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AI・データ分析プロジェクトにおける罠

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AI・データ分析プロジェクトでは,次の表に示すようにプロジェクトのフェーズごとにさまざまな罠が待ち構えています。

 プロジェクトのフェーズ別の罠とビジネススキルの使いどころ

プロジェクトのフェーズ待ち構えるさまざまな罠(一例)ビジネススキルの使いどころ(一例)
テーマ選定他社でも実現していない斬新なテーマを立案するものの,参考にできる情報がなく失敗してしまう既存事例のある確度の高いテーマから着手するように社長を説得する。どうしても新規テーマに着手せざるを得ない場合は,試行錯誤を前提とするスケジュールを調整する。最初から正解にたどり着かなくとも,仮説を1つ1つ検証していくことに価値があるということを理解してもらう
データ収集・予測モデル構築とりあえずやってみようの精神で,社内に散らばるデータを何でも集めて分析・予測モデルの構築を行ってみるが,時間ばかりかかり,失敗してしまう既存事業の改善の場合,まずは現場経験の豊富な実務担当者へのヒアリングを実施する。手当たり次第データを集めるのではなく,人間が判断する際に参考としているデータを優先的に集める。データ収集に時間がかかる場合はまず一部のサンプリングデータで検証のみ行い,本格的にデータを集めるかを判断する
チームビルディング自社にデータ分析の経験者がおらず,また本業のタスクもあるため,週に1 日程度しかデータ分析プロジェクトに関われず,プロジェクトが進捗しないプロジェクト全体の見通しを立てるため,経験豊富な社外のアドバイザーの力を借りる。そのうえで社内公募や外部人材の活用によって適切な人員計画を立て,プロジェクト推進に必要な時間を確保できるよう業務調整を行う。既存業務の負荷が減らない場合はまずそちらの業務改善のための分析プロジェクトを立案する。中長期的には分析組織として独り立ちし,独立採算がとれる組織体制を目指す
ビジネスメリットさまざまな分析を行い,売上アップに寄与できる施策の立案に至ったが,社内事情や法律の制限によりその施策を実施できなかった。または,一部の課題に対しては適用できたものの十分なビジネスインパクトを得られなかったプロジェクトの初期の段階で,複数の施策の実行可能性とビジネスインパクトに関する出口戦略について検討し,プロジェクト終盤で施策を実行できないというリスクを回避する。またはプロジェクト期間中に関係各所にあらかじめ根回しを行うことで,施策の実現可能性を上げておく

これは2020年12月に発売されたAI・データ分析プロジェクトのすべてに掲載されている表です。AI・データ分析プロジェクトには,ここに掲載できなかった罠がまだまだ存在します。本誌に掲載できなかった罠の一例と,本書で紹介するビジネススキルの使いどころを紹介します。

個人がデータサイエンティストとして就職するときの罠

初心者でも1ヶ月でデータサイエンティストになれる,という甘い言葉に誘われ数十万円を支払い,プログラミングスクールに入学したが卒業しても仕事に就けなかった。

未経験者が1ヶ月ですぐにデータサイエンティストになれるわけではありません。怪しげなプログラミングスクールへの入学は避けましょう。まずは自身が必要とするスキルセットや業界構造を把握し,着実なキャリアアップを目指しましょう。本書では,各種勉強会やセミナーへの参加を起点に勉強会でのライトニングトーク,ブログ等での情報発信などがポイントになることについてもふれています。

発注元としてAIベンダを選定するときの罠

AIプロジェクトに関するノウハウがないため,AIベンダに案件の見積もりを丸投げしたところ,数千万〜数億と同じ期間でもまったく異なる提案書が出てきた。安いところに発注したが,何度も手戻りが発生し,結局スケジュールの遅延と当初の予算を倍以上超える結果となった。

AIベンダの規模感に合わせ,単価が相場かどうかをチェックし,必ず相見積もりを数社とりましょう。また外部のアドバイザーを自社に迎えることでAIベンダの提示するスケジュールやアプローチが妥当なものかを判断できます。本書で,AIプロジェクトが従来のシステム開発とは異なることを把握し,全体スケジュールを押さえ「想定外」の事象を減らすことで,プロジェクトの円滑な推進を目指してください。

AIベンダが受託分析をするときの罠

「個人情報はマスク(匿名化)した上でデータを送ります」とクライアントからデータを受領したものの,他の業務が忙しくしばらく放置。数日後にいざデータ分析を始めると,氏名などの個人情報がそのまま含まれたいた(情報漏洩リスク)。

データを受け取ったらすぐに内容を確認することで,発注側・受注側双方の情報漏洩リスクは下がります。また必要に応じて先方のオフィスに赴き,個人情報データをマスクしたり,分析できる状態にデータ加工するなども必要です。これらの前処理工数をあらかじめ見積もることで,プロジェクトの途中に予算切れを回避できます。

データサイエンティストとしてデータ基盤を構築するときの罠

分析やモデルのチューニングが得意なデータサイエンティストが,24時間365日稼働を求められるシステム開発にアサインされ,スキルのミスマッチからパフォーマンスが上がらず会社を辞めてしまった。

データエンジニアやシステム実装経験のあるデータサイエンティストをプロジェクトにアサインすることでシステム開発の品質を担保してください。また,どうしても苦手な開発をすることになった場合は,外部のアドバイザーを入れるか,サービスの保守レベルに幅を持たせるように調整してください(社内向けのレポートシステムを作る場合などであれば,翌営業日対応を許容してもらうなど⁠⁠。原則24時間稼働が求められるような外部向けのサービス開発は受けない方が良いでしょう。

いかがでしたでしょうか? 本書は,百戦錬磨の著者陣が,これらの罠を回避するためのヒントを紹介しています。AI・データ分析プロジェクトに関わる方は必読です。

著者プロフィール

大城信晃(おおしろのぶあき)

監修・執筆
NOB DATA株式会社 代表取締役社長
会社URL:https://nobdata.co.jp/
ヤフーやLINE Fukuoka等でのデータサイエンティストとしての経験を経て,福岡にて2018年9月にNOB DATA株式会社を起業。