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「すべてのものは二度作られる」という言葉をご存知でしょうか。なにか物を作るときには,まずは頭の中で考えそれを紙の上に書きます。これが一度目の作るということ。次にそれを具現化する作業をします。それが二度目の作るということです。
一度目は「創作する」とか「計画を立てる」ということで,「広告動画」でいえば〝広告〟の部分を作ることです。二度目は「広告動画」の〝動画〟の部分を作ることで,紙から映像へ〝メディア変換〟する作業のことを指し,「映像制作」と呼ばれます。近年巷に溢れている動画本はこの二度目の方,映像制作のやり方を解説するものですが,本書は一度目の方,「どんな動画を作れば良いのか」を解説します。
(商業ベースでは)広告動画を計画するのは誰の仕事かというと,本来は広告主の宣伝事業部の仕事です。自分たちの商品をどう宣伝するのかを考えるのは,宣伝事業部の仕事であるはずです。近年,動画の自製化を進める企業が増えていますが,〝一度目〟の方をこそ自製化することが重要なのです。どんなものを作れば良いのかを一貫して考えられる,広告も動画もよくわかっている人がいなければ,ロクなものはできません。その“よくわかっている人”こそがディレクターです。
「広告動画」とは動画のジャンルの一種であり,ネットも含めた「動画専門メディアに掲載される広告として作られた動画」の総称です。一般には専ら「CM」や「コマーシャル」などと呼ばれます。CMはコマーシャル・メッセージの略で,商業的伝言という意味です。ですから本来動画とは限らないはずですが,なぜか一般世間では広告動画という日本語を使わず,「CM」が使われています。「動画広告」という言葉もありますが,これは「動画を含む広告」のことです。例えば,gifアニメを貼り付けたバナー広告や,広告ディスプレーに表示されたポスターで一部もしくは全部に動画を取り入れたようなものなどは,動画広告ではありますが,広告動画ではありません。
動画を作るには,まずディレクターが企画を立て「構成表」というものを書きます。これが〝一度目〟です。なにを伝えるべきかももちろん大事ですが,動画ですからそれを〝どう見せる〟のか,映像でどう〝表現〟するのかをわかっていることが重要です。この構成表という〝完成予想図〟を書き,どういうものを作るのかを計画するのがディレクターの主となる仕事です。計画されるものは理想形なわけですから,ここでダメならダメなものしかできません。絵コンテや台本は二度目の作業を行う人たちへの指示書ですが,それだけではすべてを指示することはできないので自分で現場に行き,口頭でも指示を出します。故に「ディレクター(指示を出す人。日本語では監督)」と呼ばれるのです。ディレクターだけは,〝一度目〟にも〝二度目〟にも精通していなければなりません。ディレクターは映画でいえば監督であり,“その動画を作る主体となる人”です。動画を自製化するとは,機械とその操作要員を確保することではなく,十分な知識を持つディレクターを確保することに他なりません。
動画とは動作を写すものであり,動作を繋いでいくとストーリーになります。広告動画を作るということは,広告として伝えるべきことをストーリーで見せる動画を作るということです。少しでも多くの人に見てもらうためには面白く印象的にしたいわけですが,そのためにはストーリーが必要です。①広告として伝えるべきことがわかり,②それを印象付ける面白いストーリーを考え,③映像で〝表現〟する。広告動画を計画するとは,この3 つのことを一貫して考えるということです。そのためには,①広告とはなにか,②面白いストーリーの作り方,③映像での表現の仕方(動画の文法)の3つを知る必要があります。この内,最初の2つを解説するのが本書です。3 つ目も知りたい方は拙著「動画の文法」を参照してください。
本書の対象は「宣伝に動画を利用したいクライアント」としています。クライアントは,例え計画をはじめとするすべてを外注するにしろ,〝なにを〟〝どのように〟伝えるのだという意志・意図だけは理解している必要があるからです。そうでなければ,デタラメなものを作られても黙ってOKするしかありません。
まずは,日本従来の宣伝・広告というものに付いて正しく理解していただくために,アメリカ製マーケティング理論をベースにして日本の宣伝・広告・販売などを解説します。その後,芸術作品としてではない,商業における動画の在り方,考え方を説明します。また映像制作者にとっても,今まで誰も教えてくれなかった「番組にする」とか「面白いとはどういうことか」ということ(つまり一度目の作るということ)を,たぶん初めて解説する本になると思います。
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