「契約」 は身を助ける?
これまでの連載の中では,
しかし,
したがって,
最近では,
また,
そこで今回は,
- ※
本連載の第1回,
第2回でも言及したとおり, 「権利者の許諾を受ける」 という作業はそれ自体手間がかかるものですし, 心理的にも窮屈だと感じることが多いのではないかと思います。また, 首尾よく許諾を受けられたとしても, 対価の支払いやその他仔細な条件が付されることによって, 表現活動が制約される恐れがあるため, できれば 「許諾」 の伺いを立てる前に何とかならないか, と思うのが普通でしょう。 先に述べたように,
どのような場合に許諾が必要で, どのような場合に許諾を受けずに済ませるか, というボーダーラインは極めて微妙なものなのですが, 裏返せば, 権利者の側にとっても, どのような場合に許諾の対象とするか (あるいは無断使用しているユーザーに権利行使するか), という判断は難しいもので, しかも, 手間がかかる作業は避けたいという思いも当然あります。 権利者側の
「建前」 と 「本音」 を探りつつ, 許諾を受けることのコスト・ リスクと, 許諾を受けないことによるコスト・ リスクを見極める知恵が, ユーザー側には求められるのではないかと思います。
著作権の利用許諾のための 「契約」
- (1)
街角の変わった看板を紹介するブログを運営していたAさんは,
ある日, 駅前で見かけたX社の看板に注目し, その写真を新たに自分のブログに掲載しようと考えました。その看板はデザイン性が非常に強いものだったため, Aさんは権利者に掲載の許諾を受けておこうと思い, X社に電話して用途等を説明したところ, 対応したX社の担当者が 「個人の方であれば特に手続きは要らないと思います。宣伝にもなるのでどうぞ載せてください」 と回答したため, そのままブログに掲載しました。 3年後,
Aさんのブログは人々の注目するところとなり, あちこちの雑誌等でも紹介されたことにより, アクセス件数も大幅に増加するようになりました。ところが, そんなある日, 「X社の看板の制作者」 を名乗るデザイナーB氏が, 「貴殿がブログに看板の写真を掲載した行為は, 私の著作権を侵害するものである」 と主張して, 写真の削除と損害賠償を要求してきました。Aさんは慌ててX社に電話して確認を求めましたが, 3年前に対応した担当者は既に退職しており, 後任の担当者には, 「あの看板の著作権はB氏にあり, 当社はもともと貴殿の利用を許諾できる立場にない。口頭で利用の許諾などするはずがない」 と, つれない態度を取られてしまいました。Aさんは, 「載せていいと言われたから安心して使っていたのに・ ・ ・」 と頭を抱えています。
著作物の
したがって,
「そんなに簡単でいいの?」
ただ,
著作権者は,
他人に対し, その著作物の利用を許諾することができる。 2 前項の許諾を得た者は,
その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において, その許諾に係る著作物を利用することができる。 (以下略)
第63条
著作物の
また,
後述する著作権譲渡の場合とは異なり,
- ※
現実には,
些細なコンテンツの転載の許諾を求められた場合などに, 許諾を求められる側の担当者が, 「感覚的には看過しても差し支えないレベルの話だと思うが, 当社以外の第三社が権利を持っている可能性もあるし, そのような事情がないとしても, 『会社の著作物を正式に許諾する』 となればタダで, というわけにもいかない」 というジレンマに陥って, 親切心から"口頭"でその場限りの"許諾"をする, なんてこともないわけではありません。 世の中の著作物全てが高度な財産的価値を有しているわけではありませんので,
権利者側としても, "口頭の許諾"のリスクを承知した上で慎重に使ってもらえるのなら, 面倒な手続きはせずに済ませたい"という思いはどこかにあります。こうした権利者の 「本音」 と, ユーザーのニーズがうまくかみ合えば, ギスギスしたトラブルを招くこともなく, 著作物の円滑な利用が進んでいくのではないかと思うのですが, そうもうまくはいかないのが悩ましいところです。