新春特別企画

2012年のソーシャルネットコミュニケーション

2012年、ここ日本でもますますソーシャルネットワークの利用が進む気配があります。ここ数年、年末年始は携帯キャリア各社から、トラフィックを軽減するために携帯電話メールの利用を控えるお願いを発表するのは珍しくなくなりました。トラフィックの集中は携帯電話に限らず、一昨日、2012年の年明け直後にTwitter、そしてmixiが、年明けメッセージなどのアクセス集中によりサービスにアクセスしづらい状況になったのは記憶に新しいところです。

 Twitterダウン時の表示画面(PC)
図 Twitterダウン時の表示画面(PC)

mixi:【追記】アクセス不具合のお詫び
http://mixi.jp/release_info.pl?mode=item&id=1580

このように、私たちの生活にもかなり浸透してきたソーシャルネットワークがこの先どうなっていくのか、2011年のトレンドをユーザ目線で考察しながら2012年の様相について展望してみます。なお、ソーシャルWebに関して、技術的かつより詳しい内容については、1月1日に公開された田中洋一郎さんの2012年のソーシャルWebをご覧ください。

情報伝達手段としてのソーシャルネットワーク

2011年のソーシャルネットワーク(以降ソーシャルネット)の特徴の1つに、とくに情報伝達の観点で評価された点が挙げられます。3月11日の東日本大震災後、被災地の状況について、とくに東京などの非被災地間からの情報共有手段として、Twitterやmixiなどが活用されました。mixiについては、震災直後、つぶやき機能であるmixiボイスの投稿数が前日の8倍になったと発表されています。

参考:
大規模災害等緊急事態における通信確保の在り方に関する検討会
「インターネット利用ワーキンググループ」
http://www.soumu.go.jp/menu_sosiki/kenkyu/internet.html

また、情報共有については、TwitterのRT機能やハッシュタグを利用するなど、ユーザ間の自発的な行動を基にした積極的な活用が行われました。

Twitterを利用して被災情報を共有する際のハッシュタグと公式RTの勧め
http://gihyo.jp/news/info/2011/03/1301

2011年のポイントはノンバーバル、ロケーション、ライト

さて、情報共有手段としてのソーシャルネット以外にも、2011年のソーシャルネットには、コミュニケーションという観点で次の3つの特徴がありました。

  • ノンバーバル
  • ロケーション
  • ライト

です。

スマートフォンの影響――ノンバーバルとロケーション

ノンバーバルコミュニケーションの旗手、Instagram

ノンバーバルとは、言語によらないという意味です。つまり、非言語コミュニケーション、たとえば写真であったり音(≠言葉⁠⁠、その他、表情、振る舞いによるコミュニケーションといったことになります。

その象徴となったのがInstagramと呼ばれる写真共有サービスです。このサービスは2010年10月にiPhoneアプリとしてリリースされて以降ユーザを増やし続けました。

 Instagramの実行画面(サンプル)
図 Instagramの実行画面(サンプル)

このアプリの特徴は、撮った写真を独自のフィルタをかけて公開できる点、また、ユーザ間でLikeをしあえる点です。写真という「絵」を通じたコミュニケーションを図れるため、日本語圏だけではなく、英語など非日本語圏のユーザとやりとりする日本人ユーザも増えています。また、2011年1月からはハッシュタグが利用できるようになり、ノンバーバルなコミュニケーションを体系立てる仕組みができ、さらにユーザ数が増え、またそこでのコミュニケーションが活性化しました。

一例として、311直後「#prayforjapan」のハッシュタグをつけた写真が共有され続け、写真を通じて日本を応援してくれたというのも、昨年のInstagramでの大きな出来事だったと言えるでしょう。

実ビジネスにも浸透し始めたロケーションサービス

2つ目の特徴として挙げたロケーションによるコミュニケーション。この流れは2010年にすでにブレイクの兆しを見せていました。中でも、2009年3月にSouth by Southwestで発表されたfoursqureはいち早く多くのユーザを獲得し、2011年9月に10億チェックインを達成するなど、ユーザ数はもとより、活発な利用状況に注目が集まっています。ここ日本では、2011年2月にKDDI株式会社がfoursqure Labs, Inc.との日本における協力関係構築を発表するといったトピックもありました。

また、日本産のサービスとして注目したいのは株式会社ライブドア(現NHN Japan)が提供するロケタッチです。2010年7月にリリースして以降、シールやリーダーという機能、独特のデザインからユーザを獲得し、2010年12月には10万ユーザに達しました。また、先ほどのfoursqureと同じく、店舗と連動したチェックインクーポンを用意するなど、リアルビジネスとの融合も見えてきています。

 さまざまなシールを集められるのがロケタッチの魅力の1つ
図 さまざまなシールを集められるのがロケタッチの魅力の1つ<

foursqureやロケタッチには、ある場所について、チェックインの数やタイミングに応じて、その場所に1人だけしかいられない特定ユーザ(The Mayorやリーダーと呼ばれるもの)を決める仕組みが用意されています。これにより「The Mayorやリーダーを目指してチェックインしよう」という、ユーザのモチベーションを上げる仕掛けがある点がユーザの利用、また、ソーシャルグラフ(ソーシャルネット上での人間関係)の醸成にもつながっている大きな要因の1つです。

余談ですが、最近、ソーシャルサービスに限らず、Webサイト、Webサービスにおいてこうした遊びの仕掛け(ゲーミフィケーション)を意識するようになってきたのも、2011年のソーシャル/Webの特徴の1つだったと言えるのではないでしょうか。

その他、mixiやFacebookなどソーシャルネットの1次サービスにも、2010年以降チェックイン機能が実装されており、とくにFacebookに関しては、2011年6月に発表されたFacebookチェックインクーポンを店舗側が利用できる仕組みを用意することで、ユーザに対する利益提供をし始めています。

ロケーションコミュニケーションの特徴は、場所という実際にある概念に対して、ソーシャルネットという仮想空間でのコミュニケーションが生まれることです。セレンディピティ(偶然のつながり)にも似た感覚として、ソーシャルネットコミュニケーションならではのものと言えるでしょう。

デバイスの進化はコミュニケーションを変える

ここで紹介した「ノンバーバル」「ロケーション」によるコミュニケーションがここまで浸透した1つの理由が、スマートフォンの登場、シェア拡大と言えます。

iPhone 4登場以降、スマートフォンのカメラ性能が向上し、さらにソーシャルネットと連携しやすくなったことで、気軽に写真撮影をし、その写真をソーシャルネットへの投稿をするユーザが増えました。これがノンバーバルコミュニケーションの活性化につながっています。また、ロケーションについては携帯電話時代から取り組まれていたGPS利用、その後のサービス事業者側の取り組みによる位置情報の精度向上といったことが大きな要因となったと言えるでしょう。

ライトコミュニケーション全盛期

最後に、2011年の3つ目の特徴である「ライトコミュニケーション」について紹介します。これは、もう説明はいらないかもしれませんが、Facebookの「いいね!」であったり、mixiの「イイネ!⁠⁠、Twitterの「お気に入り」といった機能です。

これらすべての機能に共通しているのは、ユーザ自身が、他のユーザの投稿に対して「お、これいいな!」⁠見たよ」といった気持ちを表現するだけではなく、⁠いいね!」「イイネ!」をされたユーザ(された側)に対してもその気持ちが伝わるという点です。その結果、これまでのソーシャルネットでは、たとえば日記に対してコメントしたり、写真に感想を述べると言った、密な、言い換えれば濃い/重いコミュニケーションを図っていたものが、単純に「良い」という思いだけを伝え受け取るという軽い(ライトな)コミュニケーションの種類が増えたわけです。

これはどのソーシャルネットでもワンクリックで実現できるため、最近ではコメントを付けるまではなくても、⁠いいね!」⁠イイネ!」はしておこうと思うユーザが増え、このようなライトなコミュニケーションが増えてきています。

サービス事業者側の立場からもこの点について触れており、たとえばmixiに関しては、株式会社ミクシィ代表取締役の笠原さんが「コミュニケーションボリュームは増えた一方で、ユーザがポストする先がユーザごとに分かれた結果、コミュニケーションの種類が多様化し、その1つとしてライトなコミュニケーションが活性化している」と述べています。

mixiのこれから、2012年に向けた新たなるステージ―株式会社ミクシィ笠原健治氏に訊く
http://gihyo.jp/design/column/01/social/2011/mixi

こうしたライトなコミュニケーションは、前述のノンバーバルやロケーションにも連動しているため、私自身、2012年もこうしたコミュニケーションが主流なものになっていくと予想しています。

直感的なコミュニケーションの先は?

ノンバーバル・ロケーション・ライトを実現した「Path」

これまで紹介した3つのコミュニケーションの特徴をうまく反映したサービスの1つがPathです。これは、iOS/Android向けのアプリケーションで、写真や位置情報、さらに音楽やコメントを共有できるサービスとなっています。

2011年12月に大幅リニューアルされ、UI(ユーザインターフェース)が改善されたり、それまで50名までに限定されていたフレンド数を150名に増やすといった仕様変更が行われました。この、ユーザ限定で醸し出せる雰囲気、そして、特徴的なUIから、2011年末から2012年始にかけて大幅にユーザ数を伸ばしています。私も使っているのですが、とくに、ユーザ限定という部分と投稿しやすいUIが、ノンバーバルかつライトコミュニケーションにマッチしていると感じています。

 2011年後半から注目を集め始めた「Path」
図 2011年後半から注目を集め始めた「Path

直感的なコミュニケーションの難しさ

さて、ここまでコミュニケーションの特徴から2011年のソーシャルネットについて振り返り、また、それを実現しているサービスを紹介しました。

ライトなコミュニケーションからもわかるように、今、ソーシャルネット上の人のつながり、コミュニケーションは直感的になってきているのです。これはポジティブな関係性を構築する上では、⁠時間的ロスもなく)非常に良い傾向ではありますが、つねにポジティブな関係性につながるとは限りません。

というのも、ノンバーバルやライトなコミュニケーションと言うのは、場合によっては説明不足に陥り、結果として自分が意図しなかった表現を生み出してしまう危険性があるからです。たとえば、⁠いいね!」という表現について、言葉のとおり「良い」という意味で使っているのか、あるいは単に「見たよ」という意味で使っているのか、捉え方1つで、相手に伝わる気持ちは変わってしまいます。もしそうなると、ユーザ同士のトラブルやソーシャルネット上の炎上といった悪い事象につながってしまうのです。

ただ、これは直感的なコミュニケーションに限らずソーシャルネット上であればつねに起こりうる問題でもあります。というのも、ソーシャルネットが普及したことで誰もが発言しやすく、また、他ユーザの言動を引用しやすくなってきているからです。

この点について、株式会社コンセント代表取締役長谷川さんは「今のネットのつながり、スピード感では、言葉が独り歩きして、間違って伝わる可能性、転送される可能性があります。どんな文脈であってもどう使われるかはわからない時代です」と、2010年末の時点で述べています。

キーパーソンが見るWeb業界~第16回 ソーシャルメディアの次の展開
http://gihyo.jp/design/serial/01/key-person/0016

複数のソーシャルがつながることの良し悪し

もう1つ、ソーシャルネットのコミュニケーションを考える上で意識しておきたいのが、多くのソーシャルネットがつながりやすくなってきていることです。どういうことかというと、たとえばOpenIDと呼ばれる技術によって複数のサービス間で同じユーザIDを使えたり、また、Web APIを利用するサービスが増えたことで、1つの投稿を複数のサービスに対して同時に行える環境が整備されてきていることです。

通常の場合、ユーザIDの連携や複数投稿については、ユーザ自身が確認してから行えるようになりますが、たとえば、自分としては限定公開した投稿内容を誤って別のサービスにも投稿してしまい、さらにそこでつながっているユーザが共有してしまい拡散する、といった状況も起こりえます。また、とあるサービスでは利用者年齢制限が18歳だったものが、もう1つのものでは制限無しとなっていた場合に、その2つのサービスに対して複数投稿をすることで想定外のユーザに情報が伝達していく可能性があります。このあたりの情報伝達の仕方とスピード、そこから生まれるつながりの多様化は、リアルな社会ではあまりなかった特徴ですので注意しておきたいものです。

このようなことに対して、あえてアドバイス的なことを述べるとすれば、私個人として心がけているのは「ソーシャルネットに投稿する内容は、どのユーザの目にも触れてしまう可能性がある」と考えてソーシャルネットを利用しているということです。また、ソーシャルネットも(ソーシャルとついているように)社会の1つであるわけですから、⁠ネットだからと軽んじるのではなく、日常的な社会生活と同じような人と人とのつながりを意識し、ルールは守っていくべき」と私は思っています。それに、リアルなコミュニケーションと異なり、自分の顔の表現や声色が伝えにくいという前提でコミュニケーションを図っている点にも注意したいものです。

時間軸が加わってくる2012年のソーシャルネット

最後に、2012年のソーシャルネットの展望について考察します。

直感的なコミュニケーション、つながりの多様化という流れはますます強くなっていくはずです。そして、2012年は、そこに「時間的な感覚」が増えていくと考えています。その最大の理由と考えているのが、2011年12月に一般公開されたFacebookのTimeline機能です。

これまでの主なソーシャルネットのうち、FacebookやTwitterには時間的蓄積の概念は少なく、どちらかというと瞬間瞬間を表現する、いわゆる「今」をつなげるコミュニケーションが主軸に置いてありました。その中で、mixiには日記という機能があり、時間的アーカイブとしてのソーシャルネットの特徴をも持っていましたが、mixiの場合、クローズドなソーシャルネットである側面が強く、⁠ユーザ自身が)オープンに時間軸を意識するケースはあまりありませんでした。

しかし、FacebookのTimeline機能の登場により、よりオープンな環境でソーシャルネットの時間軸、とくに過去に遡れるという意識が強くなると予想できます。たとえば「自分がいつFacebookに参加したのか」⁠去年の今頃は何をしていたのか?」⁠大学時代の出来事ってなんだっけ?」などなどです。自分自身のことではあるので、ユーザ自身はそれほど強く意識しないかもしれませんが、自分以外、たとえば、新たにつながったユーザ、あるいはこれから繋がるであろうユーザに、時間軸の観点で見たユーザプロフィールを伝えられる状況が生まれ、そこから新しいソーシャルグラフが生まれていく可能性があります。

こうしたソーシャルネット上での時間軸を踏まえた感覚は、ユーザに新たな感覚を生み出させるのではないでしょうか。とくに、デジタルデータになっていることで、⁠記憶だけに頼りがちな)リアルな生活と比較して、過去の出来事に直接的、そして鮮明に辿りつくことが可能になります。こうした背景から生まれる新たな感覚が、これからのソーシャルネットを楽しむポイント、あるいは利用する上で注意するポイントになっていくと、私は考えています。

ソーシャルネットの醍醐味はサービスの機能ではなく、人と人とのつながりから生まれるコミュニケーション

日本でmixiが登場してから今年の2月で丸8年を迎えます。すでにソーシャルネットを使い始めて5年、6年、あるいは8年というユーザの方も多くいらっしゃると思います。また、インターネットを使い始めた時点で、すでにソーシャルネットも活用しているというユーザの方もいらっしゃるでしょう。2012年はそうしたソーシャルネット経験値が異なるユーザが、さまざまなサービス上で交わる機会がより一層増えるはずです。そこで生み出される「ユーザ同士の活発なコミュニケーション、それこそがソーシャルネットが持つ醍醐味」だと私は感じています。2012年、今年はどういったソーシャルネットライフが過ごせるのか、今から楽しみです。

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