2013年6月5、6日の2日間、グランドプリンスホテル新高輪(東京・品川)にて、AWS Summit 2013が開催されました。その模様をお届けします。
申し込み総数9,400名以上、大盛況だった2日間
AWS Summitは世界各地で開催される、最大級のAWS(Amazon Web Services)に関するカンファレンスです。ここ東京では2回目の開催となり、世界で唯一2日間の開催となっています。
AWS Summit 2013
http://www.awssummittokyo.com/
申し込み時点で9,400名(ユニーク)と、注目を集めるイベントとなり、初日のキーノート には、AmazonのCTO、Werner Vogels氏が登壇し、1,500名入る会場が超満員となりました。そして、初日の熱気を引き継ぐ形で2日目のプログラムが進みました。
今回は、個別セッションや展示ブースの様子を中心にお届けします。
Amazon Redshiftが切り開くクラウド・データウェアハウス
2日目の午後、満席となったセッションの1つが「Amazon Redshift」に関するものです。Amazon Redshiftは、昨年11月に発表され、会期中の6月5日、東京リージョンでのリリースが発表されたペタバイト規模のクラウド上で利用できるデータウェアハウスサービスです。データの肥大化に伴い、データ管理・分析の位置付けが高まる中、AWSのサービスとして、ここ東京リージョンでRedshiftが使えるようになったのです。
発表者のアマゾン データ サービス ジャパン株式会社ソリューションアーキテクト、八木橋徹平氏は「バックアップ・リストアに関しては同じくAWSの1つであるS3と連携しやすくなること」や「リサイズに関して、新しいクラスタをバックグラウンドでプロビジョニングしたり、ノード間でデータを並列にコピーできる」といった、実運用上でのメリットなどを中心に説明しました。
Amazon Redsfhitの料金体系
さらに、このセッションでは先行評価に着手していた株式会社野村総合研究所(NRI)による、Amazon Redshiftに関する調査と講評が行われました。同社によれば、
性能は線形にスケール
バッチ処理にも向いている(得意)
チューニングは既存の概念と異なる
利用料課金のメリットが大きい
などといったことが説明された他、「 ( 操作しやすく)簡単に作れてしまうため、統制の効いていないシステムが増えてしまう」といった注意点にも触れられました。
NRIの調査結果の1つ(巨大テーブルからの検索処理) 。ご覧いただくとわかるように、ノード数が増えれば増えるほど、数値が良くなっている
なお、NRIは日本初のAPNプレミアムコンサルティングパートナーの一社として認定され、今後も、Amazon Redsfhitを加えたAWS関連のSIやコンサルティングに積極的に取り組んでいくとのことです。
大規模案件の裏側~巨大AWSインフラ事例のご紹介~
次に紹介するのは、Amazon EC2の導入設計から運用・保守までをサポートするサービス「cloudpack」を運営するアイレット株式会社エバンジェリスト後藤和貴氏による「大規模案件の裏側~巨大AWSインフラ事例のご紹介~」です。
「こんなに大勢の前で話すのは初めてで緊張しています」と緊張はしながらも、同社の実績とともにAWSの強みをしっかりと発表したアイレット株式会社エバンジェリスト後藤和貴氏
同社は、先ほどのNRTと同じく、日本初のAPNプレミアムコンサルティングパートナーの一社として認定されています。
cloudpackは、AWS運用をアウトソースしたい企業向けのサービスで、24時間365日サーバ運用・捕手の他、初期費用無し月額5万円からスタートできるサービスで、多くの導入実績を誇ります。今回はその中から、同社が関わった大規模案件がいくつか発表されました。
たとえば、日本テレビの企画「ソーシャルTVサービスJoinTV」がその1つです。これは、テレビとソーシャルメディアを融合したO2O戦略を実現するもので、視聴時における大規模なトラフィック対応が求められるものでした。同社は、インフラ部分を担当し、
Webサーバのスケールアウト
リクエスト処理キューイング
バッチサーバスケールアウト
インメモリDBスケールアウト
といった点に対応したとのこと。その中で、「 事前プロビジョニングによる対APIアクセスバーストに対応したり、TV視聴からスマホの膨大なアクセスに関する負荷シミュレーションの実践、また、本番時の現場対応といった、技術に加えていくつかのポイントを押さえて運用しました」と後藤氏は語ります。このあたりは、AWSの特性を知り、かつ、豊富な経験を持っているからこそ生まれたノウハウと言えるでしょう。
その他、ローランドやケンコーコム、トヨタの事例が紹介されました。ケンコーコムに関しては、同社として初のSAP導入事例となったそうです。、さまざまな業界におけるAWS導入の普及とともに、メンテナンスのポイント、アウトソーシングのメリットなどについて紹介されました。
後藤氏は、「 業務のプロであるクライアント(発注者)と、AWS構築・運用のプロであるcloudpack。両者の共同作業で効果を最大にできるはずです。それぞれの課題に合わせて対応しながら、ビジネスの成功を目指すのが私たちの役目だと思っています」と述べ、セッションを締め括りました。
【上級者向け】AWSクラウドデザインパターンの実装ノウハウ
数あるセッションの中でも、とくに参加者が多く、座席以外での立ち見・座り見の聴講者で超満員となったのが、この「【 上級者向け】AWSクラウドデザインパターンの実装ノウハウ」 。アイレット株式会社CTO 鈴木宏康氏に加えて、アマゾン データ サービス ジャパン株式会社技術統括本部 本部長/ソリューションアーキテクト 玉川憲氏、同本部エンタープライズソリューション部 部長/ソリューションアーキテクト 片山暁雄氏の3名によるセッション。
左から、玉川氏、片山氏、鈴木氏
超満員となった会場
冒頭で、玉川氏から「このセッションでは、AWSを操作するためのSDKやツールに焦点を当て、CDPの中からいくつかのパターンをサンプルに実装コードやツールの利用法について説明します」と述べられ、プレゼン慣れしている3名の、ときにスベリまでも笑いに持っていく軽快な話術とともに、Cloud Design Pattern(CDP)に関して、3者3様の発表が行われました。
パターンの自動化やAPIを使った自動スクリプトの実装ノウハウ
まず、玉川氏からパターンの自動化やAPIを使った自動スクリプトの実装ノウハウに関する発表がありました。現在、次期CDPのとりまとめが進んでいるそうで、そうした中、玉川氏のプレゼンでは、知っておくと便利なTipsが数多く紹介されたのが印象的です。
トップバッターを務めた玉川氏。実際にライブコーディングをしながら、特徴的なAPIを紹介しました
たとえば、API経由のスナップショット/AMIの作成と題し、APIを実行するときの認証キー(アクセスキー/シークレットアクセスキー)の使い方、IAM Roleの認証情報の取得や、EC2インスタンスが自分自身のAMIを作成する手順など、かなり実用的なTipsが、コーディングと併せて説明されました。
セキュリティのパターンについて
2番目に登場した片山氏は「セキュリティ」をテーマに、セキュリティのパターンの特徴を事例とともに解説しました。片山氏はふだんJavaを使用していことが多いそうで、Javaのプログラムを使いながら、Bastionサーバを使ったサンプル事例など、こちらも濃い内容のプレゼンが行われました。
1人スーツ姿でビシっと決めていた片山氏
可用性(HA)のパターンについて
最後は鈴木氏が可用性(HA)のパターンについて説明しました。HAを実装するパターン群として、Floating IP/Internal DNS/Routing Based HAの3つの中から、Routing Based HAのデモを中心に、フェイルオーバーの挙動など実際どのような動きをするかの実演が行われた他、NECのソフトウェア「CLUSTERPRO」についても取り上げられました。
AWSが持つ可用性について、デモを交えて解説した鈴木氏
最後に、再び玉川氏が登場し、本セッションとして伝えたかったこととして、
パターン適用の自動化
スクリプト作成時における再利用性を高めた実装
の2点を述べ、締め括りました。
展示ブースも大盛り上がり
今回のイベントの特徴は、AWSという技術にフォーカスしながらも、技術視点・ユーザ視点・ビジネス視点など、さまざまなアプローチのプログラムや展示が用意されていた点です。
ここでは、セッションと同じく盛り上がった展示ブースの様子を写真でご紹介します。
AWSクラウド技術相談会。AWS担当者が実際にクラウドに関する疑問や質問に応えるブース。ホワイトボードを使うなど、実践的な内容のディスカッションが行われていた
トレジャーデータ株式会社のブース。5月に日本の本格進出を発表 し、ビックデータの分野を中心にさらなる飛躍が期待される
APNプレミアムコンサルティングパートナーの一社として認定されたアイレット株式会社、cloudpackのブース。豊富な導入実績を持つ担当者に質問をする来場者が多く見られた
AWS Summit 2013の直前、「 サービス品質保証制度(SLA) 」の導入を発表した株式会社プラグラムのPOSレジサービス「スマレジ 」のブース。スマレジのサーバについては今年7月からAWSへの完全移行が予定されている
終日行われたイベントだったため、休憩時間になると充電スペースも満席に
今後の展開にますます期待できるAWS
以上、盛り上がった2日間が終わりました。その後の発表によると、両日とも3,500名を超える参加者、2日間合わせて5,800名のユニーク参加者(重複なし)とのことです。
インフラとなったインターネットにおいて、それを支えるクラウド技術の重要性は年々高まっています。これは、すでに技術領域を超えて、ビジネスや生活面からのアプローチで考える必要もあるでしょう。そういう状況において、今回のAWS Summitが開催された意義は大きかったのではないでしょうか。
次回の開催までに、技術・市場・ユーザがどのように進化して開催されるのか、今から期待したいと思います。