OSSデータベース取り取り時報

第101回MySQLとPostgreSQLの2023年重大ニュース⁠オープンソースカンファレンス福岡の報告

この連載はOSSコンソーシアム データベース部会のメンバーがオープンソースデータベースの毎月の出来事をお伝えしています。前回の第100回でそれまでの99回の重大ニュースを振り返りましたが、この回では毎年恒例の1年分の振り返りをします。

オープンソースカンファレンス⁠「OSSデータベース取り取り時報」100回記念セミナーの報告と予告

この連載が第100回を迎えた12月に福岡で開催されたオープンソースカンファレンス2023 Fukuokaにて、OSSコンソーシアムのデータベース部会メンバに加えてゲストコメンテーターをお招きしてセミナーを開催しました。2020年1月の大阪開催以降、会場で聴講者と直接お目にかかって実施するセミナーがようやく実現しました。

セッションの冒頭には、連載を主に担当している梶山と溝口から、MySQLとPostgreSQLの約9年間での注目の話題を発表しました。MySQLでは2017年に「寿司ビール問題が解消した」話、PostgreSQLではクラウドのマネージドサービスの競争激化などについて紹介しました。また新たな注目株として、この連載でも取り上げてきたProject Tsrugi⁠劔⁠をあらためて紹介しました。

セッションの後半はゲストコメンテーターを加えて、⁠この9年間にOSSデータベースは何か変わってきただろうか⁠⁠、⁠今後に期待することは何か」についてのディスカッションです。

OSSデータベースが何か変わってきたのかの観点では、db-engines.comによるDBMSのランキングは驚くほど変動が無く、ここだけ見るとDBMS分野は何年間も無風状態だったとも見えます。ただ順位逆転には至らないものの、RDBMS以外のさまざまなNoSQLが台頭し、IoTなどセンサー系データを中心にした発生データ量の急拡大を受けてその受け皿となるツールとしての期待が広がってきた期間でもありました。しかし、NoSQL系の盛り上がりや注目は、最近になってやや落ち着いてしまっているようにも感じます。その背景には、データ量の増大傾向は引き続いているもののサーバの処理性能向上などもあって、RDBMS系ツールでかなりのことまで処理可能になってしまっているという背景もありそうです。加えて、技術的観点ではありませんが、企業ITシステムのDBMSでは商用ライセンス製品一辺倒からOSSのRDBMSがスタンダードになりつつあるという意見も示されました。

今後に何を期待するかの観点では次のような意見がありました。DBMSを使うアプリケーション開発者としては、異なるDBMS間、同じDBMSでもバージョン間での互換性がもっと高くなって欲しいという期待が示されました。OSSデータベースの開発では、機能アップに取り組んできた中で、100%の互換性を維持するのは難しかったという事情はたしかにあるでしょう。セキュリティの確保(脆弱性の無さ)に期待する見解もあり、新しい機能を盛り込んで先頭を走る商用製品に「追いつけ追い越す」ことを目指すよりも、安定・安心・確実さに期待する割合が高まっていることの表れでしょうか。かたや、扱うデータ量が際限なく増大しつつある状況もあり、容量や処理性能面での制約に縛られたくないという期待ももちろんあります。無茶振りとも思える高い期待を常にかけられるのが、データベースに課せられた宿命なのかもしれません。

オープンソースカンファレンス2023 Fukuoka でのセミナーの様子
オープンソースカンファレンス2023 Fukuoka でのセミナーの様子

今回のセミナーで使用したスライド資料は、OSSコンソーシアムのWebサイトで公開していますのでご参照ください。

また、1月27日に大阪で開催されるオープンソースカンファレンス2024 Osakaでも連載100回記念のセミナーの続きを実施します。テーマと内容は福岡とは少し変更する想定で準備中です。会場(オンサイト)開催ですので、関西地区の方はよろしければ大阪・堺筋本町の大阪産業創造会にお越しください。

[MySQL]2023年12月の主な出来事

12月はMySQLのリリースはありませんでした。現在のMySQLサーバーの最新バージョンは10月にリリースされた8.2 イノベーション・リリースです。今月は2023年の重大ニュースを振り返ってみます。

2023年MySQL重大ニュース

2022年はクラウド版のMySQL HeatWaveの機能強化ばかりが行われていた印象もありますが、2023年は今後の開発に向けて重要となる新リリースモデルが発表され、オープンソースのコミュニティ版、商用版およびクラウド版に共通で適用されることになっています。

2024年の上半期には最初のLTSのリリースが想定されており、旧バージョンをお使いの方もバージョンアップを積極的に検討する1年になりそうです。

1 MySQLの新リリースモデルでの提供開始
3ヵ月毎に新機能を追加するイノベーション・リリースと、新機能は追加せずにバグ修正とセキュリティ・パッチのみを提供するLong-Term Support(LTS)リリースの2本立てとなる新しいリリースモデルが発表され、7月にMySQL 8.1, 10月にMySQL 8.2のイノベーション・リリースが公開されました。MySQL 8.0はLTS的な位置づけとなり引き続き3ヵ月毎のマイナスリリースでバグ修正などが提供されています。
2 MySQL 5.7がSustaining Supportへ
MySQL 5.7はリリースから8年を経過し、10月にリリースされたMySQL 5.7.44をもってマイナスリリースが提供されないSustaining Supportのフェーズに予定通り移行しました。MySQL 8.0へのバージョンアップに役立つ資料やリンクはMySQL Advent Calendar 202312月25日の記事にもなっています。
3 MySQLサーバーに新たな言語ランタイムを組み込み
MySQLサーバーに複数の開発言語の実行環境であるGraalVMが組み込まれました。第1弾としてはJavaScriptをサポートし、ストアド・プロシージャやストアド・ファンクションをJavaScriptで開発できるようになりました。2024年1月現在はOracle Technology Network(OTN)からダウンロードできるMySQL Enterprise Editionとクラウド版のMySQL HeatWaveで利用可能です。機能を解説した記事(英語)もあります。
4 MySQL HeatWaveの機能強化続々
AWS上で動作するMySQL HeatWave on AWSの東京リージョンへの展開オブジェクト・ストレージ上のデータを高速に分析可能なHeatWave Lakehouse、MySQL HeatWaveでのJSONデータ型対応など機能強化が続いています。
5 MySQL HeatWaveの生成AI対応計画
オラクルデータベースを初めとしてデータベースの各製品が生成AIやベクトルストアへの対応を発表している流れにMySQLにも乗った状態で、2023年10月にMySQL HeatWaveも生成AIへの対応を発表しています。2023年12月末現在ではデモのみが公開されていますが、今後の展開にご注目ください。

[PostgreSQL]2023年12月の主な出来事

12月はPostgreSQLのリリースはありませんでした。現在の最新バージョンは11月にリリースされた16.1です。今月はMySQLと同様に2023年の重大ニュースを振り返ってみます。

2023年PostgreSQL重大ニュース

PostgreSQLに関連した国内でのニュースの中から2023年を特徴付けるものをピックアップしてみました。また、今回も雑談に使えそうなおまけ情報を番外に加えました。

1 次世代高速RDB 劔⁠Tsurugi⁠のOSS版がリリース
2023年の一番の注目株は⁠Tsurugi⁠のリリースです。劔⁠Tsurugi⁠は新しいDBエンジンですので、PostgreSQLに分類されるわけでは無いのですが、PostgreSQLと共通のインタフェースを持っていることからこちらのカテゴリに入れさせてもらいました。また、出版された解説本を使った骨太な勉強会、Tsurugi本勉強会も話題になりました。
劔“Tsurugi”
2 北東アジアOSS推進フォーラムから石井達夫さんがOSS貢献者賞を受賞
第20回北東アジアOSS推進フォーラム大会において、SRA OSS合同会社で現在は顧問を務める石井達夫さんがOSS貢献者賞を受賞しました。石井達夫さんの表彰は、長年にわたる PostgreSQLコミュニティへの貢献が評価されたものです。これは2022年度のOSS貢献者賞となりますが、2023年1月にお知らせしましたので、今回の重大ニュースに含めました。
3 有力IT企業などがPostgreSQLのサポートを強化
IT企業各社がPostgreSQLの採用やサポートを積極的に進めているのは以前から継続した傾向ですが、2023年は対外的に発表されるケースが目立った年だと感じます。透過型暗号化(TDE)機能は複数社がそれぞれ取り組んでいる機能です。その他、NECの「DB Monitor for PostgreSQL」や、PostgreSQL 11のサポート終了後も修正パッチを提供する発表などをお知らせしました。
4 新メジャーバージョン PostgreSQL 16が正式リリース
PostgreSQLのメジャーバージョンのリリースは、定期的に秋にリリースされるスケジュールが公表されており、きっちりとそのスケジュールが守られていますので、新メジャーバージョンのリリース自体のニュース性は高くはありません。けれど、マイナーバージョンとは異なり、メジャーバージョンは新機能のお披露目となるので、やっぱりワクワク感はあります。2023年は次のような改善がなされたバージョン16がリリースされました。
  • 論理レプリケーションに関する複数の改良
  • さまざまな性能改善
  • 運用や監視の改善につながる機能追加
5 コミュニティ発のさまざまな性能検証結果
性能に関する検証は画一的な条件だけでは不十分で、製品の使い方や利用する機能によって異なり、バージョンによっても変わります。開発者とは独立したコミュニティがさまざまな条件での検証結果が公表されることもOSSの特徴のひとつでしょう。PostgreSQLエンタープライズ・コンソーシアム(PGECons)の2023年の成果報告会では、性能検証や性能チューニングなどに関する複数の発表がありました。Amazon Auroraでの性能特徴の報告、PgBouncer性能評価、性能情報事例収集のための本家開発コミュニティとの連携などが報告され、さまざまな採用ケースに合った情報が見つかる可能性がより高まりました。またこのほかPostgreSQL Conference Japan 2023などでもいろいろな検証結果が発表されています。
番外 札幌の円山動物園で象の赤ちゃん誕生、名前は「タオ」
PostgreSQLといえば象のSlonikですよね。この重大ニュースでは2020年には東京・上野動物園の「アルン⁠⁠、2022年は名古屋・東山動物園の「うらら」という象の誕生をお知らせしましたが、今回も見つけました。 札幌市円山動物園で8月にアジアゾウの赤ちゃんが誕生し、「タオ」と名付けられました。

PostgreSQL Conference Japan 2023 講演スライド公開

前回のこの連載でPostgreSQL Conference Japan 2023の報告しましたが、開催後に基調講演や午後の各トラックで発表された内容の講演スライドが公開になっています。ただし公開されていないセッションも一部にあります。ありがたいことに、チュートリアルトラックについては全セッションが公開になっています。ご活用ください。

2024年1月以降開催予定のセミナーやイベント⁠ユーザ会の活動

オンサイト(会場)開催が復活しつつあります。また、利便性のあるオンライン開催も定着し、オンサイト/オンライン/ハイブリットが混在するようになってきました。興味を持たれて参加したいイベントの開催形態にご注意ください。

オープンソースカンファレンス2024 Osaka

日程 2024年1月27日(土⁠⁠ 10:00~18:00(展示は16:00まで)
場所 大阪産業創造館
内容 オンサイト(会場)開催のオープンソースカンファレンスが戻ってきました。今回ご案内する大阪では展示会もセミナーもオンサイト(会場)開催です。本文でもお知らせしたように、私たちOSSコンソーシアムのデータベース部会も参加してセミナーを実施します。その他の出展者やセミナープログラムはそれぞれの開催回ごとのWebページをご参照ください。なお、会場開催の回に参加する場合でも、参加人数把握のために参加登録をお願いします。
主催 オープンソースカンファレンス実行委員会

新春恒例 MySQL入門セミナー パフォーマンスチューニング編 2024

日程 2024年1月22日(月)14:00~17:00
場所 日本オラクル株式会社 本社 セミナールーム
内容 新春恒例のMySQLのチューニングセミナーは2024年も開催!
MySQLのイノベーション・リリースとしてMySQL 8.1, 8.2がリリースされ、機能の追加や変更も行われています。このセミナーではイノベーション・リリースでのアップデートも踏まえてMySQLのチューニング時に役立つさまざまな機能やチューニングの基礎知識を解説します。
今回からは以前のパフォーマンスチューニングでは触れることが出来なかったインデックス種別やオラクルクラウドにて提供されているマネージドのMySQLに関してもパフォーマンスの観点でも触れていきます。また、どんなに頑張ってもパフォーマンスチューニングだけではカバーしきれない大量データの検索処理も解決出来るMySQL HeatWave Database Serviceに関しても超概略としてご案内します。
MySQLをディープに触る予定の方や今までMySQLは使っているけどMySQLについてきちんと勉強したことが無いといった方もぜひご参加ください。
主催 日本オラクル株式会社 MySQL Global Business Unit

db tech showcase 2023 アーカイブ動画

日程 2024年1月18日~2月29日
場所 オンライン配信
内容 12月に開催されたdb tech showcase 2023の会場で収録された動画が公開される予定となっています。当初の配信開始予定から多少遅れるようですが公開される期間も予定より長くなる予定です。詳しくはdb tech showcase 2023のウェブサイトをご確認ください。
主催 株式会社インサイトテクノロジー

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