gihyo.jp書籍案内 ≫ 『おうちで楽しむ にほんのもてなし』刊行記念特別エッセイ

「にほんを歩く、行事に出かける」便り 第一回

おうちで楽しむ にほんのもてなし』刊行記念特別エッセイ。広田千悦子さんが足を運んだにほんの行事をお便りとして毎月届けていただきます。行事を通して見えてくる「もてなし」の心に触れてみましょう。

11月 酉の市・浅草にて~ 文・イラスト 広田千悦子

かっこめ 熊手守り

今年も酉の市の季節がやってきました。

酉の市では商売繁盛・開運招福を願い,縁起ものの熊手を買うのがお楽しみ。なかでも一番人出が多いといわれている東京・浅草の鷲神社に出かけてみると,鳥居から社前にはあふれんばかりの人。群集の波にのってゆっくりと足をすすめると出店に並ぶきらきらと輝くような熊手が目をひきます。

たくさんの人が集まってくる鷲神社の鳥居

混んでいるために少しずつしか進まない足取りもいろいろな熊手や辺りを鑑賞しながら歩くにはちょうどいいスピード。

昔は他人を押しのけてでも我さきに,と前に進む人が多く押し合いへしあいの応酬で大変,という時代もあったようですが,このぎゅうぎゅうの人ごみの中にありながらもある程度の距離感を保ちながら文句もいわず平和に歩く人達に小さな感動を覚えつつ足をすすめます。

正面に見える提灯はまばゆいばかり

売約済みの札が貼られた大きく豪快な熊手には決まって芸能人や政治家の名前がついていて,がやがやとした中で楽しむ雑談の話題にはことかきません。そんな中にあちこちから響いてくるのは熊手の売買が成立したあとに店の人達と買った客の鳴らす手締めの掛け声と手を鳴らす音。

「お手を拝借」,「イヨーッ」,シャシャシャン,シャシャシャン,シャシャシャン,シャン! と威勢よく響きます。ちなみに「イヨーッ」という最初の掛け声は「祝う」が転じたもの。シャシャシャンと三回鳴らすのは,三が三つで九,最後のシャンを付け加えて九という漢字が丸という字になり「すべて丸くおさまる」という意味になるからとちゃんと意味があります。

酉の市の雰囲気が他の祭りとちょっと違うな,と感じるのはこの手締めの音のせいなのかもしれません。耳にすると胸の奥から湧いてくるようなわくわくと気持ちが高ぶる感じ。

威勢のいい大人の声や様子にはこんなにも力をもらえるものなんだなとうれしくなってきます。

熊手商の出店は大賑わい

酉の市は二回ある年と三回の年があり,今年は三の酉まであるお楽しみの年。

いつも行きそびれている人にも三回のチャンスがあるからおみのがしなく。日程は二の酉が十七日,三の酉が二十九日のあと二回です。三の酉まである年は火事や異変が多いといわれていて,そのいわれは火の用心をうながすための故事だという説や,酉の市の帰りに吉原へ出かける旦那へのけん制だったとか理由はさまざまですがお目当てはこの年しか授与されない「火よけ守り」。江戸時代,火事の火を消すときにつかった纏の形をしている三の酉の限定品です。

三の酉の年限定 火除けの守り

熊手は店によって違いがありますが,おすすめは「よし田」の熊手。七福神や鶴亀など差物はすべて職人さんたちの手書きで手作り。他の熊手にはない味わいがあって品のいい賑やかさです。ちょっとしたおみやげにいいのはかっこめ熊手守り。運を招くといわれ,仕上げに金ぱくが張ってある縁起もの。

「よし田」の熊手は毎年大人気。常連さんも多い

酉の市でいただく縁起のよい気をどなたかにおすそわけしたいなあというもてなしの気持ちにぴったりと合うプレゼントになってくれるでしょう。

Information

2008年は三の酉のため,酉の市が3回開かれます。
11月5日(水),17日(月),29日(土)。

※今回広田さんが足を運ばれたのは浅草の酉の市。本稿執筆時点では,5日の酉の市は終了しています。


浅草 酉の市

URLhttp://www.torinoichi.jp/

〒111-0031 東京都台東区千束3-19-6法華宗 鷲在山 長國寺 境内
TEL.03-3872-1667

ほかにも関東地方を中心に,酉の市が行われている社寺があります。

長國寺側にある切山椒の店