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2012年のソーシャルネットコミュニケーション

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ライトコミュニケーション全盛期

最後に,2011年の3つ目の特徴である「ライトコミュニケーション」について紹介します。これは,もう説明はいらないかもしれませんが,Facebookの「いいね!」であったり,mixiの「イイネ!⁠⁠,Twitterの「お気に入り」といった機能です。

これらすべての機能に共通しているのは,ユーザ自身が,他のユーザの投稿に対して「お,これいいな!」⁠見たよ」といった気持ちを表現するだけではなく,⁠いいね!」「イイネ!」をされたユーザ(された側)に対してもその気持ちが伝わるという点です。その結果,これまでのソーシャルネットでは,たとえば日記に対してコメントしたり,写真に感想を述べると言った,密な,言い換えれば濃い/重いコミュニケーションを図っていたものが,単純に「良い」という思いだけを伝え受け取るという軽い(ライトな)コミュニケーションの種類が増えたわけです。

これはどのソーシャルネットでもワンクリックで実現できるため,最近ではコメントを付けるまではなくても,⁠いいね!」⁠イイネ!」はしておこうと思うユーザが増え,このようなライトなコミュニケーションが増えてきています。

サービス事業者側の立場からもこの点について触れており,たとえばmixiに関しては,株式会社ミクシィ代表取締役の笠原さんが「コミュニケーションボリュームは増えた一方で,ユーザがポストする先がユーザごとに分かれた結果,コミュニケーションの種類が多様化し,その1つとしてライトなコミュニケーションが活性化している」と述べています。

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こうしたライトなコミュニケーションは,前述のノンバーバルやロケーションにも連動しているため,私自身,2012年もこうしたコミュニケーションが主流なものになっていくと予想しています。

直感的なコミュニケーションの先は?

ノンバーバル・ロケーション・ライトを実現した「Path」

これまで紹介した3つのコミュニケーションの特徴をうまく反映したサービスの1つがPathです。これは,iOS/Android向けのアプリケーションで,写真や位置情報,さらに音楽やコメントを共有できるサービスとなっています。

2011年12月に大幅リニューアルされ,UI(ユーザインターフェース)が改善されたり,それまで50名までに限定されていたフレンド数を150名に増やすといった仕様変更が行われました。この,ユーザ限定で醸し出せる雰囲気,そして,特徴的なUIから,2011年末から2012年始にかけて大幅にユーザ数を伸ばしています。私も使っているのですが,とくに,ユーザ限定という部分と投稿しやすいUIが,ノンバーバルかつライトコミュニケーションにマッチしていると感じています。

 2011年後半から注目を集め始めた「Path」

図 2011年後半から注目を集め始めた「Path

直感的なコミュニケーションの難しさ

さて,ここまでコミュニケーションの特徴から2011年のソーシャルネットについて振り返り,また,それを実現しているサービスを紹介しました。

ライトなコミュニケーションからもわかるように,今,ソーシャルネット上の人のつながり,コミュニケーションは直感的になってきているのです。これはポジティブな関係性を構築する上では,⁠時間的ロスもなく)非常に良い傾向ではありますが,つねにポジティブな関係性につながるとは限りません。

というのも,ノンバーバルやライトなコミュニケーションと言うのは,場合によっては説明不足に陥り,結果として自分が意図しなかった表現を生み出してしまう危険性があるからです。たとえば,⁠いいね!」という表現について,言葉のとおり「良い」という意味で使っているのか,あるいは単に「見たよ」という意味で使っているのか,捉え方1つで,相手に伝わる気持ちは変わってしまいます。もしそうなると,ユーザ同士のトラブルやソーシャルネット上の炎上といった悪い事象につながってしまうのです。

ただ,これは直感的なコミュニケーションに限らずソーシャルネット上であればつねに起こりうる問題でもあります。というのも,ソーシャルネットが普及したことで誰もが発言しやすく,また,他ユーザの言動を引用しやすくなってきているからです。

この点について,株式会社コンセント代表取締役長谷川さんは「今のネットのつながり,スピード感では,言葉が独り歩きして,間違って伝わる可能性,転送される可能性があります。どんな文脈であってもどう使われるかはわからない時代です」と,2010年末の時点で述べています。

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複数のソーシャルがつながることの良し悪し

もう1つ,ソーシャルネットのコミュニケーションを考える上で意識しておきたいのが,多くのソーシャルネットがつながりやすくなってきていることです。どういうことかというと,たとえばOpenIDと呼ばれる技術によって複数のサービス間で同じユーザIDを使えたり,また,Web APIを利用するサービスが増えたことで,1つの投稿を複数のサービスに対して同時に行える環境が整備されてきていることです。

通常の場合,ユーザIDの連携や複数投稿については,ユーザ自身が確認してから行えるようになりますが,たとえば,自分としては限定公開した投稿内容を誤って別のサービスにも投稿してしまい,さらにそこでつながっているユーザが共有してしまい拡散する,といった状況も起こりえます。また,とあるサービスでは利用者年齢制限が18歳だったものが,もう1つのものでは制限無しとなっていた場合に,その2つのサービスに対して複数投稿をすることで想定外のユーザに情報が伝達していく可能性があります。このあたりの情報伝達の仕方とスピード,そこから生まれるつながりの多様化は,リアルな社会ではあまりなかった特徴ですので注意しておきたいものです。

このようなことに対して,あえてアドバイス的なことを述べるとすれば,私個人として心がけているのは「ソーシャルネットに投稿する内容は,どのユーザの目にも触れてしまう可能性がある」と考えてソーシャルネットを利用しているということです。また,ソーシャルネットも(ソーシャルとついているように)社会の1つであるわけですから,⁠ネットだからと軽んじるのではなく,日常的な社会生活と同じような人と人とのつながりを意識し,ルールは守っていくべき」と私は思っています。それに,リアルなコミュニケーションと異なり,自分の顔の表現や声色が伝えにくいという前提でコミュニケーションを図っている点にも注意したいものです。

時間軸が加わってくる2012年のソーシャルネット

最後に,2012年のソーシャルネットの展望について考察します。

直感的なコミュニケーション,つながりの多様化という流れはますます強くなっていくはずです。そして,2012年は,そこに「時間的な感覚」が増えていくと考えています。その最大の理由と考えているのが,2011年12月に一般公開されたFacebookのTimeline機能です。

これまでの主なソーシャルネットのうち,FacebookやTwitterには時間的蓄積の概念は少なく,どちらかというと瞬間瞬間を表現する,いわゆる「今」をつなげるコミュニケーションが主軸に置いてありました。その中で,mixiには日記という機能があり,時間的アーカイブとしてのソーシャルネットの特徴をも持っていましたが,mixiの場合,クローズドなソーシャルネットである側面が強く,⁠ユーザ自身が)オープンに時間軸を意識するケースはあまりありませんでした。

しかし,FacebookのTimeline機能の登場により,よりオープンな環境でソーシャルネットの時間軸,とくに過去に遡れるという意識が強くなると予想できます。たとえば「自分がいつFacebookに参加したのか」⁠去年の今頃は何をしていたのか?」⁠大学時代の出来事ってなんだっけ?」などなどです。自分自身のことではあるので,ユーザ自身はそれほど強く意識しないかもしれませんが,自分以外,たとえば,新たにつながったユーザ,あるいはこれから繋がるであろうユーザに,時間軸の観点で見たユーザプロフィールを伝えられる状況が生まれ,そこから新しいソーシャルグラフが生まれていく可能性があります。

こうしたソーシャルネット上での時間軸を踏まえた感覚は,ユーザに新たな感覚を生み出させるのではないでしょうか。とくに,デジタルデータになっていることで,⁠記憶だけに頼りがちな)リアルな生活と比較して,過去の出来事に直接的,そして鮮明に辿りつくことが可能になります。こうした背景から生まれる新たな感覚が,これからのソーシャルネットを楽しむポイント,あるいは利用する上で注意するポイントになっていくと,私は考えています。

ソーシャルネットの醍醐味はサービスの機能ではなく,人と人とのつながりから生まれるコミュニケーション

日本でmixiが登場してから今年の2月で丸8年を迎えます。すでにソーシャルネットを使い始めて5年,6年,あるいは8年というユーザの方も多くいらっしゃると思います。また,インターネットを使い始めた時点で,すでにソーシャルネットも活用しているというユーザの方もいらっしゃるでしょう。2012年はそうしたソーシャルネット経験値が異なるユーザが,さまざまなサービス上で交わる機会がより一層増えるはずです。そこで生み出される「ユーザ同士の活発なコミュニケーション,それこそがソーシャルネットが持つ醍醐味」だと私は感じています。2012年,今年はどういったソーシャルネットライフが過ごせるのか,今から楽しみです。

著者プロフィール

馮富久(ふぉんとみひさ)

株式会社技術評論社クロスメディア事業室室長。

1975年生まれ。横浜市出身。1999年4月株式会社技術評論社に入社。入社後から『Software Design』編集部に配属され,2004年1月に編集長へ就任。同2004年9月に『Web Site Expert』を立ち上げ,同誌編集長に就任,現在に至る。その後,2008年9月に設立したクロスメディア事業部(現クロスメディア事業室)に配属。現在,社外活動として電子書籍を考える出版社の会の代表幹事やWebSig 24/7のモデレーター,TechLIONプロデューサーなども務める。過去にIPAオープンソースデータベースワーキンググループ委員やアックゼロヨン・アワード他各賞審査員などの経験を持つ。

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