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2016年3月に,OpenAIという非営利法人ができました。
設立者はテスラ・モーターズやスペースXで有名なイーロン・マスク氏と,シリコンバレーのIT企業を支えたYコンビネーターの投資家サム・アルトマン氏というそうそうたるメンバーです。
OpenAIの目的は,特定の組織が人工知能の技術を独占してしまうことを防ぐというものです。マスク氏は「人間レベルの人工知能が生まれたとき,それがどれほど社会に貢献するかを推測するのは難しいが,それが悪用されたときにどれほどの被害を生むのかを推測するのもまた難しい」と発言しています。たとえば特定の企業が技術を独占してしまったり,テロ組織が人工知能を使った攻撃をしたり,独裁国家が非人道的な目的で人工知能を使うようなことを監視・阻止するために,世界レベルでの慎重な議論が必要だと述べています。
ほかにも,物理学者のスティーブン・ホーキング氏やMicrosoft創業者のビル・ゲイツ氏もまた,人工知能の発達が人類に害をおよぼすのではないかと警鐘を鳴らしています。
ただ,特定企業に人工知能の関連技術が集中していきているのは確実です。Google,Facebook,Microsoft,Baiduなどが世界中のディープラーニングの技術者を集めてさまざまな研究開発をしているまっただ中です。
イギリスのDeepMindというとても優れたディープラーニング技術を持つ会社も,Googleに買収されてしまいました。この買収は,DeepMindという会社よりもそこに所属するすぐれた技術者を雇い入れるのが目的でした。数少ない人工知能関連の技術者・研究者を極めて少数の企業がなりふり構わずかき集めているような状態です。
シンギュラリティとは,機械の知能が人間を追い越すのではないかという予測のことをいいますが,この意味では,すでにごく少数の企業がほとんどの人工知能関連の情報や技術を握りつつある状態です。このような寡占状態が今後も進んでいくと,望ましくない出来事が起きる可能性は十分にあります。
そもそも人工知能の技術はいまどんな時点にあるのでしょうか? すでに人間と同じような知能を持つロボットが開発されて存在するのでしょうか? 世間は人工知能ブームに沸いていますが,実は人間のように自ら学習して成長していく「汎用人工知能」を実現するにはまだ道なかばです。囲碁で人間を打ち負かす人工知能や自動運転車が進歩を続けても「人間のようなロボット」にはなりません。それでは,まったく汎用人工知能を実現するのは無理な話なのでしょうか。それはそうとも言い切れません。脳が何をしているかは徐々に解明され,ディープラーニングの登場により人間の機能を代替するような力をコンピューターが持ちはじめています。
本書では,まず汎用人工知能とディープラーニングやIBMのWatsonに代表されるふつうの人工知能は何が違うのかを説明します。続いて,脳の各部位がどんな役割を持ち,どんなしくみで情報を処理しているのかにふれ,機械学習やディープラーニングをはじめとしたコンピューターの技術がどれだけ人間らしい知能に近づいているのかを解説します。近い将来,心を持つ人工知能を作ることは現実になるのでしょうか。本書で人類の技術がどこまで人間の「脳」に近づいているのか確かめてください。
- 『コンピューターで「脳」がつくれるか』目次
- 1章 人工知能は人工知能ではない?
- 2章 生きるための知能、道具としての知能
- 3章 どこまで脳のしくみを解明できるか
- 4章 人間を追い越したコンピューター
- 5章 汎用人工知能をつくるには
- 6章 変わる人間の未来