「にほんを歩く、行事に出かける」便り 第二回
『おうちで楽しむ にほんのもてなし』刊行記念特別エッセイ。広田千悦子さんが足を運んだにほんの行事をお便りとして毎月届けていただきます。行事を通して見えてくる「もてなし」の心に触れてみましょう。
第二回のテーマは「冬至の楽しみ」。
忙しない年の瀬に向けて,二週連続更新予定です。次週は「穴八幡」,お楽しみに!
12月 冬至の楽しみ 文・イラスト 広田千悦子
今年の冬至は12月21日です。
二十四節気(※1)の一つですが「冬至」という文字が表すとおり,この日は冬に至って極まる日。実際にはズレがありますが,1年の中で最も昼が短く,最も夜の長い日とされています。この日を過ぎるとまだまだ寒さは続く一方で昼の長さはだんだんと長くなっていきます。夕日を浴びた背中から道にあらわれる自分の影がいつの間にかひょろりと長くなっていることに気づくのもこのころ。
「今年ももうそんな季節になったのだなあ」としみじみ1年を振り返ります。
さて昔の人々にとって冬至はどんな季節だったのでしょう。
食物の収穫も減り,気温が下がっていくことが命とストレートにつながっていた時代,すべてのことを自然ともに生きていた人々にとって,太陽の力が弱くなっていく不安は,現代のわたしたちが感じるよりもっと身近で切実だったことと思います。
だからこそ冬至を境に太陽の光が強くなっていくのは待ちこがれた太陽の復活,命の復活そのものでした。
新しい太陽の誕生を迎える日のために欠かせないのは邪気払い。清浄なものを迎えるために心身のケガレをはらい準備をします。
その邪気払いが柚子湯に入り,かぼちゃをいただくことでした。
かぼちゃには魔よけや実りの少ない季節に栄養を補う意味があり,夏が旬の食べものですが,収穫したらその日まで保存して大事にありがたくいただくというのがお決まりでした。
柚子の強い香りは邪気をはらい,お風呂に入れると日々やアカギレを防ぐ効果があります。柚子=融通がきく,冬至=湯治の語呂合わせからもきているとかで駄洒落好きな日本人らしさがあらわれています。
さて,この柚子とかぼちゃ,偶然なのか必然なのか,まるで小さな太陽のようにどちらも黄金色。見ているだけで体があたたまるような色をしています。
柚子湯はぽんぽんと多めに浮かべておくだけでOK。今は柚子もたくさん手に入ることが多いから柚子湯以外の使いかたをおぼえておくとこの小さな太陽をもっと楽しむことができます。
ざくざくと切って塩をふったダイコンやタカノツメとあえればおいしい柚子漬けに,短冊に切ってハチミツにつけ,しばらく置いたものにアツアツのお湯をそそげば風邪も吹き飛ぶ柚子茶ができあがります。
かぼちゃは小豆と煮る冬至かぼちゃが一般的ですが,マッシュしたものに片栗粉を混ぜて丸く平らにのばしたものをフライパンで焼くのもお手軽でおいしい食べかた。冷凍保存もできて,子どものおやつにもよいでしょう。
冬至の日は太陽の復活をお祝いして,小さな太陽を楽しむ日。
どんな由来があるのかなあと紐といてみると同じことをしていても心に響いてくることが違ってきます。
いつの間にか背筋がぴんと伸びてすがすがしい気持ちは冬の空気とぴったりとあうことでしょう。
Information
冬至(とうじ)
12月21日 ※2008年
北半球では,昼が最も長く夜が最も長い日。この日を境に次第に昼間の時間が長くなる
- ※1)
- 1年を二十四等分に区切って名前をつけ,季節を表したもの。現在の暦にあわせると毎年少しずつ日付が違っている