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増大し続ける我が国の医療費 10年後には50兆円を超える
2014年度の我が国の医療費総額はついに40兆円を突破しました。中でも目立つのは高齢者の医療費の増加です。75歳以上の高齢者の年間医療費は1人当たり平均で約93万円。75歳未満は約21万円なので,じつに4倍以上となっています。
高齢化だけでなく医療の高度化も医療費の増大に拍車をかける要因となります。たとえばがん治療に有効とされる陽子線治療は,1回あたり300万円。話題となったC型肝炎の新薬は1錠8万円という高額です。また今後進展が期待される再生医療など医学の進歩は,一方で医療費の増大につながるという指摘もあります。
厚生労働省の試算によれば日本の医療費総額は2025年に52兆円に達する見込み(図1)。国としても医療費削減に取り組まざるをえず,GDPの縮小と相まって国民負担のさらなる増加が避けられない状況です。
図1 日本の医療費の推移
医療費削減のための大きなポイントが病気になる前の予防です。癌,心疾患や脳血管障害といった三大疾病も,メタボリックなど生活習慣から悪化することが知れられていますが,逆に言うならば生活習慣を改めることで,これらの病気を未然に防ぐことが十分可能なのです。
「予防医学」が根付くために必要なのが,一人ひとりの健康や医療・医学に対する知識と理解です。20万人以上の医師が登録しているという日本最大の医療専門サイトm3.comによる2015年の調査では,医師と患者の意識の差が明らかになりました。「日本の医療の問題点は?」という質問に対し医師側のトップが「患者の理解不足」(48.5%)だったのに対し,患者側は「診療の待ち時間が長い」(52.1%)でトップ。ちなみに「患者の理解不足」は患者側が20.2%,「診療の待ち時間が長い」は医師側は25.6%と,両者のギャップが大きいことも特徴。
その他に両者のギャップが大きかったものには,「医療機関選択の際の情報が少ない」(医師側9.9%,患者側30.4%),「病気に関する正確な情報が得られにくい」(医師側6.7%,患者側26.1%)などが挙げられています(図2)。総じて言えることは,医療知識・情報とその理解において,医師と患者の間で大きなギャップがあるということです。
図2 日本の医療の問題点
出典:厚生労働省資料
医師の側からは気軽に医療機関を利用しすぎるという「コンビニ受診」が多いという意見が強く,受診患者の増大が診療の待ち時間の長さとその不満にもつながっていると考えられます。
予防医学の重要性と,日本の医療と医師の現状を鑑みると,おのずから浮かび上がるのが国民一人一人の医療と医学に対する知識と理解が不可欠であるということ。医師に頼りすぎず,自らの健康を自分で守るという視点と姿勢が必要であること。
ITと通信環境の変化が 家庭医学を大きく変える!
必然的に「家庭医学」という概念がクローズアップされてきます。個々人,家族単位で自分たちの健康に対する意識を高め,情報と知識を蓄える。イザというときの対処や対応を身につける──。
これまでは「家庭医学」というと本来の医学や医療の付属物という感覚が強く,軽く考えられがちでしたが,今後はさまざまな状況や環境の変化から,むしろ重要なヘルスケアの概念として取り上げられていくことになると考えます。
インターネットや通信環境の拡充と発達が,これらの展開をより迅速かつ広範にしていくことは容易に考えられます。実際,スマホのアプリには日本全国の病院や医師の検索ができたり,応急処置の方法が即座に分かるアプリ,薬の種類や飲み方から食事&カロリー管理ができるアプリなど,実に様々なアプリが無料で利用できる環境が整っています。
健康と医療・医学に対する意識の大きな変化と,それを促すITなど通信&情報環境というインフラの拡充が,「家庭医学」という概念を大きく変えていく可能性を秘めているのです。