無関心な現場で始める業務改善【シーズン2】

第6回"やらされ感"なし!トップが腹をくくった改善を目指す

コンサルティング会社C社を訪問した佐藤さんに、出迎えたS氏とW女史からのアドバイスはまだ続いています。具体的な変革のシナリオ、トップや現場の巻き込み、社内的な改善活動の位置付けなど、中田社長から後押しをされてはいるものの、どこから手を着ければよいのか、わからないことだらけです。

"やらされ感"のある改革はやりたくない

  • 佐藤さん:「問題意識が高かった社員は先月の早期退職でほとんど辞めてしまいました。今は余計なことは言わない、関わりたくないという人たちばかりです。しかし、このまま品質問題を放置しておくわけにはいかないので、業務改善は待ったなしです。先ほど伺った"ソフト部分"第5回参照)の組織風土を変えていくことも視野に入れて考えないと、当社では立上げだけではなく、その先も難しいように感じます」

  • S氏:「佐藤さん自身は、業務改善にどんなイメージをお持ちですか?」

  • 佐藤さん:「現場から職場の問題を定期的にいくつか出してもらい、問題の多そうなところから順番につぶしていく……そんな感じです」

  • S氏:「それでうまくいきましたか?」

  • 佐藤さん:「なんだか形骸化している印象が強いし、業務改善をやる人は決まっている感じです。やらない人は何もやらない。見ているだけです。それに、申し訳ないと思いつつも、何これ?と言いたくなるような、くだらない改善案もあります。実際に改善を行っていてコストが下がった、品質が上がったという話もほとんど聞きません」

  • S氏:「うんうん……なるほどね。それで…?」

  • 佐藤さん:「みんな、"やれ!"と言われればやる人なのですが、"やれ!"と言われなくとも現場が工夫してどんどん改善をしていく。こういう姿が理想的だなと思います」

  • W女史:"やらす側"と"やらされる側(現場)"という構図にはしたくないですからね」

  • 佐藤さん:「はい。"やらされ感"のある改革はやりたくありません」

  • S氏:「この図図1はよく当社が用いるものですが、これまでお話をしてきた"ソフト改革"と、もう1つの"ハード改革"について、業績との関わり具合とそれぞれの特徴について示したものです。"やらされ感"についても考えてみましょう」
    ⁠おもむろにS氏は佐藤さんへ説明を始めました)

図1 変革のハードとソフト
図1 変革のハードとソフト

「やらせる改革」のハード改革

「本来、業務はこうあるべきだ!⁠⁠。とかく、大上段に構えている会社の上層部だけに限らず、コンサルティング会社とは、おおよそ「エラソーなこと」を言うところです。⁠御社の"現状(as is)"はXです。"あるべき姿(to be)"はYです。このギャップZ(=Y-X)が御社の課題です」と。⁠なるほど、そうかもしれないな」と思いながら、あからさまに自社の悪いところを指摘されるのはあまり気分の良いことではありません。

"あるべき姿"から落とし込む「ハード改革」は、システムの導入、制度改革などでは多く取られるやり方で、基本的には「強制力」で動かします。現場からは拒絶反応が出やすく、⁠新しいシステムになったが誰も使わない、昔のほうが良かった」など、後からぼろぼろと問題が出てきます。

定量的な改善の指標は出しやすく、短期的には効果が出ますが、現場は"やらされ感"を強く感じているので、渋々やっている状態に陥ります。要は「人がついてこない⁠⁠。短期的な効果は出ても、現場の息が続かず疲弊してくるので、長続きしません。当社では「やらせる改革」と呼んでいます。

「だらだら改革」のソフト改革

一方、「ソフト改革」は、風土改革や組織活性化をはじめ、コミュニケーション研修、意識改革などでは多く見受けられます。特徴は、具体的な効果が出るまでに時間がかかること、定量的に効果を示せないことです。

経営者の立場から見ると、改善メンバーから「コミュニケーションが良くなりました」と報告されたところで、⁠で……?コストはどう下がったのか?」と問いたくなるのがオチです。経営者として効果・成果を気にすることはあたりまえのことです。

したがって、会社や部門の業績への貢献との因果関係、ROI(投資対効果)を説明できず、改善の担当者や事務局が、経営者と現場の両方から責められるという気の毒なことも起こります。

コミュニケーションが業務改善にとって極めて重要な要素の1つであることに変わりはありません。しかし、ソフト改革だけでは、かかった時間の割に効果が明確でないために、活動がだらだらとマンネリ化してしまい、自然消滅の末路をたどることも少なくありません。当社では「だらだら改革」と呼んでいます。

ハードという箱モノがあっても、ソフトという魂がなければ、ただの箱にすぎません。大事なことは「ハード改革」「ソフト改革」を同時に進めることです。

「何とかしないといけない」モードにする

  • 佐藤さん:「"やらされ感"を払拭することも大事ですが、もう1つわからないことがあります。先ほど話された"2・6・2の法則"第5回参照)のように、なかなか自発的に動かない人たちをどのように動かすかということも頭の痛い問題です」

  • S氏:「これ図2は、問題意識が徐々に変わっていくイメージを示したものです。当社では"変革モードシフト"と呼んでいます。最初は、"とくに問題はない"と思っている人がたくさんいます。つまり、変革の必要性を感じていないので、改善にも積極的に関わろうとはしません」

図2 変革モードシフト
図2 変革モードシフト
  • 佐藤さん:「今の当社だと、ほとんど全員が"特に問題はないモード"かもしれません」

  • S氏:「本来は、このままじゃヤバい……だから"何とかしないといけないモード"になるのですが、このようにならないからといって、"問題意識がないからだ"と片づけてしまうのは厳禁です」

  • 佐藤さん:「それはなぜですか?」

  • S氏:「コンサルティング会社や研修会社の立場からすれば、問題意識を高めるためにますはワークショップをしましょう、研修をしましょうとなりがちです。そして問題意識が十分に醸成されてから、改善をしましょうとなります。しかし、問題意識が高まったからといって、自分で何とかしないとすぐに変わるものものではありません」

  • W女史:「私からも…!それとね、真ん中にある"現状に不満を感じる" ってことがとっても大事なのよ」

  • 佐藤さん:「現場からは不満はたくさん出ますが、だからといって、自らが良くするという動きには至りません」

  • S氏:「問題意識が顕在化したものが"不満"という形で現れるので、不満が出てくるのはとても重要なのです。不満が何もない組織のほうが気持ち悪いです」

  • W女史:「この不満の出方を注意深く見てください。 "不満"を言い続けている人は、変革のエネルギーがとても高いことがあります。不満を言い続けるエネルギーを変革のエネルギーに変えていくことも大切です」

  • S氏:ただ単に不満を言っている人と、会社のためを思って不満を言う人を見極めることが大事ですね

  • 佐藤さん:「なんだか難しそう……。僕一人でできるのかなぁ……」

トップの"本気度"と現場の思いをつなげる役割

  • S氏:「そうですね。ですから、仲間が必要です。この図図3をご覧ください。特に経営トップとミドルマネジメンの橋渡しをする"参謀役"と、"コアメンバー"が必要です。それぞれの条件は書いてあるとおりです」

図3 推進メンバーとスポンサーシップ
図3 推進メンバーとスポンサーシップ
  • 佐藤さん:「僕はこの図だとコアメンバーになるのかなぁ」

  • W女史:「そうですね。コアメンバーと参謀役の機能をまとめて"事務局"なの。佐藤さんはコアメンバーの中のコアメンバーよ」

  • S氏:トップの"本気度"をきちんと共有しておくことがポイントよ」

  • 佐藤さん:「中田社長の"本気度"ですかぁ。本気か本気ではないかって、見分けられないですよね」

  • S氏:「そう難しく考える必要はありません。本気の人は逃げません。本気の人は裏切りません。困っている人を見殺しにすることなく、"一緒に困る" "一緒に困って問題の解決を考える"という特性を身に着けています」

改善は仕事だ!

  • 佐藤さん:「それと、実際に改善活動を行うに当たって、仕事とは違うことに時間を割くこととなるので、活動の位置付けを明確にしないといけないですね」

  • S氏:「いいところに気づきましたね! こちら図4を見ていただけますか?」

図4 改善活動の位置付け
図4 改善活動の位置付け
  • 佐藤さん:改善と仕事を切り離していないんですね」

  • S氏:「改善活動を行うときに、とかく現場からは、"時間がない"とか、"改善って仕事ですか?" "仕事と言うのなら残業代は出してくれないと困る" "ちゃんと評価されるんですか?"、という声が出てきます。さらに、改善が始まったとして、"業務改善をやっていたので仕事が遅れています"など」

  • 佐藤さん:「わー、なんかイメージ沸きます。仕事のムダをなくすため、効率的に行うために改善を行うのに、仕事が遅れますなんて本末転倒ですね!」

  • W女史:「そうなの!改善に着手する前にはしっかりと活動の位置付けを明確にしておくことと、改善がスタートしてからは改善を行いやすいような環境を事務局は構築しないといけないの」

  • 佐藤さん:「ですね…。しかし、この図にある"改善が仕事"という考え方と、"会社の期待""自分の思い"の両方が表現されているのはわかりやすいですね」

  • W女史:「そのとおりです。ですから、中田社長からもうすぐ発表するという"GHテクノロジーズの経営施策"第4回参照)は、まさしく"会社の期待"を言葉で示す重要なものなんですよ。多くの社員が社長のメッセージを待っていると思いますよ(^_^)」

  • S氏:「もう1つ、トヨタ生産方式って聞いたことはありますか?」

  • 佐藤さん:「はい、言葉くらいなら……」

  • S氏:「この図図5を見てもらえますか?」

図5 トヨタ生産方式における改善の考え方
図5 トヨタ生産方式における改善の考え方
  • 佐藤さん:「これも先ほど(図4)と同じで、仕事の中に改善が含まれていますね」

  • S氏:「そうです。一般には右上の青い枠の中のように思われているトヨタのカイゼンですが、正確にはこれは誤りです。"仕事は作業と改善である"ということがトヨタ生産方式における改善の考え方です」

  • W女史:「改善もちょっとした小手先のものではなく、イノベーション(企業革新)を起こすためのもの、勝つための改善って言っているの。これが何十年も前、私が生まれる前に先人たちが作り上げ実践していたなんて素敵だわ!」

佐藤さんは、1つ1つのことにうなずきながら、改善実行のイメージを膨らませていました。

トップの腹くくり

今回の最後に、「トップの腹くくり」についてお話しします。

いわゆる経営改革の施策の1つとして、業務改革を行う、それも大掛かりな基幹システム等の導入を伴った場合は、経営もそれなりのリソースを投入します。経営トップの参画は必須です。ところが、現場や改善という言葉になった途端に、⁠そんなものは現場が自主的にやっていて当然!」という経営者は少なくありません。

本記事では、改革や改善という言葉の使い分けはしていませんし、定義云々を語るつもりはありません。大事なことは、経営主導のものであれ、現場主導のものであれ、やるべきことは変わらないということです。したがって、経営トップの参画も同じであると筆者は考えています。

トップの参画が形式的なものでは無意味なので、どのくらい本気なのかを現場の社員にわかるように示すことが必要です。なぜなら、トップの本気度が現場をその気にさせるからで、改善の初期段階からいかにトップを巻き込むかによって、その後の改善の成否が決まることもあるからです。

その際に、重要なポイントを3つ示します。

(1)決意を示す・見せる

経営トップの腹のくくり具合を内外に示すことが必要です。

経営計画や社外に対する情報開示(決算説明、株主総会など)をします。全社一丸となって「業務改善」に取り組み、具体的なコスト削減目標を明示します。

社外への情報発信は、社員からすると非常に大きな意味と意義を持つことと、外部に言ってしまった手前上、後戻りはできないという強い決意を感じるものです。

(2)改革の位置付けと体制

重点的な経営施策として、経営計画に明記することがスタート地点です。

「業務改善」には優先順位があることと、具体的な改革テーマはそれぞれ異なるので、問題の認識から情報共有の仕組みまでも構築し、どのような単位で改革テーマをグルーピングするのか、推進責任者は誰なのかを示します。

ある程度の専任で推進できるメンバーをアサインし、事務局機能を果たす、定期的に経営者に進捗や課題を報告するステアリングコミッティのような場を設けるようにします。

(3)リソースの確保

必要なリソースは予算として確保します。

最低限、専任メンバーを置く場合は、その人件費を確保します。また、⁠業務改善」と本業に関わる工数も明確に分けることが経営管理上も望ましいです。

今回は少し長い話となりましたが、次回は「業務改善プロジェクトのキックオフ」の場面からスタートです。

また、今回が今年最後の記事となります。次回は来年になります。良いお年をお迎えください。来年、お会いしましょう!

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