「にほんを歩く、行事に出かける」便り 第三回
『おうちで楽しむ にほんのもてなし』刊行記念特別エッセイ。広田千悦子さんが足を運んだにほんの行事をお便りとして毎月届けていただきます。行事を通して見えてくる「もてなし」の心に触れてみましょう。
第三回のテーマは「穴八幡へ」。
次回更新は1月14日予定です。読者のみなさま,よいお年を!
12月 穴八幡へ 文・イラスト 広田千悦子
今年の冬はまるで春のように暖かく感じるような日もありますが,冷え込んだ朝はやはり冬の匂い。肌にふれる空気もひんやり,きりりとしています。
こんな寒さの中,わたしの気持ちをささえてくれるのは季節はもうすでに春へと向かいはじめているということ。
体に感じる寒さはもうしばらくの間続いていくので,この時期に春の兆しを感じることはちょっと難しいかもしれませんが,実際に冬至をすぎれば太陽の高度はだんだんと高くなっていくので,昼の長さも冬至の日あたりを境に長くなっていくことに気づきます。
暮らしの中で季節に意識をむけてみると,その気配はあちらこちらに見うけられ,部屋の奥まで入り込んでいた窓から差す太陽の光の面積が小さくなっていったり,木々をよく見てみると新芽がふくらみはじめていたり。そんなちいさな季節の気配に気がつくのはささやかな喜び。
乾いたこころも不思議と満たされていくものです。
ちょっとした季節のうつりかわりを感じていくことで,日々の暮らしはずっと豊かになることでしょう。
冬至の日のまたの名を「一陽来復」といいますが,これは「冬が去って春がくること」という意味や「悪いことが続いたあとようやく運が向いてくること」という意味。
この一陽来復の御守りを分けていただけるのが東京・早稲田にある「穴八幡宮」です。
わたしは冬至の日に出かけてまいりました。
ここでいただける「一陽来復御守」は授与できる日が冬至から節分までと決まっていて限定品。大きさは長さが約11センチ,横が約5センチ。
思わす欲しくなってしまうような変わった形をしています。「金銀融通の御守り」ともいわれ,江戸時代からあるものだとか。
最近のご時世のせいか,朝9時ごろに着くように出かけましたが,すでに長い長い行列がずらりと道に続いています。交通整理をするお巡りさんも大忙し。
昨年,夫が午後でかけたら御守をいただくために2時間以上並んだと聞いていたのである程度の覚悟はしていきました。わたしは朝出かけたためかそれほどはかかりませんでしたが,それでも約小一時間程待ちました。
御守を分けてもらうまでの参道には柚子や縁起物のお店が並びます。
柚子飴や柚子餅などおいしそうなものがたくさんあるのがうれしいところ。
御守りをいただいた後の道にも露店は続いていますから,一時間並ぶ間,そんなお店を遠くに眺めながら,おみやげは何にしようか考えていたせいか割と苦もなく時は過ぎていきました。
御守を授与していただく場所へ到着してみてみると,みなさんたくさんの数をもとめています。耳をすましてみると「娘にでしょう,○○さんにでしょう・・・・・・」と買い求める数を指おり数えている人の声も。
自分だけでなくほかの人にも喜んでもらおうというもてなしの気持ちを持っている人がたくさんいるんだなあと心があたたくなる日でした。
ちなみに「一陽来復守り」を壁に貼って御祭りできる時間が決められていて,冬至,大晦日,節分の3日のうちの都合のいい日の夜中12時。
日本人はそんな決まりごとが大好き。
こういう決まりごとがあるのも行列ができるほどの人気をもつ理由のひとつでしょう。
Information
穴八幡宮(あなはちまんぐう)
蟲封じの祈祷や「一陽来復」の御守り,流鏑馬などで知られる。
江戸時代からはじまった「一陽来復御守り」は金銀融通の御守りであり,毎年冬至~節分の期間のみ配布している。
住所 東京都新宿区西早稲田2-1-11
電話番号 03-3203-7212
最寄り駅 東京メトロ 東西線 早稲田駅