新春特別企画

2014年のソーシャルWeb

あけましておめでとうございます。よういちろうです。この新春企画でソーシャルというキーワードを担当して、なんと今年で5年目です! それだけ長くソーシャルという分野に関わっているわけですが、今回も今年がどのような動向になっていくか、私なりの観点で語ってみたいと思います。

今までどんなことを述べてきたか気になる方は、これまでの記事をお読みください。

過ぎ去ったバズワード「ソーシャル」

昨年、⁠ソーシャル○○」という言葉をどれだけ聞きましたか? ⁠たくさん聞いたよ!」という方も多いと思いますが、私は残念ながら「多かったなぁ」という意識はほとんどありません。

ゲームやメディアなどがソーシャル化を遂げていく過程では、⁠ソーシャル○○」と接頭辞がついた言葉がとても多く使われていたと思います。業界関係者だけでなく、一般ユーザもそれらの言葉を耳にしてきたことでしょう。⁠エンタープライズソーシャル」と後ろにつくこともありましたね。

そういった造語は、昨年ほとんど生み出されなかったと思います。

むしろ、ソーシャル○○という言い方をあえて敬遠していたようなことすらありました。コンプガチャ問題が一昨年に表面化してから、ソーシャルゲームという言葉はあまり使われなくなった印象があります。言葉の流行とは怖いもので、受け取り手の印象が良いものから悪いものにちょっとでも変わってしまうと、そのブランドに対するネガティブイメージはあっという間に大きなものになってしまいます。これを各プラットフォーマーがどのように払拭するか、私にとっては大きな関心事でした。結果としては「避けて通る」という手段を取った1年だったように感じています。

ソーシャルゲームという言葉の衰退に比例して、他の分野についても、あえて「ソーシャル○○です!」という言い方をすることがほとんどなくなりました。一般の方々にも浸透した言葉というか、バズワードとしての「ソーシャル」という言葉の役目は昨年で終わったのかなと思っています。

ソーシャルグラフとか、リアルグラフとか、そういった言葉が使われる機会も減りました。そういった持っているDBの種類について、どれかを持っていること自体をサービスの優位性として語ることは完全に時代遅れでしょう。それぞれをうまく活用して、結果としてユーザに「ウケる」サービスを提供すること、これができる企業が昨年は成長していたと思います。

昨年過渡期だったソーシャルという分野は、今年はもうそれをサービスに取り込むことは「当たり前」のことになります。バズった時期は昨年で過ぎたのです。今年は、ソーシャルは落ち着いた基本概念として扱われるようになります。

……年始めに上記のようなことを書いている筆者こそ、もしかしたらすでに時代遅れかも知れません。

今年のソーシャルゲーム分野

バズワードとしてのソーシャルという言葉は終わっていますが、もちろんソーシャルゲームというジャンルは今年も健在です。昨年はフィーチャーフォンからスマートフォンへのデバイス移行が進む中で、Social Networking Service(SNS)が運営するプラットフォーム上でのブラウザゲーム市場が縮小傾向となり、さらにSNSに頼らないスマートフォン向けゲームが大きく躍進した年となりました。

昨年のキーワード「原点回帰」

Facebookの登場から始まったソーシャルゲームは、特に日本では、時間の経過と共にゲームの形態が変化してきました。おおよそ次のような推移でしょう。

  1. SNS上の友人と、パズルゲームなどで得点を競う。
  2. SNS上の友人が持っているアイテムをこっそり盗み合う。
  3. SNS上の友人の家や牧場などに訪問して、何らかの奉仕をし合う。
  4. SNS上の友人やコミュニティ参加ユーザ間で、カードなどのレアアイテム所有を競い合う。

この変化を見ていくと、助け合いから競い合いにゲームの性質が変化しているのがわかります。これは、射幸心を煽ることにシフトして行った結果です。つまり、ゲーム性よりも課金収益性が重視されたということですね。社会問題にまで発展したコンプガチャ問題という言葉は、多くの人々の記憶にあることだと思います。その後ソーシャルゲーム業界の中で自主規制が行われるようにはなりましたが、依然としてソーシャルゲームという分野は、4.がメインです。

ただ、昨年は1.に原点回帰した年でもありました。MobageやGREEから配信されるソーシャルゲームを楽しんでいるゲーマー層ではなく、スマートフォンでメッセージングアプリを頻繁に使っている一般ユーザ層の多くが、1.を対象にしたソーシャルゲームで遊び始めました。課金収益の増大を狙って4.に進んだソーシャルゲーム業界でしたが、通り過ぎたはずの初期段階に十分なビジネス領域が残っていたことが証明されたということになります。歴史は繰り返す、とはよく言ったものです。

今年のキーワード「近距離」

ソーシャルゲーム業界において、次の5.は何になるのか、大きなテーマになっています。業界自体が徐々に衰退すると言う人、現状のまま進むと言う人、いろいろな意見があります。混沌とした今日において、筆者は今年のソーシャルゲームのポイントとして、

「近距離通信を使った共同型ソーシャルゲームの流行」

があると考えています。これは、先ほどの1.から4.の遍歴を次のような観点で振り返ってみると、ソーシャルゲームにてほとんど未開拓な領域が浮かび上がって来ることです。

  • (一人で楽しむ → 友人にちょっかいを出す → 友人を助ける → 友人と競う⁠⁠ → 友人と協力する

つまり、物理的に身近な人と同じ目標に向かって協力し達成することをゲームの中心に置いたモデルです。カプコンのモンスターハンターを想像すれば良いでしょう。人々がスマートフォンという共通のデバイスを肌身離さず持っているという性質を最大限に生かして、同じ場所にいる人々が楽しさをその場で共感できるソーシャルゲーム、これが数多くリリースされると思っています。

ここで重要な技術的キーワードとしては、近距離通信を可能にするBluetoothや、居場所を特定するためのGEO分野の技術が再認識されることになると思います。そして、個人対個人ではなく、チーム対チームでの楽しみも登場するかもしれませんので、かなりのリアルタイム性が必要になります。そのための通信プロトコルはかなりシンプルかつギリギリまでチューニングされたものが使われることになります。今年はそういったリアルタイム性を実現することが可能なプロトコルの話がエンジニア間で多く語られることになると予想します。

今年のソーシャルメディア分野

一昨年から昨年にかけて、TwitterやFacebook Pageの企業利用がかなり進み、ソーシャルメディアの効果というものが広く認知された状況になりました。そして、巡り巡ってTwitterやFacebookの日本での普及の原動力となりました。私も昨年の初めの頃は、この2つのサービスがソーシャルメディアの中心になって利用が進んでいくと思っていました。

昨年も今年も「メッセージングアプリ」

しかし、昨年この構図が崩れました。スマートフォンの普及とメッセージングアプリの組み合わせが一般的になり、それをベースとした情報発信が大きな勢力として成長したのです。皆さんの印象として、Facebook Pageをスマートフォンで見るというイメージはあまりなく、やはりPCで閲覧するページと考えている人が多いと思います。それに対して、スマートフォン向けのメッセージングアプリ内で企業からの情報発信がされるようになり、しかもそれは普段友人や知人と会話する際のユーザ体験に近いものになっているため、多くのユーザがメッセージングアプリをソーシャルメディアとしても認識するようになりました。具体的には、LINEの公式アカウントやLINE@がその代表例でしょう。

ソーシャルメディアで最も重要なことは、⁠価値のある情報を如何に迅速に興味がある人に伝えることができるか⁠⁠、そして「そういった興味のある人々から価値のある情報を如何に迅速に集めることができるか」にかかっています。前者はともかく、後者の運用はかなり難しいということを、昨年多くの企業が体感したのではないでしょうか。場合によっては、効果を全く出せずに「使えないメディア」と判断してソーシャルメディア利用から撤退した企業もあったと思います。

企業とユーザとのコミュニケーションが発生するソーシャルメディアにおいて、炎上リスクが伴う分、実際にうまく運用できた際の効果は非常に大きなものとなります。企業の規模は、ソーシャルメディアではあまり関係ありません。狭い地域で固定客を相手にした飲食店を想像すると良いでしょう。ポイントは、価値のある情報をお互いに提供し合えるかどうか、そのやり取りをアクティブに継続できるかどうか、これにかかっています。

キーワードとしては、ユーザに「近く」⁠すぐに」⁠手軽に」⁠双方向で」コミュニケーションが進むことがソーシャルメディアにとって年々重要なことになってきました。それに適したデバイスはもちろん引き続き今年もスマートフォンになると思いますので、ソーシャルメディアの動向もスマートフォン中心に進むことでしょう。そして、単にスマートフォンというデバイスだけで語ることはできず、さらにユーザに近い場所にある「メッセージングアプリ」を中心に展開していくはずです。

メディアに留まらない可能性

現状では多くの企業がソーシャルメディアを「広告発信の場の1つ」として捉えていると思います。多くの人に「いいね!」「Follow」でSubscribeしてもらい(これにより「興味がある人」認定される⁠⁠、その人達に新商品などの情報を投下する、その投稿に対してコメントが付けばフィードバックとして分析し次に繋げる、という使い方です。

これが今年も引き続き主流となると考えますが、企業によってはこれをもっと進めて、⁠企業発信」がきっかけではなく「ユーザからの問い合わせ」がきっかけとなって使われる形態が登場してくるのではないかと思っています。つまり、双方向という特徴の矢印の向きが逆になります。ユーザから企業に連絡を取り、企業がそれに答える、つまりカスタマーサービスとして機能するわけです。そもそもソーシャルメディアではユーザ認証が行われていることが前提ですので、そのソーシャルメディアのアカウントと企業側のシステムでのアカウントがうまく紐付けば、カスタマーサービスとして十分に機能する仕組みになります。

これはFacebook Pageといった「Webサイトに人が集まる」という形態のサービスでは行いにくく、TwitterやLINEといったメッセージ送受信が中心のサービスと親和性が高いと考えられます。

「お電話、ありがとうございます。只今、電話が大変混み合っています」というアナウンス、誰しもが聞いたことがあると思います。二度と聞きたくないアナウンスですよね? ユーザ体験を高めるためにも、電話ではなく、書くことに労力がかかるメールや問い合わせフォームでもなく、ソーシャルメディアの手軽さがこういった業務に持ち込まれる事例が増えてくると予想できます。

ここで使われる技術としては、Twitter Stream APIのような「大量の細かい情報を受け取り続けるための仕組み」が重要になってくるでしょう。つまり、大量のクライアントからリクエストが飛んでくる形態ではなく、1箇所から大量にリクエストが次々と飛んでくる形態です。今までの負荷分散は、クライアントからの多量の接続数をどう捌くかがポイントでしたが、今後は次々と流れてくる情報を如何に適切に処理をしていくか、という内部の処理方式がポイントになるでしょう。非同期、遅延、フィルタ、ルーティング、通知、こういった問題領域に対して適切なソリューションが求められるということです。

Webアプリケーション向けの技術やミドルウェアではなく、上記の特徴に特化したソフトウェアを組み合わせて利用するノウハウが必要になってきます。今年はそういった事例がいくつか出てくると思います。読者の皆さんも今のうちから「何を使ってどう捌こうかな?」と考え始めると良いでしょう。

まとめ

ソーシャルは、もはやそれ単独ではなく、当たり前のように取り入れられる要素の一つに過ぎない存在となりました。今年はもっとそうなります。ソーシャル性がないサービスやアプリケーションは、もはや多くの人が「何か物足りないな」と感じるレベルまで今年は来ています。ソーシャルメディアやメッセージングアプリの普及によって、企業活動や開発者はソーシャルを完全に無視することはできません。今年もソーシャルメディアやメッセージングアプリのプラットフォーム化はどんどん進んでいきますので、それを如何に取り入れて付加価値として、もしくはそれ以上の価値としてユーザに提供できるか、それを本格的に考えなければ話にならない年になりそうです。

それにつれて、使う技術も今年は更に変化していきます。昨年までは「負荷分散をどうするか」という点に強いエンジニアが優秀とされていたと思いますが、今年からはそれに加えて「⁠⁠真の意味で)情報処理をどうするか」に関するノウハウを如何に持っているかが、優秀かどうかを判断する尺度になっていくでしょう。ソートアルゴリズム、テキストマイニング、非同期および並列処理など、今年もソーシャルWebを支えるための技術習得に終わりはなさそうです。

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