テストリーダへの足がかり、最初の一歩

第7回テスト実装(前編)

読者の皆さんこんにちは、⁠テストリーダへの足がかり、最初の一歩」と題したこの連載も7回目となりました。

第一話第12回「テスト計画⁠⁠、第二話第34回「テスト分析⁠⁠、そして第三話第56回「テスト設計」を取り上げました。今回は、実際にテストケースを作成する「テスト実装」を取り上げます。

テストケースを作成する工程では、すぐにテストケースの網羅性などの話になりがちですが、ここではそのようなテストケースを作るためにリーダが行うべきことや、テスト実装そのものの工程の運営上リーダが行う必要があることを解説していきます。テスト技法の話はあまり出てきませんので、気をつけてくださいね。

さて、さっそく今回も中山君の例で考えていきましょう。

【今回の登場人物】

大塚先輩:
入社10年目。5年前に柏田マネジャーと一緒にソフトウェアテスト事業を立ち上げた。カメラが趣味で、暇さえあれば写真を撮りに出かける。
中山君:
入社5年目。本連載の主人公。入社以来ソフトウェアテスト一筋で経験を積んできた。そろそろ大きい仕事をしたいと考えている。
小川君:
入社2年目。新人研修後、その有望さから半年間顧客先に常駐。テスト業務の他、設計作業も経験を積んできた。趣味はベースで、定期的に仲間とライブを行うなど仕事と趣味を両立している。
松本千秋:
入社2年目。通称「千秋ちゃん⁠⁠。小川君の同期で、開発部門所属。今までコーディングと単体テストは経験があるが、システムテストに関わるのは初めての経験。趣味は自分磨き。

テスト実装

ようやくテスト設計まで終了し、いよいよテスト実装に移ります。

テスト実装は、テスト設計で検討したテストケース作成方針に従ってテストケースを作成することになります。この作業は一人で行うわけではなく、通常、複数の人員で手分けして作成します。

中山君はこれまでのところ、テスト計画・テスト分析・テスト設計の各工程で失敗だらけでした。しかし、大塚先輩の(大きな)サポートのおかげで何とか進められてきました。中山君は、今さらながらに大塚先輩の偉大さを骨身に感じる今日この頃です。

大塚先輩:
さて、いよいよテスト実装。この工程は今までに担当者として作業をしたことがあるよね?
中山君:
はい、この工程は先輩達の指示に従ってテストケースを作成していました。
大塚先輩:
ならば大丈夫だろう。この工程は大きな心配はないかな。
中山君:
そう思います。今度こそはしっかりやってみせます!

中山君は今までに自分が行ったことがある作業にようやく入って、安心しています。

大塚先輩:
中山君はテスト実装なら大丈夫だと思っているだろう。でもな、今までとひとつ違うことがある。今回は君はリーダ、つまり君に指示をした先輩達と同じ役割を担うことになる。たとえば先にチームに合流した小川君に指示を出す必要があるんだ。

そう、今までは指示通りに作れば良かったのですが、リーダはメンバに適切なテストケースを作らせなければなりません。同じ工程ですが、必要とされる振る舞いが異なることに注意しましょう。

ただ、中山君はすっかり安心しきってしまい、すっかりテスト実装が成功する気分になってしまいました。

大塚先輩:
では、今回は大丈夫そうだから、中山君の方ですすめてくれ。何かあれば、すぐに声をかけること。

大塚先輩は心配ながらも、ここは過去の経験を信じて中山君に作業を任せることにしました。


席に戻ってきた中山君、すっかり作業が終わった気分になっています。

中山君:
これまでにやったことがある作業だし、指示出すだけなら楽だよね。

机の上には苦労し作成したテスト設計書があります。とりあえず、小川君へテスト実装の指示を出すべく、会議室に移動することにしました。

中山君:
…というわけで、このテスト仕様書をもとにテストケースの作成をお願いできるかな。期限は……明後日。
小川君:
明後日ですか!? 幸いテスト仕様書の作成から関われたのである程度なんとかなるかと思いますが、この内容だったら1週間は必要です。明後日でしたら3分の2くらいしか対応できません。できる限り頑張ってはみますが…。
中山君:
(うっ)そ、そう? じゃぁとりあえずこのページまでお願いできるかな。残りはちょっと考えてみる。
小川君:
わかりました。とりあえず早急に作業を見積もってみますが、もしかなりの無理がある場合は相談させてください。

そう言うと、小川君は険しい表情で足早に会議室を出て行ってしまいました。

千秋、登場

すっかり途方に暮れてしまった中山君、このままでは人員不足で作業が滞ってしまいます。ですが大塚先輩には、今回はバッチリと言ってしまっています。

今さら相談に行くと怒られてしまいそうで気が進みません。こういった場合、状況に応じてですが、場合によってはリーダからプレイヤーに帽子をかぶりなおす必要があります。しかしながら、中山君はそこに考えが至りません。

中山君:
どうすればいいんだろう…。

すっかり悩みこんでしまいました。そのとき、会議室のドアが勢いよく開きました。

女性:
SAKIGAKEプロジェクトのテストチームはこちらでいいのかしら?
中山君:
は、はい。そうですが…。

中山君の知らない女性です。驚いている中山君の前まできた女性は一言。

女性:
あなたがここのリーダね。私は松本千秋。今日から応援作業でチームに入るように言われてきたの。

そこでようやく中山君は、テスト計画時にテスト実装から一人増員する計画を立てていたことを思い出しました。中山君はすっかり増員のことを忘れていたので、大塚先輩がちゃんと手を回していました。相変わらず目の前のことばかりで、先を見た行動が取れません。

中山君:
そうか、君が新しいメンバーだね。えぇと、名前は…?
千秋:
面倒だから千秋でいいわ。
中山君:
さすがに呼び捨てはまずいから、じゃぁ、千秋ちゃんと呼ぶことにするね。
千秋:
いいわ、好きにして。
中山君:
来てもらったところで悪いんだけど、テストケースの作成に取りかかって欲しいんだ。

そう言うと中山君は千秋ちゃんに資料を渡して、

中山君:
じゃ、よろしく。

と言って、会議室を出てどこかに行ってしまいました。

千秋:
なんなのあの人? まるで仕事の指示もしないで…。でもね。まぁ、これも大塚さんの頼みだし、やるっきゃないか。

千秋ちゃんは、さっそくテスト設計書に目を通し始めました。

千秋のテストケース

大塚先輩:
どう?進んでるかい?

任せると言ったものの、心配になった大塚先輩はチームメンバが集まっている席をのぞいてみることにしました。しかし、小川君が一人仕事をしているだけで中山君はいません。そして、千秋ちゃんもいません。千秋ちゃんが座る予定の机は、まだ物置になっています。

大塚先輩:
おかしいなぁ。千秋ちゃんは会議室に行かなかったんだろうか?

大塚先輩は、千秋ちゃんが元いたチームの席にいくと、千秋ちゃんが一人で仕事をしています。

大塚先輩:
あれ? まだ席替えしていないの?
千秋:
中山さんから何も聞いていません。
大塚先輩:
千秋ちゃんを一人にして、中山君にも困ったものだな。ところでどんな仕事もらった?
千秋:
指示らしい指示は受けていません。このドキュメントを手渡しでいただきました。そして、これを基にテストケースを作って欲しいと仰っていました。
大塚先輩:
えっ、指示されなかった? 気を利かせたつもりだったんだが、ちゃんと言わなきゃだめだったか……。
千秋:
ただテストケースを作って欲しいとだけ言って、会議室を出て行かれたので、自席に戻って一人で作業を進めていました。中山さんが戻ってくるまで会議室に待ってても時間がもったいないですから。
大塚先輩:
しょうがないなぁ。今、テストケース書いているのか。ちょっと見せてもらえるかな?
千秋:
はい。まだ途中ですが…。
図1 千秋ちゃんが作成したテストケース
図1 千秋ちゃんが作成したテストケース

大塚先輩は千秋が作成したテストケースを見ると一瞬ぎょっとしましたが、彼女には悟られないように表情は変えませんでした。そして、中山君を呼び出すべく内線電話を手に取ったのでした。

さて、皆さん、今回は中山君は成果物を作っていませんが、この成果物を作ってもらうに当たってどのような指示を出すべきだったでしょうか。またどのようなことを気にかけたり、調べたりする必要があったでしょうか。

後編の公開まで考えてみてください。

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