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『プラグマティズムの作法』を推す―特別寄稿 中野剛志

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ご好評いただいております,藤井聡先生のプラグマティズムの作法⁠,重版も出来上がりまして絶賛発売中です。今回の重版にあわせ,⁠TTP亡国論』などで知られる中野剛志先生より推薦文をいただきました。中野先生は,2012年5月まで,京都大学で藤井先生と同じ研究室に在籍,⁠レジリエンス研究ユニット」として基礎研究および具体的な政策提言を進めておられた,いわば同志とも言うべきお方です。では,中野先生による推薦文をどうぞ。

『プラグマティズムの作法』を推す

この二十年間というもの,⁠閉塞感」という言葉を聞かない日はない。確かに,日本は,政治も経済も社会も文化も,会社も学校も親戚づきあいすらも,すべて,閉塞感に覆われている。これまで何度も,⁠閉塞感の打破」を目指して,もっともらしい改革が提案され,実行されてきた。しかし,逆に閉塞感は深まるばかりだ。

ここまで病膏肓に入ると,日本人の精神や思想が,根本のところで,何か大きな間違いを犯していると考えるしかない。

その根本問題を,藤井聡教授は,ずばり「プラグマティズムの不足」だと診断する。そして,日本中を覆う閉塞感の迷路から抜け出る「導きの糸」として,⁠プラグマティズムの作法」を提示する。

その作法とは,一つに,目的を見失わないこと。そして二つに,お天道様に顔向けできないような振る舞いはやめること。

「なんだ,それだけのことか」と言うなかれ。それだけのことが,いかにできていないことか。

本書があげる多数の具体例を読めば,賢明なる読者であれば,心当たりがあるはずだ。そもそもの目的を忘れ,目先の利益や形式に異様に執着し,しまいには周囲の人々を巻き込んで,閉塞感の檻の中に閉じこめる。そんな振る舞いが,企業でも,学界でも,政治でも,行政でも行われている。その無数の積み重ねの結果が「失われた二十年」だ。

デフレ不況,世界的な経済危機,大震災,政局の混乱……。日本はさらに「閉塞感」の雲に覆われている。だが,この暗く厚い雲を振り払うのに,⁠抜本的構造改革」「維新」もいらない。それらはむしろ閉塞感の原因なのだ。やるべきことは,我々一人一人が常識に立ち返り,今一度,自分の行動の目的が何か,それがお天道様に顔向けできるものか,問い直しながら,日々の具体的な問題を解決していくことだ。この易しいようで難しい作法が,これ以上ないわかりやすさで書かれている。本書自身が,プラグマティズムの作法を実践しているのである。

中野剛志