この記事を読むのに必要な時間:およそ 2 分
近年の天文学は,観測技術の向上とともにめざましい進展を遂げてきました。それによって明らかになってきたことがあります。その一つは,標準的な宇宙理論の正しさが裏づけられるとともに,宇宙を構成するエネルギーのうち96%は未解明であること,そしてもう一つは,私たちの存在する天の川銀河は,無数にある銀河のうちの一つに過ぎず,何ら特別なものではないということです。しかし,こと地球が存在する太陽系に関してはどうでしょうか。ごく最近の1990年代初めまで,その存在は銀河系内では希有の惑星系である,という考えが幅をきかせてきたのです。
私たちの銀河系
私たちの銀河系は直径約10万光年で,その中には2000億個の恒星が含まれているという。私たちの太陽系はその中心から2.8万光年の辺境に位置するごくありふれた星にすぎない。(『宇宙は地球であふれている』より。提供:4D2Uプロジェクト/NAOJ)
ところがさらに進み,ハワイ島のマウナケア山に建設された口径8.2メートルのすばる望遠鏡をはじめ,世界に点在する大望遠鏡や,ハッブルなど宇宙空間に打ち上げられた望遠鏡によって,宇宙の果てにある暗い天体をも直接観測することができるようになってから状況が変わってきました。ごく近くにありながら暗い天体を観測することも可能になったからです。それが太陽系外の惑星=系外惑星の発見です。
異形の惑星「ホットジュピター」のひとつ
巨大ガス惑星であるHD209458b。
ハッブル望遠鏡の観測で,大気は宇宙空間に
流れ出ていることがわかった。
恒星に近いため,水素などの軽い原子が
彗星のように尾を引いていると考えられる。
(『宇宙は地球であふれている』より。
提供:ESA/AlfredVidal-Madjar/NASA)
ここ10年あまり,天文学者によって,近くにある恒星の周りにどんな惑星が存在するのかを探し求める“系外惑星”ハンティングが行われてきました。2007年11月までに見つかった系外惑星は250個,太陽系の中の惑星はたった8個しかありませんから,その30倍以上の個数とは驚きです。しかも,その系外惑星の多くは,私たちになじみのある地球や木星とは似ても似つかない,想像を超える姿をしていました。たとえばホット・ジュピターとよばれる巨大な惑星は,恒星の至近距離をわずか数日で高速に回転し,非常に高温です。またエキセントリック・プラネットと呼ばれる惑星は,彗星のように極端な楕円軌道を描くものでした。これら“異形の惑星”の発見によって,惑星がどうやってできるのかといった理論的説明が,書き換えられてきたのです。
異形の惑星
2005年7月,ハワイのケック望遠鏡によって発見された系外惑星HD188753Abの想像図。このように3重連星系にも惑星が発見されている。そこで見られる光景は私たちの知る光景とはずいぶん違うだろう。(『宇宙は地球であふれている』より。提供:NASA/JPL-Caltech.)
一方,このような惑星だけではなく,私たちの太陽系と同じように,同心円状に秩序正しく惑星が並んだ系も少なからず存在することも明らかになってきました。そうなると,中心の恒星からほどよい距離にありさえすれば,そのうちいくつかは地球のような生命が住める可能性があり,広大な宇宙全体で考えると,宇宙は地球であふれているのでは,と考えるのが自然でしょう。
NASAが打ち上げを予定しているケプラー宇宙望遠鏡は,系外惑星を観測するための望遠鏡です。最近の天文学者は,これまでに発見された太陽系外の巨大惑星のデータをもとに「銀河系の太陽型恒星が,海を持つことが可能な軌道・質量を持つ惑星を持つ確率は,10%はあるのではないか」と推測しているようですから,これによって地球型惑星の発見がおおいに期待されます。
また現在は計画がストップしているものの,NASAのTPF計画,ヨーロッパのダーウィン計画と呼ばれるプロジェクトがあり,そのような惑星の大気を衛星望遠鏡を使って実際に直接観測することで,その組成分析から光合成生命の存在をつきとめようとしています。
グリース581と,生命のいる可能性がある惑星。
グリーセ581とそれを廻る惑星の想像図。
そのうちのグリース581cは生命のいる可能性が
ある惑星として注目されている。ただし地球と
比べて質量は5倍,半径は1.5倍で,
公転周期は13日であるという。
(『宇宙は地球であふれている』より。提供:ESO)
2007年4月,生命がいるかもしれない惑星が発見された! というニュースが流れました。この星は,てんびん座の方向約20光年の距離にあるグリース581と呼ばれる赤色矮星で,いくつかの惑星を持ち,このうち内側から2番目の惑星(グリース581c)の平均気温は,何と0℃~40℃とのことなのです。
地球は特別な存在か? 人類のだれしもが長年抱いてきたこの素朴な疑問に対して科学が答えを出し,それによって生命に対する価値観が変わる日が迫ってきています。