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革命の荒波を生き延びるためには

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最近,メディアには「DX」という文字がやたら目につくと感じませんか? DXは,Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)の略で,人工知能(AI)やビッグデータなどのデジタル技術を使って,企業が競争上の優位性を獲得することです。GAFA(グーグル,アマゾン,フェイスブック,アップル)を始めとする,世界を牽引しているIT企業は,このDXによって,この十数年の間に急成長を果たしました。

2018年9月,経済産業省は「DXレポート」と呼ばれる報告書を公表し,⁠日本の企業がDXを実現できなければ,2025年以降,最大年間12兆円の経済損失が生じる可能性がある」と訴えました。この危機的状況は「2025年の崖」問題と呼ばれています。

コロナ禍において日本政府のIT活用能力が劣っていることが誰の目にも明らかになりました。ただ,民間企業のIT活用能力も世界的にみるとかなり劣っています。国際経営開発研究所(IMD)のレポートによると,日本のIT競争力は世界63か国の中で23位であり,東アジアの主要諸国の中でも下位に位置付けられています。

過去3年間の東アジア主要国と米国のIT競争力の順位(IMD, 2019)

過去3年間の東アジア主要国と米国のIT競争力の順位(IMD, 2019)

その報告書を詳しく見ると,日本は人材では46位,ビジネスの機敏性では41位と評価されており,IT基盤は整備されているが,それを活用する能力に乏しく,適用するまでに時間がかかると見なされているのです。IT業界に身を置いている人の中には,この評価を不当だと感じている方もおられるでしょう。しかし,携帯電話やデジタルテレビでトップを走っていると思っていたら,いつの間にか後塵を拝していたように,世界のスピードは私たちの想像以上に速いのです。

先進企業は継続的改善によって,組織とサービスを日々進化させています。例えば,フェイスブックの場合,2012年には本番環境へのリリースが毎日3回実施され,毎月約1千万行の変更がなされていました。アプリケーション開発者がコードを変更すると,その変更は自動的に構築され,テストされ,遅くとも一週間以内に運用環境に展開されます。また,運用環境からはビジネスや顧客の情報が収集され,組織が進化するための客観的指標として利用されています。

高速なサービス改善サイクル

高速なサービス改善サイクル

本書DX時代のサービスマネジメント~⁠デジタル革命⁠を成功に導く新常識のタイトルの一部である「サービスマネジメント」は,サービスへの投資とサービスの品質を管理することです。サービスマネジメントは,企業活動のあらゆる業務と関係しており,1つの部門で手に負えるものではありません。高速な改善サイクルを実現するためには,組織が一体となって取り組む必要があり,経営層が積極的に関与することが求められています。

DXの解説書は数多く存在していますが,その多くはデジタル技術そのものをテーマにしています。本書は,トランスフォーメーション(組織改革)に焦点を合わせており,GAFAの強さの秘密を,ビジネスの観点からだけではなく,アプリケーション開発者やシステム運用者の視点からも解き明かします。

著者プロフィール

官野厚(かんのあつし)

オリーブネット株式会社 代表取締役社長。東北大学理学部数学科卒業後,日本ディジタルイクイップメント,日本オラクルなど,複数のコンピューター企業に勤務する。サン・マイクロシステムズ時代に,データセンターの運用サービス認証プログラムに従事。その後,サービスマネジメント全般のコンサルタントとして,主に,ITIL(R)関連教育コースを開発・販売・提供し,現在に至る。2017年1月からの2年間は,JICA海外協力隊のシニアボランティアとして,スリランカの職業訓練学校でコンピューター教育に携わる。翻訳書に『THE VISIBLE OPS HANDBOOK―見える運用』(ブイツーソリューション),著書に『ITILの基礎―ITILファンデーション(シラバス2011)試験対応』(マイナビ)。