今回は、
できた改善ビジョン
佐藤さん:
「改善ビジョンの品質の切り口だけど、 『当社の製品に不良品はありません』 というのはどうだろう?」 加藤さん:
「お前なぁ…、 不良品だらけなのに、 そう言い切ちゃってどうするよ。それに宣言しちゃってどうするよ。ビジョンじゃないじゃん!」 赤西さん:
「そうですよ、 先輩、 これから実現したいことにしなきゃ」 村瀬開発部長:
「10年前に当社の製品に惹かれて入社した佐藤君のことだ。少し前の品質対策会議で飛び出していったときのことを思い出してごらん (第1回)。お世話になった先輩社員や仲間もたくさん早期退職して、 悔しい思いをしたはずだ。何とかしたいという思いを言葉にすればいいんじゃないかな?」 佐藤さん:
「確かにおっしゃるとおりです。ちょっと難しく考えすぎかな…」 広瀬さん:
「最近、 特許出願率が下がってきているから、 何かビジョンにも入れられないかしら?」 永井部長
(知的財産部部長): 「考えるといろいろ出てくるものだなぁ…、 特許もこのくらい出してくれたらいいのに」 佐藤さん:
「ん? 永井部長、 何か言いました?」 …… (一同笑う)
業務改善をコアとなって進める開発部と知的財産部の話し合いは延々と続いています。肝心の製造部、
C社のS氏とW女史は、
図1にできたビジョンを示します。改善ビジョンの切り口は第8回で示したとおりです。

W女史:
「佐藤さんが大好きな会社のイメージになっていますか? 他の皆さんも状態をイメージしてみてください」 佐藤さん:
「ちょっときれいにまとまってしまった感があるけど、 ここにいるメンバー全員で考えたことなので、 このビジョンで行きたいです」 S氏:
「では、 これに決めましょう。ビジョンは"目標"に落とし込み、 "目標"は"計画"に落とし込みます。 現状業務調査が済んでからになりますが、"目標"を立てるときには定量的・ 定性的の2つで分けて考えるとスッキリします (図1においては、 "目標"まで示しています)」
ビジョンづくりには時間をかけよう!
GHテクノロジーズにおける業務改善ですが、
実際にビジョンづくりを行ってみるとわかりますが、
この先、
そのときに、
これまでに、
業務改善に関心がない社員からすれば、
簡単な理屈ですが、
そして、
筆者の経験では、
ハード(業務改善)とソフト(組織風土改革)を同時に進める
佐藤さん:
「それで、 次はどうすればいいんでしょう? 何から手を着ければいいんだか…」 S氏:
「まず、 業務改善全体の大きな流れを共有しましょう。この図を見てください (図2参照)」

佐藤さん:
「ずいぶんとシンプルですね。ガントチャートみたいなものが出てくるのかと思いました」 W女史:
「それはもう少し先になりますよ。そのときは、 皆さんにはたくさん脳に汗をかいてもらいますからね♪♪」 加藤さん:
「そんな可愛い顔をして、 脅かさないでくださいよ~」 S氏:
「まぁ、 それは先のお楽しみということにしましょう。この図ですが、 大きく3つのフェーズに分かれます。最初が"現状を知る"、 2番目が"考える"、 です」最後の3番目が"変える" 広瀬さん:
「"考える"ところの"業務分析"がずいぶんと長いみたい」 赤西さん:
「うん、 俺もそう思った!」 S氏:
「業務改善ではスピードが欠かせませんが、 この2番目で手を抜くと後でひどい目に遭います。ここは時間をかけるべきところです」 佐藤さん:
「具体的にはどういうことですか?」 W女史:
「さっき、 脳に汗をかいてもらう…と言いましたよね。問題を掘り下げる、 深い原因を見出すってことが大事なのですが、 慣れも必要とします。根っこの問題を解決しないと、 本質的な改善にはなりません」 S氏:
「たとえば、 今回の一番の問題は品質ですよね。不良発生率が極めて高い。では、 改善として"品質を上げる"じゃ、 言葉の裏返しです。具体的に何をすればいいのかさっぱりわかりません」 W女史:
「どの工程で不良が発生しているのか、 どのくらいの頻度で起こるのか、 なぜ発生するのか、 設計時に選定した部品のMTBF (Mean Time Between Failure:平均故障間隔) が低いのか等、 不良発生の原因を特定するには、 様々な見地から分析が必要 です」S氏:
「なので、 最初の"現状を知る"のところには、 "現状分析"ではなく"現状調査"と書いています。調べていないものは分析できないはずですからね」
プロセスを共有し、一人称で語る
村瀬開発部長:
「"スタンス"のところに、 すべて、 "自分たち"という言葉が入っていますね」 S氏:
「そうです。これも我々のやり方の特徴です。当社では"プロセス共有型"と呼んでいます。たとえば、 僕らのようなコンサルティング会社が現状調査を行い、 GHテクノロジーズの問題はこうですと示します。原因もわかり、 改善策を反映した業務改善計画はこのようにできています。さぁ、 皆さん、 やってください! と言うことは簡単です。しかし、 これでは第6回の図1の 「ハード改革 (やらせる改革)」の構図と同じです。コンサルティング会社も無責任ですし、 やらされるほうは失敗した場合、 コンサルティング会社に責任転嫁すればよいからです。自分たちは 『言われたことをやっただけ』 という受け身・ 指示待ちで、 良い結果が得られるはずはありません。したがって、 ポイントは"自ら"という一人称で語ることです」 村瀬開発部長:
「自分たちで作る、 考える、 行動する」 ということで、 無関心から興味を持たせ始め、 最後は自分で決めて、 実行をする。こういうことですよね?」 W女史:
「そのとおりです。業務改善において、 コンサルティング会社がでしゃばりすぎると、 現場の主体性はどんどんなくなっていきますからね。自分たちで考えて行動をするという経験を積まないと、 "自分たちで 」(会社、 仕事等) を良くしよう"という動きはできなくなります
一人称で語れと言っておきながら、
業務改善と組織風土改革を併走させることで、
業務改善のステップ
さて、

この図は後ほど再登場しますので、ここでは細かく説明しません。意外と道のりは長いなぁと思われるかもしれませんね。
さぁ、佐藤さんを中心に少しずつコアメンバーの結束力も高まり、何となく業務改善の流れと進め方がイメージできるようになりました。
いっぽうで、佐藤さんの直属の上司である杉本課長は、本改善にはいっさい関わっていません。元々、"事なかれ主義者"であり、"長いものには巻かれる"タイプです。佐藤さんには本業の設計業務で時間を割いてほしいのに、佐藤さんの仕事は業務改善のように思えてなりません。コアメンバーのミーティングでも蚊帳の外なので、あまり業務改善のことをよく思ってはいないようです。
さて、次回はコアメンバーが他部門を巻き込むために現場に出向きます。そこで思いもよらず現場の反発を食らいます。その原因が杉本課長であり、わざと佐藤さんたちを困らせようと思って仕組んだことには、まだ誰も気づいていません。さぁ、どうなっていくでしょうか? 次回をお楽しみに。