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好評新刊『地球温暖化は本当か? ―宇宙から眺めたちょっと先の地球予測―』の著者,矢沢潔氏に寄稿していただきました。
いまから30年ほど前の1970年代半ば,世界の気象学者たちが地球環境について"重大な警告"を発していた。それは,地球の気温が著しく下降しており,ごく近い将来,地球は氷河期に突入するおそれがあるというものだった。なかには,ほんの数年で人類は氷河期に投げ込まれる可能性があると予言する学者もいた。
写真は当時のニューズウィーク誌(1975年4月28日号)の「サイエンス」のページである。そこには,過去1世紀(当時から見た)の地球の平均気温のグラフが載っている。それによると,19世紀後半から上昇しつづけていた平均気温は1940年代はじめ,すなわち第二次世界大戦の途中あたりから急速に低下しはじめたことが示されている。記事の書き出しはこうだ。
「地球の気候パターンが劇的に変化しはじめた不気味な兆候がある。これによって食糧生産が急速に減少し,世界のすべての国々が深刻な事態に陥るおそれがある」
記事はさらに,「この予測を裏付ける証拠はおそろしい勢いで蓄積しつつあり,気象学者たちはこの問題の追跡に必死となっている」「いまただちに対策を立てて実行に移さなければ世界は大変なことになる」とも書いている。
1975年4月28日号のNewsweek誌面。この「クーリング・ワールド」というタイトルの記事によると,地球の平均気温は1940年代はじめから急速に低下しはじめ,(近い将来)深刻な事態に陥るおそれがある,としている。
当時,地球が寒冷化してごく近いうちに氷河期がやってくるという予測と不安は,科学界だけではなく,このニュース週刊誌の記事が示すように一般社会にも広がっていた。地球が寒冷化すればまず世界の農業生産が壊滅的な打撃を受け,食糧生産が激減して人類的危機が訪れる――これが世間が抱いた最大の不安であった。
それから10年余りたった1980年代半ば,今度は別の気象学者(NASAゴダード宇宙飛行センターのジェームズ・ハンセン博士)が「人間が放出する二酸化炭素によって過去100年間に地球の気温は0・6度C上昇した。近い将来南極の氷が溶け出して海面が上昇し,世界の大都市が水没するおそれがある」という警告を出した。以来世界中のマスコミは,「人間の出す二酸化炭素によって地球温暖化が起こりつつあり,このままでは人類は大変なことになる」と書き立てるようになった。わずか10年か20年の間に地球の気温は「急速に下がりつつある」から「急速に上がりつつある」へと裏返ってしまい,「すぐに手を打たないと世界は大変なことになる」という部分だけがまったく同じである。
さきほどのニューズウィーク誌の記事には「クーリング・ワールド(世界寒冷化)」という見出しがついているが,そこを「グローバル・ウォーミング(地球温暖化)」に入れ替えれば,中身はそのまま2007年の記事として使える。いつの時代も人間がこうして右往左往しているのを,ネタにされている地球自身はニヤニヤと笑って眺めているに違いない。