ネットだから気をつけたい! 著作権の基礎知識

第8回 口約束は災いのもと~著作権トラブルから身を守るための「契約」

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「契約」は身を助ける?

これまでの連載の中では,折に触れて「権利者の許諾を受けなくても著作物を使用できる場合」とはどんな場合なのか,ということを見てきましたし,「著作権法上の『引用』にあたる場合」第3回「『アイデア』の部分だけが共通している場合」第4回),そして,「権利保護期間が満了している場合」第7回など,許諾を受けなくても第三者のコンテンツを利用できる場合は現に存在しています。

しかし,これまでご説明してきたように,許諾を受けなくても良い「例外」的場合にあたるかどうかの判断基準は必ずしも明快なものではなく,経験を積んだ実務者であっても,その"境界線"がどこにあるのかを見抜くのは非常に難しいのも事実です。

したがって,適法な利用にあたるのかどうか迷った場合には,著作権を侵害するリスクを冒すより,利用をやめるか,あるいは権利者の許諾を受けて堂々と使った方が無難なのは言うまでもありません。

最近では,著作権に対する意識が高まっていることもあって,ビジネスユーザーであればもちろん,個人ユーザーの中にも,権利者に対して「著作物の利用を許諾してほしい」という伺いを立てたことのある方がいらっしゃるのではないかと思います。

また,著作物を長期的に,かつ商業的に利用したいと考えるような場合には,著作権を譲り受けたり,著作物の制作者との間で「成果物の著作権を発注者に帰属させる」といった条件で契約を取り交わしたりすることも実際には行われています。

そこで今回は,著作権をめぐるトラブルを避けるための「契約」について,主にユーザー側の視点に立って,パターンごとに概観していきたいと思います。

本連載の第1回第2回でも言及したとおり,「権利者の許諾を受ける」という作業はそれ自体手間がかかるものですし,心理的にも窮屈だと感じることが多いのではないかと思います。また,首尾よく許諾を受けられたとしても,対価の支払いやその他仔細な条件が付されることによって,表現活動が制約される恐れがあるため,できれば「許諾」の伺いを立てる前に何とかならないか,と思うのが普通でしょう。

先に述べたように,どのような場合に許諾が必要で,どのような場合に許諾を受けずに済ませるか,というボーダーラインは極めて微妙なものなのですが,裏返せば,権利者の側にとっても,どのような場合に許諾の対象とするか(あるいは無断使用しているユーザーに権利行使するか),という判断は難しいもので,しかも,手間がかかる作業は避けたいという思いも当然あります。

権利者側の「建前」「本音」を探りつつ,許諾を受けることのコスト・リスクと,許諾を受けないことによるコスト・リスクを見極める知恵が,ユーザー側には求められるのではないかと思います。

著作権の利用許諾のための「契約」

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街角の変わった看板を紹介するブログを運営していたAさんは,ある日,駅前で見かけたX社の看板に注目し,その写真を新たに自分のブログに掲載しようと考えました。その看板はデザイン性が非常に強いものだったため,Aさんは権利者に掲載の許諾を受けておこうと思い,X社に電話して用途等を説明したところ,対応したX社の担当者が「個人の方であれば特に手続きは要らないと思います。宣伝にもなるのでどうぞ載せてください」と回答したため,そのままブログに掲載しました。

3年後,Aさんのブログは人々の注目するところとなり,あちこちの雑誌等でも紹介されたことにより,アクセス件数も大幅に増加するようになりました。ところが,そんなある日,「X社の看板の制作者」を名乗るデザイナーB氏が,「貴殿がブログに看板の写真を掲載した行為は,私の著作権を侵害するものである」と主張して,写真の削除と損害賠償を要求してきました。Aさんは慌ててX社に電話して確認を求めましたが,3年前に対応した担当者は既に退職しており,後任の担当者には,「あの看板の著作権はB氏にあり,当社はもともと貴殿の利用を許諾できる立場にない。口頭で利用の許諾などするはずがない」と,つれない態度を取られてしまいました。Aさんは,「載せていいと言われたから安心して使っていたのに・・」と頭を抱えています。

著作物の「利用許諾」は,当事者の合意に基づく「契約」行為です。

したがって,「著作物の利用許諾を受ける」というと,何だかものすごく敷居の高いことのように思えますが,現実には,おそるおそる権利者に許諾の可否を照会したら,口頭で"OK"と言われて拍子抜けした,なんて話も良く聞くところです。

「そんなに簡単でいいの?」と思ってしまう方もいらっしゃるかもしれませんが,口頭の合意だけでも契約は成立しますから,上記のようなやり取りだけでも利用許諾契約は成立しますし(一般的に,「契約」の成立のために,「契約書」等の書面や厳格な手続きが必要とされるわけではありません),口頭であっても,合意した事項を安易に覆すのはルール違反の行為といえます。

ただ,一口に「著作物を利用する」といっても,その利用の仕方は様々ですし,利用する上での条件等,決めなければいけないことは,本来たくさんあるはずです。

  著作権者は,他人に対し,その著作物の利用を許諾することができる。

2 前項の許諾を得た者は,その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内においてその許諾に係る著作物を利用することができる。(以下略)

第63条(著作物の利用の許諾)

著作物の「利用許諾」について,法律には上記のような規定が存在していますが,ここでは「許諾に係る利用方法及び条件」が定められることが前提となっていますから,許諾を受ける際にはこれらの内容についてきちんと決めておかなければならず,口頭で処理するよりは,書面のように目に見える形で残しておいた方がより確実だといえます。

また,口頭で"OK"を出してくれた権利者側の担当者がいなくなってしまった場合などには,後になってから「許諾をもらっていた」ということを証明するのも容易なことではありません。そこで,後日の証拠となるように,著作物の利用許諾に際して書面を取り交わしたり,重要なものについては契約書を作成したりしておく方がより安全だといえるでしょう。

後述する著作権譲渡の場合とは異なり,「利用許諾」においては,権利そのものが移転するわけではありませんから,広告使用やキャラクター・ライセンスのように商業活動に直結する場合を除けば,書面を用いるといっても簡単なフォーマットで済ませることが多いのが実情ですが,それでも,「何を」「どのように」「いつまで」という基本的な条件と,「有償か無償か」という対価条件,そして,「許諾を与える側に権利者としての権限があるかどうか」という点については,きちんと確認し,明確に残しておく必要があります。

現実には,些細なコンテンツの転載の許諾を求められた場合などに,許諾を求められる側の担当者が,「感覚的には看過しても差し支えないレベルの話だと思うが,当社以外の第三社が権利を持っている可能性もあるし,そのような事情がないとしても,『会社の著作物を正式に許諾する』となればタダで,というわけにもいかない」というジレンマに陥って,親切心から"口頭"でその場限りの"許諾"をする,なんてこともないわけではありません。

世の中の著作物全てが高度な財産的価値を有しているわけではありませんので,権利者側としても,"口頭の許諾"のリスクを承知した上で慎重に使ってもらえるのなら,面倒な手続きはせずに済ませたい"という思いはどこかにあります。こうした権利者の「本音」と,ユーザーのニーズがうまくかみ合えば,ギスギスしたトラブルを招くこともなく,著作物の円滑な利用が進んでいくのではないかと思うのですが,そうもうまくはいかないのが悩ましいところです。

著者プロフィール

企業法務戦士F-JEY(きぎょうほうむせんし・えふじぇい)

199×年,都内某企業入社。以来,法務部署で禄を食む日々を送る。ここ数年はもっぱら知的財産絡みの仕事に従事。最近,周りから「そろそろ飽きただろう」と言われることも多いが,技術もビジネススキームも日々進化するこの世界,当分お腹いっぱいにはなりそうもない。

2005年以降,ブログ「企業法務戦士の雑感」をささやかに更新中。

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