この記事を読むのに必要な時間:およそ 1 分
筆者がアジャイルソフトウェア開発に興味を持ちはじめた当初,日本のソフトウェア開発の現場でアジャイルな開発をしている会社を探すのはとてもたいへんでした。しかし,転職活動の際に幸運に恵まれ,2012年にXPのプラクティスで開発をしているチームに入ることができました。モバイルゲームを開発する5人ほどのチームでした。これが筆者のアジャイルソフトウェア開発経験のスタートです。
そこから10年近くが経ち,多くの企業でアジャイルソフトウェア開発が試みられるようになってきました。アジャイルを題材にしたカンファレンスには毎回何百人もの人が訪れ,コミュニティも活況です。現在のアジャイル開発の現場ではスクラムが多く用いられており,転職活動の際にスクラムを採用している企業を探すのは,以前ほどは難しくなくなりました。
さまざまな現場で扱われるようになると,多様なニーズが生まれます。そのニーズの中には,「より大規模な開発をスクラムでやるにはどうすればよいか」というものがありました。これは人々にとってとても大きな関心事のようで,「大規模スクラム」をやるための数多くの手法が編み出されます。LeSS,Nexusなどです。日本のアジャイルコミュニティではLeSSの事例を多く見かけますし,日本語書籍も出版されています。
これらの「大規模スクラム」の手法はそれぞれに特徴を持っており,LeSSの導入事例が多いからといってそれが自分たちの現場にマッチするとは限りません。世の中にはさまざまなチームがあり事情はさまざまなため,選択肢はいくつかあったほうがよいでしょう。
本書ではそのような「大規模スクラム」の手法の一つである,Scrum@Scaleを中心に取り上げます。
本書では,はじめにスクラムをスケーリングする意義と難しさを考えていきます。これはスクラムやソフトウェア開発に限った話ではありません。「規模の大きなもの」を扱うことは本質的にとても難しい仕事です。第1章では,スクラムをスケーリングすることを通じて,そのような難しさを考えます。
第2章では,スクラムの用語を復習できるようにしました。スクラムに関する十分な知識を持っている方は読み飛ばしても問題ありません。本書はScrum@Scaleを中心に大規模なスクラムの解説をしていきます。Scrum@Scaleの解説では当たり前のようにスクラムに関する用語が頻出します。そのため,本書ではじめてスクラムに触れる方やスクラムを復習したい方は,第2章を参考にしてください。
続いてScrum@Scaleの解説に入っていきます。第3章ではイメージが湧きやすいように,ちょっとしたストーリー仕立てでScrum@Scaleによる仕事の流れを説明します。
その後,第4章と第5章で,第3章のストーリーの中に登場した用語などを詳しく解説していきます。これらの章の解説は公式ガイドを手がかりとしているため,本書を読むだけでもScrum@Scaleを理解できます。しかし,学習の際には原典にあたるのがとても重要です。公式ガイドを未読の人はぜひ本書を読んだあとに公式ガイドにも目を通してください。
理屈だけを説明されてもなかなか実践には結び付きにくいものです。第6章ではScrum@Scaleを導入する手がかりとして,導入順序の例を紹介します。
最後の第7章では,筆者が実際に所属しているチームでのScrum@Scaleの取り組みを紹介します。これによって,現場での実践方法がイメージしやすくなるのを期待しています。
本書では,公式ガイドだけではわかりにくい,より実践的な考え方などを加えることで,みなさんの現場へ適用する手助けになりたいと考えています。
最後に,本書はたくさんの人のご協力によって完成しました。
吉羽龍太郎さん,大友聡之さん,和田圭介さん,児山直人さん,湯川正洋さん,遠藤良さん,dairappaさん,山根英次さん,中村洋さん。これらの皆さんは本書全体のレビューをしてくださいました。
石毛琴恵さん,増田謙太郎さんは,第3章の架空のチームの活動に対して,ゲーム開発の現場としてよりリアリティが出るようなアドバイスをいただきました。
北濱良章さん,tunemageさんは,本書の骨子として最初に書き終えた時点の第4章の感想をくださり,その後の執筆継続の励みになりました。
藤井善隆さんには同僚として第7章のレビューをしていただきました。
執筆に疲れたときには,open air 湊山醸造所のビールはとても良いリフレッシュになりました。
編集者の池田大樹さんは企画書の作成からすべての工程を伴走してくださり,この人がいなければ本書を作り切ることはできませんでした。
執筆期間中は妻の支えによって,良い環境を維持できました。
皆さん本当にどうもありがとうございました。
2023年7月
粕谷 大輔