今回は、現場力を高めることについて、考えてみます。
問題が起きた際に、自分たちで解決できることが高い現場力なのでしょうか?問題が起こらない組織やプロセスを構築することが高い現場力なのでしょうか?現場力の定義にはいろいろあるでしょうが、最初はやはり抵抗が目立つものです。
まずは、我々が業務改善のコンサルティング現場で目の当たりにする場面をいくつか示しながら、これまでの連載でお伝えしてきたことを振り返ってみましょう。
無関心現場における初回キックオフ
現場の拒否反応の兆しは、最初の顔合わせの段階から見え隠れしています。
我々が業務改善のプロジェクトに入る前には、入念に依頼者であるコアメンバーと打ち合せを行い、業務上の問題だけでなく組織特性、社員のカラー、企業風土などの話を伺いながら「変革の青写真」を作り上げます。現場のメンバーとの初顔合わせはキックオフと称する1、2時間のミーティングです。依頼者のコアメンバー側からプロジェクトの目的を伝え、続いて我々からどんなスケジュールで、何をどうやって進めていくかを伝えます。
事前に打ち合わせを行っていたコアメンバー以外は、我々も初対面です。もちろん、現場のメンバーも同じで、社外の我々が入ってきたことに対してあからさまに警戒を示す人、ナナメに構えている人、不安そうな人などが皆一様に我々の品定めをします。考えてみれば当たり前で、ただでさえ忙しいのに、よくわからない業務改善のキックオフミーティングに呼ばれて(内心、出たくない)、初対面の我々から小難しい話を聞かされるわけですから。改善に無関心な現場であればあるほど、いざ改善が始まろうと差し迫ってくると、それなりの主義主張をし始めます。
やらないための悪あがき
キックオフの後には質問の時間を設けていますが、現場メンバーが警戒を示している、ナナメに構えているときは、どこの会社も同じような質問が出ます。下記のような質問で、「→」以下は我々の心の声です。
今まで職場で取り組んできた改善活動と何が違うんですか?
→それがうまくできていたら、今この場に我々はいないけど。
改善の時間は定時後や土日じゃないと取れません。残業代、出るんですか?
→残業代?改善は仕事だと言ったのに聞いてないな~(第7回参照)。
改善のせいで、仕事が遅れたら責任取れますか?
→責任…?別に我々は困らないし、我々が取るものでもないけどね。
今期の人事の目標設定に業務改善はないんですけど、評価されるんですよね?
→改善できてから言おうね!
まぁ、このように"やらないための悪あがき"をするものです。「文句ばかり言ってないで、せっかくの機会だし、今までの膿を全部出し切ろうよ!」と頼もしい人もいます。この段階では変革者として本物か似非かまでは見抜けませんが、コアメンバーや我々としては内心、「そうそう、もっと言ってやれ!」と思っています。
そこで、質問者は「そうは言ったって、課長。どうなんですか?」と今度は矛先を自分の上司やコアメンバーに向けるわけです。
我々もそれなりに場数を踏んでいます。だからと言って慣れるものではありませんが、この程度であればかわいいものです。第2回、第3回では、ソフトアプローチ、ソフト改革を同時に走らせる話をしましたが、このソフト改革を上手に走らせないと、現場には"やらされ感"が出るので、ファシリテーションも必要になることは以前にお話したとおりです。ある程度の時間をかけながら、我々と現場の信頼関係を築くことは欠かせません。
「できない」ではなく「やらない」
さて我々は、改善の初期段階ではいろいろな切り口で、現場の問題を聞きます。
1対1でヒアリングをする場合、グループディスカッションをする場合、付箋紙や模造紙を使うこともあります。業務モデリングを終えているときは、すでにできあがっている業務フローを眺めながらとケースバイケースです。
第8回で、問題の深掘りの話をしていますが、問題出しで多く見られることは、下記の2つです。
それぞれ、原因が深掘りした根っこの原因となっているか、問題がまだ現象レベルの表層のものかは別にして、我々は少し意地悪にこう言います。
- 「原因がわかっているなら、なぜ直さないの?」
- 「解決策がわかっていて、なぜやらないの?」
こう問われる現場の答えも決まっていて、「うちの部門じゃないから言いにくい」「やる時間がない」「それはうちの部門の仕事ではない」などが8割以上です。第17回、第18回で話をしたような経営に食い込むような内容ではありません。改善の実行に恐ろしく費用がかかるとなれば、慎重にならざるを得ませんが、そうでない理由ばかりです。
弱くなる現場
その気になれば改善できるものに対して、"やらない理由"をこの後には延々と述べるわけです。問題だとわかっている、原因や解決策も目処がついているけど、先送りをしてしまい、日常の業務の繁忙さに埋没する繰り返しです。要は「できない」ではなく、「やらない」だけです。
このような状態が長く続くと、現場の底力である「本質を見極める」「何が原因か徹底的に探索する」ことに必要な"考える力"が弱くなり、その場しのぎの対処療法で片付けようとします。いわゆるモグラたたき状態に陥ります。
モグラたたきはいい加減やめよう
過去に業務改善で失敗を経験している組織は、次もまたうまくいかないのではないか?ということを学習しています。口では「できない」と言いつつ、「やらない」だけの現場は、業務改善の改善案は、先述したような対処療法ばかり目立ちます。問題を表面だけ捉え、原因までたどり着いていない。現象面に対して対策を打ってしまうため、同じミスやトラブルを永遠に起こすことになります。次から次に新しいモグラが顔を出す状態です。
極論ですが、事の本質にいたらない業務改善はマイナスの学習効果しか得られません。後になってから「やっぱ、うちの会社では無理だったんだ」の一言で安易に片付けがちです。次に同じ業務改善の場面に遭遇しても、失敗事例だけは山ほどあるので、「やらない」理由の1つにも追加されます。
モグラたたきからの脱却をもう少し具体的な場面で考えてみましょう。
思考・行動プロセスは"深い下方向"へと進む
図をご覧ください。例えば、皆さんの会社で製品不良が出たシーンを思い描いてみてください。次のステップは、「不良品が出ないようにする」ためにはどうすればよいのか考えるまではどこの会社も同じです。
大事なことはその次のステップです。"浅い"まま右に進むか、"深い"下に進むかで、モグラたたきになるか否かが決まります。
モグラたたきになる会社は、"浅い右方向"に進みます。不良品が出ないように、「検査を入念に行う」ことに目が行き、具体的には「ダブルチェックをする」「検査基準を厳しくする」など、これもまた安易な方向に進んでしまいます。
ダブルチェックをするために、新たに人を投入(要員を増やす)することで人件費は上がります。
また、原因が潰せていない限り、検査基準を厳しくしても、不良で引っかかる数が増えるだけなので、後工程における手直し数、手戻りが多く発生し、コストアップ要因となります。
「当社はダブルチェックでミスを防いでおり、問題ありません」という会社は、意外に多いものです。我々の経験則から言えば、ダブルチェックはほとんどの会社でまともに機能していません。前工程の人は後工程にチェックをする人がいるとわかっているので、ちょっとくらいチェック漏れがあっても後工程の人が見つけてくれるだろう、後工程の人は前工程の人がちゃんとやってくれただろうと思い込んでいるので、きちんとチェックしません。
お互いを過信して、「…だろう」と勝手に思い込み、チェックの工程ばかり長くなり、人件費が上がるだけです。なぜ不良品が出たのか深掘りをしていないので、いつまで経っても不良発生率は下がりません。いいことは何もありません。
"深い下方向"に進まないといけません。トヨタ自動車の「なぜを5回」のように、根っこの原因(真因)に対して解決策を講じることではじめて、不良発生率を下げられます。
これらを、我々のような専門家がやるのではなく、第9回で示したように、「自ら」やらないと学習効果もありません。自ら行うための動機づけや仕掛けはこれまでの連載でお伝えしてきたとおりです。結局は"ニンゲン系の課題"に集約され、「組織づくり・人づくり」が最も重要となります。
現場の底力を発揮・知恵を引き出す
前出の図はシンプルな絵ですが、"浅い右方向"ではなく"深い下方向"へ思考や行動を変えていくことで、モグラたたきを避けられます。
単純な理屈ですが、これを企業文化・組織風土として根付かせ、「無意識のうちに"深い下方向"へ考えて行動する」こと習慣付けることは、そうたやすいことではありません。トヨタ生産方式の本質も、現場の底力を発揮させ、知恵を引き出す組織と人づくりを大事にして長い年月をかけて実践してきたことに根ざしています。"アンドン"や"カンバン方式"などは、先人のたゆまない改善努力と創意工夫の結果論として生まれたものです。これらの手法を真似ても、決してうまくいかない企業が多いことからもわかることでしょう。
義務を負い責任を果たす
仕事は誰のためにやるのでしょうか?何のためにやるのでしょうか?
「会社のためですか?」「自分のためですか?」自分のため、の中には「生活のため」「お金のため」もあるでしょう。ほかにも、「社会のため」「お客様のため」などなどいろいろあるでしょう。
企業に必要性があり、存在する理由があるからこそ、社員はその中に身を置き、日々仕事をしています。
業務改善一つをとっても、義務だからやる人もいれば、義務でもやりたくない・やらない人もいます。役割分担で全てを考え、自分の担当領域がきちんとできていれば問題ないという人もいます。考え方はそれぞれで、正解があるものではありません。
筆者個人は「義務を負い責任を果たす」ことが企業人、社会人たる存在意義であると考えています。
人が人としてより良い方向に変化を遂げていくことは自然なことだと思いますが、いったん会社という組織の中に入ってしまうと、この原理がおざなりになります。業務改善は余計な仕事と目をそむけ、本質追及に至らず、楽な目の前のモグラたたきを始めます。
業務改善をきっかけに、最初は自分の仕事以外に関心がなかった人が、組織・企業・経営のことを意識し始め、「我々現場の仕事の価値はいったい何か?」と自問自答し、周りに巻き込みをはかるようになります。少なからず、このようなリーダーが改善活動を通じて育ってきます。
次回はこのような「現場リーダーの登場と、業務連鎖と組織風土」についてお話します。