本連載は今回で20回を迎えました。昨年6月の中旬に第1回を開始したころは、東日本大震災からちょうど3ヵ月のときでした。そして今、この原稿は震災からちょうど1年後の3月11日に書いています。筆者個人的にはあっという間に過ぎ去った1年でしたが、被災地の方からすれば、長い1年だったと思います。被災地の皆さまの1日も早い復興を願っています。
さて、今回は次の変革を担う人材、次世代のリーダーについて業務改善と一緒に考えてみましょう。
リーダー不在の組織を目指す
第14回において、「業務改善リーダーと役割」について述べました。基本的には第12回でお話ししたように、「ほったらかし」状態ができれば、もうリーダーの出番はありません。現場で一人ひとりが誰から言われることなく、自発的に改善を行い、蓄積されたノウハウを若手にも伝えていく、いわゆる"組織学習のダイナミズム"をどのように作り上げることが大切です。
業務改善の活動を通じて、メンバーが育ち、メンバーの中から次のリーダーが輩出されることが理想的です。彼ら・彼女らが伝道師となり、小さく生まれた業務改善の動きの水平展開をはかり、現場ややがては会社を引っ張っていけば言うことはありません。したがって、究極の姿は「リーダー不在で常に現場で改善ができている組織」でしょう。
業務改善の活動を通じて、いかに人材が育っていくのかを、まずは"やったらいけないこと"から見てみます。まず、「現場への過度な期待」と「性急な結果要求」から考えていきましょう。
経営の現場への過度な期待は御法度
やらせるのではなく、「助け合い・協力し合い、チームとして成果を出させる」。理屈の上では「やらせること」は良くないとわかっていても、経営者はつい現場に口を出したくなるものです。
経営者が腹をくくり、改善には無関心であってはならないと第7回でお伝えしていますが、逆に関心がありすぎるあまり、あれこれと経営者が言い過ぎると、今度は現場の自主性や主体性をスポイルします。
とくに気をつけたいことは、最初の業務改善がうまくいき、具体的にコスト削減や品質向上といった成果が出てくると、経営者も改善にこれまで以上のことを期待するようになります。「過度な期待をし過ぎるな」ということがポイントです。
経営の現場への過度な期待は、現場の改善メンバーにプレッシャーを与えます。「つかず離れず」的な適度な距離感が保たれていることが必要です。現場から経営者に「来るな」とは言えないので、この微妙な「つかず離れずの距離」を作ることは実は難しいのです。
性急な結果を求めすぎない
昨今の経済状況、景気の先行き不透明さは「結果をすぐに求める」方向に進みがちです。改善・改革は待ったなしで、時間がかけられないからです。
一例ですが、当社が開催するセミナー参加者の参加目的の中には、「トップからもっと早く改善効果を出せと言われている」「業務改善がうまくいかないので、成功事例を自社に当てはめたい」という声が、とくに昨年から増えてきています。
改善に時間をかけたくないことは私にもわかりますが、問題だと感じるのは「答えをすぐに求めたがる」ことです。これまでの連載をお読みになった読者の皆さんは、私がなぜ「考えることが大事」「考えるプロセスを入れて習慣とすること」と言っているかおわかりでしょう。
- 「答えを導き出すことを行わずして、答えをよそから持ってきて解決しようとすることは、考えることを喪失してしまうので危険である」。
業務改善には特効薬はない
現場で、"考える"ことをなくして業務改善は絶対にうまくいきません。
図1は当社がセミナーや講演の際に、本題に入る前に参加者に見せるものです。
「100社あれば100社流のやり方(100種類の処方箋)がある」と書いていますが、他社の成功事例を自社に当てはめても、業務改善の参考にはなりますが、成功するか否かは別問題です。なぜなら……は賢明な読者の皆さんはおわかりでしょう。図1中にも書いてありますが、会社の組織風土、体質、経営者や従業員の価値観が全て異なるからです。例えとして、「子育てと同じで自分の子供をよその子供と比べることがナンセンス」とも言っています。
表向きには、企業によって製品やサービスの事業内容が異なるから、そのまま当てはめはできないということも言えますが、実際、事業内容の違いなどはたいした問題ではなく、組織風土が支配的です。本連載で、"見える化"以上に"言える化"が重要と言ってきたことと同義です。
複雑系のビジネスは原理原則で!
ひところ流行った「ベストプラクティス」も"成功事例から学ぶ"ことですが、学んだことを活かせる環境や組織風土がなければ絵に描いた餅です。
現実のビジネス上の課題は複雑系の上に成り立っており、そう一筋縄ではいきません。
他社を真似る、セミナーで方法論を仕入れてきても、自社で咀嚼してカスタムメイドできなければきちんと改善の効果は出ません。カスタムメイドをするためには、「考えること」が求められるため、正しく"原理原則"を知っておくことが重要なのです。
この「自社で咀嚼してカスタムメイドをする」ことは、客観性に欠くこともあるので、改善の初期段階は我々のような外部の力を借りるということも一つの手でしょう。
知識と知恵
問題解決において、「知恵」を出すことについて考えてみます。
セミナー、研修などで他社の成功事例を聞くだけでなく、書籍やインターネットから業務改善に必要な「情報」「知識」は容易に入手できます。
図2をご覧ください。
過去の延長線上で問題解決をはかるのであれば、「知識」「情報」に「スキル」や「経験」が加われば何とかなるでしょう。しかし、初めて遭遇する問題の解決には適用できないこともあります。また、同じ問題が何回も発生するようであれば、組織としての学習がなされていません。
これらを解決するためには、「知恵」が求められます。「知恵」がないと本質的な問題解決には至りません。知恵は「困ったときに出る」ので、困る場面を仕掛けて、現場で熟考することが必要です。
「知識」や「情報」はタダで入手できます。
「スキル」「経験」は個人が積み重ねた資産ですが、肝心の「知恵」は企業資産となるべきものです。そのためには「組織学習」も必要ですが、そもそも「知恵」が出ないことには何も始まらないということです。
知恵を出すためには「考える」。考えるためには"過度な期待"や"性急な結果"を求めすぎないことが重要です。
業務改善がOJTと人材育成
ここでいったん整理をします。
図3をご覧ください。「変革のプロセスマネジメント」と呼んでいます。
この中で、(1)競争原理、(3)評価の仕組みの2つに関しては、本連載ではほとんど触れてはいませんが、その他の(2)やらざるを得ない環境構築、(4)問題の顕在化の2つに関しては、これまでに何度も述べた部分です。(5)として「育成(変革がOJT)」とあります。
業務改善のような企業変革活動そのものが、人材育成や新しいOJTの場にもなります。その中から、次のリーダーが出てくることもあるでしょうし、組織として成長を遂げていればリーダー不在でも構わないでしょう。あくまでも業務改善という枠組みの中での話で、組織としてのリーダー不在のことではありません。
最初の変化は日常会話に現れる
無関心だった現場メンバーの良い方向への最初の変化は、日常会話に現れますので、注意深く、部門の中の声に耳を傾けてみることをお勧めします。最初はほんのちょっとの変化です。「後工程の奴ら」と言っていた人がいるならば、「製造部の○さん」など固有名詞で呼ぶようになります。会話の中からは、「品質から考えると…」とQCDに関わる言葉の登場回数が増え、一生懸命語る現場の人が現れ始めるなど、挙げればキリがありません。
業務改善が人材育成の良き場として機能するイメージが少し付いたでしょうか?
- 「困るから考える、考えるから知恵が出る、知恵が出るから問題解決に至る」。
このようなロジックです。最初の困るところが「場」であるので、「困るための仕掛けを作る」ところから始めることがポイントとなります。
次回は、コミュニケーションと組織風土についてお話します。