著者の一言

どうしてモチベーションが上がらない、やる気が出ない?

  • 「生産性向上と言われても、そもそもやる気が出ない」
  • 「やらなきゃやらなきゃと思いつつ、ぱっと取りかかれない」
  • 「つい先延ばしにしてしまう」
  • 「自律的にと言われるけれど、評価のことを考えると上司の顔色をうかがってしまう」
  • 「副業OKとか言われるし、何かスキルアップになること始めなきゃと思ってるんだけど……」
  • 「ダラダラして、時間を無駄にしてしまっている」
  • 「読みたかったはずの本すら、めんどくさいと感じてしまう」

本当は、やらなきゃいけないことも、やりたいこともスムーズに取りかかれたらいいのに、それがなかなかどうして難しい。そして、こんな悪循環に陥ってしまいます。

  • ①放っておいても、やる気やモチベーションが湧いてこない
  • ②やらなきゃやらなきゃと思いつつ、取りかかれずモヤモヤ
  • ③思うようにやれていない、進んでいないと罪悪感を感じたり、自分を責めて落ち込んだり
  • ④その結果、さらにやる気やモチベーションが下がる

ここをぐるぐるぐるぐるしてしまうのです。

なぜ、このようになってしまうのでしょうか?
3つの大きな誤解が、私たちがこの悪循環から抜け出すことを阻んでいます。

1つめの誤解「責めることで、やる気やモチベーションが湧いてくる」

私たちは、思うような進捗があがっていないとき、こんな具合に自分を責めてしまいます。

  • 「やらなきゃってわかってるのに取りかかれないなんて、自分はダメなやつだ……」
  • 「こんな効率の悪いやり方をしていたら、仕事ができないやつだって思われるぞ」
  • 「こんなこともうまくできないなんて。努力が足りてないんだ」

責めたり脅したりしないとがんばれない、という思い込みから、お尻を叩いて追い立てるように自分に言い聞かせてしまうのです。

けれど、実際には自分を責めても、やる気やモチベーションを引き出すことができません。自分を責めると、人は自己嫌悪に陥ります。そんなときに、前向きなエネルギーが出てくるでしょうか。むしろ、逆効果。責めれば責めるほど、自分の気力やエネルギーを奪ってしまうことになるのです。

これは、部下が自分の思うとおりに仕事を進められないときに強く責めるなど、上司と部下の間にもよく起こっていることです。上司は発破をかけるつもりで部下を叱咤激励したのだけれど、部下のモチベーションはむしろ下がってしまう……そんな光景をよく見かけます。

2つめの誤解「やる気やモチベーションを引き出すには“アメとムチ”が有効」

日本の社会に広く採用されている成果主義は、まさに“アメとムチ”の考え方がもとになった手法です。

  • 「昇給を約束されれば懸命に働くだろう」
  • 「遅刻や違反が減給につながると言われれば、定時に出勤をして、違反をしないように気をつけるだろう」

こんな考え方があたりまえになっています。

  • 「部下にポジティブなフィードバックをしましょう」
  • 「いいところがあったら積極的にほめるようにしましょう」

こんな管理職向けの研修も、よく見かけます。
でも、それって本当?

心理学のさまざまな研究で、アメとムチが私たちの長期的なやる気・モチベーションを失わせることがわかってきています。短期的には有効な面もあるのですが、モチベーションの理由が「ご褒美をもらうため」⁠罰を受けないため」になってしまったとたん、⁠面白いからやってみる」⁠興味があるから調べる」といった意欲や興味が失われてしまいます。

また、アメは人の創造力を鈍らせることもわかっています。AIと協働していく労働環境を考えると、私たちヒトが担うのは、創造性の発揮です。そういった意味でも、これからの働き方に、アメとムチをもとにした成果主義は合いません。

3つめの誤解「やる気やモチベーションの問題は『内側』の問題だと思われている

「やる気やモチベーションの問題は自己責任だ、自分だけでなんとかしなくてはいけない」

そんな風に考えている人もいます。けれど、

  • 「なんでやる気を出せないんだ!」
  • 「モチベーションがないなら振り絞ってでも出せ」

といった気合と根性だけの自己責任論では、やる気もモチベーションも湧いてきません。⁠内側」の問題のように思われがちだけれど、じつは、どう指示が与えられているか、フィードバックをもらう仕組みはあるのか、職場の風土はどうなっているのか、といった「外側」⁠環境)も大事なのです。

では、どうしたらいいのか。

自分を責めるのではなく、自分にやさしく。行動科学にのっとって冷静に、自分のやる気やモチベーションのために、仕事の仕方や働き方、そして働く環境を設計する。そんなやり方が必要です。

私は、これまで、働く人のポジティブな心理状態(ワーク・エンゲイジメント)をいかにつくり出すか、やる気やモチベーションの高さと健康をいかに両立するのかという観点から研究し、さまざまな組織での実践をおこなってきました。

本書では、モチベーションややる気にまつわる問題を地図にして、それぞれに解決策を提案しています。解決策は、心理学や行動科学にのっとったもの、かつ、手軽に取り入れられるカタチで紹介しています。

ちなみに、⁠やる気」は私たちが普段何気なく使う言葉で、⁠モチベーション」は学術用語ですが、最近では「モチベーション」も一般用語として使われるようになっています。本書では、私たちが普段使う日常語としての「やる気」「モチベーション」にまつわる問題を、心理学のモチベーション理論に基づいて、ひも解いていきます。

まずは、巻頭の地図を広げて、

  • 「ここで自分のモチベーションを下げることになってしまっている」
  • 「自分の働く環境はここが整っていない」

とあなたが行動することを阻んでいる要因を見つけて、解決のための方法を試してみてください。自分のモチベーションとの上手なつきあい方を見つけて、⁠モチベーションが上がらない」と頭を悩ませて時間を浪費するのではなく、サクッと仕事にとりかかれて、気持ちよく進められる、そんな毎日を実現させましょう!

関屋裕希(せきやゆき)

博士(心理学)。臨床心理士。公認心理師。キャリアコンサルタント。

東京大学大学院医学系研究科デジタルメンタルヘルス講座特任研究員。

早稲田大学文学部心理学専攻卒業,筑波大学大学院人間総合科学研究科発達臨床心理学分野博士課程修了後,2012年より現所属にて勤務。2022年より現職。

専門は,産業精神保健(職場のメンタルヘルス)であり,おもにポジティブ心理学,組織心理学,認知行動的アプローチの知見を活用して,従業員や管理監督者向けのワーク・エンゲイジメントやウェルビーイング向上プログラムの開発に従事している。業種や企業規模を問わず,メンタルヘルスに関する講演,ストレスチェックをはじめとする企業の組織的なメンタルヘルスや健康経営施策に関するコンサルティング,執筆活動をおこなっている。

エビデンス(科学的根拠)に基づいたプログラムでありながら,現場で取り入れやすいアプローチである点が特徴。

臨床心理士として,精神科クリニック,小中高のスクールカウンセリングでの個人カウンセリング経験があり,現在も,企業内健康管理室にて個人カウンセリングを担当する経験から,組織的視点と個別的視点の両方をもちあわせている。

ホームページhttps://www.sekiyayuki.com/
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