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第50回 分り合えない会議こそ「悲しみ」の共有を 〜気持ちを汲み取る究極のグラフィック「ナミダ」

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こんにちは。グラフィックファシリテーターやまざきゆにこです。いきなりビジネスの会議で「悲しい」とか「泣いている」なんて言ったら,笑われるかもしれません。けれど,「伝わらない悲しさ」「分かり合えない寂しさ」「だれもわかってくれない苦しさ」……そんな「ナミダ」が描ける会議を経験するたびに確信します。

分かり合えない会議こそ,きちんと一度「ナミダ」を共有して,その「ナミダ」の裏にある,みんなの心が「じつは望んでいる」関係性や本当のありたい姿に,いち早く気づいてほしいと。

ナミダ

ナミダ

「伝わらない」って,こんなにさみしいんだ

最初の体験は,以前この連載でも紹介した第37回「赤鬼の形相で怒鳴る社長」の目に「ナミダのしずく」が描けたときです。本当に驚きました。それはある企業で,社長を除く幹部だけが集められたビジョン研修でした。幹部のみなさんが現状の課題を挙げるうちに,社長の指示の細かさや怒鳴り方が話の中心になりました。被害者意識たっぷりの議論から描けてきたうちの一枚が次の絵でした。社長が幹部のみなさんに雷玉を投げつけているという絵です。このときはまだナミダは描けていませんでした。

赤鬼社長

赤鬼社長

それが改めて絵を見直しているうちに,見え方が変わってきたのです。社長がなぜこれほどまで腹を立てて怒鳴っているのか――一方で幹部のみなさんからは言い訳も反論も返ってこない――だから社長はまた雷玉を投げるわけですが……。もはやその手を止められない社長を見ていたら,この顔の赤さは怒りからではなく,疲労困憊の酸欠状態からくる赤さに見えてきたのです。今にも膝をついて力尽きてしまいそう。そんな「赤鬼社長」の目に「ナミダ」を思わず描き足してしまった絵は,第37回2ページ目に掲載してあります。

「伝わらないって,こんなにさみしいのか……」。わたし自身が強烈に感じた体験でした。「経営者は孤独だ」と言葉ではよく聞きますが,その言葉の意味する本当の「悲しさ」というものに(ほんの一部に過ぎませんが)触れて,わたしまで涙が出そうになりました。

それ以降も,さまざまな会議の現場で「ナミダ」が描けてくる体験をするようになりました。社長だけに限らず,部長の目にも,メンバーの目にも「ナミダ」。厳しい表情で指示を出す社長も,冷たい表情で問いつめる部長も,じつは心の中で「泣いている」。

あなたも実は心の中で泣いていませんか。

「悲しみ」が共有できると,前に進める

会社の中で,地域の中で,家族の中で,友だちとの間で,ネットというバーチャルな世界でも,「伝わらない悲しさ」「分かり合えない寂しさ」「だれもわかってくれない苦しさ」「ナミダ」になって描けてきます。ただそれらのほとんどは,絵になるまでは,言葉として語られることもなく,共有されてこなかったものばかりでした。

しかし「悲しい」「さみしい」「苦しい」という「ナミダ」が描けるところまでお互いの気持ちに触れたとき,間違いなく関係性が変わります。お互いのことがまったく違って見えてくる。これまでの問題の捉え方が劇的に変わる。議論の場が変わっていきます。

前出の幹部のみなさんもそうでした。「赤鬼社長」「ナミダ」の絵を共有したとき,それまでの社長への不満がピタッと止まりました。そして静かにこう言いました。「おれも支店に戻ったら同じ気持ちだ」と。そこから,幹部のみなさんの社長の見え方がまったく変わりました。ただ恐いだけの社長から,社員のこと,その家族のことまでを思う社長の姿が見えてきたのです。幹部の方から「被害者発言」がなくなりました。そして「社長が親会社に戻った後も,我々がすべきことは?」「できることは?」といった発言が聞こえてきたのです。

ネガポジ

ネガポジ

話し合っていた人たちが,ネガからポジへ,他責から自責へ変化していく姿に立ち合うたび,「ナミダを共有する」力を実感します。腹を立てている上司や,イライラしている主婦,黙ってさみしく暮らす高齢者の,それぞれに描ける「ナミダ」に向き合うと,その「ナミダ」の裏に,みんなが「じつは心から望んでいる」関係性やその組織や地域の未来が描けてきます。人の「怒り」「悪態」「キツい一言」「沈黙」といったネガティブな感情の根底にある究極のネガ「ナミダ」が描けるところには必ず,その人が本当はこうありたいと心から強く思う「ポジティブな気持ち」が描けてきました。

怒っているあの人は,……本当はどうしたい?

もし,仕事やプライベートで,うまくコミュニケーションがとれていない相手や,もっと「分り合いたい」と思う相手がいたら,究極のグラフィック「ナミダ」をちょっと使ってみてください。まずは「もしかしたら泣いているかも……」と思いを馳せてみるだけでいいのです。

たとえばクライアントとの関係があまりうまくいっていないなら,クライアントの顔を思い浮かべて,その目にナミダを思い描いてみる。そして「もしかしたら泣いているかも……」と思いを馳せながら,次の絵の表情に当てはまりそうなセリフを書き出してみます。そして,その絵をしばらく見つめ直してみます。するとふと,ナミダのウラにある,その人の別の声,その人が「本当に言わんとしていたこと」が聴こえてくるはずです。

ナミダとフキダシ

ナミダとフキダシ

商品開発の現場でもカスタマーの目に「ナミダ」です。カスタマーは何をほしがっているのか(ポジ)ではなく,「もしかしたら泣いているかも……」とまずは「ナミダ」を使って深いネガへ迫ってみます。マーケティングの世界では,生活者視点に立つために「インサイト」「人間中心設計」,「デザイン思考」など,いろいろなアプローチがありますが,絵巻物の上で共通するは,カスタマーの目にも「ナミダ」が描けたときこそ,彼らの「(黙っているけれど)じつは○○してほしい」とか「(腹を立てているけれど)本当は○○でありたい」といった心の声が聴こえてきます。

この連載では何度も「情報の共有」よりも先に「感情の共有」をしてほしい,「ネガティブな気持ち」から共有してほしいと述べていますが,その人が実は心から望んでいた「本当のWANT(ポジ)」を「最短で」つかめるところが「ナミダ」「究極の」ネガというゆえんです。

そしてそんな「ナミダの声」を聴いたうえで生み出される商品やサービス,カスタマーへのメッセージは,これまでとは全く違う,カスタマー自身気づいていなかった「本当は○○したかった」道へと誘う,新しいコミュニケーションを生みだしています。

著者プロフィール

やまざきゆにこ

様々な議論の現場で,グラフィックファシリテーション(=グラフィックレコード+グラフィックフィードバック+グラフィックダイアログ)を実施する。300人超のシンポジウムから,企業も国籍も違う参加者の集まる研究会,組織を横断したプロジェクト,経営者・リーダークラスのビジョン研修,組織研修,顧客との協働プロジェクトなど多岐に渡る。企業・組織の事業判断・意思決定,プロジェクトや個人の意識・行動変革の一助になればと"絵筆を持って"活動中。

グラフィックファシリテーター(graphicfacilitator)は,やまざきゆにこの商標登録です。

グラフィックファシリテーション.jp:http://www.graphic-facilitation.jp/

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