Pythonで学ぶ衛星データ解析基礎 ――環境変化を定量的に把握しよう

著者の一言

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私たちが暮らしている地域,ひいては地球は,いまどのような状況にあるのでしょうか?

近年,異常気象の発生回数が増加したり,自然の多様性が失われていたりといった変化があちらこちらで発生しています。身近な地域でも,目まぐるしく建物の建て替えなどにより地域の風景が変わっている方も多いことでしょう。このような中で,さまざまな変化を把握できるようになることは非常に重要です。

変化を把握する1 つの手段として人工衛星による地球観測データ(以下,衛星データ)の利用が有効です。人工衛星は地球を周回することで世界中を定期的に観測するため,時間に応じて移り変わる地球環境の変化をとらえるのに向いています。衛星データは高額だろうなと想像される方が多いと思いますが,現在は無料で公開されているデータも多くあります。無料の衛星データの場合,人がどこに移動しているかということを見るには十分ではありませんが,どこに建物が建てられたか,どこの森林が伐採されているのかといったことを把握できます。さらに,人工衛星はさまざまなセンサで地球を観測しているため,地表面温度や水質など私たちの目に見えない変化もとらえることができます。無料で公開されている衛星データも多く蓄積されてきたことで,機械学習を使った解析

事例やツールも徐々に増えてきています。近年ではデータサイエンティストが参加するコンペティションの題材として衛星データが利用されることもあります。地域や地球の状況を知ることができるデータやツールが整備されつつある中で,これらを使いこなせる人をもっと増やす,という課題があると私たちは考えています。しかし,広く一般の方を対象とした,データやツールの利用方法について解説した入門書はまだ多くありません。

そこで,本書籍では人工衛星による地球観測の概要から始まり,土地の利用区分や海岸線の変化など地球環境に関連した課題について,データサイエンスでよく用いられるプログラミング言語であるPythonを利用して衛星データ解析手法について解説しています。これにより,地域課題や地球的課題に取り組まれる方々に新しいデータとツールの理解へ部分的に貢献できると考えています。まずは,身の回りのことを衛星データで把握できるようになってから,最終的には地球上のあらゆる地域の接続可能な発展への貢献に衛星データを駆使する方々が増えることを願っています。

著者プロフィール

田中康平(たなかこうへい)

青山学院大学非常勤講師 2017年総合研究大学院大学物理科学研究科宇宙科学専攻修了,博士(工学)。現在は青山学院大学の他,慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特任講師として研究に従事。立ち上げ当初から株式会社sorano meと宇宙ビジネスメディア宙畑にかかわり,衛星データ解析に関する業務や記事の企画編集を行う。超小型人工衛星の開発に複数機携わっていたものの,なかなか衛星データの利用が促進しないことに課題を感じて衛星データ利用に興味を持ち現職に至る。京都府出身。


田村賢哉(たむらけんや)

専門は地理学。東京大学渡邉英徳研究室の「ヒロシマ・アーカイブ」のプロジェクトに参加し,コミュニティベースの記憶の継承活動を研究テーマにする。2017年,「記憶」を現在のデータベースに保存しきれない課題から,データベース開発,可視化ツール開発をする株式会社Eukaryaを設立。2019年,国内クラウドファンディング史上最高額の2.76億円の調達に成功し,2021年に汎用WebGIS「Re:Earth」をリリースする。東京大学大学院学際情報学府博士課程在籍,株式会社Eukarya 代表取締役,日本学術会議地理教育分科会地図・GIS 小委員会委員,星槎大学 非常勤講師。


玉置慎吾(たまきしんご)

長崎大学熱帯医学・グローバルヘルス研究科修了,公衆衛生学修士(MPH)。現在は,企業のDXやデータ利活用におけるコンサルタント業務に携わる。専門は環境疫学であり,インドネシアでの大気汚染と特定疾患における健康被害の因果関係について研究を行った。株式会社sorano meで衛星データ解析に関する業務,宙畑での記事執筆も行う。春になったら野苺を摘むのが趣味,鹿児島県出身。


宮﨑浩之(みやざきひろゆき)

2010年4月より東京大学にて日本学術振興会特別研究員,2012年4月より特任研究員,2016年4月より特任助教。2012年1月~2015年3月にアジア開発銀行本部(フィリピン)に出向し,国際開発協力における地理空間情報技術の利活用と利用促進に従事。2016年8月よりアジア工科大学院(タイ)・客員助教。研究分野は,衛星リモートセンシングによる社会経済モニタリング・モデリング,開発課題や国際協力プロジェクト等への応用。2020年8月に株式会社GLODALを設立,宇宙利用・AI・IoTに関する研究開発事業と人材育成事業を国内外に展開している。