無関心な現場で始める業務改善

第19回 いつまでやるのかモグラたたき

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モグラたたきはいい加減やめよう

過去に業務改善で失敗を経験している組織は,次もまたうまくいかないのではないか?ということを学習しています。口では「できない」と言いつつ,⁠やらない」だけの現場は,業務改善の改善案は,先述したような対処療法ばかり目立ちます。問題を表面だけ捉え,原因までたどり着いていない。現象面に対して対策を打ってしまうため,同じミスやトラブルを永遠に起こすことになります。次から次に新しいモグラが顔を出す状態です。

極論ですが,事の本質にいたらない業務改善はマイナスの学習効果しか得られません。後になってから「やっぱ,うちの会社では無理だったんだ」の一言で安易に片付けがちです。次に同じ業務改善の場面に遭遇しても,失敗事例だけは山ほどあるので,⁠やらない」理由の1つにも追加されます。

モグラたたきからの脱却をもう少し具体的な場面で考えてみましょう。

思考・行動プロセスは"深い下方向"へと進む

図をご覧ください。例えば,皆さんの会社で製品不良が出たシーンを思い描いてみてください。次のステップは,⁠不良品が出ないようにする」ためにはどうすればよいのか考えるまではどこの会社も同じです。

大事なことはその次のステップです。"浅い"まま右に進むか,"深い"下に進むかで,モグラたたきになるか否かが決まります。

 真因追求とモグラたたき

図 真因追求とモグラたたき

モグラたたきになる会社は,"浅い右方向"に進みます。不良品が出ないように,⁠検査を入念に行う」ことに目が行き,具体的には「ダブルチェックをする」⁠検査基準を厳しくする」など,これもまた安易な方向に進んでしまいます。

ダブルチェックをするために,新たに人を投入(要員を増やす)することで人件費は上がります。

また,原因が潰せていない限り,検査基準を厳しくしても,不良で引っかかる数が増えるだけなので,後工程における手直し数,手戻りが多く発生し,コストアップ要因となります。

「当社はダブルチェックでミスを防いでおり,問題ありません」という会社は,意外に多いものです。我々の経験則から言えば,ダブルチェックはほとんどの会社でまともに機能していません。前工程の人は後工程にチェックをする人がいるとわかっているので,ちょっとくらいチェック漏れがあっても後工程の人が見つけてくれるだろう,後工程の人は前工程の人がちゃんとやってくれただろうと思い込んでいるので,きちんとチェックしません。

お互いを過信して,⁠…だろう」と勝手に思い込み,チェックの工程ばかり長くなり,人件費が上がるだけです。なぜ不良品が出たのか深掘りをしていないので,いつまで経っても不良発生率は下がりません。いいことは何もありません。

"深い下方向"に進まないといけません。トヨタ自動車の「なぜを5回」のように,根っこの原因(真因)に対して解決策を講じることではじめて,不良発生率を下げられます。

これらを,我々のような専門家がやるのではなく,第9回で示したように,⁠自ら」やらないと学習効果もありません。自ら行うための動機づけや仕掛けはこれまでの連載でお伝えしてきたとおりです。結局は"ニンゲン系の課題"に集約され,⁠組織づくり・人づくり」が最も重要となります。

現場の底力を発揮・知恵を引き出す

前出の図はシンプルな絵ですが,"浅い右方向"ではなく"深い下方向"へ思考や行動を変えていくことで,モグラたたきを避けられます

単純な理屈ですが,これを企業文化・組織風土として根付かせ,⁠無意識のうちに"深い下方向"へ考えて行動する」こと習慣付けることは,そうたやすいことではありません。トヨタ生産方式の本質も,現場の底力を発揮させ,知恵を引き出す組織と人づくりを大事にして長い年月をかけて実践してきたことに根ざしています。"アンドン"や"カンバン方式"などは,先人のたゆまない改善努力と創意工夫の結果論として生まれたものです。これらの手法を真似ても,決してうまくいかない企業が多いことからもわかることでしょう。

義務を負い責任を果たす

仕事は誰のためにやるのでしょうか?何のためにやるのでしょうか?

「会社のためですか?」⁠自分のためですか?」自分のため,の中には「生活のため」⁠お金のため」もあるでしょう。ほかにも,⁠社会のため」⁠お客様のため」などなどいろいろあるでしょう。

企業に必要性があり,存在する理由があるからこそ,社員はその中に身を置き,日々仕事をしています。

業務改善一つをとっても,義務だからやる人もいれば,義務でもやりたくない・やらない人もいます。役割分担で全てを考え,自分の担当領域がきちんとできていれば問題ないという人もいます。考え方はそれぞれで,正解があるものではありません。

筆者個人は「義務を負い責任を果たす」ことが企業人,社会人たる存在意義であると考えています。

人が人としてより良い方向に変化を遂げていくことは自然なことだと思いますが,いったん会社という組織の中に入ってしまうと,この原理がおざなりになります。業務改善は余計な仕事と目をそむけ,本質追及に至らず,楽な目の前のモグラたたきを始めます。

業務改善をきっかけに,最初は自分の仕事以外に関心がなかった人が,組織・企業・経営のことを意識し始め,⁠我々現場の仕事の価値はいったい何か?」と自問自答し,周りに巻き込みをはかるようになります。少なからず,このようなリーダーが改善活動を通じて育ってきます。

次回はこのような「現場リーダーの登場と,業務連鎖と組織風土」についてお話します。

著者プロフィール

世古雅人(せこまさひと)

メーカにて開発エンジニアと半導体基礎研究(国の研究機関出向)の計13年を設計と研究開発の現場で過ごす。企業風土改革,組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画責任者などを経て,技術の現場あがりの経験や知識を活かした業務改善やコンサルティングなどに従事。

2009年に株式会社カレンコンサルティングを設立,同社代表取締役。現場と経営を巻き込んだ「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを推し進めている。

株式会社カレンコンサルティング

URL:http://www.carren.co.jp/