2017年9月28日、ヒカリエホール(東京・渋谷)にて、LINEが開催する技術カンファレンス「LINE DEVELOPER DAY 2017」が開催された。
LINE DEVELOPER DAY 2017
http://linedevday.linecorp.com/jp/2017/
同カンファレンスは、日本での開催は今回で3回目となる、LINE主催のエンジニア向け技術カンファレンスで、同社のプロダクトやサービスなどを支える技術、エンジニアにフォーカスを当て、同社のエンジニアはもちろん、パートナーや関連企業からのエンジニアも参加し、終日、技術に特化したセッションによるプログラムが行われた。
過去2回は、HALL A/Bの2トラックでのセッションが行われていたが、今回はさらにカジュアルトークと位置付けたHALL Cでの3トラック目のセッションが用意され、今まで以上に濃い、そして、細部にまでこだわった内容が見受けられた。
2015年の「グローバル化とLIFE」、2016年の「オープン化」の先へ~LINEが目指すAIプラットフォーム
日本で3度目の開催となるLINE DEVELOPER DAY(以降LINE DD) 。今回の注目は何と言っても、先日発表されたばかりのLINE AIプラットフォームの「Clova」だ。では、なぜ、今、LINEがAIプラットフォームに取り組んでいるのか、その狙いについて午前の2つのキーノートから紐解くことができた。
そこで、このセッションを中心に、これからのLINEとLINEの技術・サービスについて展望しながらカンファレンスの模様をレポートしたい。
LINEの今、LINEを支えるエンジニアと技術力
オープニングセッションを担当したのは、上級執行役員CTOの朴イビン氏。朴氏は、LINEおよびLINEファミリに関するさまざまなデータを引用しながら、LINEの現在について紹介した。
今、LINEでは日に250億個のメッセージのやり取り、ピーク時には1秒あたり42万個ものメッセージが送られているそうで、まさに単なるメッセージングツールの枠を越えて、コミュニケーションインフラとして非常に重要な役目を果たしていると言えるだろう。また、企業アカウントを中心としたメディアであったり、ゲームやマンガのようなアプリケーション、さらに、決済機能であるLINE Payによる経済圏の構築など、多様な形でユーザの日常に近づいてきていることについて、データを交えながら紹介した。
この状況をこれからさらに発展させるべく、朴氏は今後の技術的展開について発表を行った。
LINE上級執行役員CTOの朴イビン氏
バンコク、ハノイに続き、日本の京都ブランチを2018年春に開設
現在、LINEは日本国内に東京、福岡、韓国・ソウル、中国・大連、台湾・台北の5ヵ所に開発拠点を持つ。2017年に入りタイ・バンコク、ベトナム・ハノイにも開発拠点を広げた。そして、ここ日本の新たなる開発拠点として、京都ブランチを2018年春に開設することが発表された。
ソーシャルグラフAPIをはじめ、さらなるオープンAPIの拡張
開発拠点の拡張に合わせて、同社の技術拡張についても触れられた。とくに印象的だったのが、オープンAPIの拡張である。2016年のLINE DDでは、chatbotとそれに紐付くメッセージングAPIの開放が行われ、今では、LINEを活用したさまざまなchatbotサービスが生まれている。
今回はその先に進むものとして、リッチメニューAPIや新しいメッセージテンプレートを近日中に公開し、2018年春にはLINEプラットフォームにおける「ソーシャルグラフAPI」が公開されることが発表された。これは非常に大きな発表で、2017年9月現在、国内の月間アクティブユーザ数が7,000万人、そこに企業や店舗による公式アカウントが紐付くLINEのソーシャルグラフ情報が公開されることは、今まで以上にLINEを通じたインターネット上のつながりが拡張できることになる。
これはまさに同社が考える「スマートポータル戦略」を、より充実させていくものになると筆者は考えている。
また、2018年内のロードマップには、このあと詳細な発表が行われたClovaに関するもの(Clova SDK)やIoTプラットフォームなど、メッセージングから日常生活にまで広がる技術展開が予定されており、エンジニアにとってはますます腕の見せ所が広がる可能性が広がった。
エンジニア支援・育成を目指すLINE API Expert制度の制定
開発拠点や技術ロードマップに続き、朴氏のセッション最後に発表されたのが、エンジニア自身をサポートするための資格制度「LINE API Expert」である。
この資格制度は、LINEが提供するAPIなどの技術普及を促進する活動を積極的に行う外部エンジニアを認定し、その活動を支援するプログラム。
外部イベントでの関連情報の発表やSNS/Blogなどでの情報発信、API/SDKなどへのフィードバックといった活動について、後日公開予定のLINE API Expert応募サイトからの申請に基づいて評価・認定が行われる。認定されたエンジニアに対しては、その活動の支援に加え、非公開およびβ版プログラムへの参加・使用権や有償サービスの無償提供などの提供が予定されている。
以上、オープニングセッションから非常に盛りだくさんの、そして、これからのLINEが進む方向が垣間見れる内容を聞くことができた。この流れを受け、今、LINEが最も注力している「Clova」について、同社Data Labs/Clova Centerの橋本泰一氏が発表した。
Clovaの誕生と今、そして、未来
すでに多くのメディアが取り上げ、また、この8月にはの第一弾プロダクト「WAVE」の先行発売が行われ、まさに旬の技術である「Clova」について、橋本氏は、
Clovaとは?
Clovaの歴史
Clovaの技術
Clovaの未来
という内容で説明を進めた。
Clovaについて説明を行うLINE Data Labs/Clova Centerの橋本泰一氏
Clovaとは?
まず、橋本氏は2017年8月31日に限定で放映されたClovaのTVCMの動画を紹介した。
VIDEO
一般的に「AI=機械学習、ディープラーニング」という捉え方が多い中、LINEは「AI=日常生活において活躍してくれるバーチャルアシスタント」と定義し、そのプラットフォームとしてClovaを開発しているとのこと。まさに上記動画で描かれている世界観がそのAIで目指すものである。
Clova誕生秘話~Clovaが1年という短期間でリリースできたわけ
次に、Clova誕生の歴史について説明が行われた。Clovaについてはちょうど1年前に行われたLINE DD 2016ではまったく表には出ておらず、たった1年という短い期間で発表~、第一弾プロダクト「WAVE」のリリースまで行われている。
その背景について橋本氏は「LINEは、前身であるNHN Japanやライブドアにおいて、Web検索やクローリング、ポータル事業を行ってきたこと、そして、LINEでメッセージングプラットフォームの開発・運用を行ってきたことが、この短期間でClovaのリリースにつなげられた」と説明した。
すなわち、LINEはこれまでの事業で、データの収集・抽出、活用を行ってきたことに加えて、自然言語や音声・画像処理といった多くの技術的財産があることを強く強調した。
とりわけ「ビッグデータを活用する機械学習はずっと進めてきた」( 橋本氏)とのことで、AIの核となる技術開発は脈々と育ってきたと言えよう。その結果、この短期間でのリリースを決定し、今に至ったわけである。
4つのコンポーネントからなるAIプラットフォーム
Clovaは次の4つのコンポーネントからなるAIプラットフォームだ。
CLIENT:WAVEなどのデバイスや動作するアプリケーション
BRAIN:音声認識、自然言語処理、音声合成
SKILL:音楽を流す、ニュースを読む、LINEを送る、電気の点灯/消灯
PLATFORM:3つのコンポーネントを横断的につなぎこむ(認証/認可、ユーザ管理)
Clovaを実現する4つのコンポーネント
この4つのコンポーネントをつなぐインターフェースとして「CIC=Clova Interface Connect」と「CEK=Clova Extention Kit」の2つのインターフェースが用意されている。
CICはSDKとAPIから構成され、CEKは他のアプリケーションへ拡張するためのAPIとして用意される。
開発を行う中、現在は「世界各国における文化や言語の違い、また、日本語自体の言語処理といった文化・言語固有の部分でさまざまな壁にぶつかっている」( 橋本氏)そうで、今もなお開発を進めているとのこと。
日常生活で活躍できるバーチャルアシスタント
橋本氏は、最後にClovaの未来について取り上げた。今、Clovaで最も重視されているのが「GROWTH(成長) 」というキーワードとのこと。つまり、この夏のリリースはゴールではなく、あくまで始まりであり、これから先、さらに開発を進め、成長し続けていきたいという意思の表明である。
すでにWAVEに続く第2弾として、「 CHAMP」という、LINEスタンプのキャラクターであるサリーとブラウンをモチーフにしたスマートスピーカの発売が決まっているほか、次のような取り組みを強化するとのこと。
会場内に展示されていたWAVE(中央)と新製品のCHAMP(左:サリー、右:ブラウン)
音声からの話者認識
発話以外の理解、概念の導入
時間の概念、ユーザの履歴言語街の情報の活用
SKILLの種類の拡張
これから実装予定のClovaで実現するSKILL。今まで以上にAIが日常生活をサポートしてくれる日が近づくだろう
そして、これからさらにLINE DD参加者を含めたエンジニアの力が重要であり、そのためにLINEとして環境を整備していくと述べた。具体的には2018年にClova development environment(Clova開発環境)をオープンし、より多くのエンジニアがClovaに向けた開発が行えるようにしていくそうだ。
さらに、この日参加したエンジニアの中から抽選で50名にWAVEをプレゼントするなど、積極的な取り組みを行っていくことを誓い、セッションを締めくくった。
今まで以上にエンジニアが活躍できる企業を目指して~Open to Public
午前のセッションのあと、HALL A~Cではさまざまなセッションやプレゼンテーションが行われた。その模様については、LINE Engineer Blogにて資料および動画が公開されているので、興味のあるエンジニアはぜひご覧いただきたい。
「LINE DEVELOPER DAY 2017」へのご参加ありがとうございました!(LINE Engineer Blog)
https://engineering.linecorp.com/ja/blog/detail/196
そして、あっという間にクロージングを迎え、最後に同社上級執行役員サービス開発担当の池邉智洋氏が登壇した。
クロージングセッションを担当したLINE上級執行役員サービス開発担当の池邉智洋氏
「 ( 日本で)3回目となるLINE DDは、開発の現場を知ってもらいたかった」そうで、実際、開発の舞台裏、また、HALL Cで行われたカジュアルトークのように、より身近な話題、エンジニア目線で感じ取れる内容を意識したとのこと。これは、前回のLINE DDのアンケート結果で、LINEの失敗談への注目度が高かったことも影響しているとのこと。
「 おかげさまでたくさんの方に使っていただいているサービスやプロダクトも、開発の現場はキラキラしたものばかりではなく、実際の様子や舞台裏からエンジニアの素の姿、そして、LINEのエンジニアとの接し方についても知ってもらいたかった」と池邉氏は述べた。
さらに、「 これからもエンジニア同士が交流できる場をたくさん用意していきたい」と、大掛かりなイベントだけではなく、こぢんまりとしたミートアップの開催についても発表した。すでにこの秋には広告技術をテーマにしたミートアップを予定しているとのことで、近日中に詳細が発表される予定である。
こうして、エンジニアが主役のLINE DEVELOPER DAY 2017はあっという間に幕を閉じた。
懇親会は朴氏と池邉氏による鏡割りで幕を開けた
AIプラットフォーム戦略に見る、これからのLINE
今回のLINE DDの主役はClovaだったと言えよう。しかし、橋本氏のセッションでも説明があったように、いきなりの新技術ではなく、その背景には、これまでのLINEの技術的財産が大きいと言えよう。
また、戦略的な展開についても、2015年のLINE DDに掲げた「グローバル化とLIFE」 、2016年のLINE DDで発表したAPIを皮切りに注力され続けている同社技術の「オープン化」 があり、その次のステージにClovaを核としたLINEのAIプラットフォーム戦略が続いている、と筆者は感じている。
もともとLINEは人間同士のメッセージングを対象に、そこから生まれるコミュニケーションを豊かにし、日本からセ界に向けて広げている。さらに、人間同士だけではなく、人間とコンピュータとのコミュニケーションにまで対象を広げ、その結果、人間の日常生活をサポートする領域まで対象が広がってきた。LINEは“ コミュニケーションプラットフォーム” から“ ライフスタイルプラットフォーム” へ拡大しはじめたのではないだろうか。
オープニングセッションで朴氏が述べた「次のパラダイムシフトに向けた開発」に向けて、Clovaがどのように成長し、結果として世界がどのように豊かに変化していくのか、これからも注目していきたい。