分水嶺の謎 峠は海から生まれた
2023年9月16日紙版発売
2023年9月16日電子版発売
高橋雅紀 著
A5判/416ページ
定価3,520円(本体3,200円+税10%)
ISBN 978-4-297-13697-0
書籍の概要
この本の概要
峠はどうやってできたのか。河岸段丘は本当に川がつくったのか。大地を削り,山をつくったのは本当に川なのか。本書は地球科学の難問「日本列島,東西圧縮の謎」を解いた地質学者が,100年を超す地形学の常識を疑い,新たな視点で地形の成因をひもとく第1弾です。
第1弾『分水嶺の謎 峠は海から生まれた』とは……!?
本州に降り注いだ雨水を太平洋側と日本海側に分ける分水嶺は,不思議なことに,ときどき山の斜面を下って谷を横切り,隣の尾根に乗り移ってしまいます。
到底尾根とは思えない真っ平らな谷の真ん中を横切るこの不思議な分水嶺は「谷中分水界(こくちゅうぶんすいかい)」と呼ばれ,その成因は110年前にアメリカの地形学者・デービスが唱えた「河川の争奪説」で説明されてきました。河川の争奪とはひと言で言うと,川と川の国盗り合戦。川が隣接する川の上流部を奪い取ることです。その現象は長年,多くの地形研究者や地形ファンを魅了してきました。
しかし,「河川の争奪」は本当にあったのでしょうか。
旅の舞台は,インターネットの地理院地図。分水嶺を追跡し,不思議な地形をつぶさに観察。「河川の争奪」を考察する過程で見えてきたのは,「峠は海から生まれた!」という新事実でした。
思考実験を繰り返しながら,著者の妄想が確信に変わっていく過程。
サイエンスの現場をつぶさに追体験できる一冊です。
こんな方におすすめ
- 分水嶺マニア
- 地図や地形に関心のある方。Twitterの地形クラスタはターゲットど真ん中
- 登山が好きな方
- 自然の謎解きを疑似体験したい方々
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本書のサンプル
本書の紙面イメージは次のとおりです。画像をクリックすることで拡大して確認することができます。
目次
第1章 分水嶺の旅
旅の準備 地形の基本を知る
地形図――等高線から三次元へ/ 侵食フロント――大地を穿つ彫刻家/ ケース1 河岸段丘を侵食する河川/ ケース2 海成段丘を侵食する河川/ 分水嶺――雨滴をふるい分ける閻魔大王/ 分水界で囲まれた集水域/集水域を獲得し日本一になった利根川/ 谷中分水界――人には見えない峠/ 地形研究者を魅了する谷中分水界/ 河川の争奪――川と川の国盗り合戦/ 上り切っても下らない片峠/ デービスの河川争奪説/河川争奪――十分な状況証拠
第1日 不思議な地形が目白押し
高さがそろった不思議な尾根/ 深さが異なる非対称な谷/ 送電線は地質調査の道しるべ/ 尾根に穿たれた〝天空の池〟/ 分水嶺は行き止まり? / 初日の宿で河川争奪を復習/ 谷に秘められた壮大な河川争奪劇/ 河岸段丘に残された痕跡
第2日 気まぐれな分水嶺
小さくても立派な谷中分水界/ 盆地と盆地を分ける分水嶺/ 峠のはじめは谷中分水界? / 尾根を離れる分水嶺の不思議/ 栗柄峠の河川争奪/ 本州で一番低い石生の谷中分水界
第3日 断層を横切る分水嶺
地質学者のちょっと戯言/ 断層がつくった直線状の地形/ リニアメントのオンパレード/ だから断層は面白い/ 断層線谷分水界に挟まれた凸地形/ 本流と支流の争奪合戦?
- コラム ちなみにちなみにチバニアン
第4日 標高がそろう峠の不思議
もれなくセットの片峠と争奪の肱/ 片峠を越えない侵食フロント/ 遠く離れた片峠の高さがそろうのは偶然?/ 第四紀の火山は要注意/ 地質図から読み解く太古の地形/ 地層の曲がり具合は傾斜が鍵/ 300万年前の大地は真っ平/ 両峠の手前で流れの向きを変える川/ 高さのそろった峠たち/ 尾根も峠も高さがほぼ一緒/ 高い山並みを通過しない分水嶺/ 標高1000mの片峠たち/ なだらかな地形に秘められた太古の湖
- コラム 石の声を聞く
第5日 分水嶺を越えられない
高所に残された谷中分水界/ 河川の争奪が始まらない/ 悩ましい火山地帯に突入/ 河川争奪が起こる三つの条件? / 分水嶺を変えてしまう火山噴火/ 古蒜山湖の誕生/ 湖はどこからあふれ出したのか? / 分水嶺は転換したのか? / 曲がる角には片峠/ 河川争奪は繰り返される? / 分水嶺はやっぱり気まぐれ
- コラム 地質の研究 地形の研究
第6日 匍匐前進する分水嶺
中国山地の核心部を通過する分水嶺/ 誰も気が付かない小さな片峠/ 岩石の違いが地形の違い/ 峠がフルセットの道後山高原/ 分水嶺は中国山地から吉備高原へ/ 秘境駅のある日本一の谷中分水界/ 吉備高原は谷中分水界のラビリンス/ 山がないのに上り下り
第7日 最大の難所の世羅台地
準平原を通過する分水嶺/ 世羅台地はくしゃくしゃのアルミ箔/ 自然に見られるフラクタル/ 人には小さすぎる地形の起伏/ さらなる難所は世羅台地/ 谷中分水界が目白押し/ お好み焼きはソースが決めて/ 人には見えない大地の起伏/ 踏み石を伝って渡る分水嶺/ 3番目に低い谷中分水界/ 三次盆地を丸く縁取る分水嶺
- コラム 私が地質模型をつくるわけ
- コラム 地学オリンピック 勉強と研究の違い
第8日 川は川を奪わない?
分水嶺は中国山地へ再突入/ 地形図に載らないマニアの聖地/ 河川争奪、深まる疑惑/ 高さがそろう谷中分水界の不思議/ 山陰と山陽を分ける陰陽分水嶺/ 滝山川源流域を大きく迂回する分水嶺/ 季節のレジャーは地形のおかげ/ 中国山地の分水嶺は少し高いお盆の縁/ 八幡盆地は中国地方の高野山/ 侵食フロントは分水嶺を乗り越えない/ 河川争奪は起こらない/ 分水嶺で停止する侵食フロント/ 争奪する河川と争奪しない河川/ 平らな谷を横切る渓谷と分水嶺/ 争奪しない理由が鍵
第9日 分水嶺をつなぐのは谷中分水界
いよいよ旅の最終日/ 谷中分水界は上流のない尾根/ 仏の峠は生まれた時から片峠/ 分水嶺に守られ続ける平坦な地形/ 旅の終着地、下関はもうすぐ/ 徳佐盆地の南の端の双子の片峠/ 分水嶺の防護壁/ 至る所に河川の争奪説/ どこにも見当たらない河川の争奪/ 争奪ではなく崩落? / どこもかしこも谷中分水界/ 下関が見えてきた/ 峠の下のトンネル工事は難航/ 断層に起因する片峠/ 八道盆地を縁取る分水嶺/ 海の気配が謎を解く鍵/ 答えは目の前に見えている/ 旅のゴール、下関に到着/ 海が合流する場所で役目を終える分水嶺
第2章 分水嶺の謎
1 関門海峡の謎 本州で最も低かった分水嶺
なぜ関門海峡はできたのか/瀬戸内海が広大な平原だったころ/関門海峡は本州で最も低い分水嶺だった/関門海峡の誕生を模型で再現
2 谷中分水界は海峡だった
谷中分水界の誕生/ 陸を削る海/ 隆起速度はさじ加減
3 隆起の原因は東西圧縮
大陸と海洋に分かれている地球/ 大陸の高さはどう決まる?/ 隆起の原因は東西圧縮/ 東西圧縮の謎は模型が解いた/ 日本海溝移動説
4 中国地方は瀬戸内海だった
過去にさかのぼれば海の底/ 中国地方の過去を復元する/ 石生海峡と胡麻海峡/ 三次盆地はミニ瀬戸内海だった
5 謎の答えは地形が語ってくれる
分水界のつながりは海峡次第/ 分水嶺の気まぐれの理由/ 片峠はいつできた?/ 定高性のある尾根の謎/ 大山脈に刻まれた海底の記憶
6 盛り上がり続ける中国山地
鍵は隆起運動/ 内陸部ほど難しい隆起量の推定/ 中国山地の標高の違いは隆起量の違い
7 海から生まれた中国地方
大海に誕生した分水嶺の子どもたち/ つながり始めた分水嶺/ 分水嶺の首飾り/ か細い腕を精一杯伸ばして/ 島列の成長/ 標高がそろう谷中分水界の謎/ 先につながった吉備高原/ 幻の分水嶺
8 分水嶺のあみだくじ
隆起? それとも沈降?/ 分水嶺のあみだくじ
おわりに――私の分水嶺
追憶の分水嶺/ サイエンスの種子/ サイエンスはロマン/ 自然の目線/ キャンバスは海/ 旅の終わりは新たな旅の始まり/ 縁をつなぐのは谷中分水界/ これからも続く私の分水嶺
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