。PGroongaだけだと、日本語などで全文検索が行えるようになるところまでですが、ベクトル化したデータにより類似度で検索できるようにするために、もうひとつ別のOSSとしてRaBitQを使う方法の紹介がこの講演のポイントです(RabbitMQと似た名称ですが異なるOSSです⁠⁠。

pgvectorを使う方法と比較して、今回のPGroongaとRaBitQを使う方法では一長一短があるとのことです。新しいデータがPostgreSQLデータベースに追加される場合、INSERT時にベクトルデータが自動生成されるので、新規追加データを速やかにセマンティックサーチの対象にしたい場合にメリットが大きそうです。

PGroongaのベクトルデータ挿入「PostgreSQLでのセマンティックサーチへの挑戦」 © 2025 堀本 泰弘/阿部 智晃 CC BY-SA 4.0
PGroongaのベクトルデータ挿入

セキュリティ脆弱性を修正したマイナーリリース(最新バージョン18を含む)

11月13日、最新のバージョン18を含むサポート中の全バージョンについて、バグ修正が中心のマイナーバージョンがリリースされました。リリースされたのは、PostgreSQL 18.1、17.7、16.11、15.15、14.20、13.23です。

このマイナーリリースには、以下のセキュリティ脆弱性の修正が含まれています。

CVE-2025-12817 — CREATE STATISTICS はスキーマCREATE権限のチェック無し
PostgreSQLのCREATE STATISTICSコマンドに権限がないため、テーブル所有者は任意のスキーマにテーブルを作成することで、他のCREATE STATISTICSユーザーに対してサービス拒否攻撃を実行できました。その後、CREATE権限を持つユーザーが同じ名前のCREATE STATISTICSコマンドを実行すると失敗しました。
CVE-2025-12818 — libpq は整数ラップアラウンドにより割り当てサイズが小さく
libpqクライアントライブラリの複数の関数における整数ラップアラウンドにより、アプリケーションの入力プロバイダまたはネットワークピアがlibpqの割り当てサイズを不足させ、数百MBの範囲外の書き込みを引き起こす可能性がありました。その結果、libpqを使用するアプリケーションでセグメンテーション違反が発生しました。

PostgreSQL 13 のサポート終了

前述のマイナーリリースのお知らせにおいて、バージョン13のサポートが終了する旨の注意もアナウンスされています。 今回リリースされたバージョン13.23が最後のリリースとなり、今後はセキュリティ脆弱性やその他のバグがあっても修正版はリリースされません。

2025年12月以降開催予定のセミナーやイベント⁠ユーザ会の活動

イベントごとに利便性のあるオンライン開催や、従来通りのオンサイト(会場)開催、またはハイブリットが混在するようになっています。興味を持たれて参加したいイベントの開催形態にご注意ください。

オープンソースカンファレンス(OSC)〔12月〜2026年1月開催分〕

日程 〔Hiroshima〕2025年12月13日(土)10:00~18:00
〔2026 Osaka〕2026年1月31日(土)10:00~17:45
場所 〔Hiroshima〕サテライトキャンパスひろしま
〔2026 Osaka〕大阪産業創造館 3F-4F
内容 オープンソースカンファレンス(OSC)は、オープンソースの今を伝えるイベントです。東京だけでなく、北は北海道、南は沖縄まで、年間を通じて全国各地で開催しています。オープンソース関連のコミュニティや協賛企業・後援団体による、セミナーやプロダクトの展示などを入場・参加料が無料でご覧いただけるイベントです。現在は開催地域によってオンラインとオフラインで開催しております。
〔Hiroshima〕日本PostgreSQLユーザー会中国地方支部長によるpg_duckdb入門のセッションと、日本MySQLユーザ会のメンバによるセッションが予定されています。
〔2026 Osaka〕出展者(団体)の募集中です。タイムテーブルの公開は12月下旬からを予定しています。
それぞれの開催回でのOSSデータベース関連の発表の詳細は、公開されるプログラム詳細をご参照ください。
主催 オープンソースカンファレンス実行委員会

ローカルLLMと超低遅延AI⁠次世代RDB劔”Tsurugi”を事例で解説

日程 2025年12月3日(水)12:15〜12:45
場所 ウェスティンホテル東京(東京都目黒区)
内容 2025年12月2日~4日に開催されるガートナー主催「ITインフラストラクチャ、オペレーション&クラウド戦略コンファレンス」⁠有料イベント)でのセッションです。現在LLM(生成AI)の利用はクラウドとオンプレ(ローカル)の2つに分かれつつあります。ローカルLLMは、コストオーバーなし・低遅延・セキュリティが高い、というメリットがあり、企業内の業務での利用が進みつつあります。ローカルでの生成AIの利用はデータべースとの相性がよく、特にOSSの次世代RDBであるTsurugiは高い親和性があります。Tsurugiは世界最高クラスの性能を誇り、またリードおよびライトのどちらでもロックを取らないで一貫性を担保する高度な仕組みを提供し、低遅延処理・バッチ処理双方に秀でており、特にローカルでのAI処理をストレスなく実行できます。Tsurugiでの低遅延AI・ローカルLLMの詳細をデモを交えつつ解説します。
主催 ガートナージャパン

PostgreSQLのお悩みをEDBでマルっと解決!PostgreSQLとEDBの違いとは?

日程 2025年12月12日(金)14:00~14:30
場所 オンライン開催(Zoomウェビナー)
内容 PostgreSQLについて「セキュリティ面を強化したい」⁠こういう機能はないの?」⁠性能改善したいんだけど…」といった相談も多く、それらの課題をPostgreSQLで/EDB Standardで/EDB Enterpriseで、どう解決できるのかが解説されます。
主催 株式会社アシスト

MySQL HeatWave進化図鑑⁠Oracle AI World 2025で発表された新機能とAI対応強化の要点

日程 2025年12月17日(水)15:00〜16:00
場所 オンライン ⁠Zoom)
内容 「分析は別基盤、AIは専用サービス、運用は複雑⁠⁠—そんな日常から抜け出したい方へ。分断されたデータ基盤や高コスト、遅い意思決定、DR/セキュリティ要件の高度化、そして開発生産性の伸び悩みは、多くの企業が抱える共通の課題です。本ウェビナーでは、2025年10月に米国ラスベガスで開催されたOracle AI World 2025にて発表されたMySQL HeatWaveの最新機能を、課題別にわかりやすく紐づけてご紹介します。
主催 日本オラクル株式会社

MySQL Technology Cafe リターンズ(テーマは調整中)

日程 2026年1月28日(水)19:00〜21:30
場所 オンライン
内容 MySQLの技術ネタをあれこれご紹介するMySQL Technology Caféが帰ってきました。テーマは近日決定、申し込みサイトは近日公開予定です。開催はオンラインのみの予定です。
主催 Oracle Code Night

db tech showcase 2025 Tokyo(アーカイブ配信)

日程 2025年8月21日から当面の間
場所 オンライン配信
内容 国内で開催されるデータベース関連の主要なカンファレンスのひとつです。OSSデータベース専門のセミナーではありませんが、MySQLやPostgreSQLをはじめさまざまなOSSデータベースについての多数のセッションが毎年設けられています。
主催 株式会社インサイトテクノロジー

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