無関心な現場で始める業務改善【シーズン2】

第10回現場巻き込みのストーリー

本連載は都合により7か月弱ほど中断していましたが、あらためて再開いたしますのでよろしくお願いします。これまでの記事をご覧になりたい方は、こちらになります。第6回までのあらすじは、第7回の冒頭に示しているので、ご参考まで。

燃えない現場

中田社長から発表された新しい経営方針の3つの重点施策は、「1:品質の向上、2:不良在庫の削減、3:顧客から失われた信頼を取り戻す」の3つです。さらに、⁠全社的に業務改善に取り組む」と掲げられていますが、各部門に改善活動のかじ取りは任されているために、組織的な動きはなかなかできていません。

開発部の主任である佐藤さんは、中田社長より業務改善の推進役を一任され、コンサルティング会社C社のアドバイスを受けながら、コアメンバーが小さく活動をスタートさせます。キックオフミーティング、改善ビジョンまでは作ることができましたが、まだ、現場は大勢の早期退職者を出した経営層への不信感が払拭し切れず、経営批判が耳に入ります。GHテクノロジー社に起こった大リストラの原因の一端には「現場の事なかれ主義の蔓延」⁠自分たちさえ良ければ問題ない」的な組織的な不良体質があると考えている佐藤さんですが、そのいっぽうで、いくらトップが経営重点施策として「前向きに改善しよう!」と声を発しても、彼らは聞く耳を持たないので、せっかくスタートした改善活動になかなか弾みがつきません。佐藤さんを中心にコアメンバーはもっと深く現場が業務改善に関わってほしいと願っています。

コアメンバーは現場の巻き込み方について、作戦会議中です。

※:人物相関図については、こちらをご覧ください。

現場に出向く

  • 加藤さん:「元々、当社の製品の一部の製造を自社ではなく、海外のEMS(Electronics Manufacturing Service)企業に製造委託したところから不良発生が増えたんだよね?」

  • 佐藤さん:「そう聞いているけど、2か月前の品質対策会議第1回では、原因は定かでないようだし、当社以外も同じEMSを使っているけど、当社以外から製品不良発生はないらしい」

  • 赤西さん:「だとすると、製造工程だけではなく、もっと上流の僕ら、設計工程から見ないといけないのかもしれないですね」

図1 GHテクノロジーズの量産までのプロセス
図1 GHテクノロジーズの量産までのプロセス
  • 広瀬さん:「ねぇ、それって設計ミスがあったってこと?」

  • 赤西さん:「お前なぁ~そりゃないでしょ!」

  • 村瀬開発部長:「やはり、ここは製造部と品質管理部に協力を要請しないとダメそうだな」

  • 永井知財部長:「そうですね。まずはもっとも不良発生の原因に近いと思われる製造部かな」

  • 佐藤さん:「原因解明をしようとしないあの製造部長が協力してくれるように思えないけど第3回参照⁠⁠。

  • 村瀬開発部長:「品質管理部長は話がわかるから、まずは彼と一緒に製造部長と話をしてみるよ!」

  • 一同:「よろしくお願いします!」

関連部門への声掛け

  • 村瀬開発部長:「…というわけで、開発部と知的財産部がコアとなり、全社的な業務改善を進めていくことになったので、製造部にも協力をお願いしたい」

  • 製造部長:「そう言えば、対策会議の途中で飛び出していった誰だっけ?」

  • 村瀬開発部長:「佐藤のことですか?」

  • 製造部長:「そうだった、あの失礼極まりない輩がワーワー騒いでいるのではないかね?」

  • 村瀬開発部長:「私は彼が間違ったことを言っているようには思っていませんが何か?」

  • 製造部長:「いや、まぁいい。それで、具体的にはどうやって改善とやらを進めていくんですか?ご存じのとおり、EMSに製造委託をしている製品は部品供給からアセンブリまで全て海外なので、我々製造部は途中の工程には関わっていないのでね」

  • 品質管理部長:「直接、製造部が製造プロセスに関わっていなくとも、生産管理の手法や製造指示書は国内製造部のものが基準になっているはずなので、まったくの無関係というわけじゃないことはわかっているはずです」

  • 製造部長:「ともかく、海外EMSのせいで、我々製造部が問題だと思われるのも面白くない。それで、具体的にはどうやって進めるのか言ってくれれば協力はしますよ」

村瀬開発部長は、製造部長が自分から能動的に問題解決に取り組まない人だなとぼやきながらも、協力をするという返事をもらったことについては一歩前進でした。しかし、⁠具体的にどう進めるか?」についてはまだ答えは見出せていません。

  • 村瀬開発部長:(そうだ…確か佐藤さんとよく話をしているコンサルティング会社C社なら何かヒントが得られるかもしれない)

部門の責任範囲

村瀬開発部長から依頼を受け、佐藤さんはコンサルティング会社C社のS氏とW女史に声をかけ、コアメンバーとディスカッションをしています。

  • 村瀬開発部長:「製造部は改善に協力をしてくれるとのことだが、具体的な進め方の提示を要求している」

  • 佐藤さん:「まったく、自分たちの頭でこれっぽっちも考えないんだから。うちの杉本課長と一緒だよ、ほんとに」

  • 村瀬開発部長:「その話も近いうちにきちんと杉本課長を交えて行わないといけないが、今この場での議論はよそう。Sさん、これまでの経過をお聞きになられていかがですか?」

  • S氏:「その前に1つお伺いしますが、御社の製品の製造責任はどの部門の誰ですか?」

  • 品質管理部長:「品質に関しては自分だが、製造に関しては製造部長です」

  • S氏:「ですよね…、それは海外のEMS企業に製造委託した製品であってもGHテクノロジーズのブランドで売るので、製造部ですよね?」

  • 品質管理部長:「そのはずです」

  • S氏:「これまでのお話を聞く限りでは、製造部長はその認識は薄いようですね」

  • 佐藤さん:「まったくないですよ。EMSだろうが、どこで作ろうが、うちの製品なんだから」

以前の日本の製造業は工程の上流から下流まで全て自社で保有する「垂直統合型」でしたが、この統合モデルは既にこの20年で崩れています。EMSのように製造だけを外部委託する、検査工程は外注するなど様々です。これらは特別、製造業に限ったことではありません。事務業務においては⁠アウトソーシング⁠⁠BPO(Business Process Outsourcing)⁠として、これまでも自社内のある工程を外部企業に業務委託をすることは行われてきました。

連続的な業務工程の一部を社外に出す際にとかく問題となるのが、不具合が発生した場合です。常識的には製造、事務問わず、委託先企業の責任となります。2013年4月に、EMS世界最大手であるHon Hai Precision Industry社(通称Foxconn)で製造した⁠iPhone⁠が、製品不良を理由にApple社から500万台返品されたことも記憶に新しいところでしょう。

さて、場面をGHテクノロジーズに戻しましょう。

先のApple社は自社に製造部門を持たないので、製造責任はEMSとなりますが、GHテクノロジーズは自社に製造部があり、製品の一部を海外のEMS企業に委託しているだけです。製品不良の原因が明らかにEMS企業になるならば、責任の所在は明確ですが、はたして自社の製造部がまったく関係ないかどうかは、会社により異なる業務プロセスや、部門の責任範囲の認識により変わってきます。GHテクノロジーズの製造部長は、国内の製造は自分であるが、海外のEMS企業で製造した製品は、製造部長である自分の責任ではないと思っているようです。

では、誰が責任を負うのでしょうか?

現状業務プロセスの把握

  • S氏:「先ほどの製造部門の責任範囲が曖昧であることがわかりましたが、肝心な問いは、製造部を巻き込んだ具体的な進め方の提示でしたね」

  • 村瀬開発部長:「そうです」

  • S氏:「原因が一意的に製造工程、それもEMSに100%原因があるかないかがわからない現時点では、製造の前後工程を含んだ業務プロセスの把握からでしょう」

  • 加藤さん:「それって、どういうものですか?」

  • W女史:「この図図2参照のように、業務の流れを実際に見える形として、これを元に原因発見と問題解決をはかります」

図2 業務の見える化
図2 業務の見える化
  • 村瀬開発部長:「ISO9001や内部統制の業務フローならありますが…」

  • S氏:「目的が異なるので、これらの業務フローは改善活動には参考にはなるけど、使いものにならないケースがほとんどです。開発部門から製品出荷までの業務プロセスを一通り、洗い出すということを業務改善の最初のステップとして始められたらいかがでしょうか?そこから、問題が見えてくるかもしれません」

  • 佐藤さん:「確かにそれなら、製造部門に限らず、現場の参画を促す理由になりますね」

さて、現場の協力を取りながら、すんなりと業務プロセスの把握は進むのでしょうか?

次回は、予期せぬ現場の反発に遭遇しながら、仕事の責任と製品品質について考えていきましょう。

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